ろう)” の例文
時鳥ほととぎす啼くや五尺の菖蒲あやめ草を一杯に刺繍ぬいとった振り袖に夜目にもしるき錦の帯をふっくりと結んだその姿は、気高く美しくろうたけて見える。
紅白縮緬組 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして再び身慄みぶるいに襲われた。なぜならば、ろうやかに化けた女狐めぎつねのように——草の根におののいていた女は、野で見るには、余りに美しい。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
髪の毛のかかり具合から、姿、形まで、何ともみやびやかでろうたけた物腰は、とてもこの世の人とは思えぬような美しさである。
といいてこうべを傾けぬ。ちかまさりせるおもてけだかく、眉あざやかに、瞳すずしく、鼻やや高く、唇のくれないなる、額つき頬のあたりろうたけたり。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……ろうたけた、ほんとうに、この世のものとも思われぬようなつややかな顔を空へ向け、ぐったりと、死んだようになって、眼を閉じていた。
墓地展望亭 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
疋田鹿ひったか長襦袢ながじゅばんに、麻の葉の扱帯しごきを締めて、大きい島田を、少し重く傾げた、ろうたけた姿は、ガラッ八が見馴れた種類の女ではありません。
ろうたけた姫君か何かが、相馬の古御所といったような中で、ひとり琴を弾じているような姿にしか見えないから、竜之助は、なんだか夢のうちに
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
浪路は、このろうたける、しとやかな優人わざおぎと、世情にうとく、色黒な小柄な貴人とを思い比べて見ることさえ、苦しく、やるせなく、心恥かしかった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
愛している妻の静子の顔までが、此のろうたけた瑠璃子るりこ夫人の美しい面影のために、屡々しばしばき消されそうになっていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
とそこへ、たくみにガウンを捌いてくるろうたけた一人の婦人。みれば、頭上には王冠を戴いている。
人外魔境:10 地軸二万哩 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
わたしは、昔物語のなかの、なにがしの御息所みやすどころなどいうろうたげな女君めぎみに思いくらべていたりした。
大橋須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
早出のを食はうとぬるい水にもんどり打つ池の真鯉まごい——なやましくろうたけき六月の夕だ。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
ろうたけた貴婦人と見せかけながら、拳銃ピストルに短剣二口ふたふり莫連女ばくれんおんなの正体を完全に暴露した。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
ろうたけた祖母の白い顔の、額の両端から小さい波がちりちりと起り、顔一めんにその皮膚の波がひろがり、みるみる祖母の顔をしわだらけにしてしまった。人は死に、皺はにわかに生き、うごく。
玩具 (新字新仮名) / 太宰治(著)
中心になるおかみさんがこの家のおかみとしてろうたけていすぎるのです。
しかし一度は貴人の別荘とされて、都あたりから、糸毛のくるまろうたけた麗人が、萩を分けて通ったこともありそうな家造やづくりなのである。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
といひてこうべを傾けぬ。ちかまさりせるおもてけだかく、眉あざやかに、ひとみすずしく、鼻やや高く、唇のくれないなる、ひたいつき頬のあたりろうたけたり。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
女は年頃十八あまり、頭には黄金の烏帽子えぼしを冠ぶり腰に細身の太刀たちき、萌黄色もえぎいろ直垂ひたたれを着流した白拍子しらびょうしろうたけた姿である。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ろうたき眉も、柔かく通った鼻筋も、まるい美しい曲線を見せた顎も、死骸という感じを超越して、砕かれた人形の、砕かれ残った美しさを惜しむような
又、生捕られた女房たちは、女院、北政所きたのまんどころろう御所おんかた、大納言佐局すけのつぼね帥佐そつのすけ、治部卿局以下四十三人である。
が、幾何いくら強く思い切ろうとしても、白孔雀くじゃくを見るような、ろうたけた若き夫人の姿は、彼が思うまいとすればするほど、いよいよ鮮明に彼の眼底を去ろうとはしなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
素地きじろうたけた官女で、十二単じゅうにひとえかなんぞで出たらよかりそうなものを、鬼に撫でられたんでは、入道もあんまりいい心持もしなかったろうけれど、利き目は確実にあったらしい。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
朝な夕なにこの芝生の中の遊歩道を我々のところへ食膳を捧げ持ってくる姿や、時にはろうたけたロゼリイス姫のお伴などをしながら、ゆらりゆらりと歩を運んでくる姿というものを
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
そのろうたけたすがたに似もやらぬ、武芸のたしなみといい、何とはなしに感じられる、身のまわりの妖気——浪路が、一目見て、いのちもと思い込んだにも、あやしさがある——さては
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
……そのころお年齢としは二十八で、ろうたげなとでも申しましょうか、たいへんに位のあるお顔つきで、おとりなしはくお優しいのですが、なんとなく寄りつきにくいようなところもあって
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
と思いながら、じッと地べたをみつめてゆくと、御方のろうやかな姿やお延のあの艶めかしさが、足もとへからむようにいてくる。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まぎれもないスペイン型、ろうたけた若い美人である。と、お町うつむいた。メダルへくちびるを触れたのである。いつかあゆみもとまっている。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お秀のろうたけた美しさと、お千勢母娘おやこのやり手らしい様子を比べて、平次はもうこれだけの判断をしていたのです。
とばかりありて眼のさきにうつくしき顔のろうたけたるが莞爾にっことあでやかに笑みたまいしが、そののちは見えざりき。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白河法皇の女御にょうごで、最後は、ろう御方おんかたと呼ばれる、花山院の上﨟じょうろうであった。
きっぱりとわせ、折鶴の紋のついた藤紫の羽織はおり雪駄せったをちゃらつかせて、供の男に、手土産てみやげらしい酒樽たるを持たせ、うつむき勝ちに歩むすがたは、手嫋女たおやめにもめずらしいろうたけさを持っている。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
心配そうに見張った黒い美しいひとみ象牙彫ぞうげぼりのように気高い鼻、端正な唇、しろつややかな頬、こうした神々こうごうしいろうたけた夫人の顔を見ていると、彼女の嘘、偽りが、夢にもあろうとは思われなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
月夜の踊の手ぶりというのはどうしてこうもろうたげなのであろう。
生霊 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
恍惚うっとりと父君にもたれかかるようにして、清らかな横顔、あご、頸筋をこちらにのぞかせているロゼリイス姫の玲瓏れいろうさ! 白絹の垂れ幕の彼方ながら、透き徹らんばかりにろうたけた神々しさ! 何かは知らず
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
……だから、よく絵巻などに見える楠公夫人のろうやかな肖像——あの貴夫人めいたおすがたなどは、絵そら事といってよい。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
水のように清らかの秋の夜は、しっとりとしてけて行った。遠くの部屋から鼓の音が、いともろうたけて聞こえて来た。遊女の唄う小唄の声も。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
とばかりありて眼のさきにうつくしき顔のろうたけたるが莞爾につことあでやかにみたまひしが、そののちは見えざりき。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
お袖はとって二十一、留守の兄彦太郎は二十八、ろうたく美しく育って貧しさにしいたげられながらも、人などを殺せそうな人柄でないことは平次にもよく判ります。
なんという、ろうたけた面ざしであろう。
墓地展望亭 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
美しい惑星とは、御方のような女性を指すのではあるまいか、みやびた言葉づかいと云い、品位と云い、またろうたけた姿。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
藤と菖蒲あやめをとりあわせた、長い袂の単衣ひとえが似合って、ろうたけてさえ見えるその娘は、とりなすようにそういうように云い、気の毒そうに壮年武士を見た。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
はたると、渠が目に彩り、心に映した——あのろうたけた娘の姿を、そのまま取出して、巨石おおいしの床に据えた処は、松並木へ店を開いて、藤娘の絵を売るか
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
椎茸髱、白粉おしろい、笹紅の御守殿に取かこまれ、許婚いいなずけの絹姫のろうたき姿を見ながら、忠弘は悩みに悩みました。
蔵六のことばを民草のしおらしい真心と聞いたか、ろうたけた声音こわねの主は、計ろうてとらせてやるがよいと、内で云った。
日本名婦伝:大楠公夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
月の光に化粧された、その女の容貌きりょうが、余りにも美しく余りにも気高けだかく、あまりにもろうたけていたからである。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
灯を持って、入口に迎えた娘お筆の、ろうたけて美しいのを見ると、平次もさすがに二の足を踏みました。
姫百合ひめゆり姫萩ひめはぎ姫紫苑ひめしおん姫菊ひめぎくろうたけたとなえに対して、スズメの名のつく一列の雑草の中に、このごんごんごまを、私はひそかに「スズメの蝋燭ろうそく」と称して、内々贔屓ひいきでいる。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小茶ちゃんにいて奥へ通ってゆく彼女のひなに稀れな眉目みめと、どことなく、ろうたけているとでもいうか、品のあるすがたに、眼と囁きを送っていた。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、吟味所の裏木戸が、内からひそかに開けられた。つと現われた人影は、どうやらうら若い女らしい。それもろうたけた窈窕ようちょうたる高貴の姫君ではあるまいか。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お秋のろうたき美しさをガラッ八は知りすぎているだけに、この頼みを蹴飛ばしかねました。