経綸けいりん)” の例文
信長には、用心ぶかい家康などには、到底、空想もなし得ない経綸けいりん雄志ゆうしと、壮大極まる計画があった。理想にともなう実行力があった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の満腹の経綸けいりんは、ただ幕政復古にあり、彼が満腔の熱血は、ただ幕府政権の一毫毛ごうもうをも、他より手を触れしめざらんことにありき。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
後世の国をおさむる者が経綸けいりんを重んじて士気しきを養わんとするには、講和論者の姑息こそくはいして主戦論者の瘠我慢を取らざるべからず。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そしてその後に神の国の常夏は来るのだ。これが神の経綸けいりんにおける物ごとの自然的順序だ。何も戦々兢々せんせんきょうきょうとすることはない。
語学校に教授を執った時もタダの語学教師たるよりは露西亜を対照としての天下国家の経綸けいりんを鼓吹したので、松下村塾の吉田松陰を任じていた。
二葉亭追録 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
そこで早速我輩の部下に任用したが、果して学問の造詣深きのみならず経綸けいりんの才があって、種々の方面に我輩の参謀となり秘書となって輔佐してくれた。
東洋学人を懐う (新字新仮名) / 大隈重信(著)
その二は既に高等専門の学業をもへ志さだまりて後感ずる事ありて小説を作るものなり。桜痴福地おうちふくち先生は世の変遷に経綸けいりんの志を捨て遂に操觚そうこの人となりぬ。
小説作法 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
経綸けいりんを一代に行うの抱負が無く、もとより天下を味方にするの徳もなく、また天下を敵とするの勇もない。さりとて巌穴がんけつかんに清節を保つの高風もない。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
軒冕けんべん(高貴の人の乗る馬車)の中におれば、山林の気味なかるべからず。林泉りんせん田舎いなかの意)の下にりては、すべからく廊廟ろうびょう朝廷ちょうてい)の経綸けいりんいだくを要すべし」
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
せっかく立てし教育の方法家政の経綸けいりんをも争わんずる心地ここちして、おのずから安からず覚ゆるなりけり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
『理ハ寂然じゃくねん不動、すなわチ心ノたい、気ハ感ジテついニ通ズ、即チ心ノ用』……あの世界だ。あのおやじ様は道理にも明るく経綸けいりんもあるよい人だ。ただ惜しいかな名利がてられぬ。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
対世界の見地けんちより経綸けいりんを定めたりなど云々うんぬんするも、はたして当人とうにん心事しんじ穿うがち得たるやいなや。
心のままに自家の経綸けいりんを施して、大敵ペルシアを破ったことを知っているであろう。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
たとひその抱負は四海を覆ひその材能は天下を経綸けいりんするに足る者ありしとするも、一事為すなきのあとに徴して、断じて庸劣と為す、強ひて弁ずべからざる者あり。将軍にしてつしかり。
病牀譫語 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
芸者にすいな御客人、至って野暮な御亭主なり。弟子に経綸けいりんを教うる人、家庭の教育整い難し。友のひつぎを送るもの、親類の不幸を弔わず、役所に出でては尻尾を振り、宅へ帰れば頭を振る。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
軍事にかけては、ほとんど天才と言っていい大村は、新政府の中枢ちゅうすうともいうべき兵部大輔のこの要職を与えられると一緒に、ますますその経綸けいりんを発揮して、縦横無尽じゅうおうむじんの才をふるい出したのである。
流行暗殺節 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
八大家文を読み論語をさえ講義し天下を経綸けいりんせんとする者が、オメオメと猿が手を持つありすねを持つの風船に乗って旅しつつ廻るのと、児戯に類する事を学ばんや。東京に出でばかかる事はあるまじ。
良夜 (新字新仮名) / 饗庭篁村(著)
よく経綸けいりんの業をべ、めぐりのぼ輔弼ほひつえい
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
彼は大胆にして細心さいしん経綸けいりんむと
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼の経綸けいりんは常に後手をふんだ。
こちゃ登り詰めたるやまけの「ま」がければ残るところの「やけ」となるは自然の理なり俊雄は秋子に砂浴びせられたる一旦の拍子ぬけその砂はらに入ってたちまちやけの虫と化し前年より父が預かる株式会社に通い給金なり余禄よろくなりなかなかの収入とりくちありしもことごとくこのあたりのみぞ放棄うっちゃ経綸けいりんと申すが多寡が糸扁いとへんいずれ天下てんが
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
石川数正が帰って来て、しきりに秀吉の大気や、大坂築城の経綸けいりんの大をたたえたので、家中の反感は、却って勃然ぼつぜんたるものを現わし
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いわんや旧来の陋習ろうしゅうを破り、天地の公道に基づき上下心を一にし盛んに経綸けいりんを行ない、断然として武備拡張の主義を廃棄し
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
かえってこういう空想を直ちに実現しようと猛進する革命党や無政府党の無謀無考慮無経綸けいりんを馬鹿にし切っていた。
二葉亭追録 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
そのあくびで、二人の経綸けいりんが興をさまし、南条が苦々しいかおに軽蔑を浮べて、こちらを向き直るところを、がんりきがまた思いきって両手を差し上げて伸びを打ち
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
神の経綸けいりんの中心は人を愛し、人を憐れみ、人を救うということである。安息日制度の主旨は人に休息を与える点にあり、人間に対する神の憐憫の現われにほかならない。
『理ハ寂然じゃくねん不動、すなわチ心ノたい、気ハ感ジテついニ通ズ、即チ心ノ用』……あの世界だ。あのおやぢ様は道理にも明るく経綸けいりんもあるよい人だ。ただ惜しいかな名利がてられぬ。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
もっとくだけていおうならば、胸中には、国を治め、民を安んずる経綸けいりんがいっぱいで、ほかに私慾をいれる余地もないくらいだというのだ。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すなわちわが日本の将来はいかになさざるべからざるかの経綸けいりんは、ただ日本の社会をしてさらに他の干渉することなく
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
く二葉亭の実業というは女郎屋に限らず、すべて単なる金儲けではなかった。金に逼迫ひっぱくしていたから金も儲けたかったろうが、金を儲ける以外に大なる経綸けいりんがあった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
このことを神の摂理、あるいは経綸けいりんと言います。神は摂理の神であり、経綸の神である。
キリスト教入門 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
彼の経綸けいりんは、彼の不覊ふきなる傲骨ごうこつと共に、寂寥せきりょうたる蕭寺しょうじの中に葬られたり。滔々とうとうたる天下は、温かなる泰平の新夢に沈睡して、呼べどもむべしと見えざりき。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
水や土を相手に、ここへ肥沃ひよくな人煙をあげようとする治水開墾の事業も、人間をあいてに、人文のはなを咲かせようとする政治経綸けいりんも、なんの変りもないことと考える。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかして三日目によみがえることこそ神の経綸けいりんであった。
キリスト教入門 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
人に百歳の寿なく、社会に千載せんざいの生命なし。さすがに社会的経綸けいりん神算しんさん鬼工きこうを施したる徳川幕府も、定命ていめいの外にづべからず。二百年の太平は徳川幕府の賜物たまものなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
およそ天下を経綸けいりんするうつわでないものが、天下の事を望むくらい、世に百害を生じさせるものはない。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大きな治国や経綸けいりんの政治にかしてみたいという野心はかつて本気で抱いてみたことであるが——江戸の実情と、天下の風潮、まだまだ決して、彼が理想するような所までには
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ビスマルクが将来の経綸けいりんたるや、オーストリアをゲルマン連邦より拒絶しこれを東方にさいし、バルカン諸小国を併滅せしめ、ダニューブにそうて東漸せしめ、サロニカをしてその首都たらしめ
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
短くはあったが、かの信長の一生には、そのしょも見られなかった文治文化面の施策しさくを秀吉は経綸けいりんの一歩として、この忙しい天正十三年のまっただ中で、すでに着手していたのであった。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
我儘放埒わがままほうらつは、父義龍と似ているが、義龍ほどな剛愎ごうふくもなし経綸けいりんもない彼だった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
皇城の守護も、市政も、地方の経綸けいりんも、彼はみずから身をもって任じていた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自ら戦後の経綸けいりんと大策に当たり、豊臣とよとみ文化の旧態を、根本からあらためにかかっている徳川家康の勢威と——その二つの文化の潮流が、たとえば、河の中を往来している船にも、おかをゆく男女の風俗にも
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)