ちん)” の例文
周三は、いらつき氣味で、「じや、何うです。ちんころになツて馬車に乗るのと、人間になツて車力しやりきくのと何方が可いと思います。」
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
それは驢馬やちんに似てはいたが、それにしても、べつに他意のないおとなしい驢馬ならばたしかに、その態度がぶざまだったところで
先頃もお手飼にちんが欲しいと夫人の御意、きくよりも早飲込み、日ならずして何処でもらッて来た事か、狆の子一ぴきを携えて御覧に供える。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そして室町むろまち達見たつみへ寄って、お上さんに下女を取り替えることを頼んだ。お上さんはちんの頭をさすりながら、笑ってこう云った。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
以前ちんのモデルで苦労した経験がありますから、今度はチャボのモデルは好い上にも好いのを選みたいというのが私の最初の考えであった。
ところへ何処かの奥さんが来て、お母さんと談話はなしを始めた。やはり見物に来たんだ。御大層ごたいそうなりをしている。ちんを抱いている。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ちんというやつで、体躯からだつきの矮小ちいさな割に耳の辺からかぶさったような長い房々とした毛が薄暗い廊下では際立って白く見えた。
ある女の生涯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
主人となった夫は真佐子という美妻があるにかかわらず、ちんの様な小間使に手をつけて、めかけ同様にしているという噂が伝わった。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あわてて逃げ出す頭へ、後ろから——ざぶりっと、うすい味噌汁みたいな鍋の水をぶちかけられて、城太郎は、ちんころみたいに身ぶるいした。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただあのちんひきというのだけは形もしなもなくもがな。紙雛かみひいなしまの雛、豆雛まめひいな、いちもんびなと数うるさえ、しおらしく可懐なつかしい。
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ちんに縮緬の着物を着せて、お附きの人間をつけて置く人が、彼の門前で死に瀕する行倒れを放って置くのは正しいことか。
地は饒なり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
紐育ニユーヨーク電報によると、大使は米国政府から旅券を交附するといふ報知しらせを受取ると、叱られたちんのやうに眼に涙を一杯溜めて
お夕食は奥様が心を籠めて作った御馳走で大変おいしく頂き、食後の歓談をしていますと、プッチーニの子供さんが他家からちんを貰って来ました。
お蝶夫人 (新字新仮名) / 三浦環(著)
又その内儀おかみさんが猫が大好き、ちんが大好き、生物いきものが好きで、猫も狆も犬も居るその生物いきもの一切の世話をしなければならぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ちんのくさめをしたような顔をしているけれど、それがえらいんだとさ。今じゃ公使をしていて、東京にはいないのよ。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
庭木がこんもり繁っていて、容易に奥が見えすかれず、まわりはグルリと金目垣かなめがきちんが一匹といいてえが猫と鸚鵡が住んでらあ。……とおれは思うのだ。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
スペインブールホスの大寺にあるメンシア・デ・メンドザ女の葬所なる臥像はそのすそちんを巻き付かせある。
果然、羽振医学士閣下は吾輩の上華客じょうとくいだった事を思い出した。ブルテリヤ、ちん、セッター、エアデル、柴犬なぞ。飼犬の豪華版みたいだが心配する事はない。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そして丹前たんぜん羽織はおると、縁側に出て、雨戸をガラガラと開いた。とたんに彼は、ちんのように顔をしかめて
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
吾輩が金田邸へ行くのは、招待こそ受けないが、決してかつお切身きりみをちょろまかしたり、眼鼻が顔の中心に痙攣的けいれんてきに密着しているちん君などと密談するためではない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大きな鳥籠のぐるりを、金太郎(わたしのうちのちんの名です)はぐるぐるまわりながら吠えました。
オカアサン (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
内藤豊後守ないとうぶんごのかみは、ちんのような顔をキョトキョトさせ、小笠原左衛門佐おがさわらさえもんのすけは、腹でも痛いのか、渋い面だ。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
色のくろい子だな、と私は思いました。あなたが笑うとき、鼻筋にしわをよせるのを認めて、ちんのような顔だなと思い、いまにのっぽな娘になるぞ、などとも思いました。
失蝶記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ちんがちょっかいを出したりするくらいのことで、こんなことになるものですか、これは毒……恐ろしい毒と思っているうちに金魚がブクブクと死んで浮き出して来ます
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
新聞に写真が出てたっけが、クシャクシャとした顔で、まるでちんね、それでいて頭が割合に大きくて背が人並はずれて低いっていうのですから、お化けに近いかも知れない。
ニッケルの文鎮 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
間もなく緋縮緬のちゃんちゃんを着た本当のちんを二匹連れて来て、我々の仲間入りをさせ、喰いかけの餡ころだの、鼻糞や唾吐つばきのついた饅頭だのを畳へばら/\振り撒くと
少年 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
朝になるとちんを連れた居候女を従えて庭へ下りて、がみがみと園丁や召使にものを言うところや、その傲慢で横柄な顔つきを思い浮かべると、いま書いた字を消してしまった。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そのちんころといえば、十カペイカ銀貨八枚の値打もない代物ですよ、もっともわっしなら二カペイカ銅貨八枚も出しゃしませんがね、そいつを伯爵夫人の可愛がりようといったら
(新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
その時向うのせんべやのお婆さんが、剃刃をあてるのに動かないようにと、おせんべにするふかしたしんをもって来てくれて、あたしの祖母が、ちんこしらえてべにで色どってくれた。
旧聞日本橋:02 町の構成 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ところが電車に乗っているあいだに、また気が変ったから今度は須田町すだちょうで乗換えて、丸善まるぜんへ行った。行って見るとちんを引張った妙な異人の女が、ジェコブの小説はないかと云って、探している。
田端日記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それから、おなじようにして、べっとうといっしょに、うまやでねている馬も、裏庭に遊んでいるむく犬も、お姫さまのねだいの上で眠っているお手がいちんまでも、みんな魔法の杖でさわりました。
眠る森のお姫さま (新字新仮名) / シャルル・ペロー(著)
それから皇居の御造営があって、皇后様の御部屋のちんなども拵えた。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
それよりも巴里パリー版ルイ・キャヴォの絵入好色本のほうが好きらしいことも、すべての犬を怖がってちんに対しても虚勢を張ることも、英吉利イギリスの総選挙を予想して各政党の詳細な得票表を作ってることも
踊る地平線:11 白い謝肉祭 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
愛犬はちんであった。夜、狆はけたたましく吠えたてた。ながい遠吠えやら、きゃんきゃんというせわしない悲鳴やら、苦痛に堪えかねたような大げさなうなり声やら、様様の鳴き声をまぜて騒ぎたてた。
ロマネスク (新字新仮名) / 太宰治(著)
背布団せなぶとんちんひも長く持ち
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
久しく忘れていた懐中ふところぬくみに城太郎は、ちんがじゃれるように、いつまでも、その首を武蔵の膝から離そうともしなかった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人間といふものは、応接間の一つもつやうになると、小猫やちんを飼ふとか、掘出し物の骨董を並べるとかして兎角お客にいたづらをしたがるものなのだ。
或る時は私の作のちんを手本にして、伊豆から出る沢田石で模刻させて見ると、どうやらこなして行きます。
飼われている一匹のちんもあって、田舎いなかからの珍客をさもめずらしがるかのように、ちいさなからだと滑稽こっけい面貌かおつきとで廊下のところをあちこちと走り回っている。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
足元でちんが驚ろいて急に吠え出す。これは迂濶うかつに出来ないと、急に飛び下りてえんの下へもぐり込む。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これに渦毛うづけぶち艷々つや/\しきちんつないで、ぐい/\と手綱たづなのやうにさばいてしが、ふとこゑして、うぢや歩行あるくか、とふ/\ひとげにさつさつと縱横じうわう濶歩くわつぽする。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
しかも、その条件たるや、どうして、お手飼いのちんころみたいに、一旦獲得されたからって、その階級の手の上にじっと抱かれているような殊勝な奴じゃありませんからね
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
夫人の興味は直き次に移って犬のドクトルが部屋に呼び付けられた。老人の獣医は毎金曜、ちんの歯を磨きに午前中だけ通って来る。今も玄関の側部屋で仕事にかかって居たのだ。
バットクラス (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
自分は王侯わうこう寵愛ちようあいに依ツて馬車に乗ツてゐるちんよりも、むしろ自由に野をのさばツて歩くむくいぬになりたい。自分は自分の力によツて自分の存立を保證する。自體自分には親が無い。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「襦袢のえり鹿の子をかけ、着物の襟へ黒繻子をかけ、斜めに揃えた膝の上へ、ちんを一匹のっけたところを描いた、栄之の一枚絵もよかったが、今度のはいっそサラリとしていい」
一枚絵の女 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そうではないちんがお池をき廻したからだというもの、なかには、毒を飲まされたんだ、金魚が毒を飲まされたと言い出したものさえありましたが、それは笑い物にされてしまって
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「坊ちゃん、ちんがお好きですかね。少し抱いてやって被下ください。私は手が疲れました」
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そしてF君を連れて、立見たちみと云う宿屋へ往かせた。立見と云うのは小倉停車場に近い宿屋で、私がこの土地にいた時泊った家である。主人は四十を越した寡婦かふで、ちんを可哀がっている。
二人の友 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そのひとちんを抱いて、夕方遊びに出るのを見るのがあたしは大好きだった。
巴里パリー版ルイ・キャヴォの絵入好色本のほうが好きらしかったことも、すべての犬をこわがってちんに対しても虚勢を張ったことも、英吉利イギリスの総選挙を予想して各政党の綿密な得票表を作っていたことも
踊る地平線:11 白い謝肉祭 (新字新仮名) / 谷譲次(著)