終夜よもすがら)” の例文
終夜よもすがら供養くやうしたてまつらばやと、御墓の前のたひらなる石の上に座をしめて、経文きやうもんしづかにしつつも、かつ歌よみてたてまつる。
日出雄少年ひでをせうねん二名にめい水兵すいへいもくして一言いちげんなく、稻妻いなづま終夜よもすがらとうしにえたので餘程よほどつかれたとえ、わたくしかたわらよこたはつてる。
くも時雨しぐれ/\て、終日ひねもす終夜よもすがらつゞくこと二日ふつか三日みつか山陰やまかげちひさなあをつきかげ曉方あけがた、ぱら/\と初霰はつあられ
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
終夜よもすがら思ひ煩ひて顏の色たゞならず、肅然として佛壇に向ひ、眼を閉ぢて祈念の體、心細くも立ち上る一縷の香煙に身を包ませて、爪繰つまぐる珠數の音えたり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
春先とはいえ、寒い寒いみぞれまじりの風が広い武蔵野むさしのを荒れに荒れて終夜よもすがらくら溝口みぞのくちの町の上をほえ狂った。
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
なし夜は終夜よもすがら糸繰いとくりなどして藥のしろより口に適ふ物等を調とゝのへ二年餘りの其間を只一日の如く看病かんびやうに手を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いざや終夜よもすがら供養したてまつらむと、御墓みしるしより少し引きさがりたるところのひらめなる石の上に端然たんねんと坐をしめて、いと静かにぞ誦しいだす。妙法蓮華経提婆達多品めうほふれんげきやうだいばだつたぼん第十二。
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
此女らの動かして見せるおさの扱い方を、姫はすぐに会得した。機に上って日ねもす、時には終夜よもすがら織って見るけれど、蓮の糸は、すぐにつぶになったり、れたりした。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
一言ひとこと……今一言の言葉の関を、えれば先は妹背山いもせやま蘆垣あしがきの間近き人を恋いめてより、昼は終日ひねもす夜は終夜よもすがら、唯その人の面影おもかげ而已のみ常に眼前めさきにちらついて、きぬたに映る軒の月の
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
伏見の城を外に見て大和街道を進んだが、その夜は玉水の旅館に一泊、いぶせき藁屋わらやの軒場も荒れた宿の風情ふぜいに昨日までの栄華を思い、終夜よもすがらうと/\といさよう月を枕にして
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
けれど村上義清は、わが邸にもどってからも、終夜よもすがら謙信のことばを想い、その心事を玩味がんみしてみた。そして何かしらここ十年来は忘れていたような快い安らかな眠りにひきこまれた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
墓石の周囲の赤黒い土は未だ去りやらぬ余寒の激しさに醜く脹れ上っていた。遙に谷を隔てた火葬場の煙突からは終夜よもすがら死人を焼いた余煙であろう、微に黄ぽい重そうな煙を上げていた。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
○秋山の人はすべて冬もきのるまゝにてす、かつ夜具やぐといふものなし。冬は終夜よもすがら炉中ろちゆうに大火をたき、そのかたはらねふる。甚寒にいたれば他所より稿わらをもとめて作りおきたるかますに入りて眠る。
終夜よもすがら秋風聞くや裏の山 曾良そら
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
同じ生命いのちを、我に与えよ、と鼻頭はなづらを撫でて牛に言い含め、終夜よもすがら芝を刈りためたを、その牛の背に山に積んで、石を合せて火を放つと、むちを当てるまでもない。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
思ひ煩へる事さへも心自ら知らず、例へば夢の中に伏床ふしどを拔け出でて終夜よもすがらやまいたゞき、水のほとりを迷ひつくしたらん人こそ、さながら瀧口が今の有樣に似たりとも見るべけれ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
能考へ置と云ばお節は彌々いよ/\打喜びまことに何から何まで厚い御世話有難う御座りますと言けるが終夜よもすがらも遣らず心せくまゝ一番どりなくや否や起出つゝ支度調へ藤八諸共もろともあけ寅刻比なゝつごろより宿屋を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
人々し哥をよみ、俳句の吟興ぎんきやうもありてやゝ時をうつしたるに、寒気次第にはげしく、用意の綿入にもしのぎかねて終夜よもすがら焼火にあたりてゆめもむすばず、しのゝめのそらまちわびしに
朝鳥あさとりこゑおもしろく鳴きわたれば、かさねて一三七金剛経こんがうきやうくわん供養くやうしたてまつり、山をくだりていほりに帰り、しづかに終夜よもすがらのことどもを思ひ出づるに、平治の乱よりはじめて、人々の消息
機に上つて日ねもす、時には終夜よもすがら織つて見るけれど、蓮の絲は、すぐにつぶになつたり、れたりした。其でも倦まずさへ織つて居れば、何時か織れるものと信じてゐる様に、脇目からは見えた。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
西八條の花見の宴に時頼もつらなりけり。其夜更闌かうたけて家に歸り、其の翌朝は常に似ず朝日影まどに差込む頃やうやく臥床ふしどを出でしが、顏の色少しく蒼味あをみを帶びたり、終夜よもすがら眠らでありしにや。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
人々し哥をよみ、俳句の吟興ぎんきやうもありてやゝ時をうつしたるに、寒気次第にはげしく、用意の綿入にもしのぎかねて終夜よもすがら焼火にあたりてゆめもむすばず、しのゝめのそらまちわびしに