重宝ちょうほう)” の例文
旧字:重寶
「だからさ、今年もすでに、心がけて、すでに十万貫に価する珍器重宝ちょうほうは、この北京ほっけいの古都を探って、ひそかに庫にあつめてあるわさ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
海の向うにつらなる突兀とっこつ極まる山脈さえ、坐っていると、窓の中に向うから這入はいって来てくれるという重宝ちょうほううちなんだそうである。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
このあたりは五年ほど前に開発された住宅区であったが、重宝ちょうほうな設計のなされているのにかかわらず、わりあいに入っている人がすくなかった。
断層顔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ナニ人間にんげん世界せかいにも近頃ちかごろ電話でんわだの、ラヂオだのという、重宝ちょうほう機械きかい発明はつめいされたとっしゃるか……それはたいへん結構けっこうなことでございます。
然し一方では重宝ちょうほうがられると同時に、いくらお金があっても、羽振りがよくっても、誰一人彼に媚を呈したり、惚れたりする者はありません。
幇間 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
兎の杵が重宝ちょうほうがられるようでは、こちらはまるでお客がなさそうなものだが、昨今また一つ開業するというから、必ずしもそうでないようだ。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
しかし『永代蔵』中の一節に或る利発な商人が商売に必要なあらゆる経済ニュースを蒐集し記録して「洛中の重宝ちょうほう」となったことを誌した中に
西鶴と科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
重宝ちょうほうなもんだて。どうしてまた毛唐けとうは、こんなことにかけては、こうも器用なんだろう。これを使っちゃ、燧石ひうちいしなんぞはお荷物でたまらねえ」
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
何しろ新材料はやみみと云うとこで、近所の年寄や仲間に話して聞かせると辰公は物識ものしりだとてられる。迚も重宝ちょうほうな物だが、生憎あいにく、今夜は余り材料たねが無い。
越後獅子 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
その上給金は一文でも、くれと云った事がないのですから、このくらい重宝ちょうほうな奉公人は、日本にほん中探してもありますまい。
仙人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
男のお前がこんなところに気をつけてくれて、お母さんはほんとに嬉しいよ、丁度古くから使っていたのが折れてしまったものだから重宝ちょうほうしますよ。
女の一生 (新字新仮名) / 森本薫(著)
若い頃は、恐らく、物静かな、事務に堪能たんのうな、上役にとって何かと重宝ちょうほうがられた侍の一人であったろう、と思われる。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
図書 (うたがいの目をこらしつつあり)まさかとは存ずるなり、わたくしとても年に一度、虫干の外には拝しませぬが、ようも似ました、お家の重宝ちょうほう、青竜の御兜。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これは、外国には貝類も魚類も少ないので重宝ちょうほうがっているせいだろうが、料理の味をこわしているのが大方おおかただ。
鍋料理の話 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
そして熱心な正統派の信仰を持った慈善家です。僕はことのほか信頼され重宝ちょうほうがられています。そこから僕のライフ・キャリヤアを踏み出すのは大なる利益です。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
故郷の京都へい戻り、あちこち奉公ほうこうしたが、英語の読める丁稚でっち重宝ちょうほうがられるのははじめの十日ばかりで、背中の刺青がわかって、たちまち追い出されてみれば
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
町を歩いて眼についたものに座蒲団入ざぶとんいれの四角い行李こうりがありました。竹編たけあみでこれに渋紙を貼り定紋じょうもんを大きくつけます。見てもなかなか立派で使えば重宝ちょうほうでありましょう。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
まいへもうしろへも廻る重宝ちょうほうな屏風で、反古張ほごばり行灯あんどんそば火鉢ひばちを置き、土の五徳ごとくふた後家ごけになってつまみの取れている土瓶どびんをかけ、番茶だか湯だかぐら/\煮立って居りまして
「階下のお婆さんが、寝る前に炭団たどんをいけといてくれるから、いつも火種があって重宝ちょうほうよ。」
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
未亡人は筆算が出来るので、敬の夫力蔵に重宝ちょうほうがられて、茶屋の帳場にすわることになった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ヤアパンニアでは黄金を重宝ちょうほうにするという噂話うわさばなしを聞いたからであった。日本の衣服をこしらえた。碁盤のすじのような模様がついた浅黄いろの木綿着物であった。刀も買った。
地球図 (新字新仮名) / 太宰治(著)
総領の源蔵は鎌倉へ修業に出てしまったので、男手の少ない源兵衛の家ではこの黒ん坊を重宝ちょうほうがって、ほとんど普通の人間のように取扱っていた。黒ん坊も馴れてよく働いた。
くろん坊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
皆から小松さん小松さんと重宝ちょうほうがられるのをこの上もなく嬉しいことにしている男である。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
吐酒石酸というのは毒薬自殺や何かの時に重宝ちょうほうな薬で、この薬をホンノちょっぴり人間にませると、忽ち胃袋のドン底まで吐瀉してしまうから毒がまわらないうちに助かるんだ。
無系統虎列剌 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
いくらひどく使っても出て行く心配もなければ、不平ふへいを言う気づかいもない重宝ちょうほうな女中であった。かの女が外へ出ることはめったになかったし、けっしておこったこともなかった。
小判の山がうず高く積んであろうという、膳の上よりも膳の下が目的めあてということは、贈るほうも贈られる方も、不言不語いわずかたらず、ズンと飲み込んでいるのだから、誠に重宝ちょうほうな品物で……。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
こうなると人間に眼のあったのは全く余り有り難くありませんね、盲目めくらの方がよほど重宝ちょうほうです、アッハハハハ。わたくしも大分小さな樹の枝で擦剥すりむきずをこしらえましたよ。アッハハハハ。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
また描き損じた絵を洗い落すにもアルコールが一番重宝ちょうほうであります。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
これではたまらない。なにもかも筒抜けだ。が、どっちにとっても、忠実なスパイには相違なかった。両方から報酬をもらう。金になるから、自然おおいに活動して、どっちにも重宝ちょうほうがられてきた。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
ごく繁昌する、近所で重宝ちょうほうな荒物屋があった。
旧聞日本橋:02 町の構成 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
こりゃこのうえなしの乗物で、重宝ちょうほうじゃろう。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
佐助というのは、大勢の雇人やといにんの中でも、よく気のつく若い者で、住居の方でも重宝ちょうほうに使い、暇があると店のほうを手伝っていた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「奥さん、帽子はそのくらいにしてこの鋏を御覧なさい。これがまたすこぶる重宝ちょうほうな奴で、これで十四通りに使えるんです」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼の学識を基礎とする一風変った探偵法は検察当局にも重宝ちょうほうがられて、しばしば難事件の応援に頼まれることがあった。
人造人間事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かゆいところへ手の届く親切ですから、奥様としては、全く不自由な旅へ出たとは思われないくらいの重宝ちょうほうさでした。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
女郎屋の朝の居残りに遊女おんなどもの顔をあたって、虎口ここうのがれた床屋がある。——それから見れば、旅籠屋や、温泉宿で、上手な仕立は重宝ちょうほうで、六の名はしち同然、融通ゆうずうは利き過ぎる。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
内が朱塗、外が黒塗の品で、ひんのよい美しさがあります。多くは大中小を三重みつがさね一組として売ります。どの家庭にもすすめたい品であります。きっと重宝ちょうほうがられるでありましょう。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
何せ、借りが利くので重宝ちょうほうだった。僕は客をもてなすのに、たいていそこへ案内した。
眉山 (新字新仮名) / 太宰治(著)
従ってこれほど重宝ちょうほうなものはない。しかし、これは、寿司屋と呼ぶより、自由料理屋と呼んだ方がふさわしいように思う。従来とはまったく様式の異なった新日本料理が生まれたのだ。
握り寿司の名人 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
此の皿は東山家伝来の重宝ちょうほうであるゆえ大事にするためでも有りましょう、先祖が此の皿を一枚毀す者は実子たりとも指一本を切るという遺言状をこの皿に添えて置きましたと申すことで
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「こうしていればかたわも重宝ちょうほうなものだ。世の中のやつらは知恵ちえがないからかたわになるとしょげこんでしまって、丈夫じょうぶな人間、あたりまえな人間になりたがっているが、おれたちはそんなばかはできないなあ」
かたわ者 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
まことに重宝ちょうほうな袋だ。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
そうして効用は両方共ほぼ同じです。その点から見てもはなはだ重宝ちょうほうです。それにこの油の特色は他の植物性のもののように不消化でないです。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そういう者を「ころびばてれん」と呼んで、幕府ではいい重宝ちょうほうに使って、生涯切支丹屋敷の飼い殺しとするのが例です。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
話が色盲の方へ道草をしてしまったが、この赤外線という光線は、人間の眼に感じないとされているだけに、秘密の用をつとめるとて、重宝ちょうほうされている。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
でも、こういう際には、これでけっこう役に立ち、読む人に相当の慰めが与えられるのも重宝ちょうほうだと思いました。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
はなれた地方に行けば、まだ重宝ちょうほうな品物である。田舎家の軒に蓑が数多く掛かる風情は、今も旅の眼を喜ばせてくれる。田舎ではしばしば時間が消えるのである。昔がすぐ今につながる。
蓑のこと (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
晃 ……おい、あの、弥太兵衛が譲りの、お家の重宝ちょうほうと云う瓢箪ひょうたんを出したり、酒を買う。——それから鎌を貸しな、滅多に人の通わぬ処、路はあっても熊笹ぐらいは切らざあなるまい。……早くおし。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
余の如き財力の乏しいものには参考として甚だ重宝ちょうほうな出版である。文学において悲観した余はこの図譜を得たために多少心細い気分を取り直した。
『東洋美術図譜』 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
正盛のきあとは、息子の忠盛が、あとをついだ。白河上皇は、気のおけない忠盛を、正盛以上、重宝ちょうほうにおもわれた。