田圃道たんぼみち)” の例文
真赤まっか達磨だるま逆斛斗さかとんぼを打った、忙がしい世の麺麭屋パンやの看板さえ、遠い鎮守の鳥居めく、田圃道たんぼみちでも通る思いで、江東橋の停留所に着く。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
窓の外は同じような田圃道たんぼみちばかりで、おりおりそこに客を載せてゆっくり歩いている人力車なんぞが見える。刈跡から群がって雀が立つ。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
え、道ですか? 茂木の入り口のところで右に細い田圃道たんぼみちがありますがね。なんでも人通りの少ないはずのところに足跡が多かったらそこを
駅から一丁ほど田圃道たんぼみちを歩いて、撮影所の正門がある。白いコンクリートの門柱につたの新芽が這いのぼり、文化的であった。
花燭 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ここらは以前の千代田村と日比谷村のあいだを通っている奥州街道の田圃道たんぼみちが開けているので、もっと、江戸城の周囲に寄れば、太田道灌どうかん以後
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
田圃道たんぼみちの稲田のいきれの強い真夏の暑い日中を辿たどつたり見知らぬ村の子供の群れに交つて小川に水を浴びたりして次から次に親類の家を泊り歩いた。
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
乞食こじきに化けて観音裏の田圃道たんぼみちを歩いていた庄三郎は、佐藤与茂七に逢って衣服を取りかえた。与茂七は宅悦の家で借りて来た提燈も庄三郎にやって
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「関東の平原はいいですね。暁のもやに包まれた杉木立。夕べの雨の田圃道たんぼみち。火のような赤トンボが飛ぶ秋の空……」
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
町から東のO村まで二里ばかりの、樹蔭一つない稲田の中の田圃道たんぼみちを歩いて行った。向うへ着いたときに一同はコップに入れた黄色い飲料を振舞われた。
「いま、彼方むこう田圃道たんぼみちあるいてくると、ひきがえるが、かまきりをのもうとしていた。」と、はなされました。
宿題 (新字新仮名) / 小川未明(著)
私達は村はずれの田圃道たんぼみちを通って、ドロ柳の若葉のかげへ出た。谷川には鬼芹おにぜりなどの毒草が茂っていた。小山のすそを選んで、三人とも草の上に足を投出した。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
麦稈帽むぎわらばうをかぶつた単衣ひとへの古びた羽織を着たかれの姿は、午後の日の暑く照る田圃道たんぼみちを静かに動いて行つた。町は市日いちびで、近在から出た百姓がぞろ/\と通つた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
白粉おしろいのはげかかった顔を洗いなどしてから、裏の田圃道たんぼみちまで出て来たが、濛靄もやの深い木立際こだちぎわの農家の土間から、かまの下をきつける火の影が、ちょろちょろ見えたり
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
今でも芝居なぞで玉子の藁苞わらづとを見ると、それをげて田圃道たんぼみちを○○町へ辿る小学生を思い浮べる。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
軽い藁草履わらざうりをはいて、お弁当を用意して、昼近い時分に二人は出かけました。町をはづれると田圃道たんぼみちで、それから桑畑の中を通つて、細い一すぢの道が山の方へ向つてゐます。
時男さんのこと (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
君ちょっとかたたたいてくれとか、雨のふる日は納屋にはいって竹の簀子すのこを編もうとか、ある一処にとくさを植え合い顔をつき寄せたり、二人で植木溜うえきだめに行くために奥馬込おくまごめ田圃道たんぼみちを行き
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
やがて七、八間も田圃道たんぼみちを通り抜けた時、善八はあとを見かえりながら云った。
半七捕物帳:61 吉良の脇指 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
田圃道たんぼみちを東の方へ人の足音がした。やがてパチ/\と拍手かしわでの音がやみに響く。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
小池のこしらへる麥笛を奪ひ取つたことや、秋の頃二人で田圃道たんぼみちを歩いて、小池が稻の穗の重さうにれてみのつたのを拔き取り、もみを噛んでは白い汁を吐き出すのを眞似まねして、お光も稻の穗を拔き
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
どこまでつづくかと思われるほど長い田圃道たんぼみちもあった。垣根に山茶花さざんかや菊などの咲いている静かな村もいくつか通った。そうした道を君子は母の背に負われたり、また手をかれて歩いたりした。
抱茗荷の説 (新字新仮名) / 山本禾太郎(著)
慣れない田圃道たんぼみちを、忍耐と、目測と、迂廻うかいとを以て進むものですから、見たところでは、眼と鼻の距離しかないあの森の、銀杏の目じるしまで至りつくには、予想外の時間を費しているものらしい。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
四郎左衛門は市中を一走りにけ抜けて、田圃道たんぼみちに出ると、刀の血を道傍みちばたの小河で洗つてさやに納め、それから道を転じて嵯峨さがの三宅左近の家をさして行つた。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
途中で日がまったく暮れて、さびしい田圃道たんぼみちを一人てくてくと歩いて来ると、ふとすれちがった人が
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
一里半ばかり、鼻のもげるような吹曝ふきさらしの寒い田圃道たんぼみちを、腕車くるまでノロノロやって来たので、梶棒かじぼうと一緒に店頭みせさきへ降されたとき、ちょっとは歩けないくらい足が硬張こわばっていた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ホタルの飛び交う田圃道たんぼみちを、私は、うつむいたまま夢中で歩いて、家についたのは十一時を回っていた。母は、なんにもいわないで、熱いうどんを、ザルに一ぱい煮てくれた。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
わし腹立紛はらたちまぎれじゃ、無暗むやみと急いで、それからどんどん山のすそ田圃道たんぼみちへかかる。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこの田圃道たんぼみちから、湖の波打際までのあいだ約一町ぐらいな幅は、いちめんな葭におおわれているのである。乗り入れた面々は、みな葭の根の生えているやわらかい湿地に気づかなかった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
燈火あかりが盛んにかがやいて客や女中の声がやかましいのに、この裏庭は、垣根一重を境にして、一間ほどの田圃道たんぼみちにつづいては、威勢よく今年の稲が夕風にそよいで、その間に鳴くかわずが、足音を聞いては
と私達も田圃道たんぼみちをその方へ急いだ。一番先に走りついた私は忽ち
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
おくれたおんなひとは、はたりながら、田圃道たんぼみちはしってきました。
とびよ鳴け (新字新仮名) / 小川未明(著)
九月の田圃道たんぼみち
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
二人は田圃道たんぼみちにかゝりました。と出逢ひ頭に、森の中から出て來た男、ハツと面喰つた樣子で、頬冠ほゝかぶりのまゝ通り過ぎます。横顏だけしか見えませんが、二十五六の小意氣な男です。
わし腹立紛はらだちまぎれぢや、無暗むやみいそいで、それからどん/\やますそ田圃道たんぼみちかゝる。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そして夜鴉よがらすのような群ら影を躍らせて児屋郷の長い田圃道たんぼみちを駆けきそった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平八郎は瀬田に、かく人家に立ち寄つて保養して跡から来るが好いと云つて、無理に田圃道たんぼみちを百姓家のある方へ往かせた。其後影うしろかげを暫く見送つてゐた平八郎は、急に身を起して焚火を踏み消した。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
田圃道たんぼみちにはまだ朝の露が残つてた。わたしの足袋はしとどに濡れた。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
にんは、また田圃道たんぼみちあるいて、往来おうらいました。
小さな妹をつれて (新字新仮名) / 小川未明(著)
すぐにれられてまゐつたんです。生肝いきぎも藥研やげんでおろされるはうがまだしもとおもひました、仙人せんにんれられて——何處どこくのかとぞんじますと、田圃道たんぼみちを、わたしまへたせて、仙人せんにんあとから。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
秩父在ちちぶざいに昔から己の内に縁故のある大百姓がいるから、そこへ逃げて行こうというのだ。いの背中で、上野の焼けるのを見返り見返りして、田圃道たんぼみちを逃げたのだ。秩父在では己達を歓迎したものだ。
里芋の芽と不動の目 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
日がって医王山へ花を採りに、私の手をいて、たかどのに朱の欄干てすりのある、温泉宿を忍んで裏口から朝月夜あさづきよに、田圃道たんぼみちへ出た時は、中形ちゅうがた浴衣ゆかた襦子しゅすの帯をしめて、鎌を一挺、手拭てぬぐいにくるんでいたです。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あれ、はんけちを田圃道たんぼみちで落して来て、……」
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
田圃道たんぼみちを楽しそう。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)