年嵩としかさ)” の例文
そして案外世間を知らない姉達を、そう云う点ではいくらか甘く見てもいて、まるで自分が年嵩としかさのような口のきき方をするのである。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
答えたのは一番年嵩としかさの一等兵である。四十は既に越した風貌である。身体に合わない略服を着て、見すぼらしく見えた。衣嚢いのうも小さい。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
子守こもりがまた澤山たくさんつてた。其中そのなか年嵩としかさな、上品じやうひんなのがおもりをしてむつつばかりのむすめ着附きつけ萬端ばんたん姫樣ひいさまといはれるかく一人ひとりた。
迷子 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その方法の複雑なる、日本の花がるたの、もう少し混み入ったようなものを、年嵩としかさの子供の教導によって、たちまちに覚えこんでしまう。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一番年嵩としかさのジャックは do、ちょうど八番目のチビが si、四番目と五番目は年子としごなので、五番目のポオルは fa# だというわけ。
なにしろ、これは内密にして置いて、なんとかしてのお鷹を探し出すよりほかはないと、年嵩としかさの伊四郎がまず云い出した。
半七捕物帳:15 鷹のゆくえ (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
停車場には農場の監督と、五、六人の年嵩としかさな小作人とが出迎えていた。彼らはいずれも、古手拭と煙草たばこ道具と背負いなわとを腰にぶら下げていた。
親子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
やがて、氣を取直したらしい下女のお兼は、年嵩としかさらしく眞つ先に入つて行つて、床の上に血塗ちまみれの死體を抱き起しました。
坊主の娘だという一番年嵩としかさの、顔はこわいが新内は名取で、歌沢と常磐津も自慢の福太郎が、そういう時きっと呼ばれて、三味線しゃみせんくのだった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
すると年嵩としかさな男は思い出したように、「そうそう先刻さっき市蔵いちぞう(須永の名)から電話で話がありました。しかし今夜御出おいでになるとは思いませんでしたよ」
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
其日はお妻の夫もしうとも留守で、家に居るのは唯しうとめばかり。五人も子供が有ると聞いたが、年嵩としかさなのが見えないは、大方遊びにでも行つたものであらう。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「エエドさん。」と一番年嵩としかさらしい婦人が呼びかけた。「貴方がそれ迄に懺悔ざんげなさいますには、何か理由わけがお有りでせう、聞かせて戴けないこと……」
午飯ひるめしの給仕には年嵩としかさをんな出でたれば、余所よそながらかの客の事を問ひけるに、はしをも取らで今外に出で行きしと云ふ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ビスカはこの一隊のうちでは一番に年嵩としかさの土人でもあり、多少の英語、葡萄牙ポルトガル語にも通じ、みんなの信頼も克ち得ていれば、土人と白人との間にたって
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「あたしあんたのこと知ってるわ」と年嵩としかさのほうの女がさぶに云った、「あんた小舟町の芳古堂のしとでしょ」
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
のみならずやや年嵩としかさらしい、顔に短いひげのある男は、通訳がまだ尋ねない事さえ、進んで説明する風があった。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
女学校では生徒の年がさまざまで、若い人もあれば、一方には地方から選抜されて来た年嵩としかさの人もありました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
みのるの役のワキ役になる女優に録子ろくこといふのがゐた。みのるよりも年嵩としかさで舊俳優の中から出てきた人だつた。目の大きな鼻の高い役者顏の美しい女であつた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
彼は苦労した年嵩としかさの男性の威を力み出すようにして「お入りなさい。なぜ入らないのです」といった。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
多津は、年嵩としかさらしく、鷹揚にうなずきながら、兄の方へ、いたずらつ子のような眼くばせをした。
光は影を (新字新仮名) / 岸田国士(著)
関のこっちだと思ったら音羽山だといって膝を叩いたのは、年嵩としかさな客が何彼につけて出る謡だ。
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
「七だよ。去年死んだ藤右衛門が八十五で村中の年嵩としかさだったが、あれより一つ上だったから」
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
私の学校では、上級生と下級生とを、一人か二人ずつ組み合わせて一室に入れている。その中で一番上級の年嵩としかさなのを「お母さん」と呼ばせて、一切の世話と取締をやらせる。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
都踊りの最後の稽古の日、その日はまあ大事の日だから、自信のある年嵩としかさの連中でもちゃんと時間前に集っていたところへ、桃龍がたった一人遅れ、しかも寝ぼけ面で入って行った。
高台寺 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「小さいご本尊に大きい御堂みどう、これには不思議はないとしても、この浅草の観音堂と信州長野の善光寺とは、特にそれが著しいな」こういったのは年嵩としかさの方で、どうやら階級も上らしい。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
二人は立ち留って、じろじろ小平太の様子を眺めていたが、年嵩としかさの方が
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
わたくしはどうも、これ孝助々々、どうしたんだ、おれが迷惑を受けるだろうじゃないか、私は此のお屋敷に八ヶ年も御奉公をして、殿様から正直と云われているのに年嵩としかさだものだから御疑念ごぎねんを受ける
「さア、これから相手の詮議ぢや。」と、年嵩としかさの若い衆は言つた。
石川五右衛門の生立 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「どうしたもんだえ、白粉おしろいけんだんべかとまあ」年嵩としかさわらつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
年嵩としかさな少年が声を低めてさう問へました。
女王 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
しるべにたてる年嵩としかさのてだれの象の全身は
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
そのなか年嵩としかさらしいのが
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
娘のお吉は藝人と驅け落したのを引戻されて、二倍も年嵩としかさの金持の親爺のところへ嫁にやられることになつて居るし
その年嵩としかさの方の女の頬ぺたに、城介はしたたかな平手打ちを加えた。女は頬を押えてよろめいた。あまり意外な光景だったので、私は思わず立ち上った。
狂い凧 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
わたしたちのうちで年嵩としかさにむかって、「この辺に岡本さんといううちはありませんか。」といたので、わたしは竹馬に乗ったままで自ら進んで出て
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「それは角三ですね」と年嵩としかさの男のほうが云った、「けがをしているようだが、ちょっとみせてもらいますよ」
幼なき方はとこに腰をかけて、寝台の柱になかば身をたせ、力なき両足をぶらりと下げている。右のひじを、傾けたる顔と共に前に出して年嵩としかさなる人の肩に懸ける。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「どうか漬物を少し。」などと、腕まくりした年嵩としかさの青年が、裏口から酔っぱらって来てお銀に強請ねだった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「それだから喧嘩になるんじゃないか? 一体お前が年嵩としかさな癖に勘弁かんべんしてやらないのが悪いんです。」
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
重立おもだった三人の女たちは、首をいじくっている手を休めて、まっすぐ少年に凝視を向けたが、一番年嵩としかさらしいのが丁寧に頭を下げると、外の女たちもそれで心づいたように
丁度自分の畑の所まで来ると佐藤の年嵩としかさの子供が三人学校の帰途かえりと見えて、荷物をはすに背中に背負って、頭からぐっしょり濡れながら、近路ちかみちするために畑の中を歩いていた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
瀬戸君は年嵩としかさの紳士に出会って、ペコ/\頭を下げた後、安達君のところへ寄って来て
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
と髪の薄い女中が言うと、年嵩としかさな方の女中がそれを引取って、至極慇懃いんぎんな調子で
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかも浅次郎はその身より十ばかりも年嵩としかさなる艶婦にちぎりめしが、ほど経て余りにそのねたみ深きがいとわしく、否しろその非常なる執心の恐ろしさに、おぞふるいて、当時予が家に潜めるをや。
黒壁 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
起回おきかへりさまにかしら捻向ねぢむくれば、何事とも知らず、年嵩としかさをんな駈着かけつくるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
年嵩としかさのお徳とお浪とは、竜之助の傍へ再び寄って来て
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しるべにたてる年嵩としかさのてだれの象の全身は
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
甚兵衛という年嵩としかさの方が、頷いて
年嵩としかさの方が、わけ知り顔につぶやいた。
光は影を (新字新仮名) / 岸田国士(著)
……十六歳の秋、隣りに私より二つ年嵩としかさあかねという方がいて、或るとき奥義抄おうぎしょうという書物をみせて下すった。
日本婦道記:桃の井戸 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)