つれ)” の例文
その裏面には「つれないはただうつり気な、どうでも男は悪性者あくしょうもの」という煩悩ぼんのうの体験と、「糸より細き縁ぢやもの、つい切れ易くほころびて」
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
「なぜ、そのようにつれなくなさいます、あなた様のお身の上もお聞き申さねばならず、私の身の上もお話し申し上げねばなりませぬ」
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
つれなかりし昔の報いとならば、此身を千千ちゞきざまるゝとも露壓つゆいとはぬに、なまじあだなさけの御言葉は、心狹き妾に、恥ぢて死ねとの御事か。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
そんな熾烈しれつな望みはおろか会わない間の辛さ、世路せろにまよう身のかなしさ、武蔵のつれないこと——なに一つとしていえないのだった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
世間のすべての人が彼に対してつれなくも疑りぶかいのだが、一等困るのは、皆んなが彼を怖がっているらしく思われることである。
乞食 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
たとえ妻は私に向ってつれない真似はしていても、私としては自己の全愛を傾け尽している妻を疑いつつ、その挙動を探偵に監視させつつ
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
何事も右京太夫の家来の藤原と相談してお母様を頼む、何卒どうぞつれない男と思いなさるな、天下のため命を棄てるかも知れぬから
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「じつはねえお嬢さま、あたくしもちょうどあなた様と同じように、いくら思ってもつれなくされる殿御とのごがありますのさ」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それからも毎日まいにちつれないかぜすりました。ゆきは、ってきてえだにかかりました。そして、けてもれても、灰色はいいろくもは、あたまうえをゆきました。
山の上の木と雲の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「それほどのお望みとあらば、つたない文ども何か書いても進ぜようが、かの内室があくまでもつれのうて、なんの返しもなかった時には何とせらるるぞ。」
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
空吹く風もつち打つ雨も人間ひとほど我にはつれからねば、塔破壊こはされても倒されても悦びこそせめ恨はせじ、板一枚の吹きめくられ釘一本の抜かるゝとも
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
ところでソローハはさほどつれない女でもなかつたし、第一、悪魔と彼女が共謀ぐるになつてゐたことも明らかだ。
つれなき女中に銀紙の洋盃コツプを作つてやり、飢ゑて貧しい都會の空で、故郷を戀ふる哀傷の詩を歌はせ、そして文明社會における君自身の裸體を羞かしく感じさせた。
室生犀星に与ふ (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
「藤十郎の切ない恋を、つれなくするとは、さても気強いお人じゃのう、舞台の上の色事では日本無双の藤十郎も、そなたにかかっては、たわいものう振られ申したわ」
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
悲しきことのみ多ければ、昼はせみと共に泣き、夜はかわずと共に泣けど、あはれといふ人もなし。おん身のみはつれなくあざみ笑ひ玉はじとおもへば、心のゆくままに語るをとがめ玉ふな。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
橋の眼鏡めがねしたを行くむらさきの水の色、みるに心が結ぼれて——えい、かうまでも思ふのに、さてもつれないマノンよと、恨む途端とたんに、ごろ、ごろ、ごろ、遠くでらいが鳴りだして、かぜあふり蒸暑むしあつい。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
しゃぶり䑛ってぽいと吐き出すというつれない仕方、世が世であれば、帽子掛けへ猫つるしにつるすとか、どこか固いところをコツンと一つやるとか、コン吉はそれくらいに思ってじりじりするのだが
徒らのつれなさによりて人の心を悩ます。
獄中消息 (新字新仮名) / 大杉栄(著)
あはれ秋風よつれなき男に(広瀬)
此處こゝぞ御恩の報じ處、なさけを殺し心を鬼にして、つれなき諫言を進むるも、御身の爲め御家の爲め、さては過ぎ去り給ひし父君の御爲ぞや。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
空吹く風もつち打つ雨も人間ひとほど我にはつれなからねば、塔破壊こわされても倒されても悦びこそせめ恨みはせじ、板一枚の吹きめくられくぎ一本の抜かるるとも
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
夢幻泡沫むげんほうまつの世、死を与えるは、かえって彼等への大慈悲ぞと思い、とうとう、帰るまで将軍家に答えなかったが……、さぞや将軍家には、つれなき者とおぼされたであろう
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人人は私につれなくして、いつも白い眼でにらんでゐた。單に私が無職であり、もしくは變人であるといふ理由をもつて、あはれな詩人を嘲辱し、私の背後うしろからつばきをかけた。
教父クームは酒商売をしてゐる猶太女の汚ない根性と木石のやうなつれなさを忌々しく思ひながら、とぼとぼと歩いてゐたが、はたと袋につまづいて、びつくりして立ちどまつた。
これ何平とやら雨の降るほどやる文を返事もしないはつれないぞや、四辺あたりに幸い人はなし、今日こそ色よい返事をなんかんッて……あつかましくもジッと下郎の側へ寄り添い
虚栄心は強く私にとってはまことにつれない妻ではあったが、まだそこまでは堕落してもいないであろう清浄な妻に向って、人間として考え得べからざる不潔千万な疑いをかけて
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
やさしいこころにもず、つれなく、そこをとおぎてしまったのを後悔こうかいいたしました。
雪の上のおじいさん (新字新仮名) / 小川未明(著)
が、この藤十郎の切ない恋をつれなくなさるとは、さても気強いお人じゃのう。舞台の上の色事では、日本無双の藤十郎も、そなたにかかっては、たわいものう振られ申したわ。ははははははは。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「こら、何という汚らわしいことだ。わしにつれない理由わけがわかったぞ」
犬舎 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
相手があくまでもつれないほど、師直の恋はいよいよ募って、色黒く骨たくましい坂東武者もこの頃は恋い死なぬばかりに思いわずろうている。この病いは和丹両家の典薬どもにも匙を加えようがない。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「そんな、そんなつれないことをおっしゃらずに——」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
つれなかりし横笛とは思ひ給はざるべきに、など斯くは慈悲なくあしらひ給ふぞ、今宵ならでは世を換へても相見んことのありとも覺えぬに、のう、瀧口殿
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
弟の阿利吒は尊げなる僧のゑたる面色おももちして空鉢をささげ還る風情ふぜいを見るより、図らず惻隠そくいんの善心を起し、往時むかし兄をばつれなくせしことをも思ひ浮めて悔いつつ
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
或いはつれない千浪もその耀かがやきになびいてくるかも知れない——などとさまざまな雑念にふと気をられている耳元へ、ドドーンと合図の太鼓が、胸の底まで響くほど力強く打ちこんできた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むごくつれなく邪慳に振捨てる。おまへが一月ばかりも泣いて暮す。
能因法師 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
是れから長助がおこってお千代につれなく当るかと思いました処、つれなくも当りませんで、尚更宜く致しまして、の衣類は汚い、九月の節句も近いから、これを拵えて遣るがいと、手当が宜いので
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
親元だつてお前をつれなくする訳はないだらう。
海の中にて (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
敷台までも下りず突っ立ちながら、用事なら庫裡くりの方へ廻れ、とつれなく云い捨てて障子ぴっしゃり、後はどこやらの樹頭ひよの声ばかりして音もなく響きもなし。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
露八の叔父の小林鉄之丞てつのじょうは、病死したというし、露八には貞淑であったのに露八はつれなくばかりしていた嫁の照子も、実家の石川家へもどったまま、その後は、居所すらも知る人はないとのこと。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
貧しくなりて苦むも皆みづからの心がらぞとつれなく我を責め玉ひしにはあらずや、我今汝にそのことばを返さん、貧しくなりて苦むも皆みづからの心がらぞ、我は汝を助けがたし
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
……知らぬとは何というつれないお言葉……
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兄は弟のあさましき言葉に深きうれいを起し、血統ちすじの兄弟にてすらもかくまでにむごつれなければまして縁なき世の人をや、ああいとはしき世の中なりと、狭き心に思ひ定めて商買しょうばいめ、僧と身をなして
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)