可成かなり)” の例文
その人が校長だ。先生は三吉を見つけて、岡を下りて来た。先生の家では学校の小使を使って可成かなり大きな百姓ほど野菜を作っていた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
福間先生は常人よりもむしせいは低かつたであらう。なんでも金縁きんぶち近眼鏡きんがんきやうをかけ、可成かなり長い口髭くちひげたくはへてゐられたやうに覚えてゐる。
二人の友 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
彼の顔色は、さいぜんから、手酌てしゃく可成かなりビールを飲んで居ったにも拘らず、始め対座した時から見ると、見違える程蒼ざめていた。
恐ろしき錯誤 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
贔屓ひいきになし富澤町古着渡世甲州屋とて身代しんだい可成かなりなる家へ入夫いりむこの世話致されたり其後吉兵衞夫婦の中に男子二人を儲け兄を吉之助と名付弟を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
さっきの青いのは可成かなり大きなはんの木でしたが、その梢からはたくさんのモールが張られてその葉まできらきらひかりながらゆれていました。
ポラーノの広場 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
野村の行っている法律事務所は、父が面倒を見たいわばお弟子の経営で、彼は無給で見習いをしているのだから、可成かなり勝手が出来るのだった。
宗助そうすけたのんだ産婆さんば可成かなりとしつてゐるだけに、このくらゐのことは心得こゝろえてゐた。しか胎兒たいじくびからんでゐた臍帶さいたいは、ときたまあるごと一重ひとへではなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そして些と娘の方を見て、「ですから私等も、とつ頃は可成かなりに暮してゐたものなんですが、此う落魄おちぶれちやくそですね。」
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
天井の高い、ガランとした広い部屋の中の空気はヒヤ/\と可成かなり冷たかつたが、彼は大きな安楽椅子あんらくいすに身を深く埋めてゐたから、それも平気であつた。
(新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
こうした山道がおよそ三時間も続いたろうか。小山程の大きな巌の根を一廻りして、もう可成かなり疲れた私達は、の時、林の中の一寸した空地に出て来た。
虎狩 (新字新仮名) / 中島敦(著)
三十分ばかり後、男は国枝さんの表玄関を内側からあけ、可成かなりな重味の見える風呂敷包みを持って現われました。
おせっかい夫人 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
み取り便所は如何いかに改善すべきか?」という書物を買って来て本気に研究したこともあった。彼はその当時、従来の人糞じんぷんの処置には可成かなりまいっていた。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
明日あすの滞留を許さない身の上だから出来る事なら是非ぜひ今日けふ観てきたいと云ふ様な事を可成かなり𤍠心に主張した。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
時は可成かなりのろのろと、然し尊重に過ぎて行く。今朝、或は今日の午後、日附の上で、彼はもう何哩か私に近づき始めたのだ。幸福な海路を! 我が愛する者に。
其処には側師がわしの通行する立派な路がある。自分等は国境山脈を三時半に出発して六時に梓山へ着いた。其時は可成かなり急いだのであるが、三時間あれば不足はあるまい。
そして、女といふ女には皆好かれたがる。女の前に出ると、處嫌はず氣取つた身振をする。心は忽ち蕩けるが、それで、煙草の煙の吹き方まで可成かなり眞面目腐つてやる。
漂泊 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
沙漠の砂の一つ一つに充ちている寂しみを舞台の上に漲らせることは可成かなりの難事ではあるまいか。
ダンセニーの脚本及短篇 (新字新仮名) / 片山広子(著)
脂肪それ自らによって肉付きが冷たくなっているのとた通りあるが、かの女はその後者であって、いつも、くっきりした蒼白さは可成かなりな冷たさをもっていたのである。
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
私のやうな少年の目には可成かなりのお婆さん(大へん美し過ぎるお婆さんではあつたが)に見えたけれど、やつと四十位だつたのではなからうか。或はもつと若かつたのかもしれない。
大正東京錦絵 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
し主人が、亡くなった時は、長年家で働いてくれましたので、五千円程の退職金をやろうと思っていました」と証言しているし、又別に最近望月は、素行の点で可成かなり手ひどく
(新字新仮名) / 楠田匡介(著)
可成かなりたくましい赤黒い腕が、たくし上げた縞のシャツの袖口からくゝられたやうに出て見えた。人々は何をするのかと思つてその赤い腕とその上に載せられた白い大根とを見比べた。
手品師 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
紙屋でも苦い面をするようだったが、こっちはそれに気がつかなかった、そうしてあちらの店で一〆買い、こちらの店で一〆買って、可成かなり質の違わぬものを買い集めたものであったが
生前身後の事 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その仲間と云うのは、洋画家で可成かなり天才があり、絵の評判も好く、容貌も悪い方ではなかったが、どうしても細君さいくんになる女が見つからなかった。その見つからないにはすこしわけがあった。
青い紐 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
可成かなりな分量を手に提げて電車にのれるだけはいくらでも買物をする事が出來る。
買ひものをする女 (新字旧仮名) / 三宅やす子(著)
靴で幾度いくたびか探って見ると、これは突出とっしゅつした岩の角で、岩は可成かなりに広いらしい。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
三年も見なかった間に可成かなりな幹になった庭の銀杏いちょうへも、縁先に茂って来た満天星どうだんの葉へも、やがて東京の夏らしい雨がふりそそいだ。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これは、余事ですが、実際奈良島をさがして歩く私たちの心もちは、この猿を追ひかけた時の心もちと、可成かなりよく似てゐました。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
彼は医学生であり、私は実業学校の生徒であった頃から、この私に対して、可成かなり真剣な同性の恋愛を感じているらしいのである。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼のすまツてゐるうちは、可成かなり廣いが、極めて陰氣な淋しい家で、何時の頃か首縊くびくゝりがあツたといふいやな噂のある家だ。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
母が死んでから、もう、元気がないようでしたが、それから、すこし、まあ遊びはじめたのでしょうね、店は可成かなり大きかったのですが、衰運の一途でした。
新樹の言葉 (新字新仮名) / 太宰治(著)
と同時に彼はふと可成かなり重大な事に気がついた。それは彼が二川家から重明の自殺の報知を受けない事だった。
それよりはやっぱり水をわたって向ふへ行くんだ。向ふの河原は可成かなり広いし滝までずうっと続いてゐる。
台川 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
私、どうしても嫌いな男や、私に何も呉れ無かった男にはいくら最後でも何にも遣る気はしないけど、あなたは可成かなり、私の望みにかなって下さったわね。ムッシュウ・小田島。
ドーヴィル物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
従って学校の成績は次第に悪くなるばかりで、予科入学当時は、今の芳賀はが矢一氏などと同じ位のところで、可成かなり一所いっしょにいた者であるが、私の方は不勉強の為め、下へ下へと下ってゆくばかり。
私の経過した学生時代 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
余り沢山読んでいないので分らないけれども、一寸した短篇ながら、“The Juryman”の主人公の心持は、可成かなり作者自身の生活に対する頷きを現わしているものではないだろうか。
以前の住居に比べると、そこには可成かなり間数もあった。岸本は節子に伴われながら、静かな日のあたって来ている北向の部屋を歩いて見た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
取調べには可成かなりの時間をついやしたけれど、被害者鶴子の母親が提出した一通の封書のほかには、別段これという手掛りもなかった。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
すぐ下の谷間にちょっと見ると椎蕈しひたけ乾燥場のやうな形の可成かなり大きな小屋がたって煙突もあったのだ。
税務署長の冒険 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
これなら、ちよいとくるすを爪でこすつて、きんにすれば、それでも可成かなり、誘惑が出来さうである。
煙草と悪魔 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
お金の件、お願いにそむいて申し訳ないが、とても急には出来ない。実は昨年、県会議員選挙に立候補してお蔭で借金へ毎月可成かなりとられるので閉口。選挙のとき小泉邦録君から五十円送って貰った。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
かの子 一面からえば非常にものわかりのいい新鮮らしい女性が多い様に見えるけれど、それは近代の女性に許されている可成かなりの自由と、女性そのものの普遍化された新味から来る自負心じふしんとであって
新時代女性問答 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
見上げるような大きい太い銀杏は墓場を仕切っている土塀どべいの傍に突立っていた。土塀は大方崩れかかっていた。墓場から少し離れた所に本堂があった。本堂は可成かなり大きくて、廻りがずっと空いていた。
贋紙幣事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
この木犀は可成かなりの古い幹で、細長い枝が四方へ延びていた。それを境に、まばらな竹の垣をめぐらして、三吉の家の庭が形ばかりに区別してある。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
可成かなりの知識を持っていたものですから、癲癇による死というものが、如何に不確ふたしかで、生埋めの危険を伴うものだかを、よく心得ていたのです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
先生の信ずる所によると、日本の文明は、最近五十年間に、物質的方面では、可成かなり顕著な進歩を示してゐる。が、精神的には、ほとんど、これと云ふ程の進歩も認める事が出来ない。
手巾 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
凝灰岩ぎょうかいがんが青じろく崖となみとの間に四、五すんつづいてはいるけれどもとてもあすこはつたって行けない。それよりはやっぱり水をわたってむこうへ行くんだ。向うの河原は可成かなり広いしたきまでずうっと続いている。
台川 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「橋本さん」と言えば、可成かなり顔が売れたものだ。「しばらく来ないな——」と正太はつぶやきながら、いくらか勾配のある道を河口の方へ下りた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その人数の中に、名探偵と聞えた捜査課の恒川警部が混っているのを見ると、当局が、引続いて起った、畑柳家の怪事を、可成かなり重大に考えていることが分った。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
同一の作家にした所が、前のと全然異つた作品を書かないものとは限りません。現にストリントベリイなどは自然主義時代とその以後とに可成かなりかけ離れた作品を書いてゐます。
文芸鑑賞講座 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
右隊登場、すべて始めのごとし。可成かなりつかれたり。
饑餓陣営:一幕 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)