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稀薄
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きはく
ふりがな文庫
“
稀薄
(
きはく
)” の例文
これほど神経の行きわたった「第五」はないが、トスカニーニのに比べては、現実性が
稀薄
(
きはく
)
で、芝居気を感じさせるかも知れない。
楽聖物語
(新字新仮名)
/
野村胡堂
、
野村あらえびす
(著)
そのうえがゼルズラと呼ばれる流沙地帯なのですが、そこは、上空の空気が非常に
稀薄
(
きはく
)
で、よく沙漠地方におこる
熱真空
(
ヒート・ヴァキューム
)
ができるのです。
人外魔境:01 有尾人
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
原始人の生活に於ては、家庭というものは確立しておらず、多夫多妻野合であり、
嫉妬
(
しっと
)
もすくなく、個の対立というものは極めて
稀薄
(
きはく
)
だ。
堕落論〔続堕落論〕
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
路
(
みち
)
のまん中の勘の
死骸
(
しがい
)
をとりまいているので、周囲のほうは
稀薄
(
きはく
)
になりつつある、そのまばらなところを縫って、ずんずん行ってしまった。
巷説享保図絵
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
残雪をいただいた中国山脈や、その下を流れる川は、ぎごちなく武装した、ざわつく街のために
稀薄
(
きはく
)
な印象をとどめていた。
壊滅の序曲
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
▼ もっと見る
彼が専門に研究している農政の講義などは、一日引籠って読書すれば、半月分の講義の材料ができるほど
稀薄
(
きはく
)
なものだった。
星座
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
あそこには、理想の高い
匂
(
にお
)
いが無いばかりか、生活の影さえ
稀薄
(
きはく
)
だ。演劇を生活している、とでもいうような根強さが無い。
正義と微笑
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
けれどもその満足のうちには、私を理解し得ないために起るぼんやりした
稀薄
(
きはく
)
な点がどこかに含まれているようでした。
こころ
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
(ははあ、ここは空気の
稀薄
(
きはく
)
が
殆
(
ほと
)
んど
真空
(
しんくう
)
に
均
(
ひと
)
しいのだ。だからあの
繊細
(
せんさい
)
な衣のひだをちらっと
乱
(
みだ
)
す風もない。)
インドラの網
(新字新仮名)
/
宮沢賢治
(著)
その記憶が島々への分離によって、次第に
稀薄
(
きはく
)
になったとは言っても、古い名称のみはなお久しく伝わっていた。
海上の道
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
この町にも前に通って来た町と同じような休み茶屋や料理屋などがあったが、区域も狭く人気も
稀薄
(
きはく
)
であった。
黴
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
殊に空気の
稀薄
(
きはく
)
な所を登るのですからなかなか困難です。けれども急ぐ時は馬に乗らぬと進むことは出来ない。
チベット旅行記
(新字新仮名)
/
河口慧海
(著)
松茸狩りの記憶もすこぶる
稀薄
(
きはく
)
だ。山道など、少年の趣味ではないのである。ただ印象に焼きついてゐるのは、陰惨なまでに暗い次のやうな情景だけだ。——
少年
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
その
朦朧
(
もうろう
)
とした写真では大阪の
富裕
(
ふゆう
)
な町家の婦人らしい気品を認められる以外に、うつくしいけれどもこれという個性の
閃
(
ひら
)
めきがなく印象の
稀薄
(
きはく
)
な感じがする。
春琴抄
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
或は更に
稀薄
(
きはく
)
にしたのを、
剥椀
(
はげわん
)
で
抄
(
すく
)
うてはざぶり/\水田にくれる。時々は眼鼻に
糞汁
(
ふんじゅう
)
がかゝる。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
半蔵が連れと一緒に、この都会に足を踏み入れたのは武家屋敷の多い方面で、その辺は割合に人口も
稀薄
(
きはく
)
なところであった。両国まで来て初めて町の深さにはいって見た。
夜明け前:01 第一部上
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
同時に私のような貧しい思想と
稀薄
(
きはく
)
な信念のものが遊戯的に文学を語るを空恐ろしく思った。
二葉亭余談
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
源氏が
隠栖
(
いんせい
)
の地に擬している
須磨
(
すま
)
という所は、昔は相当に家などもあったが、近ごろはさびれて人口も
稀薄
(
きはく
)
になり、漁夫の住んでいる数もわずかであると源氏は聞いていたが
源氏物語:12 須磨
(新字新仮名)
/
紫式部
(著)
この成層圏の性質は、もちろん、空気は
稀薄
(
きはく
)
であり、水蒸気は殆どなく、温度も
摂氏
(
せっし
)
の氷点下五十何度という寒冷さにおかれ高層にのぼるほど多少温度が上昇する傾向がある。
成層圏飛行と私のメモ
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
香料は皆言わば
稀薄
(
きはく
)
である。香水の原料は悪臭である。
所謂
(
いわゆる
)
オリジナルは屍人くさく、
麝香
(
じゃこう
)
は
嘔吐
(
おうと
)
を催させ、
伽羅
(
きゃら
)
の
烟
(
けむり
)
はけむったい油煙に過ぎず、百合花の花粉は頭痛を起させる。
触覚の世界
(新字新仮名)
/
高村光太郎
(著)
犬の方は一向にはかどらなかった、かれらはたがいにうなり合ったが、その声は急に
稀薄
(
きはく
)
になった、そうして双方歩み寄ってかぎ合った。多分かれらはこう申しあわしたであろう。
ああ玉杯に花うけて
(新字新仮名)
/
佐藤紅緑
(著)
キリストは罪人をも、醜業婦をも旅人をも敵をも等しく愛した。その愛は絶対なる独立活動であった。またかかる普汎的なる愛は
稀薄
(
きはく
)
にして愛された気がしないという人があるかもしれない。
愛と認識との出発
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
家中の者の気性骨には争われない祖父、曾祖父からのものがまだ
沁
(
し
)
みこんでいる。これがもう御三代も後だったら、よほど
稀薄
(
きはく
)
になって居ろうが、まだあるな。それが何であるか知っているか
新編忠臣蔵
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
そうしてその頃までまだ何処かしらに漂っているように見えた悲劇的な雰囲気がだんだん
稀薄
(
きはく
)
になればなるほど、その村に
於
(
お
)
ける私の悲しい存在はますますそのなかで目立って来そうに思えた。
三つの挿話
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
このあたり一帯、
人煙
(
じんえん
)
稀薄
(
きはく
)
、枯すすきの原さえつづいているのだが、寛永寺末の、院、庵のたぐいが、所まだらに建っていて、おおかたの僧坊は、信心深そうな
僧尼
(
そうに
)
によって住みなされていた。
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
稀薄
(
きはく
)
で、
清浄
(
せいじょう
)
で、
殆
(
ほと
)
んど
有
(
あ
)
るか
無
(
な
)
きかの、
光
(
ひかり
)
の
凝塊
(
かたまり
)
と
申上
(
もうしあ
)
げてよいようなお
形態
(
からだ
)
をお
有
(
も
)
ち
遊
(
あそ
)
ばされた
高
(
たか
)
い
神様
(
かみさま
)
が、一
足
(
そく
)
跳
(
と
)
びに
濃
(
こ
)
く
鈍
(
にぶ
)
い
物質
(
ぶっしつ
)
の
世界
(
せかい
)
へ、その
御分霊
(
ごぶんれい
)
を
植
(
う
)
え
附
(
つ
)
けることは
到底
(
とうてい
)
できませぬ。
小桜姫物語:03 小桜姫物語
(新字新仮名)
/
浅野和三郎
(著)
あたしの精神が
稀薄
(
きはく
)
だったためで、どうにも止むを得なかったの。
キャラコさん:06 ぬすびと
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
しかしあれで実に軽い、つまり
稀薄
(
きはく
)
なもので出来てゐるんだぜ。
朧夜
(新字旧仮名)
/
犬養健
(著)
夕昏
(
ゆうぐ
)
れる住居の
稀薄
(
きはく
)
のなかに
原爆詩集
(新字新仮名)
/
峠三吉
(著)
戸惑った表情の
儘
(
まま
)
、
前屈
(
まえかが
)
みの姿勢でせかせかと歩いている姿は、かえって何か影のように
稀薄
(
きはく
)
なものに想われて来る。
冬日記
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
隣家の老翁や
叔父
(
おじ
)
や学校の先生よりも、もっと私との心のつながりが
稀薄
(
きはく
)
で、無であったことを考え、それを父とよばなければならないことを考える。
石の思い
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
稀薄
(
きはく
)
な空気がみんみん鳴っていましたがそれは多分は
白磁器
(
はくじき
)
の雲の
向
(
むこ
)
うをさびしく
渡
(
わた
)
った
日輪
(
にちりん
)
がもう高原の西を
インドラの網
(新字新仮名)
/
宮沢賢治
(著)
外界は
謂
(
い
)
わばお前の皮膚を包む皮膚のようになっている。お前の個性は分化拡張して、しかも
稀薄
(
きはく
)
な内容になって、中心から外部へ散漫に流出してしまった。
惜みなく愛は奪う
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
言語の研究はたしかに一つの手がかりであるけれども、今日はすでに心の裏づけが
稀薄
(
きはく
)
になっていて、是ばかりではどんなちがった仮定説でも成り立ち得る。
海上の道
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
呼吸が
稀薄
(
きはく
)
になり、眼のさきがもやもやと暗くなって、全身の力が、手の指の先からふっと抜けてしまう心地がして、編物をつづけてゆく事が出来なくなった。
斜陽
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
孔雀
(
くじゃく
)
が羽根をひろげたような方がいらっしゃると、お嬢さんの印象が
稀薄
(
きはく
)
になるからと云うことで、これは私も同感ですから、どうかそうして戴くように願います
細雪:03 下巻
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
すでに個々介立の弊が相互の知識の欠乏と同情の
稀薄
(
きはく
)
から起ったとすれば、我々は自分の家業商売に
逐
(
お
)
われて日もまた足らぬ時間しかもたない身分であるにもかかわらず
道楽と職業
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
が、紅葉の努力は
全幅
(
ぜんぷく
)
に
滔
(
あふ
)
れていたが、美妙斎の色彩は小説以外には
頗
(
すこぶ
)
る
稀薄
(
きはく
)
であった。
硯友社の勃興と道程:――尾崎紅葉――
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
狭
(
せま
)
いと
汚穢
(
きたなさ
)
とは我慢するとしても、
一
(
ひと
)
つ
家
(
や
)
の寒さは
猛烈
(
もうれつ
)
に彼等に
肉迫
(
にくはく
)
した。二百万の人いきれで寄り合うて住む東京人は、
人烟
(
じんえん
)
稀薄
(
きはく
)
な武蔵野の
露骨
(
ろこつ
)
な寒さを想い見ることが出来ぬ。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
これまでに研究せられたところでは、火星の空気の濃さは地球で一番高いといわれる標高八千八百八十二メートルのエベレスト峯頂上の空気よりももっと
稀薄
(
きはく
)
であろうといわれていた。
火星探険
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
私の心には、この二つを対比し、対立させる考え方が欠けているか、或いは非常に
稀薄
(
きはく
)
であった。矢田津世子とW。私はそれを考える。最も多く考えた。
二十七歳
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
それが
劇
(
はげ
)
しくなると、晴天から来る日光の反射にさえ堪え難くなることがあった。そう云う時には、なるべく世間との交渉を
稀薄
(
きはく
)
にして、朝でも
午
(
ひる
)
でも構わず寐る工夫をした。
それから
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
いわば都会に濃厚で
田舎
(
いなか
)
に
稀薄
(
きはく
)
であること、昔は今よりもいっそう甚だしいのである。ゆえに昔は最も通俗の日本語であったのを、吾々がとんとどう忘れをしているものがあるかも知れない。
地名の研究
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
まちの中心は
流石
(
さすが
)
に繁華で、東京の
神楽坂
(
かぐらざか
)
くらいの趣きはあったが、しかし、まち全体としては、どこか、軽い感じで、日本の東北地方の
重鎮
(
じゅうちん
)
としてのどっしりした実力は
稀薄
(
きはく
)
のように思われた。
惜別
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
それから酒場のマダムとなって、やがて私と生活するようになったが、私自身も貞操の念は
稀薄
(
きはく
)
なので、始めから、一定の期間だけの遊びのつもりであった。
私は海をだきしめていたい
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
殊に毎年の
節供
(
せっく
)
という
式日
(
しきじつ
)
の価値が、
漸次
(
ぜんじ
)
に
稀薄
(
きはく
)
とならざるを得なかった。
木綿以前の事
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
兄は思索に遠ざかる事のできない読書家として、たいていは
書斎裡
(
しょさいり
)
の人であったので、いくら腹のうちでこの少女を
鍾愛
(
しょうあい
)
しても、鍾愛の報酬たる親しみの程度ははなはだ
稀薄
(
きはく
)
なものであった。
行人
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
尤も私は生れつき前途に計画を立てることの
稀薄
(
きはく
)
なたちで、現実に於て遊ぶことを事とする男であり、窮すれば通ず、というだらしない信条によって生きつづけてきたものであった。
魔の退屈
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
そうして総体の意識がどこもかしこも
稀薄
(
きはく
)
になった。それは普通の夢のように濃いものではなかった。尋常の自覚のように混雑したものでもなかった。またその中間に
横
(
よこた
)
わる重い影でもなかった。
思い出す事など
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
“稀薄”の意味
《名詞・形容動詞》
「希薄」参照。
(出典:Wiktionary)
稀
漢検準1級
部首:⽲
12画
薄
常用漢字
中学
部首:⾋
16画
“稀”で始まる語句
稀
稀有
稀代
稀世
稀〻
稀々
稀覯
稀覯書
稀品
稀人