たのみ)” の例文
汝のことばしなたかく汝の譽また聞けるものゝ譽なるをたのみとし、祝福めぐみの座を離れてこゝに下れるわがはやさには若かじ 一一二—一一四
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
なう、さうだらう、しかしこれは理窟りくつで、お前も不服かも知れん。不服と思ふから私も頼むのだ。お前にたのみが有ると言うたのはこの事だ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
この時にあたってヒューゲノー党のよりて以てたのみとなせし唯一の人物はナバールの大公ヘンリーなりき、彼とし若くして武勇に富み
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
然るにポルトセイドに着き、いよいよ熱帯圏に入ると、気候の激変から病が俄にあらたまって、コロンボへ入港したころは最早たのみすくなになって来た。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「貞白さん、きょうはおたのみ申したい事があって、あなたをおまねきいたしました」という、態度が例になく慇懃いんぎんであった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
もとより看板をかけての公表おもてむき商買しょうばいでなかったせいか、うらないたのみに来るものは多くて日に四五人、少ない時はまるで筮竹をむ音さえ聞えない夜もあった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
されど我がアンジエリカが家の廣き臥床ふしどに上りしときは、母上我枕の低きを厭ひて、肱さし伸べて枕せさせ、たのみある子ぞ、と胸に抱き寄せて眠り給ひき。
どうかなされた事かと拾八九の赤ら顏紫めりんすと黒の片側帶氣にしつゝめづらしくくるまたのみに來たお三をつかまえて口も八町手も八町走るさすが車屋の女房の立咄たちばなし
うづみ火 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
むねこたへた、爾時そのとき物凄ものすご聲音こわねそろへて、わあといつた、わあといつてわらひつけたなんともたのみない、たとへやうのないこゑが、天窓あたまからわたし引抱ひつかゝへたやうにおもつた。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
幸ひ小野田が後家の身の上をたのみければ君太夫も大坂者ゆゑ一しほ思ひり夫はさぞ御難儀なるべし片田舍かたゐなかなれども當分御凌おしのぎに淺草今戸の町へ御越おこしあれとて荷物を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
所が私はと漢書を学んで居るとき、同年輩の朋友の中では何時いつも出来がくて、読書講義に苦労がなかったから、自分にも自然たのみにする気があったと思われる。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
『だから私が頼むのじゃアありませんか、理由わけが言われる位ならたのみはしません。』
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
此間こないだね、旦那におたのみの事はいけねえと云うと、手前てめえきもしねえで嘘だと云って疑ぐられて居て詰らねえから、お前さん厭でも一寸あがって、傳次さん此間はお草々そう/\でしたと云えば
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
折から表に「おたのみ申す、今日は」と大原の声聞ゆ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
その先生におたのみなさって、宏量と狡智とを兼ねて
収穫時とりいれどきたのみなきも、吾はいそしみて種をかむ。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
又考へて見ると、なまじひ人などを信じるよりは金銭を信じた方が間違が無い。人間よりは金銭の方がはるたのみになりますよ。頼にならんのは人の心です!
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
呼近づけ申樣は此度聖護院せいごゐんみや配下はいか天一坊樣當表へ御出張に付御旅館取調とりしらべの爲に拙寺が罷越まかりこし候なり不案内の事ゆえ萬端ばんたんもとをおたのみ申なりとて手箱のうちより用意の金子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
たとひどのやうにいつらいと思ふ事ありとも、その憂いつらいはたのみになる清さんのやうな優しい人を持たぬものの憂さつらさに比べては何でもないと、よくよく御勘弁なさるべく候
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「おたのみとあれば秘密にします。別に僕の関したことではありませんから。」
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そのまゝ押開おしあけると、ふすまいたがなんとなくたてつけに粘氣ねばりけがあるやうにおもつた。此處こゝではかぜすゞしからうと、それたのみうしてつぎたのだが矢張やつぱり蒸暑むしあつい、押覆おつかぶさつたやうで呼吸苦いきぐるしい。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
たのみにしています。あなたは賢者だ。門前払を
お登和嬢は妻君のたのみに黙しがたく「章魚たことおいも柔煮やわらかには随分美味おいしいものですがチットお昼の間に合いません。晩の副食物おかずですね」妻君「晩でもようございます。晩までには宅も旅から戻りましょうから」と良人おっとの御馳走に供せんつもり。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
つひに倒れし宮は再びつべき力も失せて、唯声をたのみに彼の名を呼ぶのみ。やうやおぼろになれる貫一の影が一散に岡を登るが見えぬ。宮は身悶みもだえしてなほ呼続けつ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
もよほまことに驚き入たる御志操おこゝろざしなれども夫よりは貴孃あなた御縹緻ごきりやうなれば御縁の口は何程も有るべし我等かねたのみおきたればまづまち給へと云ふにいな縁付も氣兼きがねが否なれば氣樂きらくに遊女奉公を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あんな海であった土地をたのみにおしでない。