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此前
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このまへ
代助は立ちながら、
画巻物を
展開した様な、
横長の
色彩を眺めてゐたが、どう云ふものか、
此前来て見た時よりは、
痛く見劣りがする。
其以後、
誰も
手を
附けぬ。
漸く
余が
此前を
素通りする
位であつたが、四十
年五
月十二
日に、
余は、
織田、
高木、
松見三
子と
表面採集に
此邊へ
來た。
浪の
江丸さへ
無事であつたら、
私が
巧く
舵をとつて、
直ぐに
日本まで
送つてあげるのだが、
此前の
大嵐の
晩に、とうとう
磯に
打上げられて、めちや/\になつて
仕舞つたから
本當に
身體を
厭はねばいけませぬぞえ、
此前に
居た
原田といふ
勉強ものが
矢つ
張お
前の
通り
明けても
暮れても
紙魚のやうで、
遊びにも
行かなければ、
寄席一つ
聞かうでもなしに
「お
前さんの所に
何か
書物はありませぬかえ——
御先祖塩原多助の
書類か
何か
残つてゐませぬか」「
何も
有りませぬ、少しは
残つてゐた物も
有りましたが、
此前の火事で
焼けましたから、 ...
代助は
此前平岡の訪問を受けてから、
心待に、
後から三千代の
来るのを
待つてゐた。けれども、
平岡の
言葉は
遂に事実として
現れて
来なかつた。
若き
心には
情なく
𫁹のゆるびし
岡持に
豆腐の
露のしたゝるよりも
不覺に
袖をやしぼりけん、
兎角に
心のゆら/\と
襟袖口のみ
見らるゝをかてゝ
加へて
此前の
年、
春雨はれての
後一日
あゝ
分つた/\、
畜生巧くやつてるな、
此前あの
邊で
沈沒したトルコ
丸の
船幽靈めが、まだ
浮び
切れないで
難破船の
眞似なんかして
此船を
暗礁へでも
僞引寄せやうとかゝつて
居るんだな、どつこい
三千代の
顔は
此前逢つた
時よりは寧ろ
蒼白かつた。代助に
眼と
顎で
招かれて書斎の
入口へ
近寄つた時、代助は三千代の
息を
喘ましてゐることに気が付いた。
宗助は
其靜かなうちに
忍んでゐる
若い
女の
影を
想像しない
譯に
行かなかつた。
同時にその
若い
女は
此前と
同じ
樣に、
決して
自分の
前に
出て
來る
氣遣はあるまいと
信じてゐた。
けれども
座敷へ
上がつて、
同じ
所へ
坐らせられて、
垣根に
沿ふた
小さな
梅の
木を
見ると、
此前來た
時の
事が
明らかに
思ひ
出された。
其日も
座敷の
外は、しんとして
靜であつた。
与次郎の
失くした
金は、
額で弐拾円、但し
人のものである。去年広田先生が
此前の
家を借りる時分に、三ヶ月の
敷金に窮して、
足りない所を一時野々宮さんから用
達つて
貰つた事がある。