公達きんだち)” の例文
「ナニ、京師飛鳥井家の公達きんだち、右京次郎となのっているとな? ふうむこいつは眉唾ものだな。……で、同勢は幾百人とか云ったな?」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
参詣の帰りに岩田川を渡った時、嫡子維盛始め公達きんだちが、折柄、夏の事で暑い盛りでもあったので、涼みがてら水遊びなどをした。
岩倉少将(具定ともさだ)、同八千丸やちまる具経ともつね)の兄弟きょうだい公達きんだちが父の名代みょうだいという格で、正副の総督として東山道方面に向かうこととなったのである。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
人のうわさによると、戦ぎらいの公達きんだちは、よく、三井みいや、叡山えいざんや、根来ねごろなどの、学僧のあいだに、姿をかえてかくれこむよしです。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時の御門を悩ましたてまつろうとするとき、公達きんだち藤原治世の征討を受け、かたきと恋に落ちて、非望をなげうつという筋の、通し狂言——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
足利義尚の六角征伐のごときは、藤氏全盛時代の公達きんだちには見られぬ現象であって、この見地からするも両時代の差を分明に示すものであろう。
三代の実朝さねとも時代になってもまだそんなふうだったから、この時代の鎌倉の千手の前が都会風の洗練された若い公達きんだちに会って参ったのだろうし
東海道五十三次 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そして摘草つみくさほど子供こどもにとられたとふのを、なんだかだんうらのつまり/\で、平家へいけ公達きんだち組伏くみふせられ刺殺さしころされるのをくやうで可哀あはれであつた。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼らはおそらく平家の名ある人々の公達きんだちで、みやこ育ちの優美な人柄であるのを幸いに、官女のすがたを仮りて落ちのびて来たものであろう。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
娘がおおぜいいると聞いて、ともかくも世間から公達きんだちと思われている人なども結婚の申し込みに来るのがおおぜいあった。
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
それ故に或画に賛をする時にはその賛とその画と重複しては面白くない。例へばきつね公達きんだちに化けて居る画が画いてある上に
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
横幅廣く結ひ下げて、平塵ひらぢりの細鞘、しとやかに下げ、摺皮すりかは踏皮たびに同じ色の行纏むかばき穿ちしは、何れ由緒ゆゐしよある人の公達きんだちと思はれたり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
十八世紀の中葉には、身分の高い公達きんだちらは公然とめかけをたくわえていたが、中流民らは妾を置いてもそれを隠していた。
御子左の家柄としては極位極官である。それにこの昇進の早さは、たしかに大臣家の公達きんだちに互角であった。父定家はそれを見て世を去ったのである。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
「平家の公達きんだちも、そこに落ちて、居ついているくらいですから、わたしなんぞも、住めないはずはないと思います」
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「早い話が、何家どこの大事な公達きんだちだツて、要するに、親の淫行の收穫よ。ふゝゝゝ」とあやふく快げに笑出さうとして
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
希臘ギリシャ羅馬ローマか古代埃及エジプトか? それはわからなかったが、いずれは由緒ある貴族の公達きんだちか姫君なのであったろう。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
この平家の公達きんだちのような美少年は早くから知っていたが、この人が眉山人であるとは少しも知らなかった。
いま日本に於いて、多少ともウール・シュタンドに近き文士ぶんしは、白樺派の公達きんだち葛西かさい善蔵、佐藤春夫。
それにつけても肥後守ひごのかみは、——会津中将は、あおい御一門切っての天晴あっぱれな公達きんだちのう! 御三家ですらもが薩長の鼻息うかごうて、江戸追討軍の御先棒となるきのう今日じゃ。
十万石の怪談 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
若君一人儲かったのだけれど、今は御正腹に、綱政つなまさ政言まさとき輝録てるともの三公達きんだちさえあるのだから、それにも実は及ばぬ次第。近々御隠居ともならば、私田を御次男御三男にも御分譲。
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
「菊川に公卿衆泊りけりあまがは」(蕪村ぶそん)の光景は、川の面を冷いやりと吹きわたる無惨の秋風が、骨身に沁みるのをおぼえようではあるまいか、更にそのむかし、平家の公達きんだち重衡しげひら朝臣あそん
天竜川 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
秀次の公達きんだちや妻妾共が三条河原で斬られた日、鹿垣しゝがきの外でその有様を窺い、阿鼻叫喚あびきょうかんのこえに断腸の思いを忍んでから後の順慶であって、彼が舊主三成の残虐を恨み、豊臣氏の天下をのろって
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「不忠者っ。御当代の公達きんだちを呪う輩を、守って、それで、薩摩隼人かっ」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
とにかく、綾小路らの公達きんだちが途中から分かれて引き返してしまうのはよくよくです。これにはわれわれの知らない事情もありましょうよ。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
手もとへよせて、怪力かいりき若僧わかそうが、また、虫でもつまむように引っとらえた時である。いつか、六部ろくぶのうしろまで進んできたひんよき公達きんだち
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と主な家臣に言い遣わしたが、平家の公達きんだちは何かと口実を設けたり、とやかく言って誰も辞退して引き受けぬ。能登守の所にも使者が来た。
諏訪因幡守いなばのかみ忠頼の嫡子、頼正君は二十一歳、冒険敢為かんい気象きしょうを持った前途有望の公達きんだちであったが、皆紅の扇を持ち、今船首へさきに突っ立っている。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
曲のありふれたものでない楽が幾つか奏されて、舞い手にも特に選抜された公達きんだちが出され、若い女に十分の満足を与えた。
源氏物語:24 胡蝶 (新字新仮名) / 紫式部(著)
苟も身一門の末葉につらなれば、公卿華胄の公達きんだちも敢えて肩を竝ぶる者なく、前代未聞ぜんだいみもんの榮華は、天下の耳目を驚かせり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
公達きんだちと兵馬とは、親しくその光景を見て、動物の有する相互扶助と、それから、無政府状態にして一糸乱れざる統制ぶりに、まず感心させられました。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
果せるかな、礼之進が運動で、先生は早や平家の公達きんだちを御存じ、と主税は、折柄も、我身も忘れて
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
本庄采女……。どのような奴であったかのう。おお、思い出した。都落ちの平家の公達きんだち
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
行平どのは根が公卿育ちの芋の煮えたも御存じなきノホヽンだから今度は御自身毎日車に召して深草の百夜もゝよ通ひも物かはと中々な御熱心であつた。何しろ身分は伯爵の公達きんだちである。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
「その七割はおれのものだ。」また、商人は倉庫に満す物貨を集め、長老は貴重な古い葡萄酒ぶどうしゅあさり、公達きんだちは緑したたる森のぐるりに早速縄を張り廻らし、そこを己れの楽しい狩猟と逢引あいびきの場所とした。
心の王者 (新字新仮名) / 太宰治(著)
公達きんだちきつねばけたり宵の春
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
しかし学内でも、卒業後も、貴族の公達きんだちと、地下人ちげびとの息子とは、学科から待遇にまで、差別があった。当然、ふたつのものは、水と油だった。
香炉を持って仏事の席を練っていた公達きんだちがそれを取り次いで仏前へ供えた。紫の女王の手紙は子息の源中将が持って来た。
源氏物語:24 胡蝶 (新字新仮名) / 紫式部(著)
綾小路あやのこうじらの公達きんだちを奉じて出かけたものもあるが、勅命によってお差し向けになったものではないとまで断わってある。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
前髪黒く顔白く、眼に張りあって愛嬌あいきょうあふれ、唇あかく鼻高く、堂上方の公達きんだちか大管領の若者かと思われるようなその気高さ、莞爾かんじと笑って座についたが
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
君ならでは人にして人に非ずとうたはれし一門の公達きんだち宗徒むねとの人々は言ふもさらなり、華冑攝籙くわちゆうせつろく子弟していの、苟も武門の蔭を覆ひに當世の榮華に誇らんずるやから
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
赤地の錦の直垂ひたたれを着て、髪は平紐で後ろへたれ、目のさめるほどの公達きんだちぶりで座をかまえておりましたが、やがて、その周囲へ集まったこの屋敷の頭株が
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
開かれ其後自身に戰場せんぢやうへ向はれし事なく木曽義仲公きそよしなかこう追討つゐたうきざみは御舍弟範頼義經兩公達きんだちに命ぜられ宇治瀬田の二道より進で一戰に木曽氏を討亡うちほろぼし續いて兩御舍弟を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
批評も小説も新躰詩も何でも巧者じやうずで某新聞に文芸欄を担任する荒尾あらを角也かくなり耶蘇教やそけうの坊さんだとかいふアーメン臭い神野かみの霜兵衛しもべゑ、京都の公卿伯爵の公達きんだち鍋小路なべこうぢ行平ゆきひら——斯ういふ人達だよ
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
「無論さ。」と、忠一は首肯うなずいて、「五個の庄の住民はいずれも平家に由縁ゆかりの者で、彼等は久しく都の空気を呼吸していた。平家の公達きんだち殿原とのばらその当時における最高等の文明人種であったのだ。 ...
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
公達きんだちに狐ばけたり宵の春
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
御簾みすの中から和琴を差し出されたが、二人の公達きんだちは譲り合って手を触れないでいると、夫人は末の子の侍従を使いにして
源氏物語:46 竹河 (新字新仮名) / 紫式部(著)
秀吉はあわれみつつ胸にえがいた。典型的な名門の公達きんだちがそこには思い出されるのだった。救いがたき性情の持主を感ぜずにいられないのである。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こうして、かつては九重ここのえの奥深く、顔さえみることもできなかった平家の公達きんだちの首が、都大路を幾万という観衆に見世物にされて渡されることになったのであった。
かの高村卿と呼ばれた公達きんだちと、宇津木兵馬とは、この時、右の屋敷に居合わさなかったのは確実です。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)