畸形きけい)” の例文
天才は、一種の畸形きけいであるというが、半兵衛重治も病弱だった。——青年の頃になると、その病骨は、なお、はっきり現われて来た。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
所謂いわゆる指導者なるものが現われたが、これは特定の個人というよりは、強制された精神の畸形きけい的なすがたであったと言った方がよい。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
人間の畸形きけいにも不具と出来過ぎとが確かにある。大男も片輪かたわのうちにかぞえるのは、いわゆる鎖国時代の平民の哀れな遠慮であろう。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
読者に完璧かんぺきの印象を与え、傑作の眩惑げんわくを感じさせようとしたらしいが、私たちは、ただ、この畸形きけい的な鶴の醜さに顔をそむけるばかりである。
猿面冠者 (新字新仮名) / 太宰治(著)
非常に片寄った畸形きけいなものだけれど、そういう中からいいものを見つけ出して、それを棄てずに純粋にして大きくしなければならぬと思う。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
その各段は、哲学の立脚し得る各段であって、そこには、あるいは聖なるあるいは畸形きけいなる種々の労働者がひとりずつおる。
それは蜂の女王が生殖機関たることに偏した結果、それ以外には畸形きけい的無能力者となったのにたとえても好いような状態に堕落してしまいました。
婦人改造の基礎的考察 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
けれどもそれはまったく、作者に未知みちえざる驚異きょういあたいする世界自身じしん発展はってんであって、けっして畸形きけいねあげられた煤色すすいろのユートピアではない。
と、燭台の燈火がえた。で、あたかも老女たちの頭は、小長い無数の銀の線を、い合わせてできた畸形きけいな球が、四つかたまっているように見えた。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その顔けが月光を受けて、クッキリと浮上っていたのです。月の光の中でさえ、黄色く見える、しぼんだ様な、むし畸形きけいな、いやないやな顔でした。
目羅博士の不思議な犯罪 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
問題の役人が手に取って示したのは、畸形きけい裸形らぎょうの男女を描いた、立川流の敷曼陀羅しきまんだらというのに似ている。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
食慾だけ取立てられて人類の文化に寄与すべく運命付けられた畸形きけいな天才。天才は大概片端者だという。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
行一はそこに立ち、今朝の夢がまだなまなましているのを感じた。若い女のももだった。それが植物という概念と結びついて、畸形きけいな、変に不気味な印象を強めていた。
雪後 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
特に異常な性質を持つてゐるといふしるしになる畸形きけいな點があるわけでもない。まつたく、この子供が、既に惡魔の下僕しもべで、その身代みがはりであらうとは誰が思ひ得ようか。
又、あの時にたった一度知ったとしても、その以後再び幼時の古い傷口を突っかれることがなかったならば、あゝ迄彼の性慾が畸形きけい的になりはしなかったであろう。
二の氷店こおりみせや西洋料理亭の煩雑はんざつな色彩が畸形きけいな三角の旅館と白い大鉄橋風景の右たもとに仕切られる。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
かように化物共がわれもわれもとてらしんきそって、ついにはつばめの尾にかたどった畸形きけいまで出現したが、退いてその由来を案ずると、何も無理矢理に、出鱈目でたらめに、偶然に
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
即ち、明治の末期より、大正、そして現在へかけての自然主義文学の輸入、跋扈ばっこ、従って極端なる、異常事件の軽蔑、興味の否定、そのために、日本の文芸は畸形きけい的発達を遂げた。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
特に強い印象は、重錘揚じゅうすいあげ選手みたいに畸形きけい的な発達をした上体と、不気味なくらい大きな顔と四ひらで、肩の廻りには団々たる肉塊が、駱駝らくだ背瘤せこぶのように幾つも盛り上っていた。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
この媚が無形の悪習慣というよりは、むしろ有形の畸形きけいのように己の体に附いている。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
極端に言えば天狗の面でしょう? 又低いという感じを与えるのも矢張り調和を欠いています。顔道具は持ち寄って綜合美を呈するんですからね。鼻丈け目につくようなら畸形きけいです。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そして、自分の畸形きけいを誇る役者のように、君らは君らの畸形で文学を作っている。
屋根も異様に細長く、瘠せた鶏のあしみたいに、へんに骨ばって畸形きけいに見えた。
猫町:散文詩風な小説 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
だがそれは畸形きけいではない、粗悪ではない。自然さがあり健康がある。疲れた粗野があろうか。ある者はこれを稚拙とも呼ぶであろう。だが稚拙は病いではない。それは新に純一な美を添える。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
明子は畸形きけい的に早い年齢に或る中年の男と肉体的経験をつてゐた。
青いポアン (新字旧仮名) / 神西清(著)
ぶよぶよした貝の肉のようなものから、畸形きけいの獣めいたものが出て来る。這い出るのに苦労をするらしく、しきりにもがいている。やっと出て来ると、そいつはへんな動き方をしながら、宙に浮く。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
畸形きけいになる。その経過の研究なのであった。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
その畸形きけいなる尻尾を振つて游泳いうえいする
象徴の烏賊 (新字旧仮名) / 生田春月(著)
畸形きけいで、男と寝たがる意地ぎたなさ
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
八弥は、畸形きけい爬虫類はちゅうるいのように、ひじ、膝、肩までを地にりつけたまま、眼だけを相手の筒口つつぐちに向けて、ジリジリと前へ迫り出した。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
津軽では我々のいう天狗の巣、すなわち桜などの老木が病のために、畸形きけいの枝ぶりを示すものをもヒョウといい、必ずしも寄生だけには限っておらぬ。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
されどこれ畢竟不具である畸形きけいである、食物のみ厳格なるも釈迦の制定したる他の律法に一も従っていない。特にビジテリアン諸氏よくこれを銘記めいきせよ。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
彼は本能的にその反対のものを賛美した。彼の柔軟なたわみやすいはずれがちな病的な畸形きけいな思想は、背骨にまといつくがようにアンジョーラにまといついた。
牀几しょうぎに腰をかけていた。鉛色の仮面の横顔と、纐纈布で作られた、深紅の陣羽織の肩の上で、テラテラ灯火に光っているのが、畸形きけいな彫刻でも見るようであった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
園主の招待を受けた、りすぐった猟奇りょうきの紳士淑女達は、畸形きけいなゴンドラに乗せられて、悪魔の扮装をした船頭のあやつる竿さおに、ずこの椿のアーチをくぐるのだ。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼はまた湯鑵に新しく水を入れて来て火鉢の火を盛んにした。湯の沸く間に、彼は彼の唯一の愛玩あいがん品の南蛮なんばん製の茶瓶ちゃびんひざに取上げて畸形きけいの両手で花にでも触れるやうに、そつとでた。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
似ているのである。数枝も、乙彦を、あの夜ここで一緒に呑んで、知っていた。乙彦は、すさんだ皮膚をして、そうして顔が、どこか畸形きけいの感じで、決して高須のような美男ではなかった。
火の鳥 (新字新仮名) / 太宰治(著)
だがそれは畸形きけいではない。粗悪ではない。自然さがあり健康がある。疲れた粗野があろうか。ある者はこれを稚拙ちせつとも呼ぶであろう。だが稚拙は病いではない。それは新たに純一な美を添える。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
いたずらに空華くうげと云い鏡花きょうかと云う。真如しんにょの実相とは、世にれられぬ畸形きけいの徒が、容れられぬうらみを、黒※郷裏こくてんきょうりに晴らすための妄想もうぞうである。盲人はかなえでる。色が見えねばこそ形がきわめたくなる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まるで肋骨ろっこつの上に細い首が乗ッかっているような畸形きけいだった。泣き顔には小皺が寄って、小さなお婆さんの顔みたいである。
然る後に菜食主義もよろしかろう。諸君のごと畸形きけいの信者は恐らく地下の釈迦も迷惑めいわくであろう。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
半面明るく半面暗く、城之介の畸形きけいなことは! 上唇がまくれあがった。笑ったのである。こんな場合に! 勃然とわき起こった憤り! それが意外にも左源太を助けた。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
もし大洋が堤防を築くとするならば、おそらくかかる防寨ぼうさいを築くであろう。狂猛な怒濤どとうの跡はその畸形きけいな堆積の上に印せられていた。しかもその怒濤は、下層の群集だったのである。
子供は自分の畸形きけいな性質から、いずれは犯すであろうと予感した罪悪を、犯したような気がした。わるい。母に手をつかせ、お叩頭じぎをさせてしまったのだ。顔がかっとなって体に慄えが来た。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
なにかしら畸形きけいな、丸々とした、非常に美しい桃色の生きものであった。
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
だが美しいからといって無理にその真似まねをする。もとの自然さが残ろうはずがない。あの強いて加えたいびつや、でこぼこや、かかる畸形きけいは日本独特の醜悪な形であって、世界にも類例がない。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
もしくは畸形きけいに発育してしまった世の中に、生まれ合わせて来た我々は、殊に是を改善整頓して、人間の最も埋没まいぼつしやすい生活、いわゆる片隅かたすみの喜怒哀楽、ありふれたる民衆の幸福と不幸とのために
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
『……それはちがう』馬上の影は、静かに、顔を振って——『おまえの心を、畸形きけいにさせたのは、この忠盛に、罪がある。 ...
必ず畸形きけいとなり廃物となりまたおそらくは怪物となるの運命を有している。
半創成の畸形きけいな金魚と逸話いつわだけが飼育家仲間に遺った。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)