素肌すはだ)” の例文
少し手を上げると、袖がまくれ落ちて、ひじの上まで素肌すはだだった。クリストフはそれを見て、見苦しいようなまたみだらなような気がした。
段々だんだんえりのかかった筒袖を一枚素肌すはだに着たばかりで、不死身ふじみであるべく思わるる米友はまた、寒さの感覚にも欠けているべく見受けられます。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
素肌すはだへ、貴下あなた嬰児あかんぼおぶうように、それ、脱いで置いたぼろ半纏ばんてんで、しっかりくるんで、背負上しょいあげて、がくつく腰を、くわつえにどッこいなじゃ。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その結果、光秀と波多野秀治とは、まったく素肌すはだな心と心とをもって、話し合ってみようとなり、一日、本目ほんもくの西蔵院で双方会見の約束が成り立った。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの都のまん中にある七つのおかの一つに、皇帝宮こうていきゅう廃墟はいきょがあります。野生のイチジクがかべ裂目さけめから生えでて、広い灰緑色かいりょくしょくの葉で壁の素肌すはだをおおっています。
お千代はこの店の女がいずれも着物を素肌すはだに着ている事を知らなかったので、何の事だかわけが分らない。すると洋装の女が、こっちの客の方へ廻って来て
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
自動車の音を聞いて、伯父は素肌すはだ帷子かたびら袖無そでなしを一枚着たままでとび出して来た。三年ぶりなので、さすが白髪は目立っていたが、思ったよりも元気であった。
由布院行 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
とうてい今人こんじんの想像の及ばぬところであるから、素肌すはだに麻を着て厳冬を過したとしても不思議はないが、これ以外に多分は獣皮なども取り添えられたことと思う。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
風呂場を出ると、ひやりと吹く秋風が、袖口からすうと這入って、素肌すはだへそのあたりまで吹き抜けた。出臍でべその圭さんは、はっくしょうと大きな苦沙弥くしゃみを無遠慮にやる。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それでも合戦かっせんと云う日には、南無阿弥陀仏なむあみだぶつ大文字だいもんじに書いた紙の羽織はおり素肌すはだまとい、枝つきの竹をものに代え、右手めてに三尺五寸の太刀たちを抜き、左手ゆんでに赤紙のおうぎを開き
おしの (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
夏向座敷へ出ます姿なりでも縮緬ちりめんでも繻袢じゅばんなしの素肌すはだへ着まして、汗でビショぬれになりますと、直ぐに脱ぎ、一度りであとは着ないのが見えでございましたと申しますが
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
山間僻地さんかんへきちのここらにしてもちと酷過ひどすぎる鍵裂かぎざきだらけの古布子ふるぬのこの、しかもおぼうさんご成人と云いたいように裾短すそみじか裄短ゆきみじかよごくさったのを素肌すはだに着て、何だか正体の知れぬ丸木まるき
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そしてまっぱだかになると、シャツ、猿股さるまた、ワイシャツ、ネクタイ、ソフトカラアなど薄手のものばかりり出して一とまとめにし、再び素肌すはだに背広を着、オーバーをまとった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
少年の議論家は素肌すはだの上に上衣うわぎを羽織ッて、仔細しさいらしく首をかしげて、ふかし甘薯いもの皮をいてい、お政は囂々ぎょうぎょうしく針箱を前に控えて、覚束おぼつかない手振りでシャツのほころびを縫合わせていた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
水にぬれた紙のごとく、とんと手ごたえがなく、くびも手も腰にも足にも、いささかだも力というものはない。父は冷えたわが子を素肌すはだに押し当て、聞き覚えのおぼつかなき人工呼吸を必死と試みた。
奈々子 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
ゆき子は素直に、加野のそばの椅子に腰をかけて、素肌すはだの脚を組んだ。金色の太陽の光線で、ゆき子の顔がぼおつと浮いてみえる。唇が血を吸つたやうにあかく光つてゐる。日本的な香料の匂ひがした。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
など知らむ、素肌すはだあせとろけゆく苦悩くなうおもひ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
生身なまみ素肌すはだの神の如
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
道庵がしゃれて褄折笠つまおりがさ被布ひふといういでたち。米友は竹の笠をかぶり、例の素肌すはだ盲目縞めくらじま一枚で、足のところへ申しわけのように脚絆きゃはんをくっつけたままです。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
湯屋へ来る時などは素肌すはだにきて、腰巻などは似もつかぬ粗末なものを取返えもせずに締めている。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
豆で一面にれ上がった両足を、うんと薄の根に踏ん張った碌さんは、素肌すはだを二百十日の雨にさらしたまま、海老えびのように腰を曲げて、一生懸命に、傘のにかじりついている。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
眩暈めくるめき、素肌すはだに立てるわかうどが赤きまぼろし
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
中程にいた黒羽二重くろはぶたえ、色が白くて唇が紅くて、黒目がち、素肌すはだを自慢にする若いのは、どこかで見たことのあるような侍ですが、間の山節を待ち兼ねて言葉に現われますと
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
三四郎はついと立つて、革鞄かばんなかから、キヤラコの襯衣しやつ洋袴下づぼんしたを出して、それを素肌すはだへ着けて、其上から紺の兵児帯へこおびめた。それから西洋手拭タウエル二筋ふたすぢ持つたまゝ蚊帳かやなかへ這入つた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
うらわかきわれの素肌すはだみきたる
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
すると初秋はつあきの風が芭蕉ばしょうの葉を動かして、素肌すはだきつけた帰りに、読みかけた手紙を庭の方へなびかしたから、しまいぎわには四尺あまりの半切れがさらりさらりと鳴って、手を放すと
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
われらが素肌すはだのさみしさよ
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
三四郎はついと立って、鞄の中から、キャラコのシャツとズボン下を出して、それを素肌すはだへ着けて、その上からこん兵児帯へこおびを締めた。それから西洋手拭タウエル二筋ふたすじ持ったまま蚊帳の中へはいった。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
平岡はかすりあはせしたへ、ネルをかさねて、素肌すはだてゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)