)” の例文
これが親分をらして、自分から乗出させる魂胆と知りながらも、平次はツイこう威勢の良い「馬鹿野郎」を飛ばしてしまいました。
例の如くややしばし音沙汰おとさたがなかった。少しれ気味になって、また呼ぼうとした時、いたち大鼠おおねずみかが何処どこかで動いたような音がした。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
と、——彼の行動が遅いので、早くしろとうながすように、外の者はれているのであろう。高窓から垂れている縄が左右に動いた。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
染井の化物屋敷はまた化物屋敷で、神尾主膳はあの時の井戸釣瓶いどつるべの怪我からまだ枕が上らないで、横になりながられきっています。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
妻に対する虚栄心の発現、らされながらも夫を腕利うでききと思う妻の満足。——この二つのものだけでは到底充分な説明にならなかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それでも善兵衛は容易に承知しないでさんざんらした挙げ句に、おまえの娘をくれるならば譲ってやると言い出したのでございます。
蜘蛛の夢 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ひょっとしたら舞い込むのかもしれない幸運の期待で、自分の心を苛立いらだたせらすのは、何とまあわくわくして面白いんだろう!
富籤 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
朝なんぞ、煖炉だんろに一度組み立てた薪がなかなか燃えつかず、しまいに私はれったくなって、それを荒あらしく引っ掻きまわそうとする。
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
れてガチリと音させ、よう/\錠をはずし木戸をひらき、出てまいりますと、只なんにも言わず伊之吉に取りすがってふるえております。
すこしらしてやれ——意地悪も手つだって、すったもんだ、なかなかうんと言わないから、山城守は引っ込みがつかないで往生している。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
待侘びて独りでれていると、やがて目差すお糸さんが膳を下げに来たから、此処ぞと思って、きまりが悪かったが、思切って例の品を呈した。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
今日急に必要が出来て或る書類を探し始めたのだが、二十分経っても更に見当らないので、気短の彼はそろ/\れて来た。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
れつたい話である。が、事実は、この通りで、巡査は堪忍袋の緒を切らず、車夫どもは反抗の限度を守つてゐるのである。
北支物情 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
彼女はれた。でも次第次第に彼女は決闘場から後じさりに離れて行った。そっと忍び出る小娘のようにおどおどしながら。
決闘場 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
滯留とうりうする宿さへ分れば分別はまた何うにでも付く、八時二十五分を違約して、男をらしておいた方が、口説の種にもなつて好いやら知れぬ。
兵隊の宿 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
素戔嗚すさのおはそろそろれ出しながら、突慳貪つっけんどんに若者のこいしりぞけた。すると相手は狡猾こうかつそうに、じろりと彼の顔へ眼をやって
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
待っても待っても藤沢さんが来ないので、自分はれてしまった。なかなか寒いから、それでおやめにしたのだろうか。
黙ったまま、彼は妻のひざに手をのばした。妻は自分から抱かれてきた。そのほおがひどく冷たいのに、妻はれるように、すぐにあえぐ呼吸になった。
待っている女 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
その時私は先生が日頃私たちに云つてお出になつたことゝはまるで違つた態度で社会といふものをお説きになるのがれつたいやうに思はれました。
S先生に (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
とたちまち彼女はまともに相手の顔を見つめながら、勝ち誇ったような微笑をにっと浮かべる。アリョーシャはいっそうはにかんでれるのであった。
無類に模範的におとなしい彼は何を聞いても耳にはいらなかったし、何も言いたいことを持っていなかった。とうとう塚原はれて足を踏み鳴らした。
白い壁 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
泡を吐き、舌をみ、ぶつぶつ小じれにれていた、赤沼の三郎が、うっかりしたように、思わず、にやりとした。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「どこへも行きやしないさ。お前が怠儀そうにして歩いているから私は一緒に歩くのがれったくなったばかりさ」
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
髪の留め針が室の方々に落ち散った。なかなか覚えにくい言葉に出会うと、しつけの悪い子供のようにれったがった。
にんじんはれて、日の照りつける真下に、突っ立ったまま、じっとしている。彼は、親爺おやじのすることをみている。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
ついれつたくなると漢語調の歌をうたふのは、代紋かへもんと稱して提燈や傘などにつける紋章に梯子はしごしるしを付け、自烈亭居士と號して狂歌などを詠んだ祖父
文学的自叙伝 (旧字旧仮名) / 牧野信一(著)
卓子テーブルの上から、床の上に下ろされた壺が、まるで中に生きものが入っているかのように、さもれったそうに揺れている。何か、入っているのだろうか。
俘囚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それにしても、犬武士風情のくせしてゐて、親王樣のお首を打ち落すなど、よく/\惡業の強い人間だと思へて私も亦、り焦りと新しい憎しみにあふられた。
滑川畔にて (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
茶家の指導を受けよ……とれったそうに警鐘を乱打しておられる一幕芝居、果たして警鐘価値ありて、その希望通り現実的に効果が見られるものであろうか
現代茶人批判 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
三方四方面白くなくて面白くなくて、果てはれ出す疳癪かんしゃくに、当り散らさるる仲働きの婢は途方に暮れて、何とせんかと泣き顔の浮世のさまはただ不思議なり。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
ですから、時江さんが避ければ避けるほど、貴方の幻をしっくりとめ込むのに、れだしてきたのですが、折よくこの樹立の中で、私は人瘤ひとこぶを探し当てました。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
少し杉を伐ったので、冬は白いものが人をらす様にちら/\いて見えるのが、却て懊悩おうのうの種になった。あの杉の森がなかったら、と彼は幾度思うたかも知れぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
松岡は吸殻を噛んで棄てると、忌々いまいましそうにれついて、舌打ちをした。女の眼は謝まっているようなおどおどしさに取紛れて、そして急に物が言えそうもなかった。
三階の家 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
と止せばいいのにあざ旦那はしきりに見たがるから、余りらして虫でも出ると悪いと思って、乃公は写真を渡してやった。是も姉さん達の悪戯で、痣が沢山拵えてある。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
むかし連歌師の紹巴ぜうはが松島を見に仙台へ下つた事があつた。仙台のお城では目つかちの政宗公が、夏の日の長いのにれて、独りで肝癪を起してゐるところであつた。
石黒の細君はれたのかれたのか、いきなりわっと泣きだし、なにかいいながらむやみに顔をこするので、鼻のあたまや頬がひっぱたかれたようにあかどす色になった。
予言 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「どうしたというのです、まだ着物も着換えないで……。いつでも私はおまえのために待たされなければならないのですよ。ほんとにれったいことだね、リザヴェッタ」
り焦りしながら、矢つぎ早やに手紙を書いてはメッセンヂャアボーイに届けさせて居ります。
耳香水 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
新一はこんな際にも拘らず、何か人をらすような云い方をして、幽かに微笑をさえ浮べた。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
行列をつくつて切符を買つたのだが、母は財布がどうかしてうまく開かないのにれて、齒で引き裂いたが、さうすると金は地へ落ちるし、傍で見てゝおれは母の顏が怖かつた。
母と子 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
収 (れったく)どうしても糞もあるもんか。来られないと言ったら来られないんだ。
みごとな女 (新字新仮名) / 森本薫(著)
緋と水色の縮緬でこしらへた薬玉くすだまの簪ももつてゐた。お国さんはなにか新しいのを買つてもらふと自慢してみせておきながらよく見ようとすれば袂へかくしたりして人をらせる。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
両力士たちまち飛びかかってかまんとしても、猿ぐつわ互いにれ込んで揉み合うばかり。やっと捻じ倒して勝負はあったが一向栄えず、次も次もこんな工合で闘犬の味はさらになし。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
然るにそうしたせっかくの千載一遇の歓会なのに、とかく、圓朝はふさぎ込んでばかりいる、何話し掛けても生返事ばかり、男のこころが読めなくて思わず小糸がれて涙ぐみかけたとき
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
あたしをペテンに懸けるのあ、お前さんみたいな頓馬でなくつたつて、ちよつくら難かしいんだからね。あたしやよくよく我慢をしてゐるんだけれども、後になつてれなさんなよ……。
「しばらくの間あの方をらして、憂鬱を忘れさせてあげる方法が分つたわ。」
鈴木女教員は机の上に両腕をわせながら訊いた。しかし、どんなに突っ込んで訊いても、房枝はかすかに顫えながら彼女の顔を見詰めるだけだった。彼女の気持ちはますますれていった。
錯覚の拷問室 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
く二葉亭は八門遁甲とんこうというような何処どこから切込んでも切崩きりくずす事の出来ない論陣を張って、時々奇兵を放っては対手あいてらしたり悩ましたりする擒縦きんしょう殺活自在の思弁にすこぶる長じていた。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
大祭司はれてきて、会議の中央に立ち上がり、被告たるイエス様に向かい
すると、お清の奴、さんざんらした揚句に、一時間も奥に引込んで、自分一人でかそれとも誰かの智恵をかりてか、そこの所は分らないがね、一世一代の名句をひねり出したのさ。句に曰く
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)