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濡
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ぬら
ふりがな文庫
“
濡
(
ぬら
)” の例文
そそけ
髪
(
がみ
)
の頭をあげて、母は幾日か夢に描きつづけた一男の顔を、じっと眺めた。涙が
一滴
(
ひとしずく
)
、やつれた頬を
伝
(
つた
)
って、枕の
布
(
きれ
)
を
濡
(
ぬら
)
した。
秋空晴れて
(新字新仮名)
/
吉田甲子太郎
(著)
それでいてあがるものはというと、
牛乳
(
ミルク
)
を少しと、鶏卵ばかり。熱が酷うござんすから舌が乾くッて、とおし、水で
濡
(
ぬら
)
しているんですよ。
誓之巻
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
岩魚釣りの架けた丸木橋が要所要所にあったので足を
濡
(
ぬら
)
すにも及ばなかったが、
徒渉
(
としょう
)
するにしても膝より上を越す気遣いのない所許りだ。
奥秩父の山旅日記
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
ヘレン・バーンズはこゝにゐなかつたし、何も私を支へてくれるものはなかつた。たつた一人になつて、私は
落膽
(
がつかり
)
したのだ。涙は
床板
(
ゆかいた
)
を
濡
(
ぬら
)
した。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
幾度となく河床を変え、三日月なりの
水溜
(
みずたま
)
りを置き去りにした。それでも水は多すぎたし、
勾配
(
こうばい
)
は緩やかすぎた。岸からはみだして附近の土地を
濡
(
ぬら
)
した。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
▼ もっと見る
その縁結びは、いつも鼠啼きをして、ちょいと口で
濡
(
ぬら
)
してする習慣になっているらしく、私はその桜紙に口紅の烈しい匂いをよく嗅ぎ分けることができた。
性に眼覚める頃
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
今時狐などに化されて
堪
(
たま
)
るものかと力みながらも、一般の風習に従って慌てて眉毛を唾で
濡
(
ぬら
)
さぬ者はなかった。
ゼーロン
(新字新仮名)
/
牧野信一
(著)
その手紙は、ぞんざいに切った黄色い紙片に、字の上をこすったり
濡
(
ぬら
)
したりすると紫インクで書いたように色が浮きでて消えない化学鉛筆で書いてあった。
道標
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
水勢はげしく、
遂
(
つい
)
に地下室を破壊して、
汚水
(
おすい
)
が
花壜録音器
(
かびんろくおんき
)
を
濡
(
ぬら
)
したるため、機能停止したるものと思われる。
諜報中継局
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
それにヂリヂリと上から照り附けられる
苫
(
とま
)
の中も暑かつた。
盲目
(
めくら
)
の婆さんは、
襦袢
(
じゆばん
)
一つになつて、
濡
(
ぬら
)
して
絞
(
しぼ
)
つて貰つた手拭を、
皺
(
しわ
)
の深い胸の処に当てゝ居た。
朝
(新字旧仮名)
/
田山花袋
(著)
月は、もう可なり高く
上
(
のぼ
)
っていた。水のように澄んだ光は、山や水や森や樹木を、しっとり
濡
(
ぬら
)
していた。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
また
泣入
(
なきい
)
って倒れてしまう様に
愁傷
(
しゅうしょう
)
致すのも養生に害があると申しますが、
入湯
(
にゅうとう
)
致しましても
鳩尾
(
みぞおち
)
まで這入って肩は
濡
(
ぬら
)
してならぬ、物を喰ってから入湯してはならぬ
敵討札所の霊験
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
そのお二人がお
濡
(
ぬら
)
しになつた
靴足袋
(
くつたび
)
を乾かしてお返しする時にお
艶
(
つや
)
さんのなすつた丁寧な挨拶を書斎に居て聞きながら、私は
病
(
やまひ
)
の本家が自分になつたと思つて苦笑しました。
遺書
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
涼しい雨がやって来て
離座敷
(
はなれ
)
の縁先を
濡
(
ぬら
)
すような日もあった。雨はよく深い
廂
(
ひさし
)
の下まで降り込んだ。
母屋
(
おもや
)
へ通う廊下のところなぞは
上草履
(
うわぞうり
)
でも
穿
(
は
)
かなければ歩かれなかった。
新生
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
焙
(
あぶ
)
つて見たり、水に
濡
(
ぬら
)
して見たり、藥を塗つて見たり、いろ/\工夫をしたんだらう。
銭形平次捕物控:119 白紙の恐怖
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
日が
経
(
ふ
)
るに従って、信者になる
老若男女
(
ろうにゃくなんにょ
)
も、追々数を増して参りましたが、そのまた信者になりますには、何でも水で
頭
(
かしら
)
を
濡
(
ぬら
)
すと云う、
灌頂
(
かんちょう
)
めいた式があって、それを一度すまさない中は
邪宗門
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
その人々の中に長吉は偶然にも若い一人の芸者が、口には桃色のハンケチを
啣
(
くわ
)
えて、
一重羽織
(
ひとえばおり
)
の
袖口
(
そでぐち
)
を
濡
(
ぬら
)
すまいためか、
真白
(
まっしろ
)
な手先をば腕までも見せるように長くさし
伸
(
のば
)
しているのを認めた。
すみだ川
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
彼女の夫は
煎茶
(
せんちゃ
)
を売りにゆくに河を渡って、あやまって売ものを
濡
(
ぬら
)
してしまうと、山の中にはいって終日、茶を
乾
(
ほ
)
しながら書籍を読みふけっていて、やくにたたなくなった茶がらを背負って
明治美人伝
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
貸
(
かし
)
遣
(
つかは
)
したるが
着替
(
きかゆ
)
る時に
一寸
(
ちよつ
)
と見し
懷中
(
ふところ
)
の金は七八百兩と
白眼
(
にらん
)
だ大膳が
眼力
(
がんりき
)
はよも
違
(
たが
)
ふまじ
明朝
(
みやうてう
)
まで
休息
(
きうそく
)
させ明日は
道案内
(
みちあんない
)
に途中まで
連出
(
つれだ
)
して
別
(
わか
)
れ
際
(
ぎは
)
に只一刀
大
(
だい
)
まいの金は手を
濡
(
ぬら
)
さずと語る聲を
大岡政談
(旧字旧仮名)
/
作者不詳
(著)
さきにすゝむ大鮏、もし物にさはりて
横
(
よこ
)
に
倒
(
たふ
)
るゝ時は、あとにしたがひたる鮏もおなじくたふれてふたゝびおきず、人の
捕
(
とらふ
)
るを
俟
(
まつ
)
がごとし。はからずして手も
濡
(
ぬら
)
さず二三
頭
(
とう
)
のさけをうる事あり。
北越雪譜:03 北越雪譜初編
(新字旧仮名)
/
鈴木牧之
、
山東京山
(著)
濡
(
ぬら
)
しこし妹が
袖干
(
そでひ
)
の井の水の
涌出
(
わきいづ
)
るばかりうれしかりける
曙覧の歌
(新字新仮名)
/
正岡子規
(著)
鏡台の前に坐らせて、
嗽
(
うがい
)
茶碗で
濡
(
ぬら
)
した手を、男の顔へこう懸けながら、
背後
(
うしろ
)
へ廻った、とまあ思わっせえ。
註文帳
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
其
(
そ
)
の人々の中に
長吉
(
ちやうきち
)
は
偶然
(
ぐうぜん
)
にも若い一人の芸者が、口には桃色のハンケチを
啣
(
くは
)
へて、
一重羽織
(
ひとへばおり
)
の
袖口
(
そでぐち
)
を
濡
(
ぬら
)
すまい
為
(
た
)
めか、
真白
(
まつしろ
)
な
手先
(
てさき
)
をば腕までも見せるやうに長くさし
伸
(
のば
)
してゐるのを認めた。
すみだ川
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
街全体を
濡
(
ぬら
)
してゐる。
晶子詩篇全集
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
引窓から朝霧の立ち
籠
(
こ
)
む中に、しとしとと落ちて、一面に朽ちた板敷を
濡
(
ぬら
)
しているのは潮の
名残
(
なごり
)
。
葛飾砂子
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
そしてその文字は楷書であるが何となく
大田南畝
(
おおたなんぽ
)
の筆らしく思われたので、
傍
(
かたわら
)
の溜り水にハンケチを
濡
(
ぬら
)
し、石の面に選挙候補者の広告や何かの幾枚となく貼ってあるのを洗い落して見ると、案の
定
(
じょう
)
葛飾土産
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
「……
諏訪
(
すわ
)
——の海——
水底
(
みなそこ
)
、照らす、小玉石——手には取れども袖は
濡
(
ぬら
)
さじ……おーもーしーろーお
神楽
(
かぐら
)
らしいんでございますの。お、も、しーろし、かしらも、白し、富士の山、
麓
(
ふもと
)
の霞——峰の白雪。」
貝の穴に河童の居る事
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
溢
(
あふ
)
るるばかりの
情
(
なさけ
)
の
露
(
あらわ
)
れ、屠犬児は袖を
濡
(
ぬら
)
して
貧民倶楽部
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
濡
漢検準1級
部首:⽔
17画
“濡”を含む語句
全濡
濡手拭
濡々
濡羽
濡雑巾
濡葉
濡地
濡髮
濡萎
濡衣
濡縁
濡鼠
濡色
濡手
濡髪
濡事
濡椽
濡燕
濡藁
濡須
...