此前このまへ)” の例文
代助は立ちながら、画巻物ゑまきもの展開てんかいした様な、横長よこなが色彩しきさいを眺めてゐたが、どう云ふものか、此前このまへて見た時よりは、いたく見劣りがする。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
其以後そのいごたれけぬ。やうや此前このまへ素通すどほりするくらゐであつたが、四十ねんぐわつ十二にちに、は、織田おだ高木たかぎ松見まつみ表面採集へうめんさいしふ此邊このへんた。
なみ江丸えまるさへ無事ぶじであつたら、わたくしうまかぢをとつて、ぐに日本につぽんまでおくつてあげるのだが、此前このまへ大嵐おほあらしばんに、とうとういそ打上うちあげられて、めちや/\になつて仕舞しまつたから
本當ほんとう身體からだいとはねばいけませぬぞえ、此前このまへ原田はらだといふ勉強べんきようものがぱりまへとほけてもれても紙魚しみのやうで、あそびにもかなければ、寄席よせ一つかうでもなしに
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「おまへさんの所になに書物かきものはありませぬかえ——御先祖ごせんぞ塩原多助しほばらたすけ書類しよるゐなにのこつてゐませぬか」「なにりませぬ、少しはのこつてゐた物もりましたが、此前このまへの火事でけましたから、 ...
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
代助は此前このまへ平岡の訪問を受けてから、心待こゝろまちに、あとから三千代のるのをつてゐた。けれども、平岡ひらをか言葉ことばついに事実としてあらはれてなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
わかこゝろにはなさけなく𫁹たがのゆるびし岡持をかもち豆腐おかべつゆのしたゝるよりも不覺そゞろそでをやしぼりけん、兎角とかくこゝろのゆら/\とゑり袖口そでぐちのみらるゝをかてゝくわへて此前このまへとし春雨はるさめはれてののち一日
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あゝわかつた/\、畜生ちくしやううまくやつてるな、此前このまへあのへん沈沒ちんぼつしたトルコまる船幽靈ふないうれいめが、まだうかれないで難破船なんぱせん眞似まねなんかしてこのふね暗礁あんせうへでも僞引寄おびきよせやうとかゝつてるんだな、どつこい
三千代のかほ此前このまへつたときよりは寧ろ蒼白あをしろかつた。代助にあごまねかれて書斎の入口いりぐち近寄ちかよつた時、代助は三千代のいきはづましてゐることに気が付いた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
宗助そうすけそのしづかなうちにしのんでゐるわかをんなかげ想像さうざうしないわけかなかつた。同時どうじにそのわかをんな此前このまへおなやうに、けつして自分じぶんまへ氣遣きづかひはあるまいとしんじてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
けれども座敷ざしきがつて、おなところすわらせられて、垣根かきね沿ふたちひさなうめると、此前このまへときことあきらかにおもされた。其日そのひ座敷ざしきほかは、しんとしてしづかであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
与次郎のくしたかねは、たかで弐拾円、但しひとのものである。去年広田先生が此前このまへいへを借りる時分に、三ヶ月の敷金しききんに窮して、りない所を一時野々宮さんから用つてもらつた事がある。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)