をか)” の例文
其朝は割合に波の立つ日で、一時間ばかり水の上で揺られて復た舟からをかの上、潮風の為に皆なの着物はいくらかベト/\した。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
商船会社の志望者といつても、もとは大抵胡瓜きうり馬鈴薯じやがいもと同じやうにをかの上で生れたので、それ/″\自分の故郷といふのをつてゐる。
それををかに居る三人の供の者が受取つて二臺の大八車に積むと、覆面の武家に護られて、永代橋の方へサツと引揚げます。
すると不思議なことには正助爺さん達の行くところは、まるで壁で仕切りをしたやうに海の水が両方に分れて、をかを行くのとちつとも変りがありません。
竜宮の犬 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
をかで歌へば、孰れも気狂ひ沙汰だが、真実舟で歌はれてゐるのを聞けば何と朗らかに調和好く響いてゐることだらう………樽野は悲しくそんな思ひに打たれながら
円卓子での話 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
その波頭の白いので、黒ずんだ島が一際ひときは明かに見えてゐる。それから二哩ばかりをかの方へ寄つて、その島より小さい島がある。石の多い、恐ろしい不毛の地と見える。
うづしほ (新字旧仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
もう峡流といふより、飛瀑と言つた方がいゝ、船頭はこゝで一人残らず、客ををかに上げてしまつた。
天竜川 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
をかの人達はぞろぞろ思ひ思ひの方角へ退散する、その「をか」が直ぐそこに見えてゐながら、船は川の中に釘付けで動けず、ちよつとやそつとの事には家へ帰れないのである。
花火の夢 (新字旧仮名) / 木村荘八(著)
例の奇癖きへきかういふ場合ばあひにもあらはれ、若しや珍石ちんせきではあるまいかと、きかゝへてをかげて見ると、はたして! 四めん玲瓏れいろうみねひいたにかすかに、またと類なき奇石きせきであつたので
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
それは水に住む魚が、をかの上を散歩をするなどゝは、いまがいまゝで知らなかつたからです。
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
をかへ合図して誰かに船を持つて来て貰つたら如何です?」と平三は思付いた様に言つた。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
涼しい樹陰こかげに五六艘の和船わせんが集つて碇泊して居るさまが絵のやうに下に見えた。帆を舟一杯にひろげて干して居るものもあれば、をかから一生懸命に荷物を積んで居るものもある。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
叱咜する度土石を飛ばして丑の刻より寅の刻、卯となり辰となるまでもちつとも止まず励ましたつれば、数万すまん眷属けんぞく勇みをなし、水を渡るは波を蹴かへし、をかを走るは沙を蹴かへし
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
をかへ上げて下さつて、ソフィイは後からいて來て、そして、あたしたちみんな馬車に乘つて、こゝよかもつと廣くて立派なホテルつていふ綺麗きれいな大きなおうちに行きましたのよ。
またその蒼々あを/\としたおほきなうみ無事ぶじにわたりつて、をかからふりかへつてそのうみ沁々しみ/″\ながめる、あの氣持きもちつたら……あのときばかりは何時いつにかゐなくなつてゐる友達ともだち親族みうちもわすれて
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
腹立はらだたしかほをしたものや、ベソをいたものや、こはさうにおど/\したものなぞが、前後ぜんごしてぞろ/\とふねからをかあがつた。はゝかれた嬰兒あかごこゑは、ことあはれなひゞき川風かはかぜつたへた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「買はう/\。」と間延まのびな聲で呼んでは、漁船の間を漕いで魚を買ひ集めて、買つた魚を籠に入れてをかへ上ると、今度は威勢のいゝ聲で「賣らう賣らう。」と叫びながら村中を驅け廻つてゐた。
避病院 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
この時も、予は亦突然艀舟はしけをかにあげる人々の叫聲に驚かされた。
海郷風物記 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
されど急流きふりう岩にげきして水勢すゐせい絶急はげしきところは雪もつもる事あたはず、浪を見る処もあり。渡口わたしばなどはをのにて氷をくだきてわたせども、つひにはこほりあつくなりて力およびがたく、船はをかりて人々氷の上をわたる。
をかに来てはころげ羽ばたく阿呆鳥あほうどり逃げよとすれど歩まれぬかも
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
をかの方へやつて来た。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
仲よくをか見て
朝おき雀 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
そのしべをか
山果集 (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
屈強くつきやうな若者達が、船から運び出す荷を、をかに待つて居る人足が、言葉少なに受取つて、何處ともなく姿を消します。
たとへば、海上の長旅を終つて、をかに上つた時の水夫の心地こゝろもちは、土に接吻くちづけする程の可懐なつかしさを感ずるとやら。丑松の情は丁度其だ。いや、其よりも一層もつとうれしかつた、一層哀しかつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
しかし空想の中でさへ、私はそこまで行くことが出來ない——逆風ぎやくふうをかの方から吹きつけて、始終私を追ひ歸してしまふ。常識が譫忘状態せんばうじやうたいに勝たうとつとめ、判斷力が情熱を警めるのだ。
『貴方は、水の魚、それともをかの魚、青い小父さんはなあに。』
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
それををかから眺めてゐる娘、即ち僕の女房……
夏ちかきころ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
をかは万作だ
蛍の灯台 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
その時自分の船より一と足先に岸へぎ寄せた傳馬が、炭俵と米俵を二十五六べうをかへ揚げて、サツサと大川を漕ぎ戻つたのを見てゐると、足元の石垣の上に、牙彫けぼりの圓いものが一つ
と漁師達は、釣竿を海に投げすててをかに逃げかへりました。
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
海から見たをかは、陸から海を見たほどの變化も無かつた。
伊豆の旅 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「解らないなア。兎に角、もう少しをかをあさつて見よう」