ほう)” の例文
湯呑みは、長い間使わずにほうってある。すると、女中のオノリイヌが、その中へ、ランプの金具をみがく赤いみがき砂をれてしまった。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
それで僕が六号活字を受持つてゐる時には、性質たちくないのは、大抵屑籠くづかごほうり込んだ。此記事も全くそれだね。反対運動の結果だ
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ええ、芝公園増上ぞうじょう寺の境内けいだいに若い女の絞殺こうさつ体が二つ、ほうり捨てられていたというんです。ちょっと新聞の記事を読んでみましょうか——
自叙伝は、ほんの少し書き出されただけでほうってあった。あとを続けようとして机に向っても心はいつもあらぬ事にのみそれて行った。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
ほうり出されたくなかったら、いまのまま温和おとなしくしていろ」と彼は云った、「人がましいことを考えると悲しいおもいをするぞ」
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
正勝はそう言って、巡査の乗っている馬のくつわを捉えた。巡査は手綱をほうって、馬から下りた。そして、長靴のままで露台へ上がっていった。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
死んだ人間はまだ沖にほうりっぱなしになっているのに何が善後策だ。その弔慰の方法も講じないまま自分達の尻ぬぐいに取りかかるザマは何だ。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼の人が来れば仕事の有る時は、一人ほうって置いて仕事をし、暇な時は寄っかかりっこをしながら他愛たあいもない事を云って一日位座りんで居る。
秋風 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
すると、三之助は、いきなり手綱をほうり出した。何をするのかと見ていると、露草の中に坐って、馬の顔の下から、武蔵へ両手をついていった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どうしてあんな奴をこの辺にほうっておくんでしょう。あたしの前歯二本を抜けなんて、ほんとに恐ろしいわ。髪の毛ならまたえもしようが、歯はね。
「この次から、あまり長い間ほうつておくことは無しにしようじやないか?」と彼は、真顔で卑怯な相談を持ちかけた。
毒気 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
凝如じつとしていても爲方しかたが無いので、バレツトも平筆ふでも、臺の上にほうツたらかしたまゝ、ふいとツてへやの内をあるき廻ツて見る。それでも氣は變らない。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
と、ランチにまたロップをほうる。ランチはまた波飛沫なみしぶきを上げ上げ、半弧をえがいて、ぽつぽつぽつと引き返してゆく。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
もし下稽古があまり進んでいなかったら、そして紛擾ふんじょうの起こる恐れで制せられていなかったら、クリストフはすべてをほうり出したかもしれなかった。
私は月の光でその文字面をちらりとながめ、それからその時計を遠く海のなかへほうり投げてわっと泣きだしました。
「パラソルを取ってちょうだい」と、ジナイーダは言って、——「まあわたし、あんな所へほうり出してしまったわ。だめ、そんなにわたしの顔を見ちゃ。 ...
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
そういう時に、自力でちあがる腹を決めるのが、はやくから世間へほうり出されて、苦しんで来た彼女の強味で、諦めもよかったが、転身にも敏捷びんしょうであった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そんなことをる奴もあるが、俺の方ではチャンと見張りしていて、そんな奴あほうり出してしまうんだ。それにそう無暗むやみに連れて来るって訳でもないんだ。
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
その行燈の下に幸内は、水を浴びせられたままでほうって置かれてありました。主膳はその傍へ寄って来て
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「いやね、障子にほうったりしちゃ。壁にでも……屋根にでも……投るものよ。いいからいらっしゃい。」
油をけ、駒下駄こまげたを片手にげ、表の戸を半分明け、身体をなかば表へ出して置いて、手らんぷを死骸の上へほうり付けますと、見る/\内にぽっ/\と燃上もえあが
、五日も六日も、そのまゝほうたらかしとくなんて、平気でそんなことがぬかせる奴は人間じゃねえぞ!
土鼠と落盤 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
ぼくは動く気がしないので、ながいあいだほうっておいたが、どうしてもノックをやめないんだ。
どうもあんまり長い間ほうつてあるので、心に懸つて仕様がないもんですからね。私考へたんですよ、水橋にあればこちらでちよい/\おまゐりもして下さるんだしするから、この際それを
念仏の家 (新字旧仮名) / 小寺菊子(著)
いやさ、ころばぬさきつえだよ。ほんにお願いだ、気を着けておくれ。若い人と違って年老としよりのことだ、ほうり出されたらそれまでだよ。もういいかげんにして、徐々やわやわとやってもらおうじゃないか。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
金太郎はきうに、一切のことをたれかに話して、自分とそのろう人とが同じ危けん状態にあつたことを現在世かい中で自分だけが知つてゐるといふこの祕密ひみつから、いちはやく解ほうされたいせう動をうけた。
坂道 (旧字旧仮名) / 新美南吉(著)
外国人——仏蘭西フランス人以外——のほうつき廻っていそうな通りを選んで、精々こっちもほうつきまわっているんだが、もっとも、そう言ったからって、ただ漠然とほうつき廻っているんじゃない。
其処そこでは人が死ぬと、蓆で包んで、後世山ごしょうやまと証する籔の中にほうったが、その家族や親戚朋友たちは、しかばねが腐爛して臭気が出るまでは、毎日のように後世山に訪れて、死人の顔を覘いて帰るのであつた。
本朝変態葬礼史 (新字新仮名) / 中山太郎(著)
さうぢや わしはころすことがきらひぢやからほうつておいたよ
「私は二日以上あなたをほうってはおきませんよ。」
娘 あの人、一人、ほうつといていいの。
まだ暮れたばかりの夏のよいのことだった。不意に起った銃声に、近所の人々は、夕食のはしほうりだして、井戸端のところへ集ってきた。
空襲警報 (新字新仮名) / 海野十三(著)
これが石油を襤褸ぼろまして、火を着けて、下からほうげたところですと、市川君はわざわざくずれた土饅頭どまんじゅうの上まで降りて来た。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「私は自分のしたことを知っています、こうなることも覚悟していました、お願いですから私のことをほうっておいて下さい」
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「いい心掛けにはなりてえものだ。お人よしの三次をほうって、いろは茶屋のおしなとたくさんふざけておいでなさい」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ザロメがいくら呼びかけても無駄むだだった。彼は一口も飲み下すことができなかった。いつでもかならずたたむ胸布ナフキンを、そのまま食事の上にほうり出した。
お金ばかりほしがっているんです。どうぞ私を牢に入れないで下さい。小さい児なのに、この冬の最中に勝手にしろといって往来にほうり出されるんです。
「ナニおじさん、大丈夫だよ、この先生はいつでも酔払よっぱらってるんだからほうっとけば一人で帰るよ」
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
鍋や何かの物を掴み出して食ったり、種々いろ/\器物ものほうったりして何うも……それに旦那のないのちに此のお内儀かみさんが正直な気性だから、身代限を出す時にも大概の横著おうちゃくの奴なら
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ほうって置くより外に仕方がなかった。暫くすると、突然泣き止んだ。余りにそれが突然だったので、皆は呆気にとられてしまった。依子はだしぬけに立ち上って、向うへ逃げていった。
子を奪う (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
あのときばかりは船長以下、かじもコンパスもほうりっぱなしにして、みんながいっしょにすがりついて、船橋ブリッジをごろごろころがった
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
過去の不可思議を解くために、自分の思い通りのものを未来に要求して、今の自由をほうり出そうとするお前は、馬鹿かな利巧りこうかな
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
風邪をひくじゃないか、寝床へ入れてやればいいさ、いつもは、ほうっておいても独りではいるんだ、と幸坊は云った。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
花君かくん。こうお世話をかけては恐縮です。もうご家族なみに、ほうっておいていただいたほうがありがたいですよ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そういう執拗しつようなやり方は、うわさの種となった。農家の人々はそれを笑っていた。クリストフが何者であるか知られてしまった。人々は笑いながらも彼をほうっておいた。
三度目にはおそれて近づく人もなくほうってあったのを、剛情な男があって、なにを、それは時のめぐり合せだ、物の祟りなんぞは、箱根から東にはねえ、なんぞと言って、無銭ただ同様で引受けて
ほうっといて、出かけてばかりいるのを許してくれ。
二つの途 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
元来が放胆ほうたんをもって知られている佐々砲弾だったけれど、涯しない天涯にほうりだされては、心細くならないではいられなかった。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「そりゃわかり切った話だね。今にもむずかしいという大病人をほうちらかしておいて、誰が勝手に東京へなんか行けるものかね」
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
十五にしかならない、田舎の小娘に手を出し、子供を二人も産ませておいてほうり出す。しかも子供の一人を「自分の子ではない」と難くせをつけた。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)