こえ)” の例文
勘次かんじはそれでも分別ふんべつもないので仕方しかたなしに桑畑くはばたけこえみなみわびたのみにつた。かれふる菅笠すげがさ一寸ちよつとあたまかざしてくびちゞめてつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
熊本県の南部でケサカケ、嶺をこえて宮崎県の西隅でもケサバナというのは、やはり同じように折って首に掛ける風があったからと思う。
は人にたすけられて高所たかきところ逃登にげのぼはるか駅中えきちゆうのぞめば、提灯ちやうちんたいまつともしつれ大勢の男どもてに々に木鋤こすきをかたげ、雪をこえ水をわたりこゑをあげてこゝにきたる。
こえぬと見えせいたか面體めんてい柔和にうわにて眉毛まゆげ鼻筋はなすぢ通りて齒並はならそろいやみなき天晴の美男にして婦人ふじんすく風俗ふうぞくなり衣類は黒七子くろなゝこの小袖にたちばな紋所もんどころつけ同じ羽折はをり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
八月のなかばだつたが、碓氷うすひ峠をこえると秋の景色だつた。百合撫子萩桔梗紫苑しをん女郎花をみなへしを吹く風の色が白かつた。草津へ通ふ馬の背の客の上半身が草の穗の上にあらはれてゐた。
山を想ふ (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
おなじ城下を東へ寄った隣国へこえる山の尾根の談義所村というのに、富樫があとを追って、つくり山伏の一行に杯を勧めた時、武蔵坊が鳴るは滝の水、日は照れども絶えずと
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おれが草を刈って来て喰わせる時も毒な草がへえって居ちゃアいけねえからと思って、茅草かやぐさばかり拾って喰わせるようにしたから、われでかい坂をこえるにもつれえ顔を一つした事はねえで
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
前後左右から引きも切らずに来る雑多な車の刹那せつなの隙を狙つて全身の血を注意に緊張させ、悠揚いうやうとしたはや足になかばこえて中間にある電灯の立つた石畳を一先ひとま足溜あしだまりとしてほつと一息つき
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
高いアルピの山をおこえになって、5070
これを暖国だんこくの人にみせなばいかにめづらしとかおもふらん。牧之ぼくし柏崎かしはざきより妻有つまりの庄へ山こえしたる時目前に見たる所也。
すれば我父は大坂おほさかうまれなれば鈴ヶ森にて獄門ごくもんに掛られたることうたがひなしと夫より六郷の渡場わたしばこえ故意わざ途中とちう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
七十をこした老僧がたいくつして困つてゐるのだ。露を踏んで、なだらかな丘をこえて行つた。
山を想ふ (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
我があたりはしば/\いへるごとく、およそ十月より翌年よくとしの三月すゑまではとしこえて半年は雪也。
渡りこえ水戸みと樣前を左りになし壹岐殿坂いきどのざかを打上り本郷通りを横に見てゆけども先の目的めあてなき目盲めくら長屋ながや
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
我住塩沢よりしも越後の方へ二宿こえて(六日町五日町)浦佐うらさといふ宿あり。こゝに普光寺ふくわうじといふ(真言宗)あり、寺中に七間四面の毘沙門堂びしやもんだうあり。つたへていふ、此堂大同二年の造営ざうえいなりとぞ。
 伊達政宗卿だてまさむねきやうの御哥に「さゝずともたれかはこえせきふりうづめたるゆきの夕ぐれ」又「なか/\につゞらをりなるみちたえて雪にとなりのちかき山里」此君は御名たかき哥仙かせんにておはしまししゆゑ
たふげうちこし四里山径やまみち隆崛りうくつして数武すぶ平坦へいたんの路をふま浅貝あさかひといふえき宿やどなほ二居嶺ふたゐたふげ(二リ半)をこえ三俣みつまたといふ山駅さんえきに宿し、芝原嶺しばはらたふげを下り湯沢ゆさはいたらんとするみちにてはるか一楹いちえい茶店さてんを見る。