肌身はだみ)” の例文
「これはたいせつにして、いつも肌身はだみはなさずもっていてくれ。またどんなことで、これがわたしたちのやくにたつかもしれぬからな。」
鳶尾草いちはつの花、清淨しやうじやう無垢むくかひなの上にいて見える脈管みやくくわんの薄い水色、肌身はだみ微笑ほゝゑみ、新しい大空おほぞらの清らかさ、朝空あさぞらのふとうつつた細流いさゝがは
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
それは節子が日頃大切にして彼女の肌身はだみにつけていた半襟はんえりだ。岸本は枝折しおり代りに書籍の中にはさんで置いたその女らしい贈物をも納ってしまった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
使 (耳にもかけずに)第二にあなたがたは肌身はだみさえまかせば、どんなことでも出来ないことはない。(玉造の小町に)あなたはその手を使ったのです。
二人小町 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「私の腰でございます——飛んでもない。杉本樣がやかましく申しますので、肌身はだみを離したこともございません」
これは由緒ゆいしょある御方おかたからはは拝領はいりょう懐剣かいけんであるが、そなたの一しょう慶事よろこび紀念きねんに、守刀まもりがたなとしておゆずりします。肌身はだみはなさず大切たいせつ所持しょじしてもらいます……。
「とんでもないこと! この刀は貸すどころか、ちょっとでも肌身はだみをはなすことのできないだいじな品物しなものだよ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
母の涙の紀念かたみとして肌身はだみ離さず持っていたわずかの金を惜しげもなくげ出して入社した三崎町の苦学社を逃げ出して再び下谷の伯母の家に駆け込んだ時は
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
彼はつひに心を許し肌身はだみを許せし初恋はつごひなげうちて、絶痛絶苦の悶々もんもんうちに一生最もたのしかるべき大礼を挙げをはんぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
これは出ないわけだ、お蔦が大事をとって使わないで、肌身はだみ離さず胴へ巻いて持ちまわってるのだから。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
まもる者なくては叶はずと云ながらの友次郎が脇指わきざしをお花に渡し此脇指を肌身はだみはなさず何事も相談して怪我けがなき樣に暮すべしと懷中くわいちうより二包ふたつゝみの金子と藥の入し印籠いんろう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
津村は「このかみもかかさんとおりとのすきたる紙なりかならずかならずはだみはなさず大せつにおもうべし」とあるその巻紙を、ほんとうに肌身はだみにつけていただいた。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「うむ、そうだ、用心に肌身はだみをはなさず持っておいで、そのうちにはわかることがあるからな」
御常の肌身はだみに着けているものはことごとく古びていた。幾度いくたび水をくぐったか分らないその着物なり羽織はおりなりは、どこかに絹の光が残っているようで、また変にごつごつしていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
思案に尽きてついに自分の書類、学校の帳簿などばかりいれて置く箪笥たんすの抽斗に入れてその上に書類を重ねそしてかぎは昼夜自分の肌身はだみより離さないことに決定きめっと安心した。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「そなたが肌身はだみ離さず持っていてくれることは、母上にもきっと御本望でござろう。」
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
わッ——としわがれたむせび声が起った。死者の老いた妻がつっ伏したのであった。黒羽二重くろはぶたえの彼女の盛装がかなしかった。日に焼け潮に吹かれたその肌身はだみは、百姓か漁夫に近かった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
それとともに肌身はだみに寒さも加わって来た。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
へびの如きわが無益むやくなる肌身はだみ
妻の肌身はだみにつけた形見の着物を寝衣ねまきになりとして着て見るような心持でもって、沈黙の形でよくあらわれた夫婦の間の苦しい争いを思出したかった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
忠義な家来は、んだわかい王さまをすくいあげますと、肌身はだみはなさずもっていた、あの三まいのヘビの葉を、わかい王さまの両方の目と口の上にのせました。
盜つたんだらう。お六婆アが肌身はだみ離さず持つてゐる名題の大財布おほざいふも無いし、手文庫には證文だけ。火鉢の引出しの小錢まで無くなつてゐる。恐しく行屆いた奴だ
泗水しすいの流れはまだ凍るほどにも至らないが、草木は枯れつくし、満目蕭条しょうじょうとして、寒烈かんれつ肌身はだみみてくる。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの女の一時の気まぐれは、気まぐれとして、許しているらしい。が、自分は、そういかない。自分にとっては、沙金が肌身はだみけがす事は、同時に沙金が心を汚す事だ。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それに就けても、貴方のその美い心掛、立派な心掛、どうかその宝は一生肌身はだみに附けて、どんな事が有らうとも、決して失はんやうに為て下さい!——可う御座いますか。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
みぎ御神剣ごしんけんもうすのは、あれは前年ぜんねんわざわざ伊勢いせまいられたときに、姨君おばぎみからさずけられたにもとうと御神宝ごしんぽうで、みことはいつもそれをにしきふくろおさめて、御自身ごじしん肌身はだみにつけてられました。
そのおり小そでのしたにたたんで入れてありました友禅ゆうぜんの長じゅばんをとり出しましてわたくしの前にさし出しながらこれはお遊さまが肌身はだみにつけていたものだがこのちりめんの重いことを
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
人はたびにある時も、町をあゆむにも、家にている間にも刀を肌身はだみにはなせない世の中だ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたくしは一生涯しょうがいその懐剣かいけん自分じぶんたましいおもって肌身はだみけてたのでした。
でも肌身はだみけがしたとなれば、をつととのなかふまい。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
なかで、なにかカチャリといったので、さぐってみると肌身はだみはなさない秘蔵ひぞう水独楽みずごまだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)