棒杭ぼうぐい)” の例文
然し勤労者の中には「十月オクチャーブリ」以後ソヴェト同盟で生産は生産のために行われているという羨むべき事実を理解しない「棒杭ぼうぐい奴」もある。
きん黝朱うるみの羽根の色をしたとびの子が、ちょうどこのむかいのかど棒杭ぼうぐいとまっていたのをた七、八年前のことをおもい出したのである。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
岩蔵いわぞうといってナ、右脚がない男じゃ。いつも棒杭ぼうぐいをその股に結びつけて、杖もつかずにヒョックリヒョックリと歩いているがのう。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
まわりくるりとにまわって、前足をついて、棒杭ぼうぐいの上へ乗って、お天気を見るのであろう、仰向あおむいて空を見た。晴れるといまに行くよ。
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それからのちもときどき道で会ったが、老人は挨拶もしないし、私を見ても棒杭ぼうぐいか石ころでも見るような眼つきしかしなかった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その途中で大曲おおまがりで一泊して六郷を通り過ぎた時に、道の左傍に平和街道へ出る近道が出来たという事が棒杭ぼうぐいに書てあった。
くだもの (新字新仮名) / 正岡子規(著)
播州龍野口ばんしゅうたつのぐちからもう山道である、作州街道はその山ばかりを縫って入る、国境の棒杭ぼうぐいも、山脈の背なかに立っていた、杉坂を越え、中山峠を越え
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
海岸に棒杭ぼうぐいをうちこんで、じょうぶな長いつなで、正覚坊の足をしっかりしばって、その索を棒杭に結びつけておいた。
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
赤や白や紫の花だけがきれいで、少女はさびしそうで棒杭ぼうぐいのようです。誰かを待っているのでしょうか。いつまでもじっと立っているつもりでしょうか。
街の少年 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
それがつかまると、棒杭ぼうぐいにしばりつけて置いて、馬の後足でらせたり、裏庭で土佐犬にみ殺させたりする。それを、しかも皆の目の前でやってみせるのだ。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
こんどは蟹江が黙りこんで、月明りのなかに棒杭ぼうぐいのように突っ立ちました。しばらく二人の男の影は、つめたく乾いた畠土の上に、くろぐろと静止していました。
Sの背中 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
フランボーはざわめくくさむらの上から鋤の刃をしめっぽい粘土の中へザックリと刺込んだが、思わずその手を引いて棒杭ぼうぐいにでもよりかかるようにその柄によりかかった。
腹這はらばいにさせて浮かしてやったり、シッカリ棒杭ぼうぐいつかませて置いて、その脚を持って足掻あがき方を教えてやったり、わざと突然手をつッ放して苦い潮水を飲ましてやったり
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
親爺やお袋の墓は何年も棒杭ぼうぐいのままで、うっちゃり放しにして置きながら、頼まれもしない女の石塔を建ててやるなんて、いい年をしていつまで罰当りだか、愛想がつきます。
あぢさゐ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
夏になると爺さんは、素はだかになって、この眼鏡をかけ、裏の川にもぐるのである。そして、ダグマえびを、忽ちのうちに十匹も二十匹も、棒杭ぼうぐいの間や、いかだの蔭でつかまえる。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
この茫々ぼうぼうたる大地を、小賢こざかしくも垣をめぐらし棒杭ぼうぐいを立てて某々所有地などとかくし限るのはあたかもかの蒼天そうてん縄張なわばりして、この部分はわれの天、あの部分はかれの天と届け出るような者だ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
阪を上って放牧場の埒外らちそとを南へ下り、ニタトロマップの細流さいりゅうを渡り、斗満殖民地入口と筆太ふでぶとに書いた棒杭ぼうぐいを右に見て、上利別かみとしべつ原野げんやに来た。野中のなかおかに、ぽつり/\小屋が見える。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
皆はこの時只黒い棒杭ぼうぐいのような浮游物ふゆうぶつ瞥見べっけんした。やがてこんな時に迷信を持ちたがる久野が「今日は勝った」と言い出したが、それが何だか妙な不安を与えたことも争われなかった。
競漕 (新字新仮名) / 久米正雄(著)
獲物代りに道ばたの棒杭ぼうぐいを抜いた泰軒、栄三郎にささやいて手はずを決めた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
小舎の周囲には森からきりだした棒杭ぼうぐいをうちこんでさくとした。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
それからのちもときどき道で会ったが、老人は挨拶あいさつもしないし、私を見ても棒杭ぼうぐいか石ころでも見るような眼つきしかしなかった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そして変に足を引いていたが、それも道理、彼の右脚は膝頭のところから下がない。有るのは太腿に縛りつけた棒杭ぼうぐいの義足ばかりだった。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
船頭もまた臆病おくびょうすぎる。江戸児えどっこだろうに、おぼれた女とも、身投ともわきまえず、棒杭ぼうぐいのようにかたくなって、ただ、しい、しい、しずかにとばかり。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「そこらに、なんぞ不用な板ぎれがあろう。高札に建てるのじゃ、程よくひいて、六尺ほどの棒杭ぼうぐいに打ちつけてくれい」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、突嗟とっさのことで、船長は棒杭ぼうぐいより、もっとキョトンとした。然し、すぐ彼は自分の立場を取り戻した。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
見る見るうち満月が木立を離れるに従い河岸かわぎしの夜露をあびたかわら屋根や、水に湿れた棒杭ぼうぐい、満潮に流れ寄る石垣下の藻草もぐさのちぎれ、船の横腹、竹竿たけざおなぞが、逸早いちはやく月の光を受けてあおく輝き出した。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「伝教大師御誕生地と云う棒杭ぼうぐいが坂本に建っていましたよ」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その時じいさんがそのまんまで控綱ひかえづなをそこンとこ棒杭ぼうぐいに縛りッ放しにして猿をうっちゃってこうとしたので、供の女中が口を出して、どうするつもりだって聞いた。
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「どうもまずい、だめだ」彼はその日も辛辣しんらつだった、「その右足はまるで棒杭ぼうぐいじゃないか、まるで地面へ突立てた棒杭みたようだ、どうしてかかとをそう重くするのかね」
そのうえに、路がだんだん泥濘ぬかってきて、一歩力を入れてのぼると、二歩ズルズルと滑りおちるという風だった。それをそば棒杭ぼうぐいつかまってやっと身体を支え、ハアハア息を切るのだった。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ひさしの先には「馬繋うまつなぎ」と呼ぶ棒杭ぼうぐいが四、五本打ち込んであり、この山中のしかも深夜に、まだ客があるのか、土間のうちからパチパチと火のはぜる音にじって、粗野な人声が洩れてくる。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こん畜生、だまってるとえゝ気になりやがって、棒杭ぼうぐいじゃないんだど。
工場細胞 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
白痴たわけが。今にはじめぬ事じゃが、まずこれが衣類ともせい……どこの棒杭ぼうぐいがこれを着るよ。余りの事ゆえ尋ねるが、おのれとても、氏子の一人じゃ、こう訊くのも、氏神様の、」
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あんなに、棒杭ぼうぐいを持って行って、どうするんだろう?」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
棒杭ぼうぐいのように欄干がついて、——あれを横切って、山の方から浜田へ流れて出る小川を見ると、これはまた案外で、瓦色かわらいろに濁ったのが、どうどうとただ一幅ひとはばだけれどもうねりを立てて
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ながれ案山子かかしは、……ざぶりと、手をめた。が、少しは気取りでもする事か、棒杭ぼうぐいひっかゝつた菜葉なっぱの如く、たくしあげたすその上へ、据腰すえごしざるを構へて、頬被ほおかぶりのおもてを向けた。目鼻立めはなだちは美しい。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
細引ほそびきの麻縄で棒杭ぼうぐいゆわえつけてあるので、あの、湿地茸しめじたけが、腰弁当の握飯を半分ったり、坊ちゃんだの、乳母ばあやだのが、たもとの菓子を分けて与ったり、あかい着物を着ている、みいちゃんの紅雀べにすずめだの
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)