昔気質むかしかたぎ)” の例文
旧字:昔氣質
六の宮の姫君の父は、古い宮腹みやばらの生れだつた。が、時勢にも遅れ勝ちな、昔気質むかしかたぎの人だつたから、官も兵部大輔ひやうぶのたいふより昇らなかつた。
六の宮の姫君 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
耄碌もうろくしたと自分ではいいながら、若い時に亭主ていしゅに死に別れて立派に後家ごけを通して後ろ指一本さされなかった昔気質むかしかたぎのしっかり者だけに
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
こうあがはなのところにひざを突いている老婆の眼が言った。意気な細君らしく成った豊世の風俗は、昔気質むかしかたぎの老婆には気に入らなかった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そうではなくて、私の場合は、昔気質むかしかたぎな、封建的な女と見えたのは環境や父母の躾のせいで、本来は恐ろしい心の持ち主だったのであろうか。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それは老伯の昔気質むかしかたぎから出た自ら閉門謹慎の意であったか、それとも世人の乱暴をおそれてであったかは知れなかった。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
が、昔気質むかしかたぎの父母は、何かと気苦労の多い宮仕えには反対だった。女は勿論、父母の意に背いてまで、そんな宮仕えなどに出たいとも思わなかった。
姨捨 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
昔気質むかしかたぎ一克いつこくな性分ではあるし、むろん一人娘と知吉との間を許す気はなかつた。ところが、ふしぎなことが起つた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
父は昔気質むかしかたぎのイギリスの田舎紳士の標本としては相当なものですが、このごろでは、純粋にそうしている人はほとんど見うけられなくなってしまいました。
そして、暇さえあれば彼を前に坐らせて、この柔弱者奴にゅうじゃくものめがという様な、昔気質むかしかたぎな調子で意見を加えるのだった。
夢遊病者の死 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
親仁おやじ昔気質むかしかたぎで、腕一本は惜しくないが、家の中の取締りがつかないから、縄付を出しても仕方がない、吹矢を飛ばした女を突き出せ——とこう申します。
祖母は信仰も何もないのですが、昔気質むかしかたぎですから、初午はつうまには御供物おくもつをなさいました。先住は質屋の隠居だったといいますから、その頃にはよく祭ったのでしょう。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
是れが松島さんの奥様おくさんになれつて云ふのなら野暮な軍人の、おまけに昔気質むかしかたぎしうとまであるツてえから、少こし考へものなんだが、おめえ、妾なら気楽なもんだあネ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
いえ若いのにいまだ男の味知らず、是なりに隠居をさせるのも惜いもので、文明開化の世の中だのに昔気質むかしかたぎに後家を立て通すの、尼に成るのと馬鹿なことを申すから
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
お島は昔気質むかしかたぎ律義りちぎな父親に手をひかれて、或日の晩方、自分に深い憎しみを持っている母親のあらい怒と惨酷ざんこく折檻せっかんからのがれるために、野原をそっち此方こっち彷徨うろついていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
昔気質むかしかたぎの耳に立ち優れてよく響き渡り、かかる人に親しく語らうを身の面目とすれば、われたるあとよりすぐに訪い返して、ひたすらになおむつまじからんことを願えり。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
さても星煞まわりあわせというものは是非のないもの、トサ昔気質むかしかたぎの人ならば言うところでも有ろうか。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「おまえと息子には屹度きっと巴里パリを見せてやるぞ」と言った。恩怨おんえんの事柄は必ず報ゆる町奴まちやっこ風の昔気質むかしかたぎの逸作が、こう思い立った以上、いつかそれが執り行われることは明かである。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
わざわざ荷になるほど大きい鑵入かんいりの菓子を、御土産おみやげだよとことわって、かばんの中へ入れてくれたのは、昔気質むかしかたぎ律儀りちぎからではあるが、その奥にもう一つ実際的の用件をひかえているからであった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
婦人は、座のかたわらに人気のまるでない時、ひとりでは按摩あんまを取らないがいと、昔気質むかしかたぎの誰でもそう云う。かみはそうまでもない。あのしもの事を言うのである。ねやでは別段に注意を要するだろう。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ところがその銀行家の両親が昔気質むかしかたぎの頑固者揃いで「身分違い」という理由の下に、彼女を正妻に迎える事を許しませんでしたので、彼女はそればかりを無念がりました結果、或る宴会の席上で
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
儀十郎はまだ達者たっしゃでいるし、あの昔気質むかしかたぎな年寄役らしい人は地方の事情にも明るいので、先月二十九日の出来事を確かめたいと思う半蔵には
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
半沢良平は大怪我おおけがをしましたが、幸い生命には別条なく「不慮の災難」で公向きは済みましたが、昔気質むかしかたぎの小田切三也の気持はうも其儘そのままでは済みません。
百唇の譜 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
昔気質むかしかたぎの母は、この頃何かと気ぶっせいなよめを自分達から一時別居させて以前のように息子と二人きりになれる気楽さを圭介の前では顔色にまで現わしながら
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
二十代や三十代の、だ血の気の生々なま/\した頃は、人に隠れて何程どれほど泣いたか知れないよ、お前の祖父おぢいさん昔気質むかしかたぎので、仮令たとひ祝言しうげんさかづきはしなくとも、一旦いつたん約束した上は
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
するとよめあね番頭ばんとうとでいぢめたので、よめつらくてられないから、実家さとかへると、親父おやぢ昔気質むかしかたぎ武士ぶしだから、なか/\かない、られてるやうな者は手打てうちにしてしまふ
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼女は本家の姉ほどには昔気質むかしかたぎでなく、旧式の思想にとらわれていないつもりであったが、それでも自分の姉妹達の中に、こう云う口のきき方をする娘がいることは不愉快であった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
お豊は、昔気質むかしかたぎに、クドクドと意見を続ける。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
『あゝ——和尚さんだつても眼が覚めましたらうよ、今度といふ今度こそは。』と昔気質むかしかたぎな奥様は独語のやうに言つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
京には、昔気質むかしかたぎの母が、三条の宮の西にある、父の古い屋形に、五年の間、ひとりで留守をしていた。
姨捨 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
と這入って来ましたのはお山、年齢とし五十五でございますが、昔気質むかしかたぎの武家に生れ、御新造と云われた身の上だけに何処か様子が違います。娘小峰年齢二十五歳で、最う分別も附いて居ります。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
だけど私は、女というものはどんな場合にも受け身であるべきもの、男に対して自分の方から能動的に働きかけてはならないもの、という風に、昔気質むかしかたぎの親たちからしつけられて来たのである。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
昔気質むかしかたぎの三右衛門には出来ず、番頭も甥も、出入りの者も気が付かないのか、気が付いても、わざと知らん顔をするのか、口をつぐんで、そのことには触れてくれませんから、病身の三右衛門には
昔気質むかしかたぎの金兵衛は亡父の形見かたみだと言って、その日の宗匠崇佐坊すさぼう茶縞ちゃじまの綿入れ羽織なぞを贈るために、わざわざ自分で落合まで出かけて行く人である。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
昔気質むかしかたぎの人で、世の中からは忘れられてしまったように、親譲りの、松の木のおおい、大きな屋形の、住み古した西にしたいに、老妻と一しょに、一人の娘を鍾愛いつくしみながら
曠野 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
昔気質むかしかたぎで、容赦ようしゃがありません。
この薄暗い街道の空気の中で、どんなにか昔気質むかしかたぎの父も心をいためているだろう。そのことが半蔵をハラハラさせた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
昔気質むかしかたぎの父はしきりに恐縮がって、「やはりお出しなさい」と私に無理やりにそれを書かせた。
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
その時におげんは旦那の頼みがたさをつくづく思い知って、失望のあまり家を出ようとしたが、それを果たさなかった。正直で昔気質むかしかたぎな大番頭等へもわびかなう時が来た。
ある女の生涯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
昔気質むかしかたぎの人らしく、それに殿よりも少し年上だったりしたので、それまで大ぶお躊躇ためらいなすったらしかったが、やはり何かと行末が心細くお思いなされていた折でもあろうし
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
死顔は冷かにあをざめて、血の色も無く変りはてた。叔父は例の昔気質むかしかたぎから、他界あのよの旅の便りにもと、編笠、草鞋わらぢ、竹の輪なぞを取添へ、別に魔除まよけと言つて、刃物を棺の蓋の上に載せた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「そこは安兵衛さんです。」と儀十郎は昔気質むかしかたぎな年寄役らしい調子で
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
平和な姫子沢の家の光景ありさまと、世の変遷うつりかはりも知らずに居る叔父夫婦の昔気質むかしかたぎとは、丑松の心に懐旧の情を催さした。裏庭で鳴き交す鶏の声は、午後の乾燥はしやいだ空気に響き渡つて、一層長閑のどかな思を与へる。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
この昔気質むかしかたぎの老爺が学校の体操教師の父親おとっさんだ。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)