叔父おじ)” の例文
よくいいつかったことをわすれたり、また、ばんになると、じきに居眠いねむりをしましたので、よく叔父おじさんから、小言こごとをいわれていました。
人の身の上 (新字新仮名) / 小川未明(著)
この時分に式部卿しきぶきょうの宮と言われておいでになった親王もおかくれになったので、薫は父方の叔父おじの喪に薄鈍うすにび色の喪服を着けているのも
源氏物語:54 蜻蛉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
先生はその上に私の家族の人数にんずを聞いたり、親類の有無を尋ねたり、叔父おじ叔母おばの様子を問いなどした。そうして最後にこういった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
金兵衛を叔父おじと呼び、吉左衛門を義理ある父としているこの仙十郎は伏見家から分家して、別に上の伏見屋という家を持っている。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「おい。本線ほんせんシグナルつきの電信柱でんしんばしら、おまえの叔父おじ鉄道長てつどうちょうに早くそうって、あの二人はいっしょにしてやった方がよかろうぜ」
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
僕のうちの仏壇には祖父母の位牌いはい叔父おじの位牌の前に大きい位牌が一つあった。それは天保てんぽう何年かに没した曾祖父母そうそふぼの位牌だった。
追憶 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「若さま、このうえはいたしかたがありませぬ。相模さがみ叔父おじさまのところへまいって、時節のくるまでおすがりいたすことにしましょう」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分のいた家の前でちょっと車を止まらして中をのぞいて見た。門札には叔父おじの名はなくなって、知らない他人の姓名が掲げられていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ある日、皇帝が叔父おじのフェーシュ氏を訪れてきた時、このりっぱな司祭は控室に待たされていて、ちょうど皇帝がそこを通るのに出会った。
切られたかと思ったほど痛かったが、それでも夢中むちゅうになって逃げ出すとネ、ちょうど叔父おじさんが帰って来たので、それでんでしまったよ。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
クリストフが、ゴットフリートは自分の叔父おじだと言うと、人々は皆びっくりした。盲目娘は立ち上がった。毛糸の玉が室の中にころがった。
それで、おきせさんは未亡人になり、養女お若は血縁の叔父おじ(すなわち餐父)にかれ、まことに心細いこととなりました。
いつぞや有楽座で、チェホフの「叔父おじワーニャ」を素人しろうとの劇団の方たちが演じたおり、奥村さんがギターをく役をなさった事がありました。
平塚明子(らいてう) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
叔父おじのリチャード・ロイドはそのおいを理想的に育て上げることを神聖かつ最高の義務と信じて、これにその一身をささげた。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
『アハハハハハばかを言ってる、ドラ寝るとしよう、皆さんごゆっくり』と、幸衛門の叔父おじさんとしよりも早く禿げし頭をなでながら内に入りぬ。
置土産 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
どうもそれが却下されそうな形勢にあるということも、銀子は倉持から聞いていた。渡弁護士は倉持には父方の叔父おじであり、後見人でもあった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「でも、お父様の形見が一つずつなくなってゆくのが心細いって、昨日叔父おじ様へ泣いておっしゃったじゃありませんか」
眠り人形 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
椙原家の作男さくおとこで吾平というのが、使つかいを命ぜられて西の家へ行った。——西の家とは、敦夫の父の弟で、敦夫たちには叔父おじに当る源治の住居すまいである。
殺生谷の鬼火 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
西紳六郎氏にお子さんがありませんので、赤松家の末男が今西氏の後嗣あとつぎです。それは於菟さんの叔父おじに当る方でしょう。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
そこで新吉は、曲馬団へ入ってそこをげ出すまでのいきさつと、東京へ叔父おじさんをたずねて来て、こうしてまよっていることを一通り話しました。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
ですから妾は、その頃まで独身者で、お金を貸していた叔父おじさんの手に引き取られて、その乳母ばあやのお乳で育ったのよ。それあいい乳母ばあやだったの……。
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「S高原ならK湯に限ります。御紹介しましょう。そこでたった一軒の温泉宿はわたしの、叔父おじが経営してますから」
浴槽 (新字新仮名) / 大坪砂男(著)
「大有りですよ。云い忘れましたが福田氏は妙子さんのお父さんの玉村善太郎ぜんたろう氏の実弟なんです。つまり妙子さんにとっては叔父おじさんに当るわけです」
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
庭に面した露台ろだいの上には、若い孔悝が母の伯姫と叔父おじの蒯聵とに抑えられ、一同に向って政変の宣言とその説明とをするよう、いられているかたちだ。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
当時亮の家には腸チブスがはいって来て彼の兄や祖母や叔父おじが相次いで床についていたので、彼の母はその生家、すなわち私の家に来て産褥さんじょくについた。
亮の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
薄命な母と一しょに叔父おじうちに世話になっていたころ、私は小学校でいつでも首席を占めて、義務教育を終るまで、その地位を人に譲らなかったこと
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
「それが出来ると思つて? 私の叔父おじさんを知つてるわね。あの叔父さんが昨日来てお父さんと話しをしてゐた。」
水に沈むロメオとユリヤ (新字旧仮名) / 神西清(著)
隣家の老翁や叔父おじや学校の先生よりも、もっと私との心のつながりが稀薄きはくで、無であったことを考え、それを父とよばなければならないことを考える。
石の思い (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
その日の午後魔子は来て「パパとママは鶴見つるみ叔父おじさんとこへ行ったの。今夜はお泊りかも知れないのよ」といった。
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
抽斎の事をわたくしに語ってもらいたいと頼んだのである。叔父おじ甥はここに十数年を隔てて相見たのだそうである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
中「存外御無沙汰今日こんにちは思いも掛けない吉事きちじで、早く知らせようと思って、重野しげの叔父おじことほか悦んで居りました」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
Kはすでに、その脚本とひどい上演とにうんざりしていたが、叔父おじを自分のところへ泊めなければならぬという考えが、彼をすっかり打ちのめしていた。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
羅子浮らしふふんの人であった。両親が早く亡くなったので、八、九歳のころから叔父おじ大業たいぎょうの許へ身を寄せていた。
翩翩 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
話したことも、つきあったこともないが、てまえの叔父おじが富士見ご宝蔵の番頭ばんがしらをいたしておるゆえ、ちょくちょく出入りいたしてこの顔には見覚えがある。
突然?……だが、その時まで僕はやはりぼんやり探していたのかもしれなかった。叔父おじの葬式のときだった。壁の落ち柱のゆがんだ家にみんなは集っていた。
鎮魂歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
お葬式でおはかにいったときにね、あたしが叔父おじさんや叔母おばさんたちの間で立ってたら、白いちょうちょうが舞ってきて、あたしの肩のこの花にとまったのよ。
病む子の祭 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
「ああ、正坊。お父ちゃまと、チビ叔父おじちゃまのお迎えかい。おお、よく来たね。オロオロオロオロ、ばァ」
空襲警報 (新字新仮名) / 海野十三(著)
東北の田舎で、母親に死に別れ、たった一人になった祥子は、マレーにいる叔父おじをたよって行く決心をした。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
またお菊は幼少の時孤児みなしごとなり叔父おじの家に養われたりしが、生れ付きか、あるいは虐遇せられし結果にや、しばしばよこしまみちに走りて、既に七回も監獄に来り
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
隣家の大原も前日までは来会のつもりなりしが今朝に至りて大阪より電報達し両親と叔父おじ叔母おばが帰り来るとの知らせにおだい嬢のため引留められて出る事かなわず。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「おれだってわるい人間じゃないぞ。おかあさんも叔父おじさんもそういってらあ。先生がむやみにしかるものだから、わざとあばれてやるんだ。少しは同情してくれ」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
この一軒家の主が、お作のためには、天にも地にもただ一人の親身の叔父おじで、お作はここで娘になった。
ネギ一束 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
叔父おじ叔母おばの見物の案内や、またある先輩の用事の手伝いなどして、謙さんのもてなしができなかったこともあり、そのようにして謙さんを七条に送った時には
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
叔父おじの家の相続人になっている私は、相続のことで帰省していたが、用事も済んで近いうちに上京することになったので、久しぶりにその友人の家へ遊びに往った。
妖影 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
道にふ人も、田畑に見る人も、隣家に住む老人夫妻も、遠きまたは近き血統で、互にすべての村人が縁辺する親戚であり、昔からつながる叔父おじ伯母おばの一族である。
田舎の時計他十二篇 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
近江屋の叔父おじさんや叔母おばさんにも困るな。いつまできつねつかひの行者なんかを信仰してゐるのだらう。
叔父おじに宛てた封書の上書きに、「之介」の字を「の助」と書いていたのには、少からず驚かされた。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
母親のほかに西京にしの方にいるという母方の叔父おじにも来てもらって、話を着け、お繁さんが附き添うて管轄の警察署へ行って、営業の鑑札を返納して来たというのである。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
其墓場の一端には、彼がおいの墓もあった。甥と云っても一つ違い、五つ六つの叔父おじ甥は常に共に遊んだ。ある時叔父は筆のじくを甥に与えて、犬の如くくわえて振れと命じた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ある時、母方ははかた叔父おじが来て、自分はそのひざの間で遊んでいたが、ふと思い出してきいて見た。
大人の眼と子供の眼 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)