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ドウいう人かとくと、それより数日前、突然依田学海よだがっかい翁を尋ねて来た書生があって、小説を作ったから序文を書いてくれといった。
露伴の出世咄 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「變だとわかつたら、俺のところへきに來る迄もあるめえ、——今日は滅法忙しいんだ。お前なんかをからかつちや居られねえよ」
「Mの町の旅館……。なんという旅館ですか。」と、博士は何げないようにいたが、その眼は少しく光っているようにも見られた。
怪獣 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「旦那はこれから旅へいらっしゃるんですか」主人の与平が燗徳利かんどくりを出しながらいた。「それとも旅からお帰りになったんですか」
夜の蝶 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
時には赤い裏のきたない布団が、二階の欄干らんかんにほしてあった。一緒に行った姉にいても、汚い家だといって教えてはくれなかった。
四谷、赤坂 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
老僕が何やらぼそぼそ言うと、——「ええ?……だれか来たって?」と、き返して、「となりのぼっちゃんかい? じゃ、お通しおし」
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
津田の挨拶あいさつに軽い会釈えしゃくをしたなり席に着いた細君はすぐこういた。津田はちょっと苦笑した。何と返事をしていいか分らなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
車が迎えに来て、夫妻はいとまを告げた。鼈四郎はこれからどちらへとくと、夫妻は壬生寺みぶでらへおまいりして、壬生狂言の見物にと答えた。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
かないから悪いのよ。ほんとなら警察へ突き出されたってそれまででしょう。それを地道にこうというのに、シラを切るんだもの
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
髪結のおナツが、染奴の髪を結いながら、く。博多はかた生まれ、四十年配の、勝気らしい、色の浅黒い、眉毛のつりあがった女である。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
事故などは少いでしょうとくと、いやこれで案外多いのです。往来を走っているのは割合い少いものですが、など車掌は言っていた。
路上 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
こういって小僧がくと、女はやはり無言でうなずいて、そこへ代価を置いて、酒の入った徳利を捧げるようにして帰って行った。
こう思うと、わたしはその事情がいてみたくてなりませんでした。町田もちょうどわたしと同じような心持ちになったとみえて
メデューサの首 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
二階では良吉と勝代とが炬燵に当って、ひとしきり東京話を聞いたりかれたりしていたが、やがて別々の部屋に別れて寝支度ねじたくをした。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
さほどに懇意でない人は必ず私の母をば姉であろうといた位でした。江戸の生れで大の芝居好き、長唄ながうたが上手でこともよくきました。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と、制服の外套のえりあごを深くうずめた四十男の消防手がいた。彼は帆村が下駄をはいて上ってきたのに、すこしあきれている風だった。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しいてこうとあそばすのに対しては絶対に口をつぐんでいる姫君が、そのほかのことでは美しい口ぶりで愛嬌あいきょうのある返辞などもして
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
仕立屋へ通っていたミチにいたが知らないという、カヤノ、フサエ、八重を呼んでただすとフサエが目を伏せて爪をかみだした。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
『それはわかつてる、大方おほかたかはづむしぐらゐのものだらう』とつて家鴨あひるは『しかし、ぼくくのは大僧正だいそうじよううしたとふのだ?』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
世話人は種々いろ/\なことをかれた。しかしその不思議な僧の行為の中には、あやしいやうなことは少しもなかつた。すべて自然であつた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「じゃ、私お姉さんにいてみるわ。もしそうだとすれば、お姉さん、あんまりヒド過ぎるんですもの。行って訊くわ。お姉さまに。」
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
こういうところをむのかいなと、ぼんやり思ってみたりして、この家も自分のものか借家なのか、いてみたこともなかったけれど
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
で、自然しぜん私達わたくしたち対話はなしんでからのち事柄ことがらかぎられることになりました。わたくし真先まっさきにいたのは良人おっと死後しご自覚じかく模様もようでした。——
「そんなこと僕にいたって、分りゃせんさ。それに、元来作家なんてものは、すべてこうしたことはいっさい関係しないものなんだよ」
遁走 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
「さア、それは大変なものらしいのですが、二三日したらお宅へ本人が伺うといってましたから、そのときでもいて下さい。」
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
私は馬から降りて、かの手紙を差し出すと、老人はそれを一度読み、また読み返して、疑うような眼をしながら私にきました。
「おい、お前は時計はらないか。」丸太で建てたその象小屋の前に来て、オツベルは琥珀のパイプをくわえ、顔をしかめて斯ういた。
オツベルと象 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
だからきょうの客にも彼は一体何を僕に見てくれというのかとくと、客は言下に陶器を一つ見ていただきたいのですといった。
陶古の女人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「どうして洋画などへ入ったのだ?」とくので「洋画へ入って新しい知識も得るしデッサンなどもやってみたい。」と言うと
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
腎臓病の青膨れのまま駈着かけつけて来た父親の乙束区長がオロオロしているマユミをつかまえて様子をいてみたが薩張さっぱり要領を得ない。
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
例えば、この間、僕は思いきってあいつに、「君の云うそのあんなあなって云うのは一体何のことだい?」っていてみたんだ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
後ろの窓際まで行ってそのしきいの上にそれを載せたが、また私の側に帰って来て、「この前の幕は何でしたか」と馴々なれなれしくいた。
「フェアファックス孃さんには、今晩お目にかゝれますのでございませうか?」彼女のすゝめるものを食べてから、私はいた。
「お前は何時までも俺のものかい」と彼の方でいた時に、「ええ何時までも」と答えた通り、彼女はすでにすでに岸本のものであった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
或日私がそれをそれとなく殿におきすると、「そう、そんな事もあったかも知れんな」と殿はいかにも冷淡そうにおっしゃられたぎりだった。
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
だからドイツへ往くなら、そういう方にいろいろ注意すべきことをいてゆくがよかろうというので、いろいろ御話を伺った。
回顧と展望 (新字新仮名) / 高木貞治(著)
其新聞には野口雨情君も行くのだと小国君が言ふ。「甚麽どんな人だい。」とくと、「一二度逢つたが、至極穏和おとなしい丁寧な人だ。」
男優A そいつをいとくのを忘れた。僕は、あんまり、女の名前なんかに興味はないんでね。貞子さん……それとも、操さん……違ふね。
職業(教訓劇) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
統計のなかにも、二十歳未満の少女に強盗と云うのが一人ありました。わたしは吃驚して、どんな風な少女なのでしょうといてみました。
きました。訊く方はむろん冗談だったのですが、当人のかっちゃんは、旧悪が露見したような気がしてはっとしたのです。
かれたんでございます。抜き打ちの御質問でびっくりした私が、声も出せずに黙ってうなずきますと、その若い利巧そうなお医者様は
幽霊妻 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
教誨師が仔細しさいらしくうなずいて帰ったあとで、掃除夫そうじふの仕事をここでやっている、同じ病人の三十番が太田にくのであった。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
「昨日出たきりけえらねえので……停車場でいたら、上野までの切符、七、八枚も売れだのだぢがら、見当が付かねえもね。」
駈落 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
私は笠原に簡単に事情を話して、何処どこか家が無いかといた。しかし今迄彼女はもうほとんど知っている家は、私のために使ってしまっていた。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
じつはあたし、あなたにちょっと、おきしたいことがあるんですけれど、どうも具合が悪くって、言い出しにくいんですの。
船に帰って、ピンポンをしていると、M氏が来て「坂本君、コダックは」ときます。愕然がくぜん、ぼくは脳天を金槌かなづちでなぐられた気がしました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
今更いまさらあらためて、こんなことをくのも野暮やぼ沙汰さただが、おこのさんといいなさるのは、たしかにおまえさんの御内儀ごないぎだろうのう」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
やがて、かういたのだ。が、併し、兄はそれには答へなかつた。私は一寸てれて机の上の置時計を見た。七時半であつた。
イボタの虫 (新字旧仮名) / 中戸川吉二(著)
しばらくして女は他の方にいこうとした。柳が襪を齧んでいたためによろよろとして倒れた。一段高い所に坐っている者がその理由わけいた。
織成 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
「何だい? 大変な執念じゃないか。」手燭を置くと、法水の眼がふたたび屍体の両腕に引かれて行くので、検事はかざるを得なくなった。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)