くく)” の例文
頼朝は、後ろ手にくくられた手をしきりにもがいていた。解こうとするのではなく、手がきかないので、起ち上がれないためであった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
式部が唐櫃のまえで引っくくられたときに、行者も善八の縄にかかっていた。小娘の藤江は勿論なんの抵抗もなしに引っ立てられた。
半七捕物帳:26 女行者 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「身分も宣らず行く先も云わぬとは、いよいよもって怪しい奴、仕儀によっては引っくくり縄目の恥辱こうむらすがよいか!」
紅白縮緬組 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
つえには長く天秤棒てんびんぼうには短いのへ、五合樽ごんごうだる空虚からと見えるのを、の皮をなわがわりにしてくくしつけて、それをかついで
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
御台所町おだいどごろちょう妻恋町つまこいちょう一帯に網を張らせ、少しでも怪しい者があったら引っくくるようにと指図をしておいたのです。
(縁のある貴下あなた。……ここに居て、打ちもし、蹴りもし、くくりもして、悪い癖を治して上げて下さい。)
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自分は机の前にくくりつけられた人形にんぎょうのような姿勢で、それを読み始めた。自分の眼には、この小さな黒い字の一点一かくも読み落すまいという決心が、ほのおのごとく輝いた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一隅に太い蝋燭ろうそくがゆらめいていた。その下に黒い影がうごめいているので、見るとそれは若い女だった。白い肌をあらわに後ろ手にくくげられて、えびのように二重になってかがんでいるのだ。
五階の窓:04 合作の四 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
引っいでひっくくろうてんだ。な、わかったか。解ったらさ——
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
『町人とは申せ、許しがたい。きっと、首謀者があろう。こういう時には、そいつらを五六名引っくくってしまえばおのずから鎮まるものだ』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これを手繰たぐったら、市郎の身体は無事に引揚ひきあげられたかも知れぬが、その綱の端が彼の胴にくくられてあると云うことを誰も知らなかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
渋江典膳とお浦とが背後手うしろでくくられ、高くはりに釣り下げられてい、その下に立った五郎蔵一家の用心棒の、望月角右衛門が、木刀で、男女ふたりを撲っているではないか。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一ト筋の手拭は左の手首にくくしつけ、内懐うちぶところにはお浪にかつてもらった木綿財布もめんざいふに、いろいろのまじぜにの一円少しを入れたのをしかと納め、両の手は全空まるあきにしておいて
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
とこの度は洋燈ランプを片手に追懸おっかけて、気も上の空何やらむ足につまずき怪し飛びて、火影に見ればこはいかに、お藤を連れて身を隠せしと、思い詰めたる老婆お録、手足を八重十文字にくくられつ
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「どうもこうもねえ。そのめえにてめえを引っくくるのだ」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
聞いておる。血縁の者でなければ、ひッくくって、婆の手へわたしてくれるのじゃが、それもなるまい。……わしら夫婦にまで、迷惑を
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「こいつ、強情な奴だ。さあ、来い。番屋の柱へくくりつけて、絞めあげるから……。ええ、泣いたって勘弁するものか。この河童野郎め」
半七捕物帳:49 大阪屋花鳥 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
むごらしき縄からげ、うしろの柱のそげ多きに手荒くくくし付け、薄汚なき手拭てぬぐい無遠慮に丹花たんかの唇をおおいし心無さ、元結もとゆい空にはじけて涙の雨の玉を貫く柳の髪うらみは長く垂れて顔にかゝり
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
うしろ手にくくりあげると、細引を持ち出すのを、巡査おまわりしかりましたが、叱られるとなおたけり立って、たちまち、裁判所、村役場、派出所も村会も一所にして、姦通かんつうの告訴をすると、のぼせ上がるので
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
『先頃から、おのれが怪しいと気をつけていたのじゃ。さっ、申せ、正直に云ってしまえ。云わなければ引っくくって、首にするぞ』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
洋服姿の市郎は胴をくくられたままで、さながら縁日で売る亀の子のように、宙に吊られつつあがって来たのである。人々も驚いて声を揚げた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
管八 言うことをかんとくくり上げるぞ。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いや、もはやご安堵あってしかるべしです。追ッつけこの呼延灼が、ひとりびとり、引ッくくってきて、ご面前に据えるでしょうから」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それに誘われて、二人もおのずと早足に仁王門をくぐると、観音堂前の大きい銀杏いちょうの木に一人の男がくくりつけられていた。
半七捕物帳:23 鬼娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
くくされながらわななくばかり。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
するといつの間にか、道をれた供の者が、役人を連れて来て私を指さしたかと思うと、有無をいわさず、くくられてしまいましたので
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いや、今日からかんがえると、まるで嘘のようです。松茸の籠は琉球の畳表につつんで、その上を紺の染麻で厳重にくくり、それに封印がしてあります。
半七捕物帳:37 松茸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
其奴そいつくくせ。」
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
法師たちの高歯の下駄や木履ぼくりが彼の背をふんづけた。牛若はくやしがって、その毛脛けずねへしがみついたが、荒縄でくくりあげられてしまった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女は二十五六の年増で、引窓の綱らしい古い麻縄で手足を厳重にくくられて、口には古手拭を固く捻じ込まれていた。
半七捕物帳:56 河豚太鼓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「こやつ。国吉のったこの鉄砲の試しには、ちょうどよい生き物だ。彼方むこうかきのそばへ引き立て、木にくくって立たせておけ」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もがいても狂っても、多勢たぜい無勢ぶぜいである。采女は大地に捻じつけられて、両腕をひしひしとくくられてしまった。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「なに、いい獲物を捕まえたと。そこらの柱へでも引ッくくっておけ。どうするのかは、あとでゆっくり人態にんていを見てからでいい」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、うしても其儘そのままには捨置すておかれぬので、最後には畚にしかくくり付けて、遂に彼女かれを上まで運び出した。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「六波羅からお預かりの者ですが、遮那王しゃなおうの行跡、目にあまるものがあります。らしめのため鐘楼へくくりつけましたゆえ、おふくみ下さい」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その一つのあき俵のなかに首を突っ込んで、善昌がうつむきに倒れているのを発見したときは、大勢は思わず驚きの声をあげた。善昌は手足をあら縄で厳重にくくられていた。
半七捕物帳:21 蝶合戦 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
信長の陣中へ、捕虜となってくくられて来た浅井方の一人安養寺三郎右衛門は、怒号しているその味方を一眼見ると、突然声をあげて泣き出した。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「人殺しだ、人殺しだ。逃がすな、くくれ」
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かねて岡崎の奉行とも聯絡れんらくはあったらしい。又四郎は彼をくくると、その体を小脇にかかえて疾風しっぷうのように駈け出した。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、ひと汗、拭き合った時には、もう、権之助はまりのようにくくられて、どうでもしろというように大地にまかせられていた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それへ助勢に向おうとして、金吾は一人の敵を膝下しっかにおさえながら、口と片手で脇差の下緒さげおを解いて、この邪魔者をくくりつけて置こうとします。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見ると、庭には点々と血汐のあと、戸障子は八方へ無残に倒れ、甲比丹かぴたんの三次と荷抜屋の手下二人は、常木鴻山がうしくくし上げてしまった様子。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その一頭一頭に、囚衣の罪人が、くくりつけられている。みな、きりぎりすのように痩せ細り、眼をくぼませ、髪もひげも、ぼうぼうといはやして。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「九度山まで、引っ立てて歩くのも、途中がわずらわしい。馬の背にくくりつけて、むしろでも引っかぶせて行くとしては?」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「無念にぞんじまする。これが、表だってもさしつかえない儀ならば、かならず下手人どもは、あす一日をまたずにくくってまいりましょうに」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さっき天蔵をくくり付けておいた木に、天蔵のすがたはなく、ただ木の根がたに、一筋の麻縄が、解き棄ててあるばかり。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わしの手でそちをくくるいわれはないが、雲州侯の家中が、そちがここから帰るのを門の外で待ちうけているかも知れぬ
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その若い騎馬の将校が、一人の大男の死骸を、馬のくらつぼに引っくくって人目をはばかるように京都の方へ宙を飛んでゆく。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その一頭の裸馬の背には、ひとりの女性が、荒縄でくくりつけられていた。前後の武士は、相木熊楠の手の者だった。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
演舌していた首魁者しゅかいしゃらしい僧は、勝家の手にくくりあげられ、いちはやく逃げたほかの三名も、そこここで捕まった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)