容色きりょう)” の例文
が、串戯じょうだんではありません、容色きりょう風采とりなりこの人に向って、つい(巡礼結構)といった下に、思わず胸のせまることがあったのです。——
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あの時には、私も容色きりょうに自信があったのだ、それでも蓮香姉さんを見ると恥かしかったが、今、かえってこんな顔になったのだ」
蓮香 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
静かに一礼して上げた顔は、その辺の商売人にも滅多にない容色きりょうで、髪形、銘仙めいせんの小袖、何となくただの奉公人ではありません。
お熊さんの容色きりょうに眼を付けて嫁にくれいと申し出たものらしゅう存じますが、そのうちに横着者の継母のお艶が、欲と色との二筋道から
これは中々の美人で、日本などへ来るには勿体もったいない位な容色きりょうだが、何処で買ったものか、岐阜ぎふ出来の絵日傘を得意に差していた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
俺は一度か二度その娘を見かけたが、そう悪くない容色きりょうだぜ。それがなんでも、監獄の差入屋さしいれやとかへかたづいているという話だ。
二銭銅貨 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
僕の口から言うも変ですが、里子は美人というほどでなくとも随分人目を引く程の容色きりょうで、丸顔の愛嬌あいきょうのある女です。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
一人のむすめじょちゅうれて、枝に着いた梅の花をいじりながら歩いていた。それは珍らしい容色きりょうで、その笑うさまは手にすくってとりたいほどであった。
嬰寧 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
自分の細君がすっかりけこんで、容色きりょうが落ちて、身体じゅう糠味噌ぬかみそにおいがみこんでしまってい、いっぽう自分の方はまだ若く、健康で、新鮮で
富籤 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「お前の容色きりょうなら一躍スタアになれるに違いないが、その代り貞操をけなきゃならないんじゃないかね。」
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
百合子は相当容色きりょうに自信があったもんですから、女優になりたい、と、口癖のように言っていたんですよ。
青い風呂敷包 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
ある時などは写真を送れと言ってろうと思って、手紙のすみに小さく書いて、そしてまたこれを黒々と塗って了った。女性には容色きりょううものが是非必要である。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
探そうにも、探しだす手だてがなかったのである。彼はいま妻を迎えようとしていた。そして自分の妻になる女を両親に引き合わせた。気だての優しい、容色きりょうもなかなかいい女だった。
親ごころ (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
「さようなあ、悪いとは言えねえ。お寺の娘さんにも、お武家の娘御にも、商売人にも食い飽きた親玉が放さねえのだから、悪い容色きりょうの女じゃねえのう。百姓の娘にしてあれだからのう」
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
当世は金のある所に玉がよるんだ。それが当世って云うんだ。篦棒奴、娘が可愛ければこそ、己れだってこんな仕儀はする。あれ程の容色きりょうにべらべらしたものでも着せて見たいが親の人情だ。
かんかん虫 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
あれほどの容色きりょうは江戸にもないと言って、通る旅の衆が評判したくらいの人だったぞなし。あのお袖さまがわずらってくなったのは、あれはお前さまを生んでから二十日はつかばかり過ぎだったずら。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
... 容色きりょういそうです。中川さんよりもっとい位だと申しました」客「それならなおさらだ、年頃は」妻君「二十一、二位だそうです」客「どうでしょうその妹さんが僕のところへ嫁に来てくれましょうか。奥さん一つ僕の橋渡しになって先方の心を ...
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
夫人 いや、容色きりょうはこちらからは見せたくない。力で、人を強いるのは、播磨守なんぞの事、まことの恋は、心と心、……(軽く)薄や。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
神田の悪戯者いたずらものが娘番付をこしらえて、東の関脇に据えた容色きりょう、疲れと怖れに、少し青くはなっておりますが、誰が眼にも、これは美しい娘でした。
そこにまた御藤おふじさんという娘があって、その人の容色きりょうがよくうちのものの口にのぼった事も、まだ私の記憶を離れずにいる。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その侍女のなかに小さな馬に乗った容色きりょうのすぐれた女があったので、方棟は近くへ寄って往って覗いた。
瞳人語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
容色きりょうも悪くはなし年だって私とおんなじなら未だいくらだって嫁にいかれるのに、ああやって一生懸命に奉公しているんだからね。全く普通なみものにゃ真似まねが出来ないよ。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「あれ程の容色きりょうを持った女が無意味に死ぬものとは思われません。余程の事がなくては……」
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
四ツ谷からお茶の水の高等女学校に通う十八歳くらいの少女、身装みなりもきれいに、ことにあでやかな容色きりょう、美しいといってこれほど美しい娘は東京にもたくさんはあるまいと思われる。
少女病 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
陳は女をれて帰り、あかりけてよく見ると、ひどく容色きりょうをしていた。陳は悦んで自分のものにしようとした。女は大きな声をたててこばんだ。やかましくいう声が隣りまで聞えた。
阿霞 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
いつでも問題になるのはお君の容色きりょう
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
... 拵えて二人で仲好くお取膳とりぜんで食るけれども」雇婆「オホホおたのしみでございますね」主人「楽みさ、この位な楽みはないの、和女おまえが見たってお登和さんはい女だろう、あの位な女は滅多めったにないだろう」雇婆「ホンに好いお嬢さんです。お容色きりょうばかりでありません。お気立がお優しくって御親切で昨日きのうも私に半襟はんえりを ...
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
それでもね、妹が美しいから負けないようにって、——どういう了簡りょうけんですかね、兄さんが容色きりょう望みでったっていうんですから……
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
昔のお常の美しさを追う、若い男達は、お常の容色きりょうの変化などには気も付かぬ様子で、相変らず店を賑わしております。
容色きりょうを生命とする女の身になったら、ほとんど堪えられないさびしみが其所そこにあるに違ないと健三は考えた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こんな綺麗な容色きりょうを持ちながら、こんな気高い姿でありながら、もしの夢を見なければ、彼の低い暗い家の中に住んで、あの泥土を素足で踏んで、なまぐさうおを掴むのを
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
新婦は舅姑しゅうとに逢った。その新婦の容色きりょうがきれはなれて美しかったので、主人は喜んだ。胡は一人の弟と妹を送ってきていたが、二人とも話すことが風雅で、それでまた二人ともよく飲んだ。
胡氏 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そっと起きてのぞいてみると、三、四人の女郎むすめが地べたへ敷物を敷いて坐り、やはり三、四人のじょちゅうがその前に酒と肴をならべていた。女は皆すぐれて美しい容色きりょうをしていた。一人の女がいった。
阿英 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
そこに、女中……いや、中でも容色きりょうよしの仲居にも、ついぞ見掛けたことのないのが、むぞうさな束髪たばねがみで、襟脚がくっきり白い。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あおい月の光に照されたところを見ると、年の頃は二十二三、少しふけてはおりますが、素晴らしい容色きりょうです。
次に、容色きりょうだって十人並よりいじゃありませんかと梅子が云った。これには父も兄も異議はなかった。代助も賛成のむねを告白した。四人よったりはそれから高木の品評に移った。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
併し美留藻の似せ紅矢はここが大切なところと思いまして、一生懸命になって濃紅姫の容色きりょうを賞め千切って、仮令たといどんな女が来ても妹以上に美しい女は居ないから大丈夫だ。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
そうか言うて、東京のお客様に、あんまりな人も見せられはしませずな、容色きりょういとか、芸がたぎったとかいうのでござりませぬとなあ……
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
オモヨさんも高島田にうて、草色の振袖に赤襷あかだすきがけで働いておりましたが、何に致せ容色きりょうはあの通り、御先祖の六美むつみ様の画像も及ばぬという、もっぱらの評判で御座いますし
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「御縫さんて人はよっぽど容色きりょうが好いんですか」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
よくしたもので、うえがたはまあ少々はおでこでもそこは事が済みますが、下々しもじもが出世をしようというには、さらりと打明けた処で容色きりょうじゃ。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白妙ただ一人、(でも。)とか申して、内々ないない思ひをほのめかす、大島守は勝手が違ふ上に、おのれ容色きりょう自慢だけに、いまだ無理口説むりくどきをせずにる。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
以前にも両三度聞いた——かれの帰省談の中の同伴つれは、その容色きりょうよしの従姉いとこなのであるが、従妹はあいにく京の本山へ参詣おまいりの留守で、いま一所なのは
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それのかなわない腹癒はらいせに、商会に対する非常な妨害から蹉跌さてつ没落さ。ただ妻の容色きりょうを、台北の雪だ、「雪」だととなえられたのを思出にして落城さ。」
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……芸も容色きりょうもないものが、生意気を云うようですが、……たとい殺されても、死んでもと、心願掛けておりました。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
優等生で、この容色きりょうであるから、寄宿舎へ出入ではいりの諸商人しょあきんども知らぬ者は無いのに、別けて馴染なじみ翁様じいさまゆえ、いずれ菖蒲あやめと引き煩らわずに名を呼んだ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
妙齢としごろで、あの容色きりょうですからね、もうぜんにから、いろいろ縁談もあったそうですけれど、おきまりの長し短しでいた処
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
娘は、別にかわったこともありませんが、容色きりょうは三人のうちで一番かった——そう思うと、今でも目前めさきに見えますが。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
けれども、脊恰好せいかっこうから、形容なりかたち生際はえぎわの少し乱れた処、色白な容色きりょうよしで、浅葱あさぎ手柄てがらが、いかにも似合う細君だが、この女もまた不思議に浅葱の手柄で。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
第一そんな安店に、容色きりょうと云い気質きだてと云い、名も白露で果敢はかないが、色の白い、美しいおんなが居ると云っては、それからが嘘らしく聞えるでございましょう。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)