いましめ)” の例文
猟奇のよ、卿等けいらは余りに猟奇者であり過ぎてはならない。この物語こそよきいましめである。猟奇のはて如何いかばかり恐ろしきものであるか。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
一月あまりして袞繍橋こんしゅうきょうに住んでいる友人の許へ往って酒を飲み、酔って帰ったが魏法師のいましめを忘れて湖心寺のほうのみちから帰って来た。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
老いては普請庭つくり。これさへ慎めば金が出来るとやら申す由なれど小生道楽の階程かいていも古人のいましめに適合致候は誠に笑止しょうしに御座候。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
また警衛場においての私闘は最もいましめねばならぬというところから、藩でも特に制裁を厳にし、遂はいずれも割腹させられる事になった。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
最前から聞いて居れば手前は余程よっぽど付け上ってるな、此の町人はいわれなく切るのではない、余り無礼だにって向後きょうこういましめの為切捨きりすてるのだ
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
真の定鼎はまだ此方このほうに蔵してあるので、それは太常公のいましめしたがって軽〻かろがろしく人に示さぬことになっているから御視おみせ申さなかったのである。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「治にいて乱を忘れず」という昔からのいましめはすなわちこのことを指したもので、種族生存の上から見ればすべての諺の中で第一に位するのである。
戦争と平和 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
寿一や、前車のくつがえるは後車のいましめだ。お前にも将来必ず大問題が小問題の恰好をして来る。その時気を落ちつけて能く見分けをつけることが肝心だよ。
小問題大問題 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「きつねがまして、おまえがたをれてゆこうとするのだ。」と、大人おとなたちは、みんなをいましめるように、いいました。
竹馬の太郎 (新字新仮名) / 小川未明(著)
これより後、なんの障る事なく、十五、六日には食物のいましめもいささか緩り、疵口も大方癒着し、今はただ日を数えて全く癒えなん事を待つばかりになんありける。
玉取物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
苦しみもなく大学をえたような次第で、要するに何の益するところもなく、私は学生時代を回顧して、むしろ読者諸君のためにいましめとならんことを望むものである。
私の経過した学生時代 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
『たとへいかなる目を見ようと、いかなる人に邂逅めぐりあはうと決して其とは自白うちあけるな、一旦の憤怒いかり悲哀かなしみこのいましめを忘れたら、其時こそ社会よのなかから捨てられたものと思へ。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
その研手とぎてわしをつかまえた差配さんも気に入ったり、研いだ作平もまず可いわ。立派な身分になんなすった甥御もし。いましめのためとうて、遣物にさっしゃる趣向も受けた。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
にはかにも飢ゑてものほしげなるに、彼此をちこち六六𩛰あさり得ずして狂ひゆくほどに、たちまち文四が釣を垂るるにあふ。其のはなはだかんばし。心又六七がみいましめを守りて思ふ。我はほとけの御弟子なり。
又自分から必ずしも仏のおいましめを守ろうと勉めている解ではないのだがこんな山の中では仏様の戒律を破る様な誘惑は全く無いのであるから自然と戒律を守ることになってしまうのである。
現代語訳 方丈記 (新字新仮名) / 鴨長明(著)
飲酒のいましめもさる事ながら、人の世話をするなら、素知らぬ振りしてあっさりやったらよかろう。救われた人を眼の前に置いてしつっこく、酒など飲んでおのれの慈善をたのしむなどは浅間しい。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ただ呉々くれぐれも妻は己の職業に慢心まんしんして大切にしてもらう夫にれ、かりにも威張いばったり増長ぞうちょうせぬこと。月並のいましめのようなれど、余程よほどの心がけなくてはいわゆる女性のあさはかより、このへいおちいやすかるべし。
良人教育十四種 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
諸人委しく其事を語らせんとすれども、辞を左右にたくして言はず。委曲いきょくを告ぐれば身の上にもかかわるべしとのいましめを聞きしとなり。四五年を経て或人に従ひ江戸に登りしに、又道中にて行方ゆくえ無くなれり。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
三つのいましめを破らん程の人は、5860
日常身辺の事一として話の種ならざるはなし。然れども長屋のかか金棒かなぼう引くは聞くにへず識者が茶話さわにはおのづと聞いて身のいましめとなるもの多し。
小説作法 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
従ってこれに関して読者諸君を益するような斬新ざんしんな勉強法もなければ、面白い材料も持たぬが、自身の教訓の為め、つまり這麼こんな不勉強者は、ういう結果になるといういましめ
私の経過した学生時代 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いましめは顕われ、しつけは見えた。いまその一弾指のもとに、子供等は、ひっそりとして、エンジンの音立処たちどころに高く響くあるのみ。そのしずかさは小県ただ一人の時よりも寂然ひっそりとした。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さあ、父の与へたいましめは身に染々しみ/″\こたへて来る。『隠せ』——実にそれは生死いきしにの問題だ。あの仏弟子が墨染の衣に守りやつれる多くの戒も、の一戒に比べては、いつそ何でもない。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「あれは聖書のいましめから来ていると言ったんだ」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
わが身の手にて取出す力なくなり候事なれば、誰を怨むにも及ばざる事に候間、月日をるに従ひ、これぞまさしく因果いんが応報のいましめなるべくやと、自然に観念致すように相なり申候。
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
出家しゆつけのいふことでも、おしへだの、いましめだの、説法せつぱふとばかりはかぎらぬ、わかいの、かつしやい、といつかたした。あとくと宗門しうもん名誉めいよ説教師せつけうしで、六明寺りくみんじ宗朝しうてうといふ大和尚だいおしやうであつたさうな。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
出家しゅっけのいうことでも、おしえだの、いましめだの、説法とばかりは限らぬ、若いの、聞かっしゃい、と言って語り出した。後で聞くと宗門名誉しゅうもんめいよの説教師で、六明寺りくみんじ宗朝しゅうちょうという大和尚だいおしょうであったそうな。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
精霊棚の瓢箪ひょうたんが、ひとりでにぽたりと落ちても、御先祖のいましめとは思わねえで、酒もめねえおらだけんど、それにゃつるが枯れたちゅう道理がある。風もねえに芋の葉が宙を歩行あるくわけはねえ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)