白皙はくせき)” の例文
しかも、我々を舁ぎ入れた黒奴らは、白皙はくせき美人のそうした姿態にも、別段心を動かされる様子もなく、空轎を担って引き揚げてゆく。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
私もまごついたが、相手は、もっと狼狽ろうばいしたようであった。れいの秀才らしい生徒である。白皙はくせきの顔を真赤にして、あははと笑い
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
アイヌは白皙はくせき人種であろうか。だが、かの人種の皮膚は銅色がちの鳶色とびいろだとジョン・バチェラー氏はいった。私はそれを信じよう。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
彼女自身に云わせれば母親の方に土耳古トルコ人の血が交っていると云うことで、その肌の色の白皙はくせきでないのを隠そうためにしているのだが
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
白衣びゃくえを着て、黒い袈裟けさをかけて、端麗で白皙はくせきな青年は俗界のちりの何ものにもまだ染まっていなかった。処女のように、きれいであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そんな気取ったことを言って、扉の隙間に半身を現わしたのは、四十五六の男、——長身白皙はくせきのコールマン髭ではありませんか。
電気学会長である帝大工学部長の川山博士の白頭はくとうや、珍らしく背広を着用に及んでいる白皙はくせき長身ちょうしんの海軍技術本部長の蓑浦みのうら中将や
国際殺人団の崩壊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
やや青みがかった白皙はくせきの面にきりりと自信のほどを示すと、右門は長刀をかるくひざに敷いて、黙然と駕籠をあげさせました。
応接室に通されておよそ十五分ばかりも待ってると、やがて軽いくつの音が聞えてスウッとドアひらいて現れたのは白皙はくせき無髯むぜんの美少年であった。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
伊兵衛はそう呼びかけながら、庇の下から出て行った……振返った道之進の白皙はくせきの面が、積り始めた路上の雪明りを受けて青いように見えた。
夜明けの辻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
白皙はくせきな額と澄み切った眼とが深い学者的な感銘を与えずにおかないO氏が、白色の指揮棒を取って「讃美歌——番」と囁く。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
玄機はいでて李と相見た。今年はもう十八歳になっている。その容貌の美しさは、温の初て逢った時の比ではない。李もまた白皙はくせき美丈夫びじょうふである。
魚玄機 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
あの白皙はくせき人型の越後系のがっしりした、均齊きんせいのよく取れた骨格で、性格にも恪勤かっきんとか忍耐とか、どんな困難に遭遇してもたわまない強靱きょうじんさがあり
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ブルジョア地主出身のいわばインテリで白皙はくせき長身、満々たる覇気と女郎買いをしたことまで日記につける律気さがある。
新撰組 (新字新仮名) / 服部之総(著)
むかし我先人が文明を買ひしあたひは国をうしなふ程に高直なりき」と白皙はくせき人種に駆使せられながら我子孫のツブヤカんことを。
丙午ノ春余大沼子寿ノもとニ飲ム。座ニ一人余ト年相クモノヲ見ル。白皙はくせきニシテ長大、意気倜然てきぜんトシテ顧譲スル所ナシ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
小男の岩城播磨守は猪首いくびに口をへの字に曲げて、長身、痩躯そうく白皙はくせき胡麻塩ごましお各人各様かくじんかくようの一癖ありげな面だましいだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
が、そう努めれば努めるほど、青年の言葉やその白皙はくせきの面に浮ぶ微笑が、悩ましく耳に付いたり、眼についたりした。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
彼の眼は大きく碧くて、鳶色とびいろ睫毛まつげに被はれ、象牙にもまが白皙はくせきの高い額には、心なしの金髮の捲毛がこぼれてゐる。
渠等かれらが炎熱を冒して、流汗面にこうむり、気息奄々えんえんとして労役せる頃、高楼の窓半ば開きて、へいげんとばりを掲げて白皙はくせきおもてあらわし、微笑を含みて見物せり。
金時計 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
明らかに白皙はくせき人種の血が、この少年の血統にまじっている事を推定させますので……しかも……そうとしますれば余程以前に、少なくとも一千数百年以前に
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
鈍重な波のまにまに、破れた黒い帆が傾いてぎしぎし動き出した。白皙はくせき明敏な中古代の勇士のような顔をしている参木さんきは、街を廻ってバンドまで帰って来た。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
その席で、小柄こがら白皙はくせきで、詩吟の声の悲壮な、感情の熱烈なこの少壮従軍記者は始めて葉子を見たのだった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
白皙はくせき長身の子と、白髪まじりの不精鬚につつまれた異相矮躯いそうわいくの父とは、まことに奇妙な対照である。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
十八の男童の様な体格のい瞳の冴え冴えした少女がしゃんと胸を張って額に森の青葉の色の反映する白皙はくせきの青年と寸分の隙もなく論談する——光景はそれだけで沢山たくさん
智慧に埋れて (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その頃の代言人(弁護士)は長髪の人が多かったが、高梨は白皙はくせき美貌びぼう、長髪がよく似合った。
欧州人は世界至る所に跋扈ばっこし、白皙はくせき人の世界、白皙人の宗教道徳のみという観の有ったのは十九世紀のなかばまでの大勢であって、回顧すれば、これは誠に東西に分派した文明が
日本の文明 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
六尺近い大男で、日本人には類のない白皙はくせきおもてにやや赤味を帯びた口髭くちひげをはやしていた。
大人の眼と子供の眼 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
黄色人と白皙はくせき人というような差別を超えた所の無階級一律的の要求であると思います。
婦人改造の基礎的考察 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
白皙はくせきの顔に紅潮がさし、眼の色が少しく据わっている。しかし姿勢は崩れていない。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
白皙はくせきの青年はほおを紅潮させ、声をらして叱咤しったした。その女性的な高貴な風姿のどこに、あのような激しさが潜んでいるのか。悟浄は驚きながら、その燃えるような美しいひとみに見入った。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
先生は白皙はくせき長身ちょうしん、一見して皆その偉人いじんたるを知る。
その浅黒い皮膚の色には今以て魅惑を感じながら、たとい人工的であっても矢張白皙はくせきの肉体がかもす幻想を破りたくないような気がして
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
青年の白皙はくせきな、女にしたいほど目鼻だちの整った顔が現れたが、その眉宇びうの間には、隠しきれない大きな心配ごとのあるのが物語られていた。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
白皙はくせきかんの強そうな顔、大股にさっさと歩く身ごなしなど、いかにも我儘わがままな、不羈ふき奔放そのものといった風格が感じられる。
足軽奉公 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
裸にしても堂上人どうじょうびとらしく白皙はくせきの美男であるから、実際の年はもっとよけいかも分らない。眉は濃く、唇はあかく、才気煥発なところがひとみに出ている。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
客の武家は輕くあごをしやくりました。申す迄もなく御簾中樣用人島五六郎、長身白皙はくせきで、鼻の高い、唇の赤い美男子。
御所解模様ごしょどきもようを胸高に総縫にした黒縮緬ちりめんの振袖が、そのスラリとした白皙はくせき身体からだに、しっくりと似合っていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
前刻さっき蓮根市はすいちの影法師が、旅装で、白皙はくせきの紳士になり、且つ指環ゆびわを、かまどの火に彩られてあらわれた。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
油できれいに分けた濃い黒髪は、西洋人の金髪にはまた見られぬような趣のある対照をその白皙はくせきの皮膚に与えて、カラーとネクタイの関係にも人に気のつかぬ凝りかたを見せていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
白皙はくせき、黒髪、長身で、おとなしやかな坊ちゃん育ちも、彼の覇気はきは、かなり自由に伸びて、雑誌『みやこの花』主幹として、日本橋区本町の金港堂きんこうどう書店から十分な月給をとっていたうえに
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
白皙はくせき紅顔の美青年栄三郎は、このごろはべに絵売りの扮装いでたちも板についてきて、毎日、はでなつくりに木箱を背負っては江戸の町々を徘徊はいかいし、乾雲の眼を避けながらその動静を探っている。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
驚くべきは顔色であって、白皙はくせきに赤味を加えている、二十歳時代の、青年の顔の色そっくりというべきであった。鉄色の羽織を着ていたが、それは高価な鶉織うずらおりらしく、その定紋は抱茗荷だきみょうがである。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
萌黄もえぎ色の軍服……高い深緑の天鵞絨ビロードえり、肩章に飾帯をお着けになって、丁抹デンマーク龍騎兵大尉の通常軍服を召された面長おもながなお顔! 深海の底を思わせる澄んだあおひとみ……白皙はくせきひたいにやや垂れ加減の
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
それはまことに白皙はくせきの、髪も眉も眶毛まつげも、その太い鼻も、頬の額の深皺も雪のような、何か品のよい老婆が、壁際の白いベッドに白いクッションを高く、下半身に白い薄手の毛布を引きあげて
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
その妄想は次第次第に消滅して、耶蘇ヤソ教国以外、白皙はくせき人種以外に、日本の進歩はいわゆるこの正理の上から世界の正理の助けを受けて、ついに同等の地位を保つということに至ったのであります。
外交の方針 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
が、そうは云うものの、白皙はくせき人種の婦人に接近し得ることは、私に取って一つの喜び、———いや、喜び以上の光栄でした。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
腕時計の硝子蓋ガラスぶたを、白い実験着のそでで、ちょいと丸くぬぐいをかけて、そう皮肉ったのは白皙はくせき長身の理学士星宮羊吾ほしみやようごだった。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかし彼は叔父勝家のようなあばたのかめわりづらとちがい、白皙はくせきの美丈夫にして、見るからに虎眉豹身こびひょうしんの気にみちている。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
憂いのある白皙はくせきの顔に、乱れかかる髪の二筋三筋が、どうかするとなまめかしいほども美しい印象だった。
城中の霜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)