南瓜かぼちゃ)” の例文
しかも、それらの中には、五倍の大入道の顔、胡瓜きゅうりのような長っ細い顔、南瓜かぼちゃのように平べったい顔なども、幾十となくまじっている。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
うしろに、細君であろ、十八九のひっつめにって筒袖つつそで娘々むすめむすめした婦人が居る。土間には、西洋種の瓢形ふくべがた南瓜かぼちゃや、馬鈴薯じゃがいもうずたかく積んである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
しかし糸瓜へちまのように巨大な胡瓜きうり、雪達磨だるまのような化物の西瓜すいか南瓜かぼちゃ、さては今にも破裂しそうな風船玉を思わせる茄子なす——そういった
火星の魔術師 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
現にこのあいだも南瓜かぼちゃから小さい蛇が出たと言ってお得意から叱られましたが、それもやっぱり小原さまから頂いて来たのでした。
西瓜 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
屋根を越して来る山の影が、庭にもあり、一段高く斜に見える蔵の白壁にもあり、更に高い石垣の上に咲く夕顔南瓜かぼちゃなどのたなにもあった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そこは昔のさむらいの屋敷跡のように思えた。畑とも庭ともつかない地面には、梅の老木があったり南瓜かぼちゃが植えてあったり紫蘇しそがあったりした。
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
すべすべとふくれてしかも出臍でべそというやつ南瓜かぼちゃへたほどな異形いぎょうな者を片手でいじくりながら幽霊ゆうれいの手つきで、片手を宙にぶらり。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
空気や岩石や水を食べているのじゃないのです。牛や馬や羊は燕麦オートや牧草をたべる。そのために作った南瓜かぼちゃや蕪菁もたべる。ごらんなさい。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
糸瓜へちま南瓜かぼちゃび放題に舒びたつるの先に咲く花が、一ツ一ツに小さくなり、その数もめっきり少くなるのが目につきはじめる。
虫の声 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
さりながら慈悲深き弥陀尊みだそんはそのままには置き給わず、日影の東に回るや否、情ある佐太郎をつかわし給えり、彼はうり茄子なす南瓜かぼちゃ大角豆ささげ
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
三人は、それぞれ、南瓜かぼちゃのかごをひっくりかえしたように、ごろごろと投げだされた。さあ、一体、何事が起ったのであろう。
地底戦車の怪人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
これ等の稲叢の多くには、瓢箪ひょうたん南瓜かぼちゃがからまり、又農夫達が休み場所にする小さな小舎をかけたのもある。図671はそれ等の外見である。
小石川の金富坂を上がって、貧弱な素木しらきの門をはいると、玄関までの十数間が両側に丸太で棚を組んで、頭の上まで、南瓜かぼちゃがぶらさがっている。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
あっちの爺やの畑の南瓜かぼちゃを君んちの爺やが何んとかしたとか云って、どういう行きがかりだったか、たいへん酔払って室生さんちの門の前まで来て
朴の咲く頃 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
わたしはビロードのクッションのうえにごたごたと詰めあうよりは南瓜かぼちゃのうえに独り占めで坐っていた方がましだ。
その真中に切られた囲炉裡にはそれでも真黒にすすけた鉄瓶てつびんがかかっていて、南瓜かぼちゃのこびりついた欠椀かけわんが二つ三つころがっていた。川森は恥じ入るごと
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
その下には黄色い南瓜かぼちゃがごろごろして、美しい丸い腹を太陽に向け、最上等のパイがいくらでもつくれそうである。
私はその午後を、それらを読みながらぼんやりとしてすごし、大チャンの朝つくって行った肉と南瓜かぼちゃの煮つけと、胡瓜きゅうりもみとに、生玉子を添えて食べた。
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
ただ、黒い河水の表面に、南瓜かぼちゃとも薬玉くすだまとも見える円い物がひとつ動くとも漂うともなく浮かんでいるだけ——。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
街道は白っぽく、埃りをため、森閑として人気なく、おしつぶされたように低い家と家との間にある胡瓜きゅうり畑や南瓜かぼちゃ畑の彼方に遠く、三春の山が眺められた。
播州平野 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
『さあ、はたけへ行って、南瓜かぼちゃを一つとっておいで。それがお前さんを、舞踏会へ連れて行ってくれるんだよ。』
シンデレラ (新字新仮名) / 水谷まさる(著)
次に玉蜀黍とうもろこし、馬鈴薯、南瓜かぼちゃを作り、小豆あずき、白黒二種の大豆、大麦、小麦と土地の成長にれて作物の種類を増して行った。併し、そうなるまでが大変だった。
熊の出る開墾地 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
彼は「ええとも、今度来たら締めてしまうから」と言い放って、境の生垣の蔭へ南瓜かぼちゃに似た首を引込めた。結末は意味のふるっている割に、声に力がなかった。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
南瓜かぼちゃのお菜をつけた食事が黙ったままあてがわれた。私はガツガツした野良犬のように御飯をたべた。
顔も南瓜かぼちゃ親爺のようなおどけた顔つきになり、むかしを思いださせるようなものはなにもなかった。
復活祭 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そのお名残なごりといったような気持で、ツイこの間の三月の末コッソリ蟹口の家の様子を覗きに行ってみると、裏庭の野菜や菊畑、屋根の南瓜かぼちゃの蔓も枯れ枯れになって
衝突心理 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
とにかく、アトラスはもっと近づいてから、手を上げましたが、ハーキュリーズはその手に、一本の枝に垂れた、南瓜かぼちゃほどもある、三つの大きな金の林檎を見ました。
山梨県東部の山村では、蕎麦粉と南瓜かぼちゃとを練り合わせたものをオネリということあり、同県西北隅の田舎にあっては、モロコシの粉を練って作る食物がオネリだという。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
西手な畑には、とうもろこしの穂が立ち並びつつ、がかさなり合ってついている、南瓜かぼちゃつるが畑の外まではい出し、とうもろこしにもはいついて花がさかんに咲いてる。
紅黄録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
例えば一つの身体からだをよくしよう、最も身体をよくするには、うまい物を食え、これはなるほどお芋や南瓜かぼちゃばかりでは身体は丈夫にはなるまい、いいことをお話しになッた
人格の養成 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
彼は群らがる女の胴と耳輪を、ぶら下った女の肩で押し割りながら進んでいった。彼の首の上で、腕時計がからみ合った。擦り合う胴と胴との間で、南瓜かぼちゃの皿が動いていた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
女は一般に南瓜かぼちゃ薩摩芋さつまいも胡蘿蔔にんじんなどを好む。男は特にこれを嫌ふといふ者も沢山ないにしてもとにかく女ほどに好まぬ者が多い。これは如何なる原因に基くであらうか。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
僕「ああ、あれがそうなのでしょう。シャツ一枚の豪傑の向うに細いズボンをはいた才子が一人、せっせと南瓜かぼちゃをもぎりながら、『へん、演説か』と云っていましたっけ。」
不思議な島 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
十一日 垣にぶら下がっていた南瓜かぼちゃがいつの間にか垂れ落ちて水引みずひきの花へ尻をすえている。
窮理日記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
旨味おいし南瓜かぼちゃを食べさせないと云っては、おはちの飯に醤油しょうゆけて賄方まかないかたいじめたり、舎監のひねくれた老婦の顔色を見て、陰陽かげひなたに物を言ったりする女学生の群の中に入っていては
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
南瓜かぼちゃをきるように、首をちょんぎってしまった、あんな芸当は掃部様でなきゃ出来ねえ
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そもそも席亭というものはお客さま次第、お客さまさえよろこんでくだされば南瓜かぼちゃ唐茄子とうなすが南京だろうとすぐにオイソレと門を開いて入れてくれるものだ。こう答案がでてきたのです。
初看板 (新字新仮名) / 正岡容(著)
小屋は粗末な掘っ立て小屋にすぎませんでしたが、おじいさんは、いつもきちんと片づけ、貝殻のように白く塗り立てて、まわりには、ささやかな豆や薬草や南瓜かぼちゃの畑をつくっていました。
これは私が鎌倉に移住して後実際の南瓜かぼちゃや瓜を作ってみていちじるしく感じたことでありますが、夏季に至っては瓜や南瓜は黄色い大きい鮮やかな花がまず我等の眼に染みるがごとく映じ
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
緑の葉を拡げた中から目立って強い黄色の花を抽き上げた南瓜かぼちゃ棚の端に赤い布なども干してあった。島を離れると一段高い木地屋だ。細い路が植林した杉の若木の間を蛇の如くうねって行く。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
船の動揺を棚のわくにつかまってささえながら、一々漁夫の間にカンテラを差しつけて歩いた。南瓜かぼちゃのようにゴロゴロしている頭を、無遠慮にグイグイと向き直して、カンテラで照らしてみていた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
先ず生の菓物くだものが四色、即ち芭蕉の実に林檎りんご蜜柑みかん竜眼肉りゅうがんにくというようなもの、それからした菓物が四色、それから西瓜すいかの種に南瓜かぼちゃの種松の杏仁きょうにんといってあんずの種とその四色を四瓜子かしと申します。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ところが驚くべきことに、これに対して彼は符牒ふちょうをもって答えたものだ。私に判らない符牒で——。何か南瓜かぼちゃの親類のような符牒で——。けげんそうな私の面持ちをあわれむように彼は注釈を加えた。
一つのエチケット (新字新仮名) / 松濤明(著)
「茄子、南瓜かぼちゃ、隠元、大蒜にんにく、うちの畑はいいよ、そりゃ。」
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
『オヤ、この南瓜かぼちゃは、毛が生えて腐りかけています』
田崎草雲とその子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
モルダヴィヤ南瓜かぼちゃのようにずんぐりした男の顔とだ。
「馬鹿だよ。群馬県の南瓜かぼちゃ野郎は」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
どつしりと尻をえたる南瓜かぼちゃかな
祖母の云うのはみんな北海道開拓当時かいたくとうじのことらしくてくまだのアイヌだの南瓜かぼちゃめし玉蜀黍とうもろこし団子だんごやいまとはよほどちがうだろうと思われた。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そして僕は、自分のからだが、まるで半分くさった日かげの南瓜かぼちゃのように貧弱きわまるものであることに恥じ、つ自分で自分がいやになった。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)