慷慨こうがい)” の例文
世の中の事は概して江戸の敵を長崎で討つものなり。在野党の代議士今日議院に慷慨こうがい激烈の演説をなして、盛んに政府を攻撃したもう。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
そしてこれまでに接した志士や慷慨こうがい家たちの言説や、竹隈で東湖から聞き得たことのなかから、彼は彼としての方向を掴んだのである。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
かの幕末の志士等が作った非芸術的な慷慨こうがい詩でも、やはり漢詩としての音律美をもち、それによって吾人をエピカルに陶酔させる。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
彼ら党人の論調の粗笨そほん乱暴であることは往年の憲政擁護運動時代における慷慨こうがい殺伐の口吻くちぶりと比べて少しも進歩していないのに驚かれます。
選挙に対する婦人の希望 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
実に反動と申すものは恐ろしいもので、私はこの結婚後の二三年間において、いつとはなく、非常に女子の為に慷慨こうがいする身となりました。
こわれ指環 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
同じ逆境にしても、慷慨こうがいの士には激しい痛烈な苦しみが、軟弱のには緩慢なじめじめした醜い苦しみが、というふうにである。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
漢文で、「慷慨こうがい憂憤の士をって狂人と為す、悲しからずや」としてある。墨のあと淋漓りんりとして、死際しにぎわに震えた手で書いたとは見えない。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
と、歯をくいしばり、腕をし、また、慷慨こうがいの気を新たにして、式終るや、万歳の声しばし止まず、ために、天雲もひらけるばかりであった。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これきたりてもって建文の位をゆずれるに涙をおとし、燕棣えんていの国を奪えるに歯をくいしばり、慷慨こうがい悲憤して以て回天の業をさんとするの女英雄じょえいゆうとなす。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
今の政治家がみんな人気商売の役者と違ったところはない——と京都にいる時、ある志士の慷慨こうがいを兵馬は聞いたことがある。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なぜなら君はいつだったか、彼が我々国民の動乱を蒙らされたと云うことについて、ひどく慷慨こうがいしていたことのあったのを、僕は覚えてるから。
入院患者 (新字新仮名) / アーサー・コナン・ドイル(著)
太田錦城と云う漢学者は慷慨こうがいの士だが、信忠がこんなときに逃げないのは無智の耻を耻じているので犬死だと云っている。
山崎合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
あるいはわが邦の将来を思い、これを思いこれを想うて禁ずるあたわず、万籟寂々ばんらいせきせき天地眠るの深宵しんしょうにひとり慷慨こうがいの熱涙をふるうの愛国者もあらん。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
松崎は世間に対すると共にまた自分の生涯に対しても同じようになかば慷慨こうがいし半は冷嘲れいちょうしたいような沈痛な心持になる。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
満腔まんこう慷慨こうがい黙々に付するに忍びず、ただちにその血性をべ発して一篇の著書とはなりしなり。しかしてこの書初めて世に公布する客年十一月にあり。
将来の日本:01 三版序 (新字新仮名) / 新島襄(著)
種子たねだけをいて逝こう、「われは恨みを抱いて、慷慨こうがいを抱いて地下に下らんとすれども、汝らわれの後に来る人々よ、折あらばわが思想を実行せよ」
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
余裕のあるせまらない慷慨こうがい家です。あんな人間をかくともっと逼った窮屈なものが出来る。また碌さんのようなものをかくともっと軽薄な才子が出来る。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
悲憤慷慨こうがい気焔きえんを吐く者が多いから、わずと知れた加藤等もその連中れんじゅうで、慶喜さんにお逢いを願う者に違いない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
かのそう朝が絶対平和主義を持して北方の強たるきん及びげんに苦しめられ、胡澹庵こたんあんをして慷慨こうがいのあまり、秦檜しんかい王倫おうりん斬るべしと絶叫せしめた上奏文を見ても
世界平和の趨勢 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
これに答えるプルウストの慷慨こうがいを帯びた声の調子には、創作に生きる者の真情がいかに秘められているだろうか。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
中原ちゅうげん、また鹿をうて、筆を投げすてて戎軒じゅうけんを事とす。縦横のはかりごとらざれども、慷慨こうがいの志はお存せり。つえいて天子にえっし、馬を駆って関門をず。
(新字新仮名) / 富田常雄(著)
ひげ男』といふ作があるが、あれにも、ちよつとかうしたところがある。長篠の戦前に、夕日のてり映えた下で、甲州の老将達が、慷慨こうがい悲憤するところがある。
或新年の小説評 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
蔭ではひとりびとりの生徒をつかまえて悲憤慷慨こうがいしたり、ひそひそとストライキの時期や方法などを話したりしているそうですが、そういうことをききますと
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
口角泡をとばして列強航空力の優劣を討議し、つねに正確に悲憤慷慨こうがいにおわる。独逸ドイツへ行かれるのだそうだが、いろいろ専門の機微に入った使命があるらしい。
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
感情の激した悲憤慷慨こうがいや、たいていの場合は自分の気に入ったことを言ってもらった時に「おもしろかった」とか、「善かった」とか言うのではありませんか。
自分たちの左右には、昔、島崎藤村しまざきとうそんが「もっとかしらをあげて歩け」と慷慨こうがいした、下級官吏らしい人々が、まだただよっている黄昏たそがれの光の中に、蹌踉そうろうたる歩みを運んで行く。
毛利先生 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
平和な長閑のどかな様を歌ふにはなだらかなる長き調を用うべく、悲哀とか慷慨こうがいとかにて情の迫りたる時、または天然にても人事にても、景象けいしょうの活動甚しく変化の急なる時
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
へんに慷慨こうがいな歌だネエ。どんな人がかいたのかしらんが。歌はイイネ。実に高尚こうしょうないいものだ。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
足利市在の天狗山てんぐやまで、自ら生命を断ってしまったほど、バック・ボーンの太くとおった、いわゆる慷慨こうがいの士であったけれど、詩人で、そして英文学者で、入社したばかりの私に
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
もちろんカ氏も、こんな悲憤慷慨こうがいの話を最初から始めるつもりでもなかったのであろう。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
しかして古より今に及ぶまで差異なきこと能はず。これ正に我儕の慷慨こうがい悲憤する所以にしてこの新紙の設くる所以なり。けだし自由の物たる、これを草木にたとふればなほ膏液こうえきの如し。
あるいはお医者さんから政治家が出たり、左官から慷慨こうがい悲憤の志士が出たりした。
教育の目的 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
酒を呑みたいなら、友人、先輩と牛鍋ぎゅうなべつつきながら悲憤慷慨こうがいせよ。それも一週間に一度以上多くやっては、いけない。びしさに堪えよ。三日堪えて、侘びしかったら、そいつは病気だ。
困惑の弁 (新字新仮名) / 太宰治(著)
宴の発企ほっき者は岡山屈指の富豪野崎氏その他知名の諸氏にしてわれわれおよび父母親戚を招待せられ、席上諸氏の演説あり、また有名の楽師を招きて、「自由の歌」と題せる慷慨こうがい悲壮の新体詩をば
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
けれどもマリユスは、再び思想を少し建て直して、自分を敗北した者とは思わなかった。彼のうちにはなお慷慨こうがいのなごりがさめず、まさにアンジョーラに向かって三段論法の陣を展開せんとした。
慷慨こうがいえざるもののごとく、『君を力にてわが望みは必ず遂げん。』熱き涙一滴、青年がほおをつたいしも乙女おとめは知らず。ハンケチを口にくわえて歯をくいしばりぬ。しばし二人は言葉なく立てり。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
言語道断な振舞をするから、慷慨こうがいの余りに山へ入ったのじゃ、わしは応永初年の生れであるから、山へ入ったときは四十あまりであった、初めは富士山へ登って、富士山の神仙について、数百年の間
神仙河野久 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「また慷慨こうがいか、こんな山の中へ来て慷慨したって始まらないさ。それより早く阿蘇あそへ登って噴火口から、赤い岩が飛び出すところでも見るさ。——しかし飛び込んじゃ困るぜ。——何だか少し心配だな」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あれは悲憤慷慨こうがい派だな」
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
慷慨こうがい
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
彼は能弁ではあったが、要領をつかむ術に欠けていた。むやみに埴谷図書助の非を述べ、慷慨こうがいし、そして笙子しょうこという令嬢を警戒せよと云った。
半之助祝言 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
井伊大老は夷狄いてきを恐怖する心から慷慨こうがい忠直の義士を憎み、おのれの威力を示そうがために奸謀かんぼうをめぐらし、天朝をも侮る神州の罪人である
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その叱咤しったを、後ろ耳で聞きながら、先へゆく法師はまだ足も早めず、大きな声に抑揚よくようをつけて慷慨こうがいの語気を詩のように呶鳴りつづけていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天明の頃、肥後の医師に富田太鳳たいほうなるものあり、慷慨こうがいにして奇節あり、高山彦九と交驩こうかんし、つとに尊王賤覇の議を唱う。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
しかし信夫恕軒しのぶじょけんのつくった伝を見るに「先生勝海舟ヲ訪ヒ大ニ時事ヲ論ズ慷慨こうがい激昂げっこう忌憚きたんスル所ナシ。」としてある。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
時に年七十三。当時汪叡おうえい朱善しゅぜんともに、称して三ろうす。人となり慷慨こうがいにして城府を設けず、自ら号して坦坦翁たんたんおうといえるにも、其の風格は推知すべし。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ちょっとのぞきに来たつもりで、うかうかと立見たちみをしてしまった隣の宿屋の番頭も、つり込まれて慷慨こうがいてい
平和な長閑のどかさまを歌うにはなだらかなる長き調を用うべく、悲哀とか慷慨こうがいとかにて情の迫りたる時
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
そして支那しなの詩の多くのものが、沈痛無比な響を以て人生を慷慨こうがい悲憤していることぞ。そしてまたその故に、この種の詩ほど真の意味で情緒的で、感傷の深いものがどこにあろうか。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
まち高袴たかばかまをはいたり。何か口で生いきな慷慨こうがいなことをいって。誠にわるい風だそうでしたが。このごろ大分直ってきたと思うと。また西洋では女をたっとぶとか何とかいうことをきいて。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)