“穢(よご)” の例文
「お前達ァ黙っとれ、伍長ッ貴様アさっき避難民が入り込んで雲南府が穢(よご)れたようなことを云ったが、映画館や茶館(カフェー)が出来る位が何だッ」
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
その中(うち)に両手の穢(よご)れを払いながら立上った二人の顔は、もう人間の表情(かおつき)ではなかった。墓の下からこの世を呪いに出て来た屍鬼(しにん)の形相であった。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ロミオ 此(この)賤(いや)しい手(て)で尊(たふと)い御堂(みだう)を汚(けが)したを罪(つみ)とあらば、面(かほ)を赧(あか)うした二人(ふたり)の巡禮(じゅんれい)、此(この)唇(くちびる)めの接觸(キッス)を以(もっ)て、粗(あら)い手(て)の穢(よご)した痕(あと)を滑(なめら)かに淨(きよ)めませう。
顔は蒼褪(あおざ)め肉は落ち、衣裳は千切れ且(か)つ穢(よご)れて、土牢の内で永い間苦しめられた辛苦(しんく)の態(さま)がまざまざとして現われている。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
今さらのように自分の着ている小倉の洋服の脂垢(あぶらあか)に見る影もなく穢(よご)れたのが眼につく、私は今遠方シグナルの信号燈(ランターン)をかけに行ってその戻(もど)りである。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
ボオイが大籠に入れて穢(よご)れしタオルを持ち来(きた)るを、目に見分けず後(うしろ)へ手をやりてその一つを皆の取れば初めの笛鳴り
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛、与謝野晶子(著)
この二人の男の風態(ふうてい)を見ると、二人ともに古編笠を冠(かぶ)っていました。二人ともに目の細かい籠(かご)を肩にかけて、穢(よご)れた着物を着て、草鞋(わらじ)を穿(は)いていました。
今日のごとく穢(よご)されていなかった。人間の天職のうちでいちばん遠大な理想と、広い仁愛を奉行し得る職として、諸人は常にその職能に景仰(けいこう)と信望をかけていた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自動車(くるま)の中は藻抜けの空(から)だ。けれどもやがて大月氏は、屈み込んで、操縦席の後のシートの肌から、血に穢(よご)れて異様にからまった、長い、幾筋かの白髪(しらが)を掴みあげた。
白妖 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
然し今はただ一色(ひといろ)に穢(よご)れはてた、肩揚のある綿入を着て、グル/\卷にした髮には、よく七歳(なゝつ)八歳(やつつ)の女の子の用ゐる赤い塗櫛をチョイと揷して、二十(はたち)の上を一つ二つ
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
定(さだ)めし舊石器時代(きゆうせつきじだい)の人類(じんるい)は、湯(ゆ)で身體(しんたい)をふくといふことはしなかつたので、身體(しんたい)も穢(よご)れて不潔(ふけつ)だつたでせうが、新石器時代(しんせつきじだい)に至(いた)つては、よし浴場(よくじよう)はなかつたとしても
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
天井を見上げると薄青いペンキ塗だが、何百人もの人間が汗と膏(あぶら)とをこすりつけた頭の当る部分、背中でよりかかる高さのところだけ、ぐるっと穢(よご)れて、黒くなっている。
一九三二年の春 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
此間も此處へ來て見ると、痛々しく取逆上(のぼ)せた主人の六兵衞を、蔭になり日向(ひなた)になり、慰めたり、いたわつたりして居たのはその娘だ。その娘の眼には、何んの罪も穢(よご)れもなかつた
故に邪視を惧るる者、ことさらに悪衣を着、顔を穢(よご)し痣(あざ)を作りなどして、なるべく人に注視されぬようにし、あるいは男女の陰像を佩(お)びて、まず前方の眼力をその方に注ぎ弱らしむ。
背を丸くし、頬杖ついて、三十分くらい、じっとしていた。このまま坐って死んでゆきたいと、つくづく思った。新聞の一つ一つの活字が、あんなに穢(よご)れて汚く思われたことがなかった。
狂言の神 (新字新仮名) / 太宰治(著)
側にいた年齢(としごろ)廿二三で半合羽(はんがっぱ)を着ている商人体(あきんどてい)の男が、草鞋の穢(よご)れたのを穿(は)いて頬冠(ほうかむ)りをしながら、此の男も出に掛りますと、突然(いきなり)傍にあった角右衞門の風呂敷包を引攫(ひっさら)って迯(に)げましたから
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それは五寸ぐらいの高さに積み重ねてある原稿紙の綴込(つづりこみ)で、かなり大勢の人が読んだものらしく、上の方の数枚は破れ穢(よご)れてボロボロになりかけている。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
たくし上げた裾から洩れて見えるのは、垢じみ穢(よご)れ痩せながら、筋逞しく現われている、男のような足であった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
べつに、支度といって、何もございませんが、たくさんな軽舸(はしけ)の中から、脚の迅(はや)い、そして穢(よご)れのないのを選(よ)って、すっかり塩を撒(ま)いて、船板まで洗って置きました。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何(な)にか思い出した様にポケットの中へ手を突込(つきこ)んで、先程の広告マッチを取り出し、ハンカチで穢(よご)れを拭(ぬぐ)って一寸(ちょっと)の間(ま)レッテルに見入っていたが、間もなく元気で話を続けた。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
この間もここへ来てみると、痛々しく取逆上(とりのぼ)せた主人の六兵衛を、蔭になり日向(ひなた)になり、慰めたり、いたわったりしていたのはその娘だ。その娘の眼には、なんの罪も穢(よご)れもなかった
鷹揚で快活な斑もあるが、その犬のように、全体はっきりした白と黒とで穢(よご)れたようなのは、陰気だ。その上、まるで面長な色白い人間の婆さんのような表情を、この犬は持っているのだ。
吠える (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
然し今はただ一色(ひといろ)に穢(よご)れはてた、肩揚のある綿入を着て、グル/\巻にした髪には、よく七歳(ななつ)八歳(やつ)の女の児の用ゐる赤い塗櫛をチヨイと揷して、二十(はたち)の上を一つ二つ、頸筋は垢で真黒だが
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
日本中の少年少女の人生観の中で、最も意義あり、力あり、光明ある部分は、こうして初めから穢(よご)された。その向上心の大部分は二葉(ふたば)の中(うち)から病毒に感染させられた。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作、杉山萠円(著)
乱れた白髪穢(よご)れた布衣(ほい)、永い辛苦(しんく)を想わせるような深い皺(しわ)と弱々しい眼、歩き方さえ力がない。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
喬介が笑いながら私の前へ差し出したのは、飛びッ切(きり)上等の飾(かざり)が付いた鋭利な一丁のジャックナイフだ。鉄屑の油や細かい粉で散々に穢(よご)れているが、刃先の方には血痕らしい赤錆が浮いている。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
痩せこけた頬に些(さ)の血色もない、塵埃(ごみ)だらけの短い袷を著て、穢(よご)れた白足袋を穿いて、色褪せた花染メリンスの女帶を締めて、赤い木綿の截片(きれ)を頸に捲いて……、俯向いて足の爪尖(つまさき)を瞠め乍ら
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
職業から来る、おもおもしいまた、幾分傲慢のようにも思われる弁護士の前に、息をつめて立っている庸之助の、煤煙や塵に穢(よご)れ、不眠で疲れきり、青黒く膏(あぶら)の浮いた顔は、非常に憔悴(しょうすい)して見えた。
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
その他の器物や硝子(ガラス)の破片が、足の踏場もなく散乱している中に、脳漿(のうしょう)が飛散り、碧(あお)い両眼を飛出さしたロスコー氏が、鮮血の網を引被(ひっかぶ)ったまま穢(よご)れたピストルをシッカリと握って
S岬西洋婦人絞殺事件 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
古び穢(よご)れた独木船(まるきぶね)が、水に引かれて濛気の方へ、ノロノロとたゆ気に流れていた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
... で、早速取り出して穢(よご)れを拭って見たのさ——』と喬介は先程のマッチを私の眼の前へ差し出しながら『見給え。「勘八」と言う店名の下に、小さく「ヨッカイチ会館隣り」としてあるだろう?』
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
痩せこけた頬に些(さ)の血色もない、塵埃(ごみ)だらけの短かい袷を着て、穢(よご)れた白足袋を穿いて、色褪せた花染メリンスの女帯を締めて、赤い木綿の截片(きれ)を頸に捲いて、……俯向いて足の爪尖を瞠(みつ)め乍ら
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ボヘミヤン・ネクタイ、合(あい)オーバ、(少し穢(よご)れた流行色(いろ)の薄茶)それから羅紗の合帽子(少し穢れた流行色の薄茶)手には杖(ケン)、足には赤靴、栄養不良らしい蒼黒い顔、唇と来たら鉛色である。
奥さんの家出 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
われと解(ほど)きし赤縄(えにし)の糸の、罪に穢(よご)れ、血にまみれつゝめぐり/\て又こゝに結ぼるゝこそ不思議なれ。御身は若衆姿。わが身は円頂黒衣。罪障、悪業に埋もれ果つれども二人の思ひに穢れはあらじ。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
柄に少し穢(よご)れめをつける、はな紙は利久であった。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
腕も胸も顔までも、獣の血で赤黒く穢(よご)れていた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)