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遠退
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とおの
ふりがな文庫
“
遠退
(
とおの
)” の例文
なぜなら私は怠惰ほど救済から
遠退
(
とおの
)
いているものはないと信ずるから。かようにして真に自由なる人こそ私のあこがれの対象である。
語られざる哲学
(新字新仮名)
/
三木清
(著)
持っているから、まさか泥棒とは思わないまでも、『
贓品
(
けいず
)
買い』をしているものだと気が付いて、それから
遠退
(
とおの
)
くようにしていましたよ
銭形平次捕物控:084 お染の歎き
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
三月
(
みつき
)
半年と経つうちに、近所の人はだんだんに
遠退
(
とおの
)
いてしまって、お玉さんの
兄妹
(
きょうだい
)
は再び元のさびしい孤立のすがたに立ち帰った。
綺堂むかし語り
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
初めのうちは
椽
(
えん
)
に近く聞えた声が、しだいしだいに細く
遠退
(
とおの
)
いて行く。突然とやむものには、突然の感はあるが、
憐
(
あわ
)
れはうすい。
草枕
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
その夜、お客が
遠退
(
とおの
)
いた時に、歌を書いた紙を私がそっと出しましたら、お兄さんはそれを見て、にこにこ笑っていられました。
鴎外の思い出
(新字新仮名)
/
小金井喜美子
(著)
▼ もっと見る
しかし、ふたりの間隔は、
相搏
(
あいう
)
った一瞬に、おそろしく
遠退
(
とおの
)
いていた。長槍と長槍とでも届かないくらいな間隔にわかれていたのである。
宮本武蔵:08 円明の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
丘の突角は次第に左の方へ
遠退
(
とおの
)
いて行って、私は知らず
識
(
し
)
らずの間に、
殆
(
ほとん
)
ど不意に林の中から
渺茫
(
びょうぼう
)
たる海の前景のほとりに立たされてしまった。
母を恋うる記
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
やがて
風説
(
うわさ
)
も
遠退
(
とおの
)
いて、若菜家は格子先のその空地に生える
小草
(
おぐさ
)
に名をのみ
留
(
とど
)
めたが、二階づくりの意気に出来て、ただの
住居
(
すまい
)
には割に手広い。
日本橋
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
陽は既に西に
遠退
(
とおの
)
いて、西の空を薄桃色に燃え立たせ、眼の前のまばらに立つ住宅は影絵のように
黝
(
くろ
)
ずんで見えていた。
快走
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
しかし君のことはよくお話ししておいたから……万事が落着するまでは君は私から
遠退
(
とおの
)
いているようにしてくれたまえ。送って来ちゃいけませんよ
親子
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
その時、体をひどく悪くしていたことも手伝って、それなりに文壇を
遠退
(
とおの
)
いてしまった。
傍目
(
はため
)
にはそうまでしなくてもよさそうに思われたに違いない。
夢は呼び交す:――黙子覚書――
(新字新仮名)
/
蒲原有明
(著)
ぐいぐいと
遠退
(
とおの
)
いてゆく路傍の生垣などを眺めている時でさえ、馬車の外の夜の影は、いつの間にか馬車の内の夜の影のあの
連
(
つらな
)
りと一緒になるのだった。
二都物語:01 上巻
(新字新仮名)
/
チャールズ・ディケンズ
(著)
栗栖もそれが磯貝とわかり、六感にぴんと来るものがあり、酔いもさめた形であった。栗栖の足はそれから少し
遠退
(
とおの
)
き、しばらく顔を見せないのであった。
縮図
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
しかしその言葉が進むに連れて……否……女の言葉が烈しくなればなる程、
室
(
へや
)
の中に充ち満ちていた殺気——間一髪を容れぬ危機は次第に
遠退
(
とおの
)
いて行った。
暗黒公使
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
記憶を押し進むれば進むるほど、その面影は同じ程度に
遠退
(
とおの
)
いて、常にぼんやりした距離に立って居た。
子を奪う
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
濃淡の藍を低い雲に織り交ぜて、
遠退
(
とおの
)
くが如く近寄るが如く、浮かんでいるばかりで、輪廓も正体も
握
(
つか
)
みどころがないが、裾を
捌
(
さば
)
いた富士の斜線の、大地に
這
(
は
)
うところ
不尽の高根
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
そして不思議に二年の半ばをすぎたいまは、男の
呼吸
(
いき
)
づかいがしだいに筒井の身のまわりから、
澪
(
みお
)
がしずまるように
遠退
(
とおの
)
きつつあった。そしてこれは
詮
(
せん
)
ないことだった。
津の国人
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
窓の雨戸をあけると、昨夜あれほど近かった瀬の音が、しずかに知らないふりに
遠退
(
とおの
)
いていた。
春深く
(新字新仮名)
/
久保田万太郎
(著)
挙げて
麾
(
さしまね
)
かるることもあらば返すに
駒
(
こま
)
なきわれは何と答えんかと予審廷へ出る心構えわざと
燭台
(
しょくだい
)
を
遠退
(
とおの
)
けて顔を見られぬが一の手と
逆茂木
(
さかもぎ
)
製造のほどもなくさらさらと
衣
(
きぬ
)
の音
かくれんぼ
(新字新仮名)
/
斎藤緑雨
(著)
窓々から
迸
(
ほとば
)
しる様々の声は、高い天井や床板や、部屋部屋の壁に反響し、凄じい音を
形成
(
かたちづく
)
ったが、その音の中を貫いて、尼の叫びと車の軋り
音
(
ね
)
とは、次第次第に
遠退
(
とおの
)
いて行く。
神州纐纈城
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
三度の文も一度になり、
仮病
(
にせやまい
)
をこしらえたり旅へ出たり、何とかして
遠退
(
とおの
)
く
算段
(
さんだん
)
ばかり。
平賀源内捕物帳:萩寺の女
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
すうっと、目のまえのものが
遠退
(
とおの
)
いたと思うと、ケティはそれなりぐたりと倒れた。
人外魔境:03 天母峰
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
やがて、幽寂な山時雨の音が
遠退
(
とおの
)
くにつれて、原生樹林の底はふたたび明るくなってきた。孔雀青の高い空から陽が斜めに
射
(
さ
)
し込んだ。玻璃色の
陽縞
(
ひじま
)
の中にもやもやと水蒸気が
縺
(
もつ
)
れた。
恐怖城
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
そうした心の純粋さがとうとう私をしてお里を出さしめたのだろうと思います。心から
遠退
(
とおの
)
いていた故郷と、然も思いもかけなかったそんな深夜、ひたひたと
膝
(
ひざ
)
をつきあわせた感じでした。
橡の花
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
その翌日、彼はわきめもふらずに、町の昼の
雑沓
(
ざっとう
)
をその中心から
遠退
(
とおの
)
いた。
あめんちあ
(新字新仮名)
/
富ノ沢麟太郎
(著)
夫婦ともおせんから
遠退
(
とおの
)
こうとする風がだんだんはっきりしだした。
柳橋物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
すると、この広間の声々は海鳴りの音に似て来る。意味の取れなくなった音響でありながら、それは一脈の
諧調
(
かいちょう
)
をもっていた。さッと
遠退
(
とおの
)
いて行って、時をおいて間もなくどッとこちらに押し寄せた。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
悲歎に暮るる人達を
遠退
(
とおの
)
けて、丁寧に診察しましたが、病気は心臓麻痺、死亡時間は夜半の二時頃、という以上には何んにも判りません。
葬送行進曲
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
竹童は
遠退
(
とおの
)
く
跫音
(
あしおと
)
へいくども
礼
(
れい
)
をいったが、
両手
(
りょうて
)
で顔をおさえているので、それがどんな
風
(
ふう
)
の人であったか、見送ることができなかった。
神州天馬侠
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
宗助は白い筋を
縁
(
ふち
)
に取った
紫
(
むらさき
)
の傘の色と、まだ
褪
(
さ
)
め切らない柳の葉の色を、一歩
遠退
(
とおの
)
いて眺め合わした事を記憶していた。
門
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
人の心づくしを仇にして、去年以来とかくに自分から
遠退
(
とおの
)
こうとしているらしい栄之丞の不真実が、八橋に取っては恨めしいを通り越して憎く思われた。
籠釣瓶
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
と婆さんは振返って、やや日脚の
遠退
(
とおの
)
いた座を立って、程過ぎて秋の暮方の冷たそうな座蒲団を見遣りながら
政談十二社
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
そのうちにソノ笑い声が次第に淋しそうに、悲しそうに
遠退
(
とおの
)
いて行って、やがてフッツリと切れるトタンに舞台がパッと明るくなり、第二幕の第二場となる。
二重心臓
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
冷蔵庫の中にいる奴と同じであるから、はばかりから帰って来ると私は自分の手のひらでこの者を何時も少時あたためてやっていた。あたためてやらないと睡りが
遠退
(
とおの
)
いてゆくからだ。
われはうたえども やぶれかぶれ
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
蛇は勢よく
鎌首
(
かまくび
)
を立て、赤い舌を吐いてあちこちします。その気味の悪いこと。その辺の子供たちや、通りがかりの人が立止って見ています。蛇は蛙を追い追い水を伝わって
遠退
(
とおの
)
きます。
鴎外の思い出
(新字新仮名)
/
小金井喜美子
(著)
ふたたび葉之助が
遠退
(
とおの
)
いてからのお露の
煩悶
(
はんもん
)
というものは、紋兵衛の眼には気の毒で見ていることは出来なかった。葉之助が殿に従って江戸へ行ってしまってからは、彼女は
病
(
やま
)
いの床についた。
八ヶ嶽の魔神
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
次第に足が
遠退
(
とおの
)
き、ふっつり音信が絶えてしまったが、藤川のお神が間に立って、月々の
小遣
(
こづかい
)
や、移り替え時の面倒を見てくれている、ペトロンはペトロンとして、銀子も明ければもう二十歳で
縮図
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
自然の幽寂な音楽が
遠退
(
とおの
)
くにつれて、深林の底は再び明るくなった。紺碧の高い空から
陽
(
ひ
)
が斜めに射し込んだ。明るい
陽縞
(
ひじま
)
の中に、もやもやと水蒸気が
縺
(
もつ
)
れた。落ち葉の海が、ぎらぎらと輝き出した。
熊の出る開墾地
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
女中は、扱い馴れぬ手紙に目をみはりながらそこを
辷
(
すべ
)
って行った。その跫音が
遠退
(
とおの
)
くと、部屋の中から妙にも麗しい声の主が
剣難女難
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
今迄
傍
(
そば
)
にゐたものが一町許
遠退
(
とおの
)
いた気がする。三四郎は
借
(
か
)
りて置けば
可
(
よ
)
かつたと思つた。けれども、もう仕方がない。蝋燭
立
(
たて
)
を見て
澄
(
すま
)
してゐる。
三四郎
(新字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
内証
(
ないしょ
)
に大一座の客があって、雪はふる、部屋々々でも
寐込
(
ねこ
)
んだのを
機
(
しお
)
にぬけて出て、ここまでは来ましたが、土を踏むのにさえ
遠退
(
とおの
)
いた、足がすくんで震える上に
註文帳
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
言われる通り、二三歩
遠退
(
とおの
)
いて、
灯
(
ともしび
)
の
疎
(
まば
)
らな
本所
(
ほんじょ
)
の
河岸
(
かし
)
の方を向いたまま
悪人の娘
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
つまり欺される方が悪いというような理窟なんですね。それでもやっぱり気が咎めると見えて、御符売りはわたくしに笠の内を覗かれて、なんだか落ち着かないようなふうで
遠退
(
とおの
)
いていたんでしょう。
半七捕物帳:05 お化け師匠
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
紀久子は仕方なく土手の陰へ
遠退
(
とおの
)
いた。そこへ松吉が走ってきた。
恐怖城
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
馬をあおって
遠退
(
とおの
)
いて行く。
任侠二刀流
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
足音
(
あしおと
)
は向ふへ
遠退
(
とおの
)
いて行く。三四郎は
庭先
(
にはさき
)
へ廻つて下駄を
突掛
(
つゝか
)
けた儘孟宗藪の所から、一間余の土手を這ひ下りて、提燈のあとを
追掛
(
おつか
)
けて行つた。
三四郎
(新字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
ゆるい、しかし大きな跫音は、もう本堂のほうへ通う暗い廊を踏んで
遠退
(
とおの
)
いていた。例の
勤行
(
ごんぎょう
)
の時間なのである。
私本太平記:10 風花帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「百両ありゃ、ずいぶん一年や半年は江戸を
遠退
(
とおの
)
いてもいいな」
銭形平次捕物控:031 濡れた千両箱
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
と
遠退
(
とおの
)
く声!
あさひの鎧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
「そうか、じゃあ失敬」と細い杖は空間を二尺ばかり小野さんから
遠退
(
とおの
)
いた。一歩門へ近寄った小野さんの靴は同時に一歩杖に
牽
(
ひ
)
かれて
故
(
もと
)
へ帰る。
虞美人草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
遠
常用漢字
小2
部首:⾡
13画
退
常用漢字
小6
部首:⾡
9画
“遠”で始まる語句
遠
遠方
遠慮
遠近
遠江
遠山
遠音
遠眼鏡
遠路
遠州