兵糧ひょうろう)” の例文
すなわち魏の孫礼そんれいは、兵糧ひょうろうを満載したように見せかけた車輛を何千となく連れて、祁山きざんの西にあたる山岳地帯を蜿蜒えんえんと行軍していた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
七月大府おおふに向い、翌永禄元年二月には、義元に叛き信長に通じた寺部城主鈴木重教しげのりを攻め、同じく四月には兵糧ひょうろうを大高城に入れた。
桶狭間合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
おやさしかった多門兵衛様には、すでに矢折れ兵糧ひょうろうつき、この城保ちがたしとご覚悟なされ、ご自害あそばされましてござります。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「もう一度行きますよ、親分。明日は姿を変えて平内様のお堂の前に頑張って、三日分ばかり兵糧ひょうろうを背負ってつけたらどんなもので——」
天正十年のこと、織田信長がこの国に侵入して、法華寺ほっけでらというので兵糧ひょうろうを使っているところへ、色々の小袖を着た女房が一人入って来ました。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
兵糧ひょうろうが尽きて焼芋やきいも馬鈴薯じゃがいもで間に合せていたこともあります。もっともこれは僕だけです。叔母は極めて感じの悪い女です。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
孵化後の雛も一両日間は肛門の内に黄身をれあるなり。これ雛が自由に食物を摂取し得るまでの兵糧ひょうろうと知るべし。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
そのいくさは九ねんもつづいて、そのあいだにはずいぶんはげしい大雪おおゆきなやんだり、兵糧ひょうろうがなくなってあやうくにをしかけたり、一てきいきおいがたいそうつよくって
八幡太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
旅行中用意の品々失策又失策日本出発ぜんに外国は何でも食物が不自由だからとうので、白米を箱に詰めて何百箱の兵糧ひょうろうを貯え、又旅中止宿ししゅくの用意と云うので
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
半四郎は飯櫃おはちと重箱とほかに水道の水を大きな牛乳かん二本に入れたのを次ぎ次ぎと運んでくれる。今夕の分と明朝の分と二回だけの兵糧ひょうろうを運んでくれたのである。
水籠 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
ここには土居を築き土俵を積んで胸壁を起こすものがある。下諏訪しもすわから運ぶ兵糧ひょうろうでは間に合わないとあって、樋橋には役所も設けられ、き出しもそこで始まった。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いいえめしは持つてます、うせ、人里ひとざとのないを承知だつたから、竹包たけづつみにして兵糧ひょうろうは持参ですが、おさいにするものがないんです、何かちっと分けてもらひたいと思ふんだがね。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
のみならず途中の兵糧ひょうろうには、これも桃太郎の註文ちゅうもん通り、黍団子きびだんごさえこしらえてやったのである。
桃太郎 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
兵糧ひょうろう係のかれはぬけめなく、水筒すいとうにいっぱいつめこんだ。ぼくらも思い思いに顔をあらった。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
清兵衛せいべえはがんばった。そして、日に一度ぐらいわたされるにぎりめしを自分は食わずに馬に食わせたり、また、戦場にころがった明兵みんぺいの腰から、兵糧ひょうろうをさぐって朝月あさづきにあたえた。
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
まあ、まア、そう急ぐことはない。これから府中までは七里半の道。じゅうぶんに兵糧ひょうろう
顎十郎捕物帳:23 猫眼の男 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
平日の薪採たきぎとりが十分で、事あらば駈け登るべき嶮岨けんその要害山にも近く、さらに家人郎従を養うだけの田園があって、籠城の兵糧ひょうろうも集めやすく遠見と掛引きとに都合の好い山城は
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「だって、兵糧ひょうろうをつめないことには、いくらあっしだって、いくさはできませんよ」
やがて正午ひる近くなって、人も馬もとあるかしの樹の森に這入って、兵糧ひょうろうつかいながら一休みしてからは、夕方ここで又会う約束で、四十人が四組にわかれて、四方の山や谷を残る処無く探した。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
「我々は敵にかこまれている、しかしこの砦はかたい、兵糧ひょうろうも弾薬もたくさんある、そして一日二日のあいだには三百人の後援隊が来るんだぞ、それよりおくれることは絶対にない、一日か二日だ、そのあいだがんばってくれ、わかったか」
梟谷物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
『甚だ恐れ入るが、これは昨夜、兵糧ひょうろうに持参いたしたむさい物でござる。もはや不用になりました故、どこぞお取捨てくだされい』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
働き盛りの壮丁わかものは国をこぞって召し上げられ廩米は兵糧ひょうろうにつけ出されて、我々女や老人の口へはそれこそ一粒もはいりはせぬ。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「よし十人二十人の討手が向うたからとて、かくの如く兵糧ひょうろうさえ充分なら、何の怖るることはない」
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「まさか、蚊に喰殺されたという話もない。そんな事より、恐るべきは兵糧ひょうろうでしたな。」
女客 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
郷里くにの方からでも、すこし兵糧ひょうろうを取寄せたら可いじゃ有りませんか」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一、一夜陣の儀に候条、乗衆のりしゅう兵糧ひょうろうつみ申すまじく候事。
厳島合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
昨夜おそく、清洲にはいった諜報によれば、三河の松平元康は、大高の孤城へ兵糧ひょうろうを送り入れよとの命をうけて、駿府表より立ったとある。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一軍はここで暫時しばらく停まり悠々と兵糧ひょうろうを使いながら追手のかかるを待ち構えた。しかし追手はかからなかった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
構はず兵糧ひょうろうを使ひつゝ
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
これをも打ち叩かずに、何で、長篠の包囲を解き、むなしくここの陣を退けよう。——長篠の孤城はすでに兵糧ひょうろうも尽き、兵はみな生色もない。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すわこそお家の一大事と、館中の武士も女達も、この注進を聞くと共に、武者振るいして立ち上がり、武器の手入れや兵糧ひょうろうの仕込みに寝食を忘れて働き出した。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
やっと、夜が明けてから、仮屋かりやのすみで、すこし眠ったが、朝の兵糧ひょうろうを分けてもらうと、逃げることに、心をきめた。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すでにへいみ、兵糧ひょうろうもとぼしく、もとより譜代ふだいの臣でもない野武士のぶしの部下は、日のたつほどひとり去りふたりにげ、この陣地をすて去るにちがいない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「御家老さま。お風呂をお召しなさいませぬか。おさむらい衆、足軽衆まで、はや夕餉ゆうげ兵糧ひょうろうもおすみになりましたが」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その姿を見つけた稲葉山城の兵たちも、味方とばかり思って、附近の薪倉まきぐらだの、籾蔵もみぐらなどの棟の下で、たむろしながら、朝の兵糧ひょうろうを喰って、雑談などしていた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
途中、洲股すのまた川を南へわたると、一城が眼についた。木下藤吉郎の洲股城である。その一軍は、船を降りると、城内の味方から、湯茶兵糧ひょうろうなどの接待をうけた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おお、ついて来い。佐吉は、うしろにいて働け。うしろの兵糧ひょうろう方や大荷駄のやり繰りなど、しかとやれよ」
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おおせながら、ひとたび軍旅を遠くはせて、とうげしずたけ険路けんろを、吹雪ふぶきにとじこめられるときは、それこそ腹背ふくはい難儀なんぎ、軍馬はこごえ、兵糧ひょうろうはつづかず
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「——勝吉が参れぬとあれば、余人もまた、城を出るを、いさぎよしとすまい。……というて、むなしく援軍の来るのを待つもどうか。わずか四、五日しかない兵糧ひょうろうを喰って」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夕がたの兵糧ひょうろうかしぎに、城外の陣場は、どこも煙っていた。馬糞まぐそや汗のにおいに、人馬ともごった返している中を、かの女は、おそれげもなく、物見組と一しょに通った。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、敵の夜襲に備えて、夕方、兵糧ひょうろうをつかった後は、身じろぎもせず、弓をにぎり、太刀をつかみ、一刻一刻、息をこらして、更けゆく富士川の水を睨んでいるのだった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「城中兵糧ひょうろうは、もういくらもないぞ。いたずらに、力攻めして兵を損傷するには当らん」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また傷負ておいをたすけたり、兵糧ひょうろうかしぎに働いたり、どこもかしこも混乱沸くが如き騒ぎを呈しておりながら、しかも誰が命じるでもなく、ひとすじの秩序はその中にきちんと立っていて
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小屋のわき手に積んである兵糧ひょうろうだの陣具だの濡らしてならない品を囲んである中に、紺糸縅こんいとおどしのよろいに、黒革の具足をつけた武士が、幕を引っかついで眠っていたが、むっくりと起きあがって
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
急に真夏を思わせてはかんかんと照りつけ、行儀のわるい荷駄にだ人夫が物売り店にたかって盛んに喰ったりわめいたりしているかと思えば、兵糧ひょうろうを載せた牛車をはさんで足軽同士の口喧嘩だ。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
例のぼう切れを刀のように腰へさして、ひえと草の団子だんごにした兵糧ひょうろうをブラさげて、ヒラリと鷲の背にとびつくが早いか、鷲は地上の木の葉をワラワラとまきあげて、青空たかく飛びあがった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
放ち物見ものみ、大物見を先に、四段に備え立て、中軍をまん中に、鉄砲隊、弓隊、槍隊、武者隊とつづき、兵糧ひょうろう、軍需の物を積んでゆく荷駄隊は、最後方から汗をふりしぼってそれにいて行った。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれど、以上の急迫を告げているほかに、孤立の城内には、兵糧ひょうろうも乏しく、松杉の木の皮を餅にして喰べ、合戦の日だけは、米のしるを兵に飲ませているなどという窮状の一端などがしたためてあった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「船がありません。兵糧ひょうろうもつづきかねます。兵力も不足で——」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は一たん兵を平野へ下げて兵糧ひょうろうをとり、再度山へ攻め登った。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)