茅屋かやや)” の例文
遠くは山裾やますそにかくれてた茅屋かややにも、咲昇るあおいしのいで牡丹を高く見たのであった。が、こんなに心易い処に咲いたのには逢わなかった。またどこにもあるまい。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もう葉を失つて枯れ黒んだ豆がショボ/\と泣きさうな姿をして立つて居たりして、其の彼方むかふに古ぼけた勾配の急な茅屋かややが二軒三軒と飛び/\に物悲しく見えた。
観画談 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
彼は奇特きどくの男で、路ばたにたくさんのにれの木をえて、日蔭になるような林を作り、そこに幾棟の茅屋かややを設けて、夏の日に往来する人びとを休ませて水をのませた。
その家は高い樹に囲まれた寂しい中にぽつんと一軒だけある茅屋かややであった。
アノ椿つばきの、燃え落ちるように、向うの茅屋かややへ、続いてぼたぼたとあふれたと思うと、菜種なたねみちを葉がくれに、真黄色まっきいろな花の上へ、ひらりといろどって出たものがある。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その彼方むこうに古ぼけた勾配の急な茅屋かややが二軒三軒と飛び飛びに物悲しく見えた。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
青い山から靄の麓へけ渡したようにも見え、低い堤防どての、茅屋かややから茅屋の軒へ、階子はしごよこたえたようにも見え、とある大家の、物好ものずきに、長く渡した廻廊かともながめられる。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
射干ひあふぎにも似、菖蒲あやめにも似たる葉のさま、燕子花かきつばたに似たる花のかたち、取り出でゝ云ふべきものにもあらねど、さて捨てがたき風情あり。雨の後など古き茅屋かややの棟に咲ける、おもしろからずや。
花のいろ/\ (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
洪水でみづきふなりけり。背戸續せどつゞきの寮屋はなれやに、茅屋かややぶる風情ふぜいとて、いへむすめ一人ひとりたるひるすぎよ。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
大鷲おおわしつばさ打襲うちかさねたるおもむきして、左右から苗代田なわしろだ取詰とりつむる峰のつま一重ひとえ一重ひとえごとに迫って次第に狭く、奥のかた暗く行詰ゆきつまったあたり、ぶッつけなりの茅屋かややの窓は、山が開いたまなこに似て
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
の、いま、鎭守ちんじゆみやから——みちよこぎる、いはみづのせかるゝ、……おと溪河たにがはわかれおもはせる、ながれうへ小橋こばしわたると、次第しだい兩側りやうがはいへつゞく。——小屋こや藁屋わらや藁屋わらや茅屋かやや板廂いたびさし
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
父は——同じ錺職かざりしょくだったんですが、さかんな時分、二三人居た弟子のうちに、どこか村の夜祭に行って、いい月夜に、広々とした畑を歩行あるいて、あちらにも茅屋かややが一つ、こちらにも茅屋が一つ。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
清き光天にあり、夜鴉よがらすうらも輝き、瀬のあゆうろこも光る。くまなき月を見るにさえ、捨小舟すておぶねの中にもせず、峰の堂の縁でもせぬ。夜半人跡の絶えたる処は、かえって茅屋かややの屋根ではないか。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
臺所だいどころより富士ふじゆ。つゆ木槿むくげほのあかう、茅屋かややのあちこちくろなかに、狐火きつねびかとばかりともしびいろしづみて、池子いけごふもときぬたをりから、いもがりくらん遠畦とほあぜ在郷唄ざいがううたぼんぎてよりあはれささらにまされり。
逗子だより (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
五月雨さみだれ茅屋かややしづくして、じと/\と沙汰さたするは、やまうへ古社ふるやしろすぎもり下闇したやみに、な/\黒髮くろかみかげあり。呪詛のろひをんなふ。かたのごと惡少年あくせうねん化鳥けてうねらいぬとなりて、野茨のばらみだれし岨道そばみちえうしてつ。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
片山家かたやまがの暮れく風情、茅屋かややの低き納戸の障子に灯影ほかげ映る。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
茅屋かややの軒へ、にわとりが二羽舞上まいあがったのかと思った。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
月のかつら茅屋かややにかかる。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)