雪洞ぼんぼり)” の例文
雪洞ぼんぼりを取ってしずかに退座す。夫人長煙管ながぎせるを取って、はたく音に、図書板敷にて一度とどまり、直ちに階子はしごの口にて、ともしびを下に、壇に隠る。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
此隙このひまに私は母と談判を始めて、今晩一晩泊めて遣ってと、雪洞ぼんぼりを持った手に振垂ぶらさがる。母は一寸ちょっと渋ったが、もう斯うなっては仕方がない。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
このごろはどてに桜を植え付けて、行灯をかけたり、雪洞ぼんぼりをつけたりして、新小金井などという一つの名所になってしまいました。
半七捕物帳:44 むらさき鯉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
対に立ててある雪洞ぼんぼりの灯が、蒔絵の脇息を照らしている。それに悠然と倚っている、葵ご紋の武士の顔は、昆虫館主人と非常に似ている。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
光辰は雪洞ぼんぼりをひきよせておいて、塗籠の妻戸をあけ、一冊の書物を出して来ると、畳の上へじかに坐ったまま、読みはじめた。
若き日の摂津守 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そうして雪洞ぼんぼりの光に照らされたお松のかおに一生懸命の色が映っていることを認めて、これには仔細しさいがあるだろうと感じました。
そして入口の棚にのっていた燧石ひうちいしをカチカチやってかたわら雪洞ぼんぼりに火を移し、戸口に立った露月を顧み、あざけるごとく言うのでした。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
雪洞ぼんぼりは持っていないけれども、廊下へ出ると、庭のところ/″\にかがり火が燃えているので、それが何処からか板敷に反射するばかりでなく
と、くちびるへべにを点じ、やがて、化粧をすまして向き直った女の顔は、ちょうど、夜桜の雪洞ぼんぼりに灯がはいッたように明るくなって見えます。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
廊下では雪洞ぼんぼりを用ひた。雪の降りさうな静かな晩だつた。園の引く三味線の音が新吉達の離室までしんしんと響いて来た。
淡雪 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
家のものが皆な寝た頃、お種は雪洞ぼんぼりともして表座敷の方へ見に行った。三吉と直樹とは最早もう枕を並べて眠っていたが、まだ正太は帰らなかった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ところどころに雪洞ぼんぼりの置いてある、うすぐらい廊下……源三郎には、ふとそれが、夢へ通ずる道のように思われたのです。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
何處から現はれたか、小腰を屈めたのは冷たい美しい女中、雪洞ぼんぼりを左手に移して、離屋の柴折戸しをりどをそつと開けました。
両人は此のていを見てハッとばかりにびっくり致しましたが、逃げることもならず、唯うろ/\して居る所へ、平左衞門は雪洞ぼんぼりをズッとさしつけ、声をいからし。
大きな張りぬきの桜の樹が道に飾りつけてあり、雪洞ぼんぼりの灯が、爛漫とした花を本もののように下から照している。
高台寺 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
うす暗い雪洞ぼんぼり人気ひとけのない廊下ろうかを照らしながら、昼でも滅多にはいった事のない土蔵どぞうへお栄をつれて行きました。
黒衣聖母 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
便所には電灯がけてなかった。千代子は燐寸マッチって雪洞ぼんぼりを移して、咲子といっしょに廊下を曲った。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
細帯しどけなき寝衣姿ねまきすがたの女が、懐紙かいしを口にくわえて、例のなまめかしい立膝たてひざながらに手水鉢の柄杓から水を汲んで手先を洗っていると、そのそばに置いた寝屋ねや雪洞ぼんぼりの光は
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そうして仲の町には、市松の油障子、雪洞ぼんぼり、青竹の手摺。——丹精を凝らした菊の花壇が出来ていた。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
……雪洞ぼんぼり型の電燈の笠にボヤケた血の指紋をコスリ付けられたところといい、一等若い、美しい看護婦の唇の上に、わざとクロロフォルムの綿を置きっ放しにして
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
京子が此處へ來たので、賭博ばくちを打つてゐた者共が驚いて逃げたのではあるまいか。——と道臣は考へて、雪洞ぼんぼりに暗を照らしつゝ、西の局から神饌所しんせんじよなぞを見て廻つた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
ぼやけた雪洞ぼんぼりをふと差し入れて見たところが、棚の片隅にぴつたりと身を寄せて、まるまるとした茹蛸は大変まぢめな顔をして自分の足をもぐもぐ喰べてゐる最中であつた。
黒谷村 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
心のなかの雪洞ぼんぼりへボーッと灯のさし入れられる思いがしたが、しかもその雪洞の灯の、絶え間なく吹き暴れる春の夜の嵐に、危うく掻き消されようとすることをなんとせん。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
芝居絵が主らしく、雪洞ぼんぼりをかざした奥女中たちが欄干ごしに暗い庭をさし覗いてゐるところ、盛装をしたお姫様が薙刀を斜にかまへて、覆面の悪者どもを退治してゐるところ。
地獄 (新字旧仮名) / 神西清(著)
四五人雪洞ぼんぼりの下に集い寄って、真赤な桜炭の上で手と手が寄り添い、玉かんざしや箱せこの垂れが星のようにきらめいている——とでも云えば、そのくらまんばかりのなまめかしさは
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
読んでしまった大野は、竹が机のそばへ出して置いた雪洞ぼんぼりに火を附けて、それを持って、ランプを吹き消して起った。これから独寝ひとりねの冷たい床に這入はいってどんな夢を見ることやら。
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
四条の擬宝珠の橋の上から見下すと、その浅い川の上一面の雪洞ぼんぼりの灯が入って、よく見ると雪洞は床几に一つずつ置いてあるのだが、幾組も幾組ものお客さんがさんざめいている。
京のその頃 (新字新仮名) / 上村松園(著)
まくら雪洞ぼんぼりにしつらえました、小さなあかりをつけていられるのみでございます。
両面競牡丹 (新字新仮名) / 酒井嘉七(著)
薄絹張うすきぬばり雪洞ぼんぼりに西洋蝋燭ろうそくを燈したるものが二十四はりばかり吊してある。輦輿みこしの中にシナの立派なる官服を着け、頭にはいわゆる位階を表わしたる帽子を被ってジーッと坐り込んで居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
幸いそこに先祖から伝わった古い書物が沢山たくさん積んでありましたので、薄暗い所で、夜などは昔ながらの雪洞ぼんぼりをともして、一人ぼっちで書見しょけんをするのが、あの人の、もっと若い時分からの
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
北国の永い冬は鼠色の雪に包まれて、人々の外界との交渉を全部絶ってしまう。勿論その頃には、電灯はなくて、雪洞ぼんぼりのような形の脊の高い洋灯が二つ、御前様の手許と人々の間とに立っている。
御殿の生活 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
平左衛門は持っていた雪洞ぼんぼりをさしつけるようにした。
円朝の牡丹灯籠 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
けさしやんした雪洞ぼんぼり
桜さく島:春のかはたれ (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
瓦斯と雪洞ぼんぼり、鶴のむれ
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
外はもう明るんでいるであろう、雨戸が閉っているので、その小座敷は暗く、雪洞ぼんぼりの光を横からうけて、周防の顔は片かげりにとがってみえた。
と、口小言を言い言い、母も渋々起きて、雪洞ぼんぼりけて起上たちあがったから、私も其後そのあといて、玄関——と云ってもツイ次の間だが、玄関へ出た。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
お松が能登守のために雪洞ぼんぼりを捧げて長い廊下を渡って行く時に、笹子峠の上へ鎌のような月がかかっているのが見えました。
客僧に近寄る時、いつの間にか襖が開くと、左右に雪洞ぼんぼりが二つ並んで、敷居際に差向って、女の膝ばかりが控えて見える。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
昼過ぎになると和やかな秋の日が、幻燈げんとうの如くあかあかと縁側の障子しょうじに燃えて、室内は大きな雪洞ぼんぼりのように明るかった。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その左膳の全身から、眼に見えぬ飛沫ひまつのような剣気が、ほとばしり出て……萩乃は、何かしらあぶない感じで、そっと雪洞ぼんぼりを、壁ぎわへ置きかえた。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それでも宵節句の晩だけは、たいが剪つて来た桃の枝を瓶に生けて、たいとお葉と太郎は、納戸の一隅に隠れながら秘かに赤い小さな雪洞ぼんぼりともした。
サクラの花びら (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
どこから現れたか、小腰を屈めたのは冷たい美しい女中、雪洞ぼんぼりを左手に移して、離屋の柴折戸しおりどをそっと開けました。
手拭てぬぐいを顔に押し当てて男泣きに泣くのであった。——あるじの帰りを知って、式台には、雪洞ぼんぼりの明りがさしている。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すぐ眼の前にちんがあった。亭の縁先に腰をかけ、葉之助の方へ背中を向け、二人の男女が寄り添っていた。一基の雪洞ぼんぼりが灯されていた。二人の姿はよく見えた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
内裏雛だいりびな、五人ばやし、左近さこんの桜、右近うこんたちばな雪洞ぼんぼり屏風びやうぶ蒔絵まきゑの道具、——もう一度この土蔵の中にさう云ふ物を飾つて見たい、——と申すのが心願でございました。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
とこの上で草鞋わらじ穿いて、黒い頭巾ずきんかぶって、勝手口から出て行った。その時母の持っていた雪洞ぼんぼりが暗いやみに細長く射して、生垣いけがきの手前にある古いひのきを照らした。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
正面を眺めると參詣の人の俯向く無數のかしらを越え、船のやうな大きな賽錢箱を前にして、遙かに奧深く、數多あまた雪洞ぼんぼりを連ねともした佛壇が、細かにゆらめく鈍い其の光で
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
松蔭大藏は寐衣姿ねまきすがたで縁側へまいり、音をさせんように雨戸を開け、雪洞ぼんぼりを差出してすかし見まして
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
袂からマッチを出して摺ると、今の先きまで人が居たやうで、神殿の遷座式せんざしきの時に使ふ手燭の雪洞ぼんぼりには、蝋燭が半分ほど燃えさして、吹き消した後のぬくみがありさうに見えた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
へやの真中には綺麗な白木の寝台があって、その上には絹張りの雪洞ぼんぼりが釣るしてありました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)