御贔屓ごひいき)” の例文
前の座主マルクス・キンツス・マルチウスの経営中に劣らず出精しゅっせい致しますれば、貴顕紳士は相替らず御贔屓ごひいき御入来を願うと張り出した。
先年北支那の王魁石おうかいせきさんと秘密に上海でお会いになった時には、手前共の処を大層御贔屓ごひいき下さいまして、ありがとう御座いました。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
長らく御贔屓ごひいきを戴き先月御当家様で金子百両借用致して、其の証文おもてに金子滞る時は女房お村を妾に差上げると云うことが書いてあり
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「いかものも、あのくらゐにると珍物ちんぶつだよ。」と、つて、紅葉先生こうえふせんせいはそのがく御贔屓ごひいきだつた。——屏風びやうぶにかくれてたかもれない。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いいえ、勿体もったいないより、まないのはあたしのこころ役者家業やくしゃかぎょうつらさは、どれほどいやだとおもっても、御贔屓ごひいきからのおむかえよ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
いずれにしても、不破氏は、この席へ入ると同時に、平身低頭して、出入り御贔屓ごひいきの骨董屋たる腰の低いところを充分に表現いたしました。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「……」彼はこれでも判らないかというような顔をしたのち「あれですよ、三原玲子さんのことです。貴方の御贔屓ごひいきの……」
獏鸚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
たのまれまして、どんなに遅くても今日中に届けて呉れと云われましたので、以前から御贔屓ごひいきになっていますから止むを得ずお引受したのです
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
五重塔のある側に綺麗なお汁粉屋があって、そこのお雑煮ぞうにのお澄ましが品のいい味だというので、お母様は御贔屓ごひいきでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
だれも私ほど坊ちゃんを知ってる者はありませんよ。私ゃね、これで坊ちゃんに大変御贔屓ごひいきになってるんでさあ。どりゃひとつ夜明よあけうたを歌おう」
(新字新仮名) / 竹久夢二(著)
「江戸表におりました頃、度々たびたび御贔屓ごひいきになりましたお客筋で、芝居の方とは、何のかかわりもないお方でございます」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御贔屓ごひいきの御座敷や何かで、不時の収入みいりがありますと、内所ないしょで処かまわず安い芸者を買い散らしたもんで御在ます。
あぢさゐ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
何でも御贔屓ごひいきがひにしばゐを見に来たのだが、いつもの気紛れで貞奴さだやつこでも調弄からかはうと思つて楽屋口をくゞつたらしかつた。
此のお二た方は愚僧をたいそう御贔屓ごひいきにして下されまして、辰一を呼べ、退屈ざましに何か聴かしてと、有難い仰せを戴いたことがたび/\でござりましたが
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
宿の主人や召使いもそこに来て、客人達に向って丁寧にお辞儀をし、別れを告げ、御贔屓ごひいきを感謝していた。
「なるほど」と外記は云った、「それで船岡どのに、一ノ関さまの御贔屓ごひいきのかかっている理由がわかった」
御贔屓ごひいき下さるようになってからというもの、其方はまるでが抜けてでもしもうたように、唄鳴物うたなりもののおさらえも怠りながら、毎夜々々の逢引ばかりが楽しみそうに
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
時々あの方が目立つ程御贔屓ごひいきなさるのを見て、あなたの爲めに私は少し不安になることもあつて、あなたが御自分で用心なさるようにと思つたこともありました。
「いかがでござりましょう! お殿様方に御贔屓ごひいき願いますのも烏滸おこがましいようなむさくるしい宿でござりまするが、およろしくば御案内致しまするでござります」
「はい、田宮の奥さんには長いこと御贔屓ごひいきになっております。一年に二、三回、かならず一回はかかさずにお出でになります。まことにお静かな、よいお方で……。」
鰻に呪われた男 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
駄賃だちんなぞも御贔屓ごひいきにあずかった、半蔵さまはもっとお出入りの牛をかわいがってくだすってもいい。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それじゃ月賦げっぷでいただきましょう、月賦も細く、長く、どうせこれから御贔屓ごひいきになるんですから——いえ、ちっとも御遠慮には及びません。どうです月に十円くらいじゃ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おぼれたんですつてね。私も長いこと御贔屓ごひいきを受けましたが、お葬ひにも伺へない有樣で」
「して見ると、あなたの御贔屓ごひいきのエルリングは、余りお世辞はないと見えますね。」
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
御贔屓ごひいきになる縁の初まりで、殿様が侯爵になってからも、邸内にM屋出張所を設け、毎日店員が伺候しこうして新柄珍品を御覧に入れ、お料理してたてまつる玉子しか御承知のない、家附女房のお姫様ひいさま
青バスの女 (新字新仮名) / 辰野九紫(著)
ほどこされたりめづらしき氣象きしやうの先生なれば近郷近在きんがうきんざいにては生神いきがみ先生々々せんせい/\と人々がうやまくらゐなり夫に又我等の處は格別かくべつ御贔屓ごひいきにて女房ははり仕事を能する故後家で居た時分には後藤先生のすゝ洗濯せんだくから衣類を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「私ですよ、矢田さんへ始終伺って、御贔屓ごひいきに願っているのは」
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「はいはいさようでございますよ、御贔屓ごひいきにお願いいたします」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「兄さんはあなたが御贔屓ごひいきなのねえ」
杉垣 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
ここで己は御贔屓ごひいきにあずかるつもりだ。
「はい、そりゃァもう、あたしにっては勿体もったいないくらいの御贔屓ごひいき、いやおういったら、がつぶれるかもれませぬが。……」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
此のたびお聞きに入れまするは、業平文治漂流奇談と名題なだいを置きました古いお馴染なじみのお話でございますが、何卒なにとぞ相変らず御贔屓ごひいきを願い上げます。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「お気に召しまして有難う存じます、今日はまた新しいのを持って参りましたから、御贔屓ごひいきをお願いいたしとうございます」
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
またよく御承知の方は恐ろしく御贔屓ごひいきで、あの娘の渾名あだなが通りました、千鳥の一曲、所望じゃなどとおっしゃりまする。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お屋敷の旦那方にゃあ、始終、御贔屓ごひいきにあずかっていたんで、未だに誰方どなたのことも時々思い出しているんで。
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたくしに、江戸では、おもにどのような方々の御贔屓ごひいきになっているか——なぞ、お尋ねでありますゆえ、ここぞとばかり、口幅ったくも、お名前を申し上げました。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
上海の戦争で亭主の行方がわからなくなりますし、御贔屓ごひいきの旦那様からは見放されるしでね。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「そうかい。私のことだから、大したことはして上げられない。お前を御贔屓ごひいきの御隠居様も亡くなって、相談する人もなし、私の心ばかりだけれど、毎月送って上げよう。」
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
「溺れたんですってね。私も長いこと御贔屓ごひいきを受けましたが、お葬いにもうかがえない有様で」
一、牛方どものうち、平生へいぜい心安き者は荷物もよく、また駄賃等も御贔屓ごひいきあり。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
へへへへへ善く存じておりますだって。ほんとに馬鹿だよこの人あ。——金田だってえばさ。——なに?——毎度御贔屓ごひいきにあずかりましてありがとうございます?——何がありがたいんだね。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なんでも松林さんを御贔屓ごひいきになさる伊丹いたみなんとかいうお大名が、緑町の空き屋敷を買ってくれたのへ手入れをして、そっくり道場を移してお嬢さまも引き取り、なかなかお盛んにやっていますが
初午試合討ち (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
当時より既に諸大名の御贔屓ごひいきにあずかり、政治的背景を持っていた一流の座頭であったから、座中に於いても権威を振っていた事情を察すべく、大方三成の邸などへも常に出入していたのであろう。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「それじゃああたしが困るんだからさ。按摩さんはほかにも大勢あるけれども、花魁はお前さんが御贔屓ごひいきで、ほかの人じゃあいけないと云うんだから、素直に来てくれないと、あたしが全く困るんだよ」
半七捕物帳:09 春の雪解 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「たいへん御贔屓ごひいきのようですね」
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かはねへと云ければ長八はハイとは云ど何の事やら一かうわからざれば私しはくづばかりでござりますと云に御前おめえまだとう四郎江戸なれねへと見えると笑ひしかば然樣さやうで御座ります此間國から出て參りましたと云ふに成程なるほどさうであらう今度又屑が有たらやるべし大きに御苦勞ごくらうと云れ長八は何卒なにとぞ御贔屓ごひいき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
どうぞ、なにぶん御贔屓ごひいきにお買上げを願いたいもんで……しがねえ三下奴さんしたやっこのために、路用のお恵みが願いたいんでげして。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
毎度またあれ御贔屓ごひいきに遊ばして有難う存じます、宜くまア此様こんな狭い汚ない所へ入らっしゃいました、何時も蔭でおうわさばかり致して居ますの
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
くちけてもいうじゃァねえぞ。——南御町奉行みなみおまちぶぎょうの、信濃守様しなののかみさま妹御いもうとごのお蓮様れんさまは、浜村屋はまむらや日本にほん一の御贔屓ごひいきなんだ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
御贔屓ごひいきの民子ちゃんが、大江山に捕まえられていますから、助出しに行くんだわ。渡辺の綱次なのよ。」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)