やき)” の例文
旧字:
「おい君も一つつて見ろ」と与次郎がはしつまんでした。てのひらへ載せて見ると、馬鹿貝の剥身むきみしたのをつけやきにしたのである。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
くさかるかまをさへ買求かひもとむるほどなりければ、火のためまづしくなりしに家をやきたる隣家りんかむかひて一言いちごんうらみをいはず、まじはしたしむこと常にかはらざりけり。
「けさ柳橋で顔を合せると——お膝元ひざもとの殺しを知らずにいるようじゃ、銭形の親分もやきが廻ったね——て言やがる」
天窓あたまの大きな、あごのしやくれた、如法玩弄にょほうおもちゃやきものの、ペロリと舌で、西瓜すいか黒人くろんぼの人形が、ト赤い目で、おでこにらんで、灰色の下唇したくちびるらして突立つったつ。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
午前十時が鶏卵けいらん半熟はんじゅく一つとやきパン二十瓦即ち五匁、昼食ちゅうじきがよく叩いたビフステーキ百瓦即ち二十五匁、砕きたる馬鈴薯じゃがいも二百瓦即ち五十匁、あめ二十瓦即ち五匁
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
むこうで人足にんそくたちが、やきするめと焼米やきごめほおばっているのを見て伊部熊蔵いのべくまぞう、それがしいなぞだろうとさっして
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
汁粉屋の茶碗というけれども、さすがに維新前に出来たものだけに、やきくすりも悪くない。平仮名ひらがなでおてつと大きく書いてある。私は今これを自分の茶碗につかっている。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ギラギラと、見る者の眼底にやきつく様な生気を持っていたことも、不思議と云えば不思議であった。
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「お前のような人間が藝術家になるのさ。どらやきを焼くよりか餘っぽどいゝわ。」
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ぬけろじの中程が恰度、麺包屋ぱんやの裏になっていて、今二人が通りかけると、戸が少しあいて居て、内で麺包を製造つくっている処が能く見える。其やきたてのこうばしいにおい戸外そとまでぷんぷんする。
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
これは近所の石手寺いしてでらといふ名刹の門前に『おやき』といふ名物の焼餅を売つてる。
坊つちやん「遺蹟めぐり」 (新字旧仮名) / 岡本一平(著)
同じ露店の大道商人となるとも自分は髭を生し洋服を着て演舌口調に医学の説明でいかさまの薬を売ろうよりむしろ黙して裏町の縁日えんにちにボッタラやきをやくか糝粉細工しんこざいくでもこねるであろう。
やきの廻ったナポレオン三世に踏襲されて朝鮮で最後の実を結ぼうという瞬間に、虎手八百でつまずいたばかりに永遠に駄目になったのだから、この戦、偶然の勝利とはいえ決定的な勝利になった。
撥陵遠征隊 (新字新仮名) / 服部之総(著)
「命からがら引上げて来ましたが、いや今度という今度は失敗しくじりつづき、先生のところで失敗しくじって、それから坊さんでまた失敗りました。こうなっちゃ、がんりきもやきが廻って、少々心細くなりました」
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
けふの夜食やしよくやきパンにジヤムと牛乳ミルクはんとぞ思ふ。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
最早もうそれはいひツこなしとゝめるもふも一筋道すぢみち横町よこちやうかた植木うゑきおほしこちへとまねけばはしりよるぬり下駄げたおとカラコロリことひく盲女ごぜいま朝顔あさがほつゆのひぬまのあはれ/\あは水飴みづあめめしませとゆるくあまくいふとなりにあつやきしほせんべいかたきを
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
くさかるかまをさへ買求かひもとむるほどなりければ、火のためまづしくなりしに家をやきたる隣家りんかむかひて一言いちごんうらみをいはず、まじはしたしむこと常にかはらざりけり。
その藪の前の日向ひなたに、ぼったらやきの荷にひさしを掛けたほどな屋台を置いて、おお! ここに居る。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雉子きじももや、小鳥のくしやきを売っている老婆のそばで、べつな男は、大きな酒瓶さかがめを、道ばたにすえ、自分も飲んで、酔って、歌いながら、実は目的の、酒売りをやっている。
先ずボッタラやきの種位なドロドロの物にして別に三つ分の玉子の白身をよく泡立てて混ぜて
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
流石の名探偵も少しやきが廻ったぜ。君は僕らが物見台を持っていないと思っているのかい。君はまさか大仏様の額にはめてある厚板ガラスの白毫を見落した訳ではあるまい。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
秦亀しんきは山中にるものなり、ゆゑによんで山亀といふ。春夏は渓水けいすゐに遊び秋冬は山にかくる、きはめて長寿する亀は是なりとぞ。又筮亀ぜいきと一名するは周易しうえきに亀をやきて占ひしも此亀なりとぞ。
かれのやきがもどったことは、そのまま元禄という一時代を、糜爛びらんさせてしまった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まるでへびの眼の瞳孔どうこうの様に、生々しく私の記憶にやきついている。
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
サワラのやき 夏 第百五 世の流行
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
秦亀しんきは山中にるものなり、ゆゑによんで山亀といふ。春夏は渓水けいすゐに遊び秋冬は山にかくる、きはめて長寿する亀は是なりとぞ。又筮亀ぜいきと一名するは周易しうえきに亀をやきて占ひしも此亀なりとぞ。