飛鳥あすか)” の例文
飛鳥あすか白鳳天平のわが仏教の黎明れいめい期には薬師信仰は極めて盛んであった。いな薬師信仰はどんな時代でも病のある限りは不滅であろう。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
「今度飛鳥あすか大臣様おおおみさまの御姫様が御二方、どうやら鬼神おにがみのたぐいにでもさらわれたと見えて、一晩の中に御行方おんゆくえが知れなくなった。」
犬と笛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
憶良は万葉集の大家であるが、飛鳥あすか朝、藤原朝あたりの歌人のものに親しんで来た眼には、急に変ったものに接するように感ぜられる。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
飛鳥あすか清原きよみはらの大宮において天下をお治めになつた天武天皇の御世に至つては、まず皇太子として帝位に昇るべき徳をお示しになりました。
飛鳥あすか」が、朝食と昼食とをごっちゃにして、食膳にみんなが揃うのは、大抵、正午過ぎ、それから、掃除がはじまるのである。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
二上山の男岳おのかみ女岳めのかみの間から、急にさがって来るのである。難波から飛鳥あすかの都への古い間道なので、日によっては、昼は相応な人通りがある。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
芸妓げいしゃを露払いにする神田のお祭りが何だ。博多の山笠舁やまがさかきは電信柱を突きたおすんだぞ。飛鳥あすか山の花見ぐらいに驚くな。博多の松囃子ドンタクを見ろ。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
この重大な契機は、思想が急激に発達した飛鳥あすか寧楽なら時代においても失われなかった。天皇は、宇宙を支配せる「道」の代表者或いは象徴である。
蝸牛の角 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
江戸、幕末も餘りにあさりつくされたかたちだし。それに飛鳥あすか、平安時代までゆけば、まだまだ小説素材は豐富です。まるで未開拓の領野ですよ。
折々の記 (旧字旧仮名) / 吉川英治(著)
飛鳥あすか朝時代のことはしばらく措くとしても、藤原宮に遷つてから五年目に成つた藥師寺の佛教美術と、人麿等の和歌とはどういふ關係にあるだらう。
桃の雫 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
飛鳥あすか時代だな。尤も、ジャバだのバリ島のエロダンサーも飛鳥時代の原色エロさ。腰の線が、ふるいつきたいのさ
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
やがて石神井川が飛鳥あすか山と王子台との間に活路をひらいて落ちるようになって、不忍池しのばずのいけの上は藍染あいぞめ川の細い流れとなり、不忍池の下は暗渠あんきょにされてしまって
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「へエ、親分が知らなかつたんですか、現に此間——と言つても、まだ櫻の咲いてゐる頃、向島に一度、飛鳥あすか山に一度あつて、大變な騷ぎをやつたんですが」
おおがさを借りてかえったが、飛鳥あすか神社の屋根が見えるようになってから、雨が大きくなって来たので、出入でいりの海郎の家へ寄って雨の小降りになるのを待っていると
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ローマの城郭的じょうかくてきな或は宗教的な大都市、支那では万里の長城、阿房宮、日本では飛鳥あすか朝以来の仏教的大建築物、金閣寺銀閣寺、単にそれらの建設物ではなくて
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「石が物言う世の習い、習わぬ経を門前の、小僧に聴かれた上からは、覚えた経(今日)が飛鳥あすか(明日か)の流れ、三途の川へ引導代り、その首貰った、覚悟しろ!」
猿飛佐助 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
私はこの像製作の少し前頃から丸刀がんとうを使い始めたのではないかと思う。丸鑿まるのみは、製作上の実際から考えると飛鳥あすか時代にはなく、飛鳥時代は平鑿ばかり使ったのだろうと思う。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
吾々は同じ母のふところに眠り、同じ伝説に生い立った昔を想い廻らすことがあるではないか。かつて私たちの僧は経巻を携え、仏躰ぶったいを贈り、寺院の礎を飛鳥あすかの都に置いたのである。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
明治初年の飛鳥あすか山へでも行ったならば、花見時には定めしこんな光景が見られたであろう。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そこに書き洩らしたが加藤雀庵の『さえずり草』の虫の夢の巻に、千住の飛鳥あすかの社頭で毎年四月八日に疫癘えきれいはらう符というを出すに、桃の木で作れり、支那になろうたのだろうとある。
聖徳太子の飛鳥あすか時代以来、平安初期にかけての支那文物の渡来は、おびたゞしいものがあり、日本の美術、工芸、文物制度は、殆んど唐に劣らない程度に達してゐたのではないかと思はれる。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
もう一つの「方」は、飛鳥あすかの村々ややまみちのあたり、それから瓶原みかのはらのふるさとなどで、そんないまは何んでもなくなっているようなところをぼんやり歩いてみたいとも思いました。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
下って飛鳥あすか奈良朝から平安朝に至っては、色売る女がこれを使い、下品になったは不面目、源平北条足利氏、戦国を経て御代みよとなり、ますます巧みの傀儡舞わし、わけても拙者の人形は
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
師が許にて二三おほがさかりて帰るに、二四飛鳥あすか二五神秀倉かんほぐら見やらるるほとりより、雨もややしきりなれば、其所そこなる海郎あまが屋に立ちよる。あるじのおきなはひ出でて、こは二六大人うし弟子おとごの君にてます。
かつそれ烟管キセル・喜世留、硝子ガラス・玻璃、莫大小メリヤス・目利安、不二山ふじさん・冨士山のたぐい一物いちぶつ字をことにし、長谷はせ愛宕あたご飛鳥あすか日下くさか不入斗いりおまず九十九つくものごとく、別に字書を作るにあらざれば知るべからず。
平仮名の説 (新字新仮名) / 清水卯三郎(著)
発す云々、亦本願に依って、飛鳥あすかの地に、法興寺を起す(紀)。
畑打つて飛鳥あすか文化のあとゝかや
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
蛇柳や心のみだれ飛鳥あすか風 露草
古池の句の弁 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
飛鳥あすかの山では火が燃える
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
長い苦難を経て、魂のいこいはようや飛鳥あすかの野にも訪れたかに思わるる、そういうほのかな黎明れいめい時代を太子は築かれつつあったのである。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
監獄から帰った森新之助と、君香とが始めた「飛鳥あすか」という置屋おきやで、三味と踊りの出来る、年増としま芸者を探していると聞いて、そこへかかえられた。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
二上山の男嶽をのかみと、女嶽めのかみとの間から、急にさがつて来るのである。難波なにはから飛鳥あすかの都への本道になつて居るから、日によつては、相応な人通りがある。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
しかし現今も飛鳥あすか雷岳いかずちのおかあたり、飛鳥川沿岸に小竹林があるが、そのころも小竹林はしげって立派であったに相違ない。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
境を定め邦を開きて、ちか淡海あふみに制したまひ一二かばねを正し氏を撰みて、とほ飛鳥あすかしるしたまひき一三
「飛べ。飛べ。飛鳥あすか大臣様おおおみさまのいらっしゃる、都の方へ飛んで行け。」と、声を揃えてわめきました。
犬と笛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
何といっても、日本の女の、清々すがすがと、自由に、しかも時代の文化をよく身につけて、女性が女性の天真らんまんに生きた時代は、飛鳥あすか、奈良、平安朝までの間であった。
梅ちらほら (新字新仮名) / 吉川英治(著)
吾々は同じ母のふところに眠り、同じ伝説に生い立った昔を想い廻らすことがあるではないか。かつて私たちの僧は経巻を携え、仏躰ぶったいを贈り、寺院の礎を飛鳥あすかの都に置いたのである。
朝鮮の友に贈る書 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
飛鳥あすか山の花見歸り、谷中へ拔けようとする道で、錢形平次は後から呼止められたのです。
在来この種の題目の著書にほとんど取り扱われていない飛鳥あすか寧楽なら時代乃至ないし鎌倉時代に特に力を注ぎ、雑駁ながらも幾分の考えをまとめてみたのであるが、その講案の副産物として
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
飛鳥あすか白鳳の輸入期を超えて、其美がようやく純日本の形式に落着き、しかも技術の優秀、精神の高遠、共に古今に並びなき発達を遂げた時代であるから、およそ日本美術を語ろうとすれば
美の日本的源泉 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
二人は、金五郎とお京とが、ひどく仲よくしていて、いつの間にか、「飛鳥あすか」から見えなくなったことを、マンに、話したくなかったのである。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
これを仰いでいると、遠く飛鳥あすかの世に、はじめて仏道にふれ信仰を求めようとした人々の清らかなぐな憧憬どうけいを感じる。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
短歌は、ほぼ飛鳥あすか朝の末に発生した。其が完成せられたのは、藤原の都の事と思われる。一体、日本の歌謡は、出発点は享楽者の手からではなかった。
歌の円寂する時 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
甘南備河かむなびがわは、甘南備山が飛鳥あすか雷丘いかずちのおか)か竜田たつたかによって、飛鳥川か竜田川かになるのだが、それが分からないからいずれの河としても味うことが出来る。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
イザホワケの天皇の御子、イチノベノオシハの王の御子のヲケノイハスワケの命(顯宗天皇)、河内かわちの國の飛鳥あすかの宮においで遊ばされて、八年天下をお治めなさいました。
髪長彦は沢山御褒美をいただいた上に、飛鳥あすかの大臣様の御婿様おむこさまになりましたし、二人の若い侍たちは、三匹の犬に追いまわされて、ほうほう御館おやかたの外へ逃げ出してしまいました。
犬と笛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
飛鳥あすか、奈良のころも、四季のたのしみや、宴会うたげ、歌むしろは、ずいぶん、おおらかに、それが天賦てんぷの自然生活でもあるように送って来たこの国の人びとではあったが、こう
美の日本的源泉として飛鳥あすか時代が持つ要素は、おしなべてその様式や性格の部分的抽出をゆるさない。それはすべて全体性から来て居り、美に於ける精神の優位を語る根本の問題である。
美の日本的源泉 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
かようにして明くる日に上つておいでになりました。依つて其處を近つ飛鳥あすかと名づけます。
飛鳥あすか、奈良朝あたりの仏教美術から近頃わけて流行の茶事ちゃじを評し、一転して、笛、蹴鞠けまりのこと、また食味や旅のはなしなどにまでくだけて、夜に入るも知らなかったが、やがてともしを見ると
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)