砂礫されき)” の例文
富士はもう森林や砂礫されきをかなぐり捨てて熔岩の滑らかな岩盤をむきだしにしている。どす黒い霧で、ゆく先も脚の下もよく解らない。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
暗い雨空をうつした上に、泥土や砂礫されきを溶しこみ、くすぶった色でさまざまな流木を内部にかくしていた。舟はつきとばされるのだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
道の上から掴みとった砂礫されきを即座の眼つぶしに使ったのだ。秀之進は予期したことのように身をかがめ、さっと相手の腰へ打を入れた。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
くろい大鷲おおわしは、伊那丸の頭上をはなれず廻っている。砂礫されきをとばされ、その翼にあたって、のこる四人も散々さんざんになって、気をうしなった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
川原は砂礫されき多く草少なき故、老人の説通りわずかに春草ある処を馬の川原毛から名を移して称うるのかと思えど、死人にただし得ず。
けもののようなうめきとともに砂礫されきをつかんだかと思うと、そのまま——月のみいたずらに蒼白く死の這い迫る顔を照らした。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
最後に、「良き地」というのは土の深い、土壌の善く砕けた、砂礫されきの混じらない土地であって、これは柔和・純粋なる「砕けたる霊魂」の譬です。
『一ッくるまなんだらう?』とはおもつたものゝかんがへてるひまもなく、やが砂礫されきあめまどりかゝるとに、二三にんしてあいちやんのかほ打擲ちやうちやくしました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
こゝからは岩石がんせき砂礫されきみち一歩々々いつぽ/\みすゝんで、つひに海拔かいばつ一萬二千餘尺いちまんにせんよしやく絶頂ぜつちようへたどりつくわけです。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
白っぽい砂礫されきを洗う水の浅緑色も一種特別なものであるが、何よりも河の中洲に生えた化粧柳けしょうやなぎの特異な相貌はこれだけでも一度は来て見る甲斐かいがあると思われた。
雨の上高地 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そして生れながらにして、美を心に、姿に授けられたものは、砂礫されきのなかのダイヤモンド、いきるにけわしき世の、命の源泉として、人生を幸福にするものといえる。
明治大正美人追憶 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
無事を祝してそそぎし酒のかびなり、岸辺に近き砂礫されきの間、離別の涙ふるいし跡には、青草いかに生い茂れるよ、行人は皆名残りの柳の根を削りてその希望をしるして往けども
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
砂礫されきの原の中に、亀の甲のような模様ができ、その線の部分に、比較的大きい礫が集まる現象である。そして普通、線のところが少し凹み、六角の内部がもちあがっている。
白い月の世界 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
そらかがやほしが、一つ、一つ、せるように、それはさびしいことでした。そしてくだけた作品さくひんは、砂礫されきといっしょに、みぞや、つちうえてられて、からってゆくのでした。
さかずきの輪廻 (新字新仮名) / 小川未明(著)
第四紀新層の生成の順序が、ロームや石や砂や粘土や砂礫されきの段々で面白いように判った。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
たつよりひつじに至って、両軍たがいに勝ち互に負く。たちまちにして東北風おおいに起り、砂礫されきおもてを撃つ。南軍は風にさからい、北軍は風に乗ず。燕軍吶喊とっかん鉦鼓しょうこの声地をふるい、庸の軍当るあたわずしておおいに敗れ走る。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
船室の屋根の手欄につかまりながら何故なぜともなしに上方を仰いだ彼の眼に、おびただしい星影がまるで砂礫されきか何かのやうに無意味であつた。船の揺れはぢきに止つた。定はかがみ込んで船扉を引き上げた。
水に沈むロメオとユリヤ (新字旧仮名) / 神西清(著)
白州の砂礫されきにしみるほどな大粒の涙をぼろぼろとはふり落としました。
その他もし、浮浪、兵学家、儒者の徒についてこれを尋ねば、革命の卵は、あたかも海浜の砂礫されきの如くあらん。彼ら豈に物徂徠ぶつそらい源白石げんはくせき中井竹山なかいちくざんの如く、実際の曲折に応じて、論理を作為せんや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
あとには残酷な砂礫されきだの、雑草だの
昼夜炬燎きょりょう砂礫されき霰者あられ
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
砂礫されきのごとき人生かな!
氷島 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
かやヶ岳などが見え、すぐ下には、かんば沢の、(それはすっかり崩壊して、砂礫されきと土のむきだしになった、むざんなさまを呈していたが)
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「オオ!」と顔を寄せあうと、二人の間へ、ザア——とけたような砂礫されきが落ちてきた。それをかき落して、また穴口を作りながら、甲賀世阿弥。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
道もない険岨けんそな山をきわけて登り、水の音を聞いてこの谷に降りて来た。やぶと木の根を伝い、岩をとび越えまた水の中を押し渡り、砂礫されきを踏みつけた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
位置が南にかたより過ぎて、雪が早く融けるし、氷河はッぽけなかたまりに過ぎないし、富士山のように、新火山岩で、砂礫されきや岩石が崩れやすいので、高山植物は稀薄であるし
火と氷のシャスタ山 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
羽黒山の社の前後に賽銭さいせん砂礫されきのごとく充満し、参詣人の草履ぞうりく故、下山に先だちことごとく払い落す。強慾な輩、そのまま家へ持ち帰れば皆馬糞にるという(『東洋口碑大全』七六二頁)。
大多分はまだ叢林そうりんはびこるにまかせた荒地で、ことに平地の中央を流れる目黒川は年々ひどく氾濫はんらんするため、両岸にはあか砂礫されきの層が広く露出していた。
内蔵允留守 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
白浪天をち、岸辺の砂礫されきは飛んで面を打ち、陽もまだ高いうちなのに、天地もくらくなってしまった。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
箱根火山彙かざんいを仰ぎ見て、酒匂さかわ川の上流に沿い、火山灰や、砂礫されきの堆積する駿河小山おやまから、御殿場を通り越したとき、富士は、どんより曇った、重苦しい水蒸気に呑まれて
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
水はその隙間すきまにこぼれ、低みをえらんで寄り集った。年々歳々のはてもない月日が、土を穿うがち岩をかみくだいてこの川筋を掘り下げたのであろう。地底の砂礫されきえぐられている。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
呉の大将馬忠は、そのとき馬を飛ばして、砂礫されきとともに駈けおりて来た。それを知るや黄忠は
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
突風がするどくえ、雨戸や羽目板へざッざッと雨を叩きつけた。まるで砂礫されきを叩きつけるような音であった。家ぜんたいが悲鳴をあげて揺れ、階下で壁の崩れるらしい物音がした。
暴風雨の中 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
氷河は既に五月の始めに、新雪から解放せられ、底部から溶解して、空洞になり、激しい滝水で、氷河のトンネルが出来たのが、支持の力を失って、崩落ほうらくを始め、岩石や砂礫されきを押し流して
火と氷のシャスタ山 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
甲軍の前列から投げてくる砂礫されきが馬にあたるので、馬が狂って仕方がないのだった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、梁軍りょうぐん七千の人と旗は黒い風に吹きちらされ、み舞わされ、冬の木の葉に異ならない。あれよあれよの、叫喚きょうかんだった。ただ見る日輪だけがあかく、ひょうじって砂礫されきを吹きつける。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先鋒は、ゆるい砂礫されきの丘を這って、もう鉄門峡のまぢかまで、攻め上っていた。朱雋しゅしゅん軍も、張飛の蛇矛に斬り捨てられるよりはと、その後から、芋虫の群れが動くように這い上がった。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのなまぐさい鼻風びふう砂礫されきを飛ばし、怒りは金瞳きんどうに燃え、第三の跳躍をみせるやいな、武松のからだを、まッ赤な口と、四ツ脚の爪の下に、引ッ裂かんとしたが、これまた武松にかわされると
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)