)” の例文
ひのきのあたらしい浴室である。高いれんじ窓からたそがれのうすしこんで、立ちのぼる湯気の中に数条すうじょうしまを織り出している。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
獄舎、白洲のあるこの役邸にも、中庭があり、ぬれ縁の外には、若楓わかかえでのみずみずしい梢に、夏近い新鮮なもれがそよいでいた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二階は格子に西が當つて、明るい六疊。長火鉢の灰が冷たくなつたまゝですが、此處がお時の居間らしく、妙に赤い物がチラ付くのもなまめきます。
また高い天蓋の隙間から幾つもの偶然を貫いて陰濕なくさむらへ屆いて來る木洩こもは掌のやうな小宇宙を寫し出した。しかし木洩れ陽程氣まぐれなものはない。
闇への書 (旧字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
時々その暗い表情のどこかに、曇天どんてんうすのような明るみがしかけることもあるが、それはすぐに消えて、また、元の落著おちつきのない暗さにもどってしまう。
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
雨は三日まえからあがったままで、林の中の水をたっぷり吸った土には、木洩こも斑点はんてんになってゆらぎ、檜の若葉がせるほどつよく、しかし爽やかに匂っていた。
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「あたりめえよ!」と甚太郎、またその気味の悪い三白眼を木洩こもにギラギラと輝かせたが
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そのしもに飛び飛びの岩、岩もまた幽けかりけり。冬はなほ幽けかりけり。あなあはれ、欅の枯木行き行けば見る眼に聳え、滝落ちてかげり迅し、あなあはれ、山の端薄陽うすび
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
それが一枚の炭素紙みたいに古い建物の並列を押しつけて、真夏だというのに、北のうすは清水のようにうそ寒い。空の色をうつして、何というこれは暗いみどりの広場であろう。
踊る地平線:05 白夜幻想曲 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
荷物の上へせっかく捨てた古柄杓ふるひしゃくを、泡鳴氏は拾って載せた——あんなことをしなければ好いのにと、見ないふりをして眼をらしたが、冬の薄らが、かたむきかけたのをせた背に受けて
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
うすらの空をみれば
貧しき信徒 (新字新仮名) / 八木重吉(著)
稲荷の祠と、背なか合せに、木洩こもを浴び、落葉をしいて、乳ぶさのうちに寝入った子を、しのぞいている若い母があった。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
根岸ねぎし向島むこうじまあたりにでもありそうな、寮ふうの構えで、うすへいごしの松の影を、往来のぬかるみに落としていた。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
電車の窓からは美しい木洩こもが見えた。夕焼雲がだんだん死灰に変じていった。夜、帰りの遅れた馬力が、紙で囲った蝋燭ろうそくの火を花束のように持って歩いた。
雪後 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
木洩こもが一筋射している。それが刀身を照らしている。そこだけがカッと燃えている。がその他は朦朧ぼけている。引き添って背後に坐っているのは、女馬子姿の君江である。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そのしもに飛び飛びの岩、岩もまたかすけかりけり。冬はなほ幽けかりけり。あなあはれ、欅の枯木、行き行けば見る眼に聳え、滝落ちてかげりはやし。あなあはれ、山の端薄陽うすび
曇るかと思うとカーッと照る、松並木の葉洩はもが、肩をならべて行くお綱とお十夜のうしろ姿へまばゆい明暗をあやどってゆく。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秋の木洩こもをいっぱいに浴び、黄ばんだ草を敷きながら、話し合っている男女があった。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
硝子透き、窻掛を透き、斜めあかるみぎりは冬もなほいつくしく見ゆ、たより無き影としもなし、柔かく親しかりけり。薄玻璃の影もゆらげり。妻とゐる二階の書斎、ひる過ぎはただしづかなり。
膳を、水屋へ運んで行った万野までのも、ひとりで、何か満足している。松の樹洩こもが、台所の棚にまでさしこんで、そこも、今朝から塵もない。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
赫々かくかくとした夏の真昼に、樹々は濃い緑から汗を流し、草花は芳香を強く立て、渓流たにがわは軽快な笑声を上げ、兎や鹿は木の間に刎ね、一切万象は自由に大胆に、その生命を営んでいた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
硝子透き、窻掛を透き、斜めあかるみぎりは、冬もなほいつくしく見ゆ、たより無き影としも無し、柔かく親しかりけり。薄玻璃の影もゆらげり。妻とゐる二階の書斎、午過ぎはただしづかなり。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
森の木洩こもが、若い弟子たちの黒い法衣ほうえの肩にをうごかしていた、ちらちらと風のそよぎに光るのだった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
射し込んでいる陽光ひかりは、地上へ、大小の、円や方形の、黄金色こがねいろの光の斑を付け、そこへ萠え出ている、すみれ土筆つくしなずなの花を、細かい宝石のように輝かせ、その木洩こもかよの空間に
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
花かともおどろきて見しよく見ればしろき八つ手のかへしにして
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
外へ、ころがり出した上、ぐその水に、濡れ鼠になった清人は、もうほんとに、刀鍛冶は止めてしまおうと思ったのか——冬日向ひなたへ立って、男泣きに泣いていた。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
陶器師は眼をつむり寂然じゃくねんとして控えている。こぼが一筋黄金色に肩の上に斑点はんてんを印し、白い蝶がさっきからそこへ止まって動こうともせず、時々ふるわせる薄い羽根から白い粉が仄かに四方へ散る。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ひとつひとつ雀掛稲はさそとのこり遠し早や時雨れつつ
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
眼をさまして、朝の勤めをすますと、きれいにかれた青蓮院の境内には、針葉樹の木洩こもして、初秋の朝雲が、粟田山あわたやまの肩に、白い小猫のようにたわむれていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あらむしろ春は浅けどこぼれ薔薇ばらいろぬくし子豚啼きゐる
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
きッと、半身はんしんをつきだした伊那丸いなまる針葉樹しんようじゅ木洩こもを、藺笠いがさとしろい面貌おもざしへうつくしくうけて
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白壁のかへ見ればやちだもの木立の木膚こはだかがやきにけり
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
幕いっぱいに、きりもんのゆれているその中には、秋のもれと、鳥の声しか、洩れなかった。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
残りの孟宗
第二海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
しいんと張りつめた板敷きに五十一人の膝が二列に並び、そのあたりへ、さるこく(午後四時)ごろの薄らがななめにさして、それがなお血曼陀羅ちまんだらのような色光を加えていた。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
林崎明神の神殿の辺りは、真昼、木洩こもがすこしす時のほかは、昼も暗かった。守人もりとの住む社家の勝手元には、黄昏たそがれると、一椀のかゆが出されてあった。それが甚助の食事であった。
剣の四君子:03 林崎甚助 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もうこずえには初蝉はつぜみが聞える。正成の具足姿に、青葉の木洩こもがチラチラして行く。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その後は、絵のような秋の木洩こもの中を、ひとりのあまが通ってゆく。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もう庭陰は、寒々と暮れかけて来て、木洩こもの夕陽も血かと匂う。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)