はやぶさ)” の例文
そして、強敵に会ったはやぶさが、死にもの狂いとなったように、髪逆立てた武蔵の眼の前に、明らかに、空いている背中をさらしてしまった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あ、何だあの飛行艇は?」駆逐艦の将校が叫んでいる間に、怪飛行艇ははやぶさのように突進してきて、あっという間もなく爆弾を投下した。
骸骨島の大冒険 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
米友のかかって覘うところは兵馬の眼と鼻の間。そのはやぶさのような眼の働き。兵馬はそれに驚かず、ジリリジリリと槍をつけている。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
が、その中でも白いはやぶさの羽根の矢ばかりは、必ずほかの矢よりも高く——ほとんど影も見えなくなるほど高く揚った。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
お時が女巾着切の親分として、盛んに活躍して居る頃、感の惡い八五郎は、このはやぶさのやうな女を追ひ廻して、幾度ひどい目に逢はされたことでせう。
わが鼬將軍いたちしやうぐんよ。いたづらにとりなどかまふな。毒蛇コブラ咬倒かみたふしたあとは、ねがはくはねずみれ。はへでは役不足やくぶそくであらうもれない。きみは獸中ぢうちうはやぶさである。……
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
秋雲の間にときとしてたかはやぶさかと思われる鳥の影を見ることはあっても、地上には一騎の胡兵こへいをも見ないのである。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
剣眼はやぶさよりも鋭い柳生対馬守さすがに、あの、上様と愚楽と、越前守とで編みだしたからくりを、まだ話を聞かぬ先に、みごとに見抜いてしまったのだ。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
かくて、当日吉祥寺裏のお鷹べやから伴っていったはやぶさは、姫垣ひめがき蓬莱ほうらい玉津島たまつしまなど名代の名鳥がつごう十二羽。
全機は、それこそはやぶさのように猛然と怪塔ロケットのあとを追いましたが、相手はぶるんぶるんと首をふりながら、遂に海中にどぼんとおちてしまいました。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それは広栄の一人子の広義で、広巳の可愛がっているおいであった。広義は広巳の方へはやぶさのように駈け寄った。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
『荒鷲』の姉妹機『はやぶさ』爆撃機が一隊ずつ、二百四十機、翼をはって、下総しもうさの空をにらんでいるではないか。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
何しろ彼は、商売仲間でははやぶさ英吉と云う名で通って居るけに、年は若いが腕にかけては確乎しっかりしたものである。尾行つけられて居るのも知らない程茫然ぼんやりして居ようはずはない。
乗合自動車 (新字新仮名) / 川田功(著)
暗灰色に塗った俊敏スマートな胴体で波を切りながら、スイスイと四肢をして南太平洋をはやぶさのようにかけっていた軽快な姿なぞは、もはやどこに見出し得べくもなかったのであった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
それと同時にいきなり柴折戸のところへやってくるので、私はいそいで、今来た道へ引き返すような様子をした。彼女ははやぶさのように柴折戸をあけると、私と反対な道へ行った。
性に眼覚める頃 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
鋼鉄のような弾性と剛性を備えた肉体全体に精悍せいかんはやぶさのような気魄きはくのひらめきが見える。
映画雑感(Ⅲ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
例えば善宗流ぜんそうりゅうの沖鈎、宅間玄牧たくまげんぼく流のはやぶさ鈎、芝高輪たかなわの釣師太郎助たろすけ流の筥鈎などと、家伝かでんによりましていろいろ型がござりますが、……しかし、これなぞは、普通、見越鈎といわれる
顎十郎捕物帳:04 鎌いたち (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
大きな澄んだ眼はアリアン種と蒙古種との混血児らしい美しさを持っているが、観音を見まもっているうちにはそれがはやぶさのように鋭くなる。鼻は高いが、純粋なギリシア風ではない。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
その時ルーファスは再び起って夜鴉の城を、城の根に張るいわおもろともに海に落せと盃を眉のあたりに上げてはやぶさの如く床の上に投げくだす。一座の大衆はフラーと叫んで血の如き酒をすする。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
我々の後から一人の鷹匠が、美事な、ほっそりしたはやぶさを左手に支えてやって来た。
多智大胆権謀無双、はやぶさのような彼ではあったが、西郷との会見は重荷であった。
開運の鼓 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いや蘭領印度らんりょうインドの基地も叩きつぶされているのに、どうして怪潜水艦がたびたび輸送船団をつけねらうことが出来るでしょう! はやぶさのように眼を光らしているわが海軍や航空部隊に対して
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
違棚には箱入の人形を大小二つ並べて、その下は七宝焼擬しつぽうやきまがひ一輪挿いちりんざし蝋石ろうせきの飾玉を水色縮緬みづいろちりめん三重みつがさねしとねに載せて、床柱なる水牛の角の懸花入かけはないれは松にはやぶさの勧工場蒔絵まきゑ金々きんきんとして、花を見ず。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
はやぶさ町の小林へ買いに行って、この辺の山の地図を送ってやったりしたものだ。
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
歌は「加藤はやぶさ戦闘隊」で、エンジンの音、轟々ごうごうと……というあれであった。
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
そのとき、今まで、泉の上の小丘をおおって静まっていたかやの穂波の一点が二つに割れてざわめいた。すると、割れ目は数羽すうわ雉子きじはやぶさとを飛び立たせつつ、次第に泉の方へ真直ぐに延びて来た。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
ソーマと称する植物の繊維からしぼつた液(始めこの植物は婆楼那バルナが天界の岩の上に植ゑて置いたもので、ある時一羽のはやぶさが天上から盗んで来たものだと言はれて居る)に牛乳又は大麦の煎汁せんじふを加へ
毒と迷信 (新字旧仮名) / 小酒井不木(著)
まるではやぶさのように後を追って飛びだして来そうになり、息もつけないほどであったから、その口を制するためには、そのとき彼女の親友が取ったような冷酷無情な態度を取るより他はなかったのだ。
同人は客を送りてこうじ町区はやぶさ町まで行きたる帰途、赤坂見附の上に差しかかりたるに、三十前後の盛装したる女に呼び止められ、華族女学校横まで連れ行かれ、金五円を貰い、新しき法被を着せられ
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あめとぶにやぶれて何の羽かある夢みであれな病めるはやぶさ
舞姫 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
二十六の小鳩か。これではやぶさの爪を
すべてを得るは難し (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
はやぶさL'Épervier
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
かくも、自分をはッきりと意識するようでは、とても、はやぶさに人の物をるなどという神技かみわざに近い芸ができるものではない。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はやぶさのように眼をかがやかして、こちらを見込んだその気合を以て見ると、投げ方よりもむしろ投げられた方に心得がある。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ある時は、トオラス山のはやぶさが、湖と草原と山脈と、またその向うの鏡のごとき湖との雄大ゆうだい眺望ちょうぼうについて語った。
狐憑 (新字新仮名) / 中島敦(著)
見よ、龍介の叫を聞くと、その白い幽霊は、はやぶさのように龍介の顔に突っかかってきた。身をかわすひまもない。
幽霊屋敷の殺人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ほかに「池田大助捕物日記」が約八十篇、韓信かんしん丹次、平柄銀次、はやぶさの吉三などの捕物帳がそれぞれ五六篇ずつ、総計四百二三十の捕物小説を書いているだろうと思う。
すると、全機は、はやぶさのように、日本機の編隊のうえにとびかかっていった。ピート一等兵は、びっくりして、機銃にしがみついた。照準をあわせたり、引金をひくどころではない。
地底戦車の怪人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
女はただはやぶさの空をつがごとくちらとひとみを動かしたのみである。男はにやにやと笑った。勝負はすでについた。舌を腭頭あごさきに飛ばして、泡吹くかにと、烏鷺うろを争うは策のもっともつたなきものである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おい、おれを、まあ、何だと思う。浅草田畝たんぼに巣を持って、観音様へ羽をすから、はやぶさりき綽名あだなアされた、掏摸すりだよ、巾着切きんちゃくきりだよ。はははは、これからその気で附合いねえ、こう、頼むぜ、小父さん。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「秋篠と呼ぶはやぶさを、つい見失うてござります」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
たかはやぶさのうちあいだ。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
物見役には、動作も鈍くて、すべてがのろい男だったが、元康は、そば物見として、大勢のはやぶさの中には、きっと一羽、このどんからすぜて使った。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この時にあたっての米友は、もはや辻番のとがめを顧慮しているいとまがありません。はやぶさのように両国橋の上を飛びました。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
或時は、トオラス山のはやぶさが、湖と草原と山脈と、又その向ふの鏡の如き湖との雄大な眺望について語つた。
狐憑 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
ソフトをって、顔を一つ撫でると、慧敏けいびんはやぶさのような男。
女記者の役割 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
と訊かれ、その俊敏そうなはやぶさの眼を、初めてひたいごしにキラつかせながら、えて来た情報を、次のごとく報告しだした。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ見るたけ四尺あるやなしの小兵こひょうの男。竿に仕かけた槍を遣うこと神の如く、魔の如く、いなずまの如く、はやぶさの如し。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
直情径行のW・E・ヘンレイ(ガルバルジイ将軍を詩人にした様な男だ)が真先に憤慨した。何の為に、あの色の浅黒い・はやぶさの様な眼をした亜米利加女が、でしゃばらねばならぬのか。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「あっ——皆さん」お吉は、はやぶさに見込まれた小鳥のように、よろめきながら、綱曳きの仲間の者のかげにかくれ
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)