薄明うすあか)” の例文
さくらうらを、ぱつとらして、薄明うすあかるくかゝるか、とおもへば、さつすみのやうにくもつて、つきおもてさへぎるやいなや、むら/\とみだれてはしる……
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それからは、一言ひとことも話さなかったような気がします。ふたりは、まもなくその広間を出て行きました。夕暮ゆうぐれ薄明うすあかりが消えせました。
けれども二度目の硝子戸の音は静かに父の姿を隠してしまった。あとにはただ湯のにおいに満ちた薄明うすあかりの広がっているばかりである。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
三三 白望しろみの山に行きてとまれば、深夜にあたりの薄明うすあかるくなることあり。秋のころきのこを採りに行き山中に宿する者、よくこの事に逢う。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
起きて、薄明うすあかりで着物を着た。しかし、今朝は、私たちは顏を洗ふ儀式なしで濟まさなければならなかつた——水差みづさしの水が凍つてゐた。
にはを見ると、生垣いけがき要目かなめいたゞきに、まだ薄明うすあかるい日足ひあしがうろついてゐた。代助はそとのぞきながら、是から三十分のうちに行くさきめやうと考へた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そしてもうがた薄明うすあかりの中に、くっきり白くしている障子しょうじの上に、よくると、いてありました。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
その光りでへやの中も薄明うすあかくなっているが、青木はまだ帰っていないらしく、夜具を畳んだままの寝台の上に、私の松葉杖が二本とも並べて投げ出してある。
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その異様なものは、霧のなかで私自身から円光のように発しているかに見える、私を中心にして描いた円状の薄明うすあかりの、丁度その円周の上にうずくまっているのだった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
やや時経れば、ほのぼのとして薄明うすあか山際やまぎはのいろ、黎明しののめの薄樺いろに焼けあかるその静けさに、日出づる前か、明鴉かをかをと二羽連れだちて羽風切る、その羽裏いよよ染みたり。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
かれ糜爛びらんした横頬よこほゝはもうほろびようとして薄明うすあかりにぼんやりとした。はげつそりとちてかれ姿すがたらうとした。かれけて踉蹌よろけながらた。さむかぜつめたいやいばびせた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
わびしらに啼くや雨夜のきりぎりす薄明うすあかりなる月や恋しき
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
午後の薄明うすあかりの中で
メランコリア (旧字旧仮名) / 三富朽葉(著)
つはくらい。……前途むかうさがりに、見込みこんで、勾配こうばいもつといちじるしい其處そこから、母屋おもや正面しやうめんひく縁側えんがはかべに、薄明うすあかりの掛行燈かけあんどんるばかり。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そのきあたりから本通りの方へ曲ろうとした途端とたんに、私は、その本通りの入口の、ちょうど宿屋の前あたりから、ぽうっと薄明うすあかるくなりだしているの中に、五六人
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
イェエツは、「ケルトの薄明うすあかり」の中で、ジル湖上の子供たちが、青と白とのきものを着たプロテスタント派の少女を、昔ながらの聖母マリアだと信じて、疑わなかった話を書いている。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
わが山の谷間の花の薄明うすあか雨夜あまよの月にむささびの啼く
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
カン/\とかねたゝきながら、提灯ちやうちんふくみましたやうに、ねずみ腰衣こしごろもをふは/\と薄明うすあかるくふくらまして、行掛ゆきがけに、はなしたばして、あし爪立つまだつて、伸上のびあがつて、見返みかへつて
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
娘は貧しい身なりをしてゐますが、実際広いアラビアの中にも、この位美しい娘はありますまい。殊に今は日の暮のせゐか、薄明うすあかりに浮んだ眼の涼しさは宵の明星めうじやうにも負けない位です。
三つの指環 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
草にさす雨夜あまよの月の薄明うすあかり蛍と見るは露にかあるらん
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
この水墨の薄明うすあかりの中に、或は泣き、或は笑ふ、愛すべき異類いるゐ異形いぎようである。
支那の画 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
落ち葉の散らばった玄関には帽子ぼうしをかぶらぬ男が一人、薄明うすあかりの中にたたずんでいる。帽子を、——いや、帽子をかぶらぬばかりではない。男は確かに砂埃すなほこりにまみれたぼろぼろの上衣うわぎを着用している。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
薄明うすあかりの中にも毛色の見える栗毛くりげの馬の脚をあらわしている。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)