飴色あめいろ)” の例文
甘ずっぱく立てこもった酒と煙草たばこ余燻よくんの中に、すき間もる光線が、透明に輝く飴色あめいろの板となって縦に薄暗さの中を区切っていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
家の柱縁側えんがわなぞ時代つきて飴色あめいろに黒みてひかりたるに障子の紙のいと白くのりの匂も失せざるほどに新しきは何となくよきものなり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
飴色あめいろ暗紫色あんししよくをした肋骨ろくこつと手足の骨とが左右に一けん程の高さでぎつしりと積まれ、その横へ幾列にか目鼻のうつろに成つた髑髏どくろが掛けられて
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
前日ぜんじつくちあさみぎはるゝ飴色あめいろ小蝦こえびしたを、ちよろ/\とはしつた——真黒まつくろ蠑螈ゐもりふたつながら、こゝにたけぢやうあまんぬる。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
パンで思い出すのは、北京ペキンの北京飯店の朝のマアマレイド。これは誰が煮るのか、澄んだ飴色あめいろをしていて甘くなく酸っぱくなく実においしい。
朝御飯 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
飴色あめいろ網代あじろの乗物へ乗った訳は?、とか、紫地むらさきじ花葵はなあおい定紋幕じょうもんまくを打った訳は?、とか——それほどのことを、わざわざ聞くような越前ではない。
大岡越前の独立 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
エンジェル・フィッシュに似た黒い派手な竪縞たてじまのある魚と、さよりのような飴色あめいろの細い魚とが盛んに泳いでいるのを見下している中に、眠くなって来た。
今度は、とのさまがえるは、だんだん色がさめて、飴色あめいろにすきとおって、そしてブルブルふるえて参りました。
カイロ団長 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
よく拭きこんだ飴色あめいろの、広い階段を登り、広い廊下を二た曲りして、その端の八帖の座敷へとおされた。
扇野 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
真赤な肉じゅばんを着た女が、飴色あめいろの馬上であきの蜻蛉とんぼのような焼けた色で、くるくる廻っていた。
ヒッポドロム (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「そうですか。じゃどうすれば好いんです」と飴色あめいろに塗った鉛筆を洋卓の上にはたりとほうり出した。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
仲居の持つ手燭てしょくは、仲居の白い息を見せながら、飴色あめいろつやのでている面皮めんかわの柱をいくつも曲がって、狭い廊下をこのの奥へと跫音あしおともなく先へ歩いて行くのだった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
実のところ今朝から客足が思わしく無く持荷の半分もさばける見当がつかず、いたずらに納屋で飴色あめいろの腹に段々鼠色のまだらが浮いて出る沢山の鮎の姿を思い出すとうんざりした。
とと屋禅譚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
わずかばかりの金を払って背負いぶくろ天目てんもく土瓶どびんやら、飴色あめいろの「うるか」つぼやら、黄色の茶碗やら、緑釉の小壺などを入れて村と別れる。私には大事な宝物である。重くても軽い。
日田の皿山 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
線路に沿うたとある森影から青い洋服を着て、ミレーの種まく男の着ているような帽子をかぶった若者が、一匹の飴色あめいろの小牛を追うて出て来た。牛の毛色が燃えるように光って見えた。
写生紀行 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
収穫前の田畑はいづれも豊かに、黄に、褐色かつしよくに、飴色あめいろに色付いてゐた。あたりには、赤とんぼの群がちら/\と飛んでゐた。その或るものは、歩いてゐる青竹に、朱傘に、柩にとまつたりした。
野の哄笑 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
低い天井板が飴色あめいろにすすけてところどころすすが垂れていた。
雪の夜 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
飴色あめいろをした屋根と屋根
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
召捕とはるゝやと云せもあへず越前守大音に飴色あめいろ網代あじろ蹴出けだし黒棒くろぼうは勿體なくも日本ひろしと雖も東叡山御門主に限るなり然程に官位の相違する天一坊が宮樣みやさまひとしき乘物に乘しは不屆なれば召捕といひしなり此の時山内から/\と打笑ひ越前守殿左樣にしらるゝなら尋ぬるには
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
椀のふたを取ると、蓋に汗をかいてはゐるが、汁粉の色が飴色あめいろをしてゐた。団子の小さい塊りが二つ浮いてゐる。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
銀杏の葉ばかりのかれいが、黒い尾でぴちぴちと跳ねる。車蝦くるまえびの小蝦は、飴色あめいろかさなって萌葱もえぎの脚をぴんと跳ねる。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お日さまの光が木や草の緑を飴色あめいろにうきうきさせるまで歌ったり笑ったりさけんだりして仕事をしました。
カイロ団長 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
天秤棒は細手の、飴色あめいろみがきこんだ、特別製のようであり、手桶はすぎ柾目まさめで、あかたががかかっていた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
折々をり/\おそろしい音してねずみの走る天井てんじやうからホヤの曇つた六分心ろくぶしんのランプがところ/″\宝丹はうたんの広告や都新聞みやこしんぶんの新年附録ふろくの美人画なぞでやぶをかくしたふすまを始め、飴色あめいろに古びた箪笥たんす
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
動きの多い空の雲の隙間すきまから飴色あめいろの春陽が、はだらはだらにし下ろす。その光の中に横えられたコンクリートの長橋。父が家霊に対して畢生ひっせいの申訳に尽力して架した長橋である。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
の長い飴色あめいろの大きな傘を、童女わらべはうしろからしかけた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
飴色あめいろをした屋根と屋根
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
その男はきれいな手桶ておけを二つ、天秤棒てんびんぼうで担いでやって来た。天秤棒は細手の、飴色あめいろに磨きこんだ、特別製のようであり、手桶は杉の柾目まさめで、あかたががかかっていた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
甘鯛、いとより鯛、魴鮄ほうぼうの濡れて艶々つやつやしたのに、青い魚が入交って、きす飴色あめいろが黄に目立つ。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そしてみんなが飴色あめいろの夕日にまっ青にすきとおって泣いているのを見ておどろいてたずねました。
カイロ団長 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
折々恐しい音してねずみの走る天井からホヤの曇った六分心ろくぶしんのランプがところどころ宝丹ほうたんの広告や『都新聞みやこしんぶん』の新年附録の美人画なぞでやぶをかくしたふすまを始め、飴色あめいろに古びた箪笥たんす
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
四十年配のいちょうがえしの女が、寝床に坐ってバットを美味おいしそうに吸っている。敷布もない木綿の敷蒲団が垢光あかびかりに光っている。新聞紙を張った壁。飴色あめいろの坊主畳。天井はしみだらけ。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
桟窓からさし込む陽に飴色あめいろの油虫が二三びき光った。
百喩経 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
たくましい飴色あめいろの若牛であった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
飴色あめいろになった仕事台の上の、ちょっと右寄りに、厚さ三インチばかりの板が立ててあり、豚の毛を入れた筒とか、ブラッシの台木、ごくぼその針金、にかわの鍋などの材料が
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
古くて飴色あめいろになった樫材かしざいのがっちりしたもので、上の二段は戸納、下段は左右とも抽出ひきだしになっている。もちろん薬がしまってあるのだろう、抽出の一つ一つに、薬品の名を書いた札がってあった。
甲板にある船長の席はきれいに整頓せいとんされ、木工部や舵輪は飴色あめいろに拭きこまれており、機関部へ命令を伝える鐘や、それに付いている打金紐うちがねひもまでが、新品同様に保持されている、というぐあいであった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
甲板にある船長の席はきれいに整頓せいとんされ、木工部や舵輪は飴色あめいろきこまれており、機関部へ命令を伝える鐘や、それに付いている打金紐うちがねひもまでが、新品同様に保持されている、というぐあいであった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)