畢竟つまり)” の例文
その時お持になつた色々の調度、箪笥、長持、總てで以て十四荷——一荷は擔ぎで、畢竟つまり平たく言へば十四擔ぎあつたと申す事ぢや。
赤痢 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
が、畢竟つまりは慾張りとなまけ者の熱心さで、氣狂ひ染みた雷同性らいどうせいに引摺られて、春の夜の薄寒さも、うゑつかれも物の數ではありません。
畢竟つまり祖父祖母が下女下男を多く使って居た時の習慣が遺って居たので、仏檀神棚なども、それでしたから家不相応に立派でした。
少年時代 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
何か取りそうだなというような目付をされると、一つ取ってやろうかなという気になる。今日の事等ことなど畢竟つまり料理人コックが悪いんだ。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
畢竟つまり一緒に事業しごとが出来ないといふは、時代が違ふからでせうか——新しい時代の人と、吾儕われ/\とは、其様そんな思想かんがへが合はないものなんでせうか。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
さあ、たいへんです、二人ふたりは、そこでつかみいがはじまりました。畢竟つまりとしすくないまさちゃんは、かないませんでした。
政ちゃんと赤いりんご (新字新仮名) / 小川未明(著)
畢竟つまり自由結婚をさせたくても婦人をんなの交際する範囲には立派な理想の男子が入つて来ないから困ると、常/\仰せられた。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
わたし狂人きちがひにされてしまつたのです。しかしなあにわたし奈何どうでもいので、からして畢竟つまりなんにでも同意どういいたしませう。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
けれど、膨れたとて、機嫌きげんを取られれば、それだけ畢竟つまり安目にされる道理。どうしても、こうしても、かなわない。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
第一取捕へて仕舞へば其奴が安つぽいものになつて仕舞つてそれに執着するなんて云ふ馬鹿は出來なくなるさ……畢竟つまり僕なんざア斯う云ふ風に安住の地を求めて
半日 (旧字旧仮名) / 有島武郎(著)
畢竟つまり売捌うりさばきの方法が疎略そりやくであつたために、勘定かんじやう合つてぜにらずで、毎号まいがう屹々きつ/\印刷費いんさつひはらつて行つたのが、段々だん/\不如意ふによいつて、二号にがうおくれ三がうおくれとおはれる有様ありさま
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
畢竟つまり、この甲府の牢屋の中にいるのだから我々には会えん、また先方も出て来られんのだ」
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その生まれ落ちてから、死んでゆくまでの人間の一生、それは畢竟つまり苦しみの一生ではないでしょうか。「人は生まれ、人は苦しみ、人は死す」なんという深刻なことばでしょう。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
……誇張してはいけない、一体どちらが悪者なのだ、世間ではおまへの方が正直過ぎた、畢竟つまり擬宝玉にせだまを買被り過ぎた、もつと薄情におひやらかして逃げて了へば何でも無かつたと云つてゐる。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「智は畢竟つまり狐で、いたづらに疑ひが多くて、かへつて事業の妨げとなつたんである。」
畢竟つまりは一年の興行度数が少ないためであったらしい。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その時お持になつた色々の調度、箪笥、長持、総てで以て十四——一荷は一担ひとかつぎで、畢竟つまりひらたく言へば十四担ぎ有つたと申す事ぢや。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
まあ、金をのこすぢや無し、名を遺すぢや無し、一生苦労を為つゞけて、其苦労が誰の為かと言へば——畢竟つまり、お前や俺の為だ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
乃公が死にそうな目に遇ったのは畢竟つまり宿屋の罪科とがだ。それをお父さんが、此は珍らしい魚だ、此辺でなければれない名物だと言ったのも可なり悪い。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
こまぬきて茫然たる夫の顔をさし覗きて、吐息つく/″\お浪は歎じ、親方様は怒らする仕事は畢竟つまり手に入らず
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
勢い極まって其処まで行ったんだが、……これが畢竟つまり一転する動機となったんだ。
予が半生の懺悔 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
犬公方いぬくばう下々した/″\仇口あだくちに呼ばれた位だから無法に我々同類に御憐愍ごれんみんを給はつたものだ。公の生類せいるゐ御憐愍を悪くいふ奴があるが、畢竟つまり今の欧羅巴ヨウロツパやかましくいふ動物保護で人道の大義にかなつてるものだ。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
自然しぜん法則はふそく依然いぜんとしてもとまゝです、人々ひと/″\猶且やはり今日こんにちごとみ、い、するのでせう、甚麼立派どんなりつぱ生活せいくわつあかつきあらはれたとしても、畢竟つまり人間にんげん棺桶くわんをけ打込うちこまれて、あななかとうじられてしまふのです。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
……僕は苦しくつてたまらなくなると何時でも田舎に逃出すんです。今度も然うです、畢竟つまり、僕自身にもまだロマンチツクが沢山うんと残つてます。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
それを嗅ぐと、我知らず罪もないものの方へ引寄せられるような心地がした。この勢で押進んで行ったら、自分は畢竟つまりどうなる……と彼は思って見た。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「けれどもねえ、伯父さん。あなたが吝嗇の方がいんですってお母さんが申しましたよ。けちならけち程余計にお金を残すから、その方が畢竟つまり善いんですって」
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
定基の方は大きな御世話で先日は生才女なまさいじょ、今日は生学者が何を云って来居るのだ、それも畢竟つまりは家の女めが何か彼か外へ漏らすより、と腹なりを悪くしたに違無い。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
斯う用心深く考へても見た。畢竟つまり自分が二人の暗い秘密を聞知つたから、それで斯う気がとがめるのであらう。彼様あゝして私語さゝやくのは何でも無いのであらう。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
切迫塞つた苦しい、意識を刺戟する感想かんじでなくて、余裕のある、叙情的リリカル調子トーンのある……畢竟つまり周囲あたりの空気がロマンチツクだから、矢張夢の様な感想ですね。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
御上人様やら十兵衞への義理をかねて酷く叱るか出入りをむるか何とかするでござりませうが、元はといへば清吉が自分の意恨で仕たではなし、畢竟つまりは此方の事のため
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
めて、学校の教員に成ってみたところが、その生涯がどうなる……畢竟つまり心に休息の無いのは同じことです
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
矢張やつぱり何ですかね、新しい文明はまだ行き渡つてゐないんで、一歩都会を離れると、世界にはまだ/\ロマンチツクが残つてるんですね。畢竟つまり夢が残つてるんですね。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
幸福不幸福といふものも風の順逆と同樣に、畢竟つまりは主觀の判斷によるのであるから、定體は無い。併し先づ大概は世人の幸福とし不幸とするものも定まつて一致して居るのである。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
畢竟つまり、楽むように生れて来た人なんですネ。橋本のような旧い家に、ああいう人が出来たんですネ」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それで畢竟つまりは種市助役の代理になつて、今俺ア飛んで來たどごろす。解つたすか?
足跡 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
時の拍子の出来事ながら畢竟つまりは我が口より出し過失あやまち、兎せん角せん何とすべきと、火鉢の縁にもたする肘のついがつくりと滑るまで、我を忘れて思案に思案凝らせしが、思ひ定めて、応左様ぢやと
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
西は話頭はなしを変えようとした。で、こんな風に言ってみた。「男が働くというのも、考えてみれば馬鹿々々しいサ。畢竟つまり、自然の要求というものは繁殖に過ぎないのだ」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いづれ二三日中には村長も帰るし、七日には村会も開かれるのだから、兎も角もそれまでは是非待つて貰ひたいと言ふのでなす、それで畢竟つまりは種市助役の代理になつて、今俺ア飛んで来たどころす。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
この一般の気風というものも畢竟つまり地勢の然らしめるところで、小諸のような砂地の傾斜に石垣を築いてその上に骨の折れる生活を営む人達は、勢い質素に成らざるを得ない。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
聞けばこの奥様の前に、永いこと連添った御方も有たとやら、無理やりの御離縁も畢竟つまりは今の奥様ゆえで、それから御本宅と新宅の交情なかが自然氷のように成ったということでした。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
高瀬も佇立たちどまって、「畢竟つまり、よく働くから、それでこう女の気象が勇健つよいんでしょう」
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
二番目の弟の口の悪いのも畢竟つまり姉を思ってくれるからではあったろうが、しまいにはおげんの方でもこらえきれなくなって、「そう後家、後家と言って貰うまいぞや」と言い返して見せたのも
ある女の生涯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
畢竟つまり、これは俺の性分から出たことだ」とた兄は弟の方を見た。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)