耶蘇ヤソ)” の例文
骸骨がいこつの顔に大きな即効紙を張ったおばあさんも死んだ、善兵衛さんはどうしたのか、勝梅さんは天理教をやめて耶蘇ヤソになったといった。
しかも他宗の人はいふ、泥棒の念仏にはなほ不安の状態あるべしと。泥棒の信仰については仏教に限らず耶蘇ヤソ教にもその例多し。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
はなはだしきはだいぶこのごろは耶蘇ヤソ教が世間の評判がよくなったから私も耶蘇教になろう、というようなものがございます。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
西洋の耶蘇ヤソが生まれたときには空の星辰が一時に輝いて祝福したというが、己の生まれたときには恐らくがま蚯蚓みみずが唸ったかも知れやしない!
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
芸妓、紳士、通人つうじんから耶蘇ヤソ孔子こうし釈迦しゃかを見れば全然たる狂人である。耶蘇、孔子、釈迦から芸妓、紳士、通人を見れば依然として拘泥こうでいしている。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうして、そのいやなこがらしが吹く或る薄曇った寒い月に、私は近所の寺の裏手の墓地へ耶蘇ヤソ教の葬式が来ることを知って、無気味に思った。
耶蘇ヤソの生れる前の時代においてローマは既に高い文化をもっていたにかかわらず、その当時にオヴィドが世界の起源について書いていることは
現に、耶蘇ヤソの教えで、表面一夫一婦に統制されている西洋にも、プラトーというようなエライ学者は公然、婦人の共有を唱えているのですからな
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一瞥いちべつしつ「篠田の奴、実にしからん放蕩漢はうたうものだ、芸妓げいしや誘拐かどわかして妾にする如き乱暴漢ならずものが、耶蘇ヤソ信者などと澄まして居たのだから驚くぢやないか」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
今、仮に耶蘇ヤソの教をもってこれを論ぜん。耶蘇に十誡じっかいあり。そのはじめの三条は敬神の道なり。四に曰く、父母を孝敬せよ。
教門論疑問 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
右の歌、蛇を悪魔とせしは、耶蘇ヤソ教説に同じ。ありのみと言い掛けた山梨姫とは、野猪が山梨をこのむにや、識者の教えをつ。
……風の吹まわしで、松明のさきがぼっと伸びると、白くなってあらわれる時は、耶蘇ヤソの看板の十字架てったやつにも似ている……こりゃ、もし、電信柱で。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わしは永年の外国住いで、日本のお宗旨しゅうしには縁がなくなっているという理由でS市唯一の耶蘇ヤソ会堂を式場と定め、万事西洋流の儀式を行うことにした。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
儒者の遺族が耶蘇ヤソ教の信徒となり外国宣教師の手によって葬らるるに至ったのもまた時勢の然らしめた所であろう。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私は耶蘇ヤソが十字架につけられた時、言った言葉を想い起している。人々は「何をなしているかを知らないのだ」。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「あんたが會社へ行かはる時通らはる、あこの耶蘇ヤソ眞向まむこうちに、お父さんと二人きりで住んでゐやはります。」
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
右端に死後強直を克明な線で現わした十字架の耶蘇ヤソがあり、それに向って、怯懦きょうだな卑屈な恰好をした使徒達が、怖る怖る近寄って行く光景が描かれていた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
昔から聖者といわるるほどの人の愛は、みな運命に関する知恵によって深められきよめられた愛である。耶蘇ヤソの愛や釈迦しゃかの慈悲は、その最もよき典型である。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
シナ政府の政略によって「お前の国へ外人を入れると仏法を滅ぼされて耶蘇ヤソ教を拡められるから用心しなくちゃあならん。必ず堅く閉じなくちゃあならん」
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
唯我独尊を称したる釈迦如来しゃかにょらいは、絶対に自らを尊べり、絶対他力を唱えたる親鸞しんらんは絶対に他をたっとんで自個をむなしゅうせり、孔子こうし耶蘇ヤソとは他を尊んでまた自個を尊べり
絶対的人格:正岡先生論 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
就中なかんずく彼らは耶蘇ヤソ教の人なるが故に、己れの宗旨に同じからざる者を見れば、千百の吟味詮索せんさく差置さしおき、一概にこれを外教人がいきょうじんと称して、何となく嫌悪の情を含み
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ちょうどこの時、ホノルルの港には、アメリカの耶蘇ヤソ教布教船が、碇泊していた。この船は、キリスト教をひろめるための船で、南洋方面へ行く用意をしていた。
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
それいまだ知るべからず、しこうして早くも寛永十四年島原耶蘇ヤソ教の乱において、その予測を試験せられたり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
耶蘇ヤソになったからって氏神うじがみさまを棄てるようじゃ駄目ですよ。皆してお礼詣りに行っていらっしゃい」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
また耶蘇ヤソの宗徒たる者は、明かにろん正しく、かつ事勢やむを得ざるにあらざれば、あえて凶器をろうせずと云えることあり。これ吾輩のいまだ信ぜざるところなり。
アメリカには仏の堂も耶蘇ヤソの堂も一様に並びおり、一目に見渡し候よういたしあり、宗門につき一人も邪心をいだき候ものこれなく、銘々安らかに今日を送り申し候。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それは今からおもへば降誕八日めに割礼かつれいした耶蘇ヤソの男根のやうな恰好であつたとおもへばいい。童子は最後に自分の腕に思ひ切り大きいのを描いておしまひにした。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
例えば耶蘇ヤソやマホメットのような宗教家、コロンブスやマルコ・ポーロのような旅行家、ソクラテスやブルノーのような情熱哲学者、孔子こうしや老子のような人間思想家
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
少女の眼はこの耶蘇ヤソを見る毎に、長い睫毛まつげの後の寂しい色が、一瞬間何処どこかへ見えなくなつて、その代りに無邪気な希望の光が、生き生きとよみ返つてゐるらしかつた。
南京の基督 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
案じて下さる御親切は喜びながらも、母と二人で笑ったのでした。咯血は主人の教室にいる若い助教授のことでした。その人は耶蘇ヤソ信者でしたが、短命で亡くなられました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
ソレで精神修養どころか、ああまたかと、精神状態が下る。西洋の耶蘇ヤソ教の家では家族の祈祷会のほかに、銘々のしつで個人で神に交わり、日曜日にはおたがいに訪問することを遠慮する。
人格を認知せざる国民 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
秀吉も之を知つてポルトガルの軍艦購入をもくろんでゐたが、コエリヨが有耶無耶な言辞を弄して之を拒絶したから、秀吉は激怒して耶蘇ヤソ禁教令を発令する結末に及んでしまつた。
二流の人 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
領事裁判というものは耶蘇ヤソ教国民以外にのみ行わるるものである、有色人種の間にのみ行わるるものであるというが如きことは、随分立派な国際法の学者達も述べたのでありますが
外交の方針 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
耶蘇ヤソ教は密々に行なはれ、遠野郷にてもこれを奉じてはりつけになりたる者あり。浜に行きたる人の話に、異人はよく抱き合ひてはめ合ふ者なりといふことを、今でも話にする老人あり。
遠野物語 (新字旧仮名) / 柳田国男(著)
よくは聞いてもいなかったが、人間には宗教が必要で、宗教は耶蘇ヤソ教で、耶蘇はプロテスタントに限る、だからわたしが一番えらいんだと云うようなことを、ながたらしくしゃべってる。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
耶蘇ヤソとナポレオンとはいずれが強いか、そは我々の理想の定めように由るのである。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
今火をともしたりと見ゆる小「ランプ」かまどの上にかすかなり。四方よもの壁にゑがきたる粗末なる耶蘇ヤソ一代記の彩色画は、すすに包まれておぼろげなり。藁火焚わらびたきなどして介抱しぬれど、少女はよみがえらず。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
男の聖者ひじりが多く女の聖者ひじり渇仰かつがうするに対して、女の聖者ひじりは大抵男の聖者ひじり帰依きえをする。ロヨラは聖母マリヤの信仰家であつたが、婦人の多くはナザレの耶蘇ヤソと精神的結婚を遂げてゐるのだ。
さても頼みがたきは人の生命いのちかな、女史は妾らの入獄せしより、ひたすら謹慎きんしんの意を表し、耶蘇ヤソ教に入りて、伝道師たるべく、大いに聖書を研究し居たりしなるに、迷心執着の妾はきて
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
ここは隣の南蛮寺と共にてられた附属耶蘇ヤソ学校であった。信長も寄附者のひとりだが、高山右近だのそのほかの帰依きえ大名が、材木から校舎の内の物まで、一切寄進して出来たものである。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これはわれらの考えによれば恐らく耶蘇ヤソ教の影響を受けたゆえであろう。
耶蘇ヤソ紀元前三百十二年アピウス・クラウヂウスの築く所にして、今猶アピウス街道の名あり。)車にて行かば坐席極めておだやかなるべく、菩提樹の街樾なみきは鬱蒼として日を遮り、人に暑さを忘れしむ。
それは、お利代も智恵子に感化かぶれて、耶蘇ヤソ信者になつたので、早く祖母の死ぬ事を毎晩神に祈つてるといふので。——そして、祖母の死ぬのを待つて函館の先の夫の許へ行くのだ、と伝へられた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
その耶蘇ヤソ教に対する態度をガラリと変へた程であつた。
耶蘇ヤソよりも遥かに古き紀元節是れ日の本の名物にぞある
西航日録 (新字新仮名) / 井上円了(著)
今朝けさまた焚火たきび耶蘇ヤソの話かな
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
カルデア人が最古の規則正しい天文観察を行ったのは耶蘇ヤソ紀元前四〇〇〇年ないし五〇〇〇年前に遡るものと推測される。
耶蘇ヤソ教的カルチュアーと同意義のものでなければ、開化なる語をかんすべきものでないと自信していたからであるというが如きはその一例である。
然るに自分は東京に寝て居て、少しばかり新聞でお茶を濁してるんぢや無いか、僕は最初から彼奴きやつが嫌ひだ、耶蘇ヤソばかり振り廻はしやがつて——
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
そのころ第一流の新知識としての駒井が、西洋諸国がことごとく耶蘇ヤソ紀元を用いていることを、事新しくこの少年に向って問わねばならぬ必要はない。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)