不可いか)” の例文
或る夕方、夜警に出ていると、警官が四、五人足早に通り過ぎながら、今二人れて来るからっちゃア不可いかんぞと呼ばわった。
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
しかし何ぼ何でも、そんな引っこき詰めのグルグル巻の頭では不可いかんぞ。伊豆の大島に岡沢の親戚しんるいがあるように思われては困るからの……
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そして「汽車賃だけは上げるから、帰んなさい。帰って、家の手助けをせにゃ不可いかん。おまえは、おいくさんの長男ではないか」
「貴娘内へ帰って、父様にこんな事を話しては不可いかんですよ。貴娘の名誉を重んじて忠告をしただけですから、ね、いですかね、ね。」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「そうさ、俺達の友情はこの東京で育つに工合がいいんだ。お前ミサコさんに世間ありふれたお粗末な友情でおつきあいしては不可いかんよ。」
女百貨店 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
不可いかん、不可いかん、下劣げれつきよくだ」と先生がたちまにがい顔をした。その云ひ方が如何いかにも下劣らしいので、三四郎と美禰子は一度に笑ひした。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
世に処して成功しようと思うには女房にれなくては不可いかんと言われたそうですが、誠にあじわうべき言葉で、気に食わぬ点はなるべく寛大に見て
離婚について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
仲々さうは不可いかぬもので、どうも帽子を逆さに冠つたり、袴を逆にはいたりするやうな過失に陥り勝ちなものである。
些細なやうで重大な事 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
遊ぶのは勿論もちろんならんし、話をしても不可いかん。今後、この規則を破るものがあったら、発見次第それぞれの所属チイムの責任者によって、処分してもらう。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
「それは不可いかん。貴方は、名誉とか地位とか、そのようなものは、すべて捨ててしまいなさい。すべてを捨てなければ、洗礼を授けるわけにはゆかない」
実際、酒は不可いかんです。僕も酒は何によらず一滴もるまいとは思つて居るんですが、矢張り多少は遺伝ですね。
一月一日 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「今度はことると拳銃ピストルを使わなければならなくなるかも知れんぞ。だが撃つにしても足を狙い給えよ、決して足のほかは撃っちゃ不可いかんぜ、——来給え」
亡霊ホテル (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「あのおとこはまことによい男だが、惜しいことには、宗教家であるため、弱くて不可いかぬ。あれにいっそうほねっぽいところがあれば、実に見上げた人間だのに」
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そして脈を觸つたり、眼瞼を開いたりして見たが、最後に右手で輕く好い音を立てて、屍體の胸をはたと叩いて、其れと同時に、「もう不可いかん。」と言つた。
少年の死 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
「困ったもんだよ! 早速本署へ急報しなくちゃ不可いかん! 上原君、君一寸行って呉れんか——」
鋳物工場 (新字新仮名) / 戸田豊子(著)
「この期日の間違いには、銀行として応じるわけには不可いかないそうでありますが、あなたは日本の方ですから、特にこのびは、規則を破ってお払いすると、云いました」
罌粟の中 (新字新仮名) / 横光利一(著)
そんなことで打込ぶちこまれた人間も、隨分無いこともないんだから、君も注意せんと不可いかんよ。
子をつれて (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
米櫃こめびつに責められ、脱稿の目あても立たぬうちから校正が山を積み、君いくら苦労したって誰も君の作とは思っちゃれんよと友人に笑われ、すらすら読めるから不可いかんと叱られ
翻訳遅疑の説 (新字新仮名) / 神西清(著)
アーぼくはね開成学校かいせいがくこう書生しよせいぢやがね、朋友ほういうどもすゝめにればうもきみ世辞せじうて不可いかぬ、世辞せじうたらからうちうから、ナニ書生輩しよせいはい世辞せじらぬことではないかとまうしたら
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
少しの間船艙せんそうに隠れていて貰わにゃならんが、そこはだだっ広いから、君等は鱈腹食って飲んでころんでいてくれればいいので、その代り物音を立てたり、大声で饒舌しゃべったりしては不可いかんよ。
「まだまだ。そうあわてては不可いかんよ。暢気のんきにしていたまえ」
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
「貴様は直ぐ其様そんな卑猥ひわいなことを言ふから不可いかんよ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「それは不可いかんでしょう」と彼はどなった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
「そうも不可いかンたい、相場があるけンな」
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
これぁ不可いかん。こうして
鳥料理 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
(美女に)貴女あなた、おい、貴女、これを恐れては不可いかん、私はこれあるがために、強い。これあるがために力があり威がある。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お前は役人とか金持ちとかいうと、直ぐに白い眼で見る癖があるから不可いかん。……よしんば貴様の云うのが事実としても尚更の事じゃないか。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
五六ぷんして、代助はあにともに自分の席にかへつた。佐川のむすめを紹介される迄は、あにの見え次第げる気であつたが、いまでは左様さう不可いかなくなつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
『これで両三度見たぞ。いぶかしい奴、捕えてみい。……あっ不可いかん、こっちを振向いた。平助、はやく行け』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「黙って待つんだ、音をさせては不可いかん。亡霊は人のいる気配でも嫌うからな、——なるべく楽にして、僕が合図するまではどんな事があっても動かないように」
亡霊ホテル (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「右の手に算盤そろばんを持って、左の手に剣をにぎり、うしろの壁に東亜図を掛けて、ふところには刑事人類学を入れて置く、これでなければ不可いかん、」などとしきりに空想を談じていた。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
文体は必ずうだと限定出来ないネ、例え調子が不可いかんと言ったって調子がつかなければうにも出せない感じの場合もある、(中略)作品は一つ一つ各々違った文体を持つのが当然だネ
翻訳遅疑の説 (新字新仮名) / 神西清(著)
そりや君不可いかんよ。都合して越して了ひ給へ。結局君の不利益ぢやないか。
子をつれて (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
「いや、入れちゃ不可いかん。癖になる。」
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
どちらとも彼奴あいつの返事をお聞き下さい。あるいは、自分、妙を欲しいではないが、ほかなら知らず河野へはっちゃ不可いかん、と云えば、私もおことわりだ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「まだかない。其内そのうち電気にするつもりださうだ。洋燈ランプくらくて不可いかんね」とこたへてゐると、急に、洋燈ランプの事は忘れたと見えて
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
来たら出来るだけ身軽にしとかんと不可いかんと思いまして、慣れた者の飴売りの身支度をして待っておりますと……ヘエ。ツイ一時間ばかり前の事で御座います。
骸骨の黒穂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
『これ、そこの職人、おまえの鑿は、ぞんざいで不可いかぬ。数寄屋普請すきやぶしんをしたことがないのか、面皮めんかわの柱に、そんな安普請のような雑な仕事をしてくれては困る』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そりゃ不可いかん。転地したらどうだい、神経衰弱なら転地が一番だ、」というと
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「まだ九時前だね。よろしい、——君はお家へ電話をかけて、妹さんは此方こっちへ泊ることになったと知らせてあげるんだ。お母さんに心配をかけると不可いかんからな、それが済んだらゆっくり寝て宜しい」
亡霊ホテル (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「そいつあ不可いかんよ君。……」
子をつれて (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
親爺おやぢは戦争にたのを頗る自慢にする。やゝもすると、御まへ抔はまだ戦争をした事がないから、度胸がすわらなくつて不可いかんと一概にけなして仕舞ふ。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
いや、貴女でなくては不可いかんのです。ですから途方に暮れます。その者は、それにもう死にかかった病人で、翌日あすも待たないという容体なんです。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
巡査の握りこぶしの上に芸者のお尻がノシかかって来る。仲居なかいの股倉が有志の肩に馬乗りになる。「降りちゃ不可いかん降りちゃ不可ん」と下から怒鳴っているんだからたまらない。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そして、結論は、いつも、「閥族政治は、不可いかん」——である。それから、また
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夫から日本にも来てゐるが、矮狗ちん位な大きさで頭の毛が長く幾すぢとなく前額ひたひに垂れて目をかくしてゐる「スカイ、テリヤー」といふ奴、彼奴あいつはどうも汚臭ぢゞむさくて、人間なら貧乏書生染みて不可いかんな。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
「そいつあ不可いかんよ君。……」
子をつれて (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
親爺は戦争に出たのをすこぶる自慢にする。ややもすると、御前などはまだ戦争をした事がないから、度胸が据らなくって不可いかんと一概にけなしてしまう。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
い医者にかけなけりゃ不可いかんよ。どんな病気だ、ここいらは田舎だから、」とついとおりの人のただ口さきを合せる一応の挨拶のごときものではない。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「本気で、本気で投げんと不可いかん。投げんと殺されるぞ。力一パイ。肩をはずいて。そうそう」
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)