)” の例文
旧字:
朝ともひるともつかぬ食事をしてから、叔父は三時五十分のでつと云い出した。せめて葉子が帰ってくるまで、と云って皆でとめた。
恩人 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
お父さまたちがっていらしたら、さっそく仕事にかかりましょうね。……(テーブルの上の書類を、いらだたしくり分けながら)
例によって浜辺には見送りの島の者がずらりと並んでわかれを惜しんでいる。(一年に三、四回しか見られない大きな船がつのだから。)
こうして地主やかたから馬車を見られないようにしてってしまう魂胆であった。彼はプリューシキンのところへ行こうと思ったのだ。
そして事務長がはいって来た時途切らした話の糸口をみごとに忘れずに拾い上げて、東京をった時の模様をまた仔細しさいに話しつづけた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
私どもはつのを延ばしてくれとは頼みかねましたが、あの人は娘がもっと落ち着くのを見るまで自分からとどまってくれました。
「あんたさ、隊へ、帰るのじゃないのけ、五卿様のお行列さ、もう、よんべ、伏見街道さって、京都へ行かしゃったという噂だによ」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蟹沢から飯山迄は便船もつ、もし舟が嫌なら、途中迄車に乗つて、それから雪橇に乗替へて来るやうに、と書いて呉れと頼んだ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「幾時の汽車で、おちなのかしら。」ゆきさんは、流石さすがに落ちつきを取りもどし、何事もなかったように、すぐ言葉をつづけてくれた。
八十八夜 (新字新仮名) / 太宰治(著)
自分も商人となって都へ上りたいということを頼んだところ、雀部は気やすくひきうけて、「今度は何日ごろつつもりです。御一緒に」
ギルバート群島からのぼってったときはうまくいったけれどねえ、ボルネオから発ったときはすっかりしくじっちゃったんだ。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
朝鮮につとき俺は、朝鮮行きを秘匿ひとくするためにも、俺のいない間に無断で部屋を始末したりしたら承知しねえぞとおどしつけておいた。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
「畑物に月がさしたらそれはみな仏の座のように申します。それに、間もなく宮仕えにたれるあなたさまに、誰が何を申しましょうぞ。」
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
すぐここをおちになるがよろしゅうございます、決して何人たれにも云ってはなりません、そのことを云うと、生命いのちにかかわります
竈の中の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
一度つ前に心からお礼を申し上げたいと思っていましたところへ、昨日MISSミス・キャゼリンが来られたと聞きましたので
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
信吾の不意につて以来、富江は長い手紙を三四度東京に送つた。が、葉書一本の返事すらない。そして富江は相不変あひかはらず何時でもはしやいでゐる。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
李剛 あしたつ? それはまた急だねえ。だが、日本の客は予定よりすこし早く着くことになった様子だから、なるほど。
去年の五月に江戸をって、やがて小一年になる。雪のやむのを待って早々に出発しても、上野や向島の今年の花はもう見られまいと思った。
半七捕物帳:33 旅絵師 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
三年前に日本をった時には、ある大きな争議の直後で相当眼をつけられていた男だけに今度帰ってもしばらくは表面に立つことができない。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
男だから毎週土曜日の午後には東京をつて小田原の別荘へ行く事にめてゐる。別荘には夫人が待つてゐる。夫人は言ふ迄もなく女である。
泊まった遍路がつときに必ずお札を一枚ずつ貼って出て行く出口の大戸、それはお札のために盛りあがるくらい分厚くなっているその大戸に
抱茗荷の説 (新字新仮名) / 山本禾太郎(著)
それにまた、明後日の朝彼がつのだとすると、これきり当分会えないことになる……そうした気持も手伝っていたのだ。
遁走 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
何だか泣きたいような気持になって、儘になるならすぐにもちたかったが、こうなると当惑するのは、今日の観劇の費用が思ったよりもかさんで
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
北海道開拓次官となって樺太からふとつのが明治三年七月二十七日(『大久保利通日記』)、井上清氏の労作『日本の軍国主義』につぎの記載がある。
黒田清隆の方針 (新字新仮名) / 服部之総(著)
この汽車は新橋を昨夜九時半にって、今夕こんせき敦賀に入ろうという、名古屋では正午ひるだったから、飯に一折のすしを買った。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「大次郎さまはこのお山に、何か御用がおありだという話のようだけれど、お父さまは、いったいいつ江戸へおちになるおつもりなのだろう。」
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
いつもながら、不得要領なお返事ばかりで当方の迷惑は一通りではない。こちらをつ時にはあれほど堅い約束をして置きながら何と云うことだ。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
そツで、胸ん中で、さいならて云ふて、こぎやんして降りて来たツた。そるけん、もうなんも云はでんたせツくれな。
牛山ホテル(五場) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
その日の朝徒歩でパリーをったこと、子供を背負っていたので疲れを覚えると、幸いにヴィルノンブル行きの馬車に出会ってそれに乗ったこと
「ステッセルも一生懸命だとみえますな。まだ兵力が足りなくって第八師団も今度旅順に向かってつといううわさですな」
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
四月上旬(注・昭和二十九年)には日本をって、アメリカからヨーロッパを回ってくる予定で、いま準備中である。
欧米料理と日本 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
翌朝五時半には、私どもは粉奈屋をった。空は薄く曇っているが、月があるので明るい。新しい草鞋わらじに、少しく湿った土を踏んでゆく心持はよい。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
またすぐ、こゝをつて行くひとだらうか……。それにしても、同じ屋根の下に二度も吹き寄せられる人間の奇遇を、ゆき子はたのしいものに思つた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
善平は初めて心づきたるごとく、なに帰る? わしも帰るさ。一時も早く東京へ帰って、何彼なにかの手はずをめねばならぬ。光代、明日ははやくとうぞ。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
ぎはのあわたゞしさの中でも、彼を思ひ、是を思ひ、時に朦朧もうろうとした、時に炳焉へいえんとした悲しみに胴を顫ひ立たせ
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
京都へは一週間ほど前に、伯父の病気がアブナシとの電報があつたので母はもう老齢で行けないし、自分独りで葬式に参列するつもりでつたのである。
現代詩 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
寺田は何か後味が悪く、やがて競馬が小倉こくらに移ると、1の番号をもう一度追いたい気持にかられて九州へった。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
向うから小さな人影が来た、生きて動いて、何か帽子に幽かな円光をてて。陽を真正面まともに受けたのであった。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
「一番でったあと、すぐ、青柳さんのところ宛、電報を打つつもりじゃ。ウナ電で打ちゃ汽車より早よ着く」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
そして、のんきに旅をすることができるように、彼らは朝早くヴルツブルクをった。伯爵は自分の従者たちに命じて、あとからきて追いつくように言った。
……江戸をって甲州路、府中の宿へかかった頃から、後になったり先になったり、稀有のやっこが附いて来た。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「鎌倉をって西国に参った者は、義経の命にそむくことは許されぬ、さもなくば、とっとと鎌倉に帰れ」
わたしはすぐ兄さんをたせてあげます。自分で旅券を取ってあげます、旅券を二枚。一枚は兄さんので、もう一枚はわたしのです。わたしには友人があります。
彼は旅装を解くとすぐ寝台に横になり、疲労の恢復かいふくに努めることにした。そうしているときも、彼が東京をつとき、パリからここへ来たことのある医者の友人が
罌粟の中 (新字新仮名) / 横光利一(著)
あくる日、お駒はたまった給料を受取った上、ほかに手当百両を貰い、平次とガラッ八に送られて、故郷の越後へちました。確かな道伴みちづれを見付けて、板橋から別れる時
そうして、カムポスを加えた三人の者が、「蕨の切り株トッコ・ダ・フェート」へとリオ・デ・ジャネイロをっていった。
人外魔境:05 水棲人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
船が桑港サンフランシスコに入る前夜、ぼくは日本をつとき、学校の先生からたのまれた、羅府ロスアンゼルスにいる先生の親戚しんせきへの贈物おくりもの、女の着物の始末に困って、副監督ふくかんとくのM氏に相談しました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
「いや、ペテルブルグに来てるんですよ。二、三日前にやって来たんです。外国へつつもりらしい」
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
もっとも、竜一の姉の春子が、いよいよ正式に縁づくことになり、母の死後間もなく、東京にって行ってしまったと聞いた時には、腹も立ったし、悲しくも思った。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
国に女房子を置放おきぱなしにした罰が一緒に報って来て私は女房これのかの字を受けたと見えて痳病りんびょうと来ました、これがまた二度めの半病床はんどやと来てつことが出来ませんで
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)