ふる)” の例文
鍬入れて、しゞふるひて、掻きならす土はよき土。春雨のよべのしめりに、けさ蒔くや、種子はひなげし、金蓮花、伊勢のなでしこ。
(新字旧仮名) / 北原白秋(著)
次に現場の踏査に移り、慎重に視察した揚句、署長にそう言って屍体のあった周囲まわり二メートル平方の広袤ひろさを、充分に灰をふるわせた。
越後獅子 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
つまり俺もその試練に堪えないでふるい落されてしまったのだ。俺は糠であった、これまでの落伍者と同じように糠にすぎなかったのだ!
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
先ず玉子を四つわりまして白身は別にしておいて四つの黄身へお砂糖のふるったのを混ぜてツブツブのないようにこの通りよくよく溶きます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
あらゆる天下の粋を集めた、芸術の源泉地仏蘭西パリーで、しかも、そのもろもろの美術、工芸、芸術品にふるいをかけた博覧会々場でである。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
じいさんはそんなことを云うおしかにかまわず、ふるいや、中古ちゅうふるの鍬まで世話になった隣近所や、親戚にやってしまった。
老夫婦 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
そしてけさ梅が綺麗きれいふるった灰を、火箸で二三度掻き廻したかと思うと、つと立って着物を着換えはじめた。同朋町どうぼうちょうの女髪結の所へ往くのである。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
水清く魚すこやかに、日光樹梢を漏りてかすかに金をふるふところ、梭影さえい縱横して魚はしるさま、之を視て樂んで時の經つのを忘れしむるものがある。
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
輸入するにも、国土民情に適したものをふるり、そしてさらにこれを民族精神で精製し直し、全く日本的の仏教にして消費し来ったのであります。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
御坊はこの頭蓋骨と頬骨と外に二つ三つの大きな骨を残して、「あとは綺麗きれいふるって持って参りましょう」と云った。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのとき二十五人のその臨時雇のうちからさらにふるって五人だけ見習生に取立てた。——その筆頭がかれだった。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
何故なら事件中の人物は、クリヴォフ夫人を最終にしてことごとくふるい尽されてしまい、ついに伸子だけが、残された一粒の希望になってしまったからだ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
この混合した粉を硝子板の表面に一様にふるいかけてのち押し付けると三色の粉を不同なく板の上に密布し、顕微鏡で見れば全体がモザイックのようになっている。
天然色写真新法 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しかし、結局、もっとも熱心な二人がふるい落されておしまいまで競争した末、近頃になって勝負はついたのである。戸部近江之介は役は上だが、年が寄り過ぎている。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
亭主の五兵衛は、裏の籾蔵もみぐらに入りこんで、いつもは、米をいたり、ぬかふるっているのであるが、今夜は、無尽講むじんこうがあるとかで、くらの二階で、宵から明りをともしていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みなみ女房にようばう仕事しごと見極みきはめがついたのでおつぎをれて、そのばん惣菜そうざい用意よういをするために一あしさきからかへつた。女房にようばういそがしいおもひをしながらむぎつて香煎かうせんふるつていた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ねこ姿すがたえないので障子せうじけた、うみからくるかぜには木立こだちふるはれて爽味さうみをもつてくる。
ねこ (旧字旧仮名) / 北村兼子(著)
人類はここに長い経験の結果を綜合そうごうして、相共に依拠すべき範律を作り、その範律にのっとって自己を生活しなければならぬ。努力は実に人を石からふるい分ける大事な試金石だ。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それはさつきお話し申した空のまんまるい雲の穴から、満月の光が、黄金こがねふるふやうにさして来て、真黒な壁を、上から下へ、一番下の底の所まで照してゐるからでございます。
うづしほ (新字旧仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
軒を並べた待合の中には今時小女が門口へ持ち出した火鉢の灰をふるうているのがある。
神楽坂 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
米をきながら会読かいどくするの先生あれば、ぬかふるいながら講義を聞く生徒もあるべし。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
ふるいかけたような細かい日差しが向うにポツネンと立っている皁角子さいかちの大木に絡みつき、茶色に大きい実は、さやのうちで乾いた種子をカラカラ、カラカラと風が渡る毎に侘しげに鳴りわたる。
禰宜様宮田 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
母家おもやの右手に、納屋なやのような小屋が建っていて、そこの板敷の上に十七八になる娘がつくばいながら、米のぎ汁のような色をした水の中へ両手をけて、わくふるってはさっとすくい上げている。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
鍬入れて、しじふるひて、掻きならす土はよき土。春雨のよべのしめりに、けさ蒔くや、種子はひなげし、金蓮花、伊勢のなでしこ。
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
それをんな混ぜてふるっておいてカルワイセージという香料かそれがなければ代りにナツメッグの粉を少し加えます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
栗毛くりげこまたくましきを、かしらも胸もかわつつみて飾れるびょうの数はふるい落せし秋の夜の星宿せいしゅくを一度に集めたるが如き心地である。女は息を凝らして眼をえる。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「自然」を実験室内に捕えきたってあらゆる稚拙な「試み」を「実験」の試練にかけてふるい分けるという事、その判断の標準に「数値」を用いるという事によって
炭は既に灰から掻き出されてあつたがお秋さんはすぐ炭の碎けをふるひ始めた。乾燥し切つた灰は容赦もなく白い手拭へ浴せかかる。それで粉炭がどれだけ有つたといふと俵の底が隱れるだけであつた。
炭焼のむすめ (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
木の根瘤ねこぶを掘る。また、石ころをふるう。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
全体なら粉と焼粉とをふるって玉子も黄身と白身と別に溶いて白身を一番後に入れなければならんが僕のは略式だ。ソラ出来たろう、ドロドロのものが。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
文明を刺激の袋の底にふるい寄せると博覧会になる。博覧会を鈍きの砂にせばさんたるイルミネーションになる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あの固形体のパルプが、ねとねとの綿わたになり、乳になり、水にされ、ふるわれてゆく次から次への現象のまた、如何に瞬時の変形と生成とを以て、私たちを驚かしたか。この化学の魔法は。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
むしろ進んで、暗合的なものと因果的なものとを含めた全体のものを取って、何かの合理的なふるいにかけて偶然的なものと必然的なものとをふるい分ける事に努力したほうが有利ではあるまいか。
炭竈の灰ふるひ居れば竹やぶに花ほの白しなるこ百合ならむ
長塚節歌集:2 中 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
この粉と焼粉をふるって例の通りザット黄身の方へ混ぜてそれから五つりの白身をよくよく泡立ててバラバラと粉を振りかけながら幾度いくどにも混ぜて行って
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
すぐ起きて下へ降りると、銀杏返いちょうがえしの上へ白地の手拭てぬぐいかぶって、長火鉢ながひばちの灰をふるっていたさくが、おやもう御目覚おめざめでと云いながら、すぐ顔を洗う道具を風呂場へ並べてくれた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だんだんに善いところと悪いところをふるい分けて進むといいかと思う。
二科会展覧会雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
烈々れつれつ鬱金うこんふるずゐの花。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
山盛やまもりにすると十六杯位で一斤になります。しかしメリケン粉もふるったのですと大匙で並に三十杯量らなければなりません。即ち二杯と三杯と同じ事になります。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
中匙軽く一杯へ牛乳五しゃく水五勺とを入れてよくって別にメリケン粉二斤と焼粉やきこ大匙四杯とをふるっておいて今の物へザット混ぜて軽くねて二分位な厚さにして
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)