小女こおんな)” の例文
つうじると、田舎いなか者らしい小女こおんなの取次で、洋館の方の応接間へ案内されたが、そこには静子が、ただならぬ様子で待構えていた。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
むかし来た時とはまるで見当が違う。晩餐ばんさんを済まして、湯にって、へやへ帰って茶を飲んでいると、小女こおんなが来てとこべよかとう。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
が、焼麩やきぶ小菜こなの汁でぜんが済むと、行燈あんどう片寄かたよせて、小女こおんなが、堅い、つめたい寝床を取つてしまつたので、これからの長夜ながよを、いとゞわびしい。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
が、婆さんを置くにしても、小女こおんなを置くにしても私の性分として矢張し自分の心を使わねばならぬ。それに敷金なんかは出来ようがない。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
昼飯をすますと直様すぐさまお千代は派出婦会との契約を断るために出て行く。重吉は種子が生きている時分に雇入やといいれた小女こおんなに暇をやる。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
やさしく消え入るように答えてそこに三ツ指ついたのは、前夜のあのいぶかしい若者ならで、ちまちまッとした小女こおんなでした。
わたくしは父の遺してくれた八百両あまりの金で家を借り、小女こおんなを雇ってくらしながら、母とかかわりのあった男たちのことをさぐりました。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
客のすくない電車の中は放縦ほうじゅうなとりとめもないことを考えるにはつごうがよかった。彼の頭の中にはっそりした小女こおんなの手首の色も浮んで来た。
青い紐 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
石田は口入の上さんを呼んで、小女こおんなをもう一人やといたいと云った。上さんが、そんなら内の娘をよこそうと云って帰った。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
小女こおんなは美男の銀次に見られて真赤になってしまった。背後に隠していた一升徳利と十円札を銀次の鼻の先に差出しながら、消え入るように云った。
骸骨の黒穂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しずくの垂れる傘を小女こおんなの一人にわたすと、大きな体を田代のそばに割込ませ、すぐに小倉は手焙てあぶりのかげに置かれたしながきを手もとに引寄せた。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
その時分、根岸に住んでいたお絹が、今日は小女こおんなを連れて、どこの奥様かという風をして、山下を歩いて帰ります。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
やがて景蔵が湯桶ゆとうの湯を猪口ちょくに移し、それを飲んで、口をふくころに、小女こおんなは店の入り口に近い台所の方から土間づたいに長い腰掛けの間を回って来て
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
前の畑に提燈ちょうちんの灯りが見えた。いつものように旅籠はたご小女こおんなが、晩の食事を運んで来たのであろうと思っていると
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白い肌襦袢一枚の肌もあらわになって、お絹はがっかりしたようにそこに坐ると、附き添いの小女こおんなが大きい団扇うちわを持って来てうしろからばさばさとあおいだ。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
潤太郎さんは若い気の利かない小女こおんなか何かの手に抱かれたまま、どこかで一緒に焼け死んだのかも知れません。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
ハテ、と思ってそっちを見ると、井戸端にしゃがみながら、十五六の小女こおんなが寝間着のまゝで歯を研いている。
蘿洞先生 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
湯に行くよりほかたすきを取ったことのない小女こおんなが駈けて来て、はがきが参りましたと云うのをどこからかと取上げて見れば、来る何日午後三時より鳴鳳楼めいほうろうにおいて
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
今までおいになっていたおぐしを、少女のようにすきさげになさり、おんおば上からおさずかりになったご衣裳いしょうして、すっかり小女こおんな姿すがたにおなりになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
やがて伍長ごちやうの肩書も持たば、鍛工場たんこうじやうの取締りとも言はれなば、家は今少し広く、小女こおんなの走り使ひを置きて、そのかよわき身に水はまさじ。我れを腑甲斐ふがひなしと思ふな。
軒もる月 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
と兄も気を揉みますし、嫂は小女こおんなを指図して、奥の十二畳の座敷に、床をのべてくれました。
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)
小女こおんな一人使わない。女房の手伝いすら大して受けない。これでは仕事の伸びようはずがない。これだけの技倆ぎりょうを持ちながら、このままで小さく終わってしまうのは惜しいように思われる。
握り寿司の名人 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
「鳰鳥さん、鳰鳥さん」と、その時階下で彼女を呼ぶ小女こおんなの声が聞こえて来た。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
十五日の夜も三更さんこう(真夜中の十二時から二時間)を過ぎて、人影もようやくまれになったころ、髪を両輪に結んだ召使ふうの小女こおんなが双頭の牡丹燈ぼたんとうをかかげてさきに立ち、ひとりの女を案内して来た。
世界怪談名作集:18 牡丹灯記 (新字新仮名) / 瞿佑(著)
今にお登和嬢の嫁ぎ来りて妻と呼び良人おっとと呼ばれん日とならば婆さんの代りに小女こおんなかかえ、三度の食事も総がかり、毎日御馳走をこしらえて楽しき月日を送らばやと主人の心は空想の愉快に充たさるる。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
十二三の小女こおんなが命を聞いて銀貨を握つて立つ。
俳諧師 (旧字旧仮名) / 高浜虚子(著)
十二、三の小女こおんなが取次に出て、二階へ上って行きました。すると、母はていたものと見えて、浴衣ゆかた寝衣ねまきの前を合せながら降りて来て
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
襦袢はわざと、膚馴はだなれたけれど、同一おなじその段鹿子を、別に一組、縞物しまものだったがついに揃えて、それは小女こおんなが定紋の藤の葉の風呂敷で届けて来た。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雑巾をつかんで突っ立った、ませた、おちゃっぴいな小女こおんなの目に映じたのは、色の白い、卵からかえったばかりのひよこのような目をしている青年である。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
円髷まるまげの婢と小女こおんなが彼の来るのを待っていたように出て来た。秀夫はその円髷のうしろからいて往くと、艫のむこうからは左になったへやへとおされた。
牡蠣船 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
最前の小女こおんなが凭りかかっていた処へ横一寸、縦二寸ばかりの四角い穴がポックリと切開かれた。そこから西に傾いた月の光りが白々とさし込んだ。
骸骨の黒穂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と思っていると、天井からスルスルと縄梯子なわばしごが下り、それを伝って、一人の小女こおんなが降りて来たが、召使めしつかいであろう。彼に一礼してその場を立去った。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
女主人は銭湯へいったそうで、お松という小女こおんながおのぶの手伝いをした。女中は三人いるが、みんなかよいで、四時にならなければ来ないという。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「三度のたべものは店の方から運ばせますが、ほかに小女こおんなを一人やってございます。それはお熊と申しまして、まだ十五の山出しで、いっこうに役にも立ちません」
半七捕物帳:13 弁天娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
雪子は出しなに洋間をのぞいて、小女こおんなのお花を相手にままごとの道具を並べている悦子に云った。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
十六になる小女こおんなが、はいと云って敷居際しきいぎわに手をつかえる。自分はいきなり布団の上にある文鳥を握って、小女の前へほうり出した。小女は俯向うつむいて畳を眺めたまま黙っている。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小女こおんなまで置き、その奉公人の給金も三分がものは翌年は一両に増してやれるほどになった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
小女こおんなの拡げて出す黒蛇の目をうけとると、そのまゝ「うたむら」の主人は外へ出て行った。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
……怨霊のたたりが、祖先から伝わる因縁のしからしめるところであろうと、判断しているこの私の考えを裏付けるごとくに、本年一月十九日、事件も落着して棚田夫人光子、小女こおんな
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
あの当座こそ、二人は外へも出ないで、うわずって暮らしていたが、このごろ、お絹は、小女こおんなをつれてちょいちょいと出歩く。どうかすると、朝出て夜おそく帰って来ることさえある。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
めしけて客を迎えるまでには相当時間を要し、正午に間に合うことはきわめてまれで、二時ごろ表をあけるのが日常となっている。一人の小僧も小女こおんなもいない一人きりの仕事だからである。
握り寿司の名人 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
小女こおんなに持参させると、前夜自ら筆をとりながら、直参旗本早乙女主水之介様御宿と書きしたためたその隣りへもっていって、墨痕あざやかに書き加えた文句というものが、また大胆というか
貞之進は独りむしゃくしゃとして、洋燈らんぷの心を出したり引込めたりして居る内、はからず思当ったことのあるように点頭うなずいて手をたたき、飛んで来た小女こおんなにお神さんはと聞けば、居りますと云う
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
そういえば裁縫おはりの師匠の内の小女こおんなが、たったいま一軒隣の芋屋から前垂まえだれで盆を包んで、裏へ入ったきり、日和のおもてに人通りがほとんどない。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふくれたような顔の小女こおんなは、軽蔑けいべつしたような声で、酒一本、肴はいらないとさ、とあてつけがましい声でどなった。
へちまの木 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
最初からお玉は、自分が貰う給金の大部分を割いて親に送って、もう六十を越している親に不自由のないように、小女こおんなの一人位附けて置こうと考えていた。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
次の日の朝、重吉は小女こおんな使つかいに出したあと、死んだ種子の衣類を入れた箪笥たんすの扉や抽斗ひきだしをお千代にあけさせた。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
料理屋といっても、家には老母と小女こおんながいるきりなので、お杉はどんなふうに頼み込んだか知らないが、その家を逢いきの場所に借りて、ときどきに旧主人に逢っている。
半七捕物帳:15 鷹のゆくえ (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
小女こおんなが、そのとき、田代と「うたむら」の主人の前へそれ/″\熱い銚子を運んで来た。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
秋に行った時にはそこのくりの樹に栗が沢山っていたのを、小女こおんなたちが枝に登って落してくれたこと、御馳走ごちそうと云っては手料理の野菜が主であったけれども、それが大変おいしく
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)